【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
年度が変わって四月、GPは相変わらずジリジリと上がり続け、それを後押しするかのように、メシア教による紛争も範囲が拡大し続けている事もあり、戦火に追われて日本へと亡命する霊能関係者が後を絶たない現状。
そんな情勢もあって首都に集まる外国人が増えたことで、多種多様な霊能者のサラダボウル状態になっており、色んな意味で〝魔都〟となっているのが今の東京。
なんだけど、私が支部長をしている巌戸台支部に関して言えば、ガイア連合でも金札か黒札しか部屋を借りることが出来ない集合住宅がメインで、タルタロス関連の間引きや低階層の素材収集依頼はあっても、東京近郊の霊能関連依頼は取り扱っていない事もあって、銅札や銀札と言った一般ガイア連合会員向けの依頼も取り扱っている六本木や新宿などの支部と比べれば、まだマシと言ったところ。
まあ依頼を取り扱っていない代わりに、支部内に用意したダンジョンでのレベルアップが可能だったり、山梨第二支部ほどでは無いけど、各種サービスを受けられるって事で、金札を持つ連合員の修行場の一つになっていて、そっち方面での忙しさは増している感じではあるけども……。
一応は巌戸台支部長としての仕事もしつつ、メインであるタルタロスの攻略準備や技術の修練と研究の日々を送ることしばらく、アステリコン合金木の事から改良を進めていた動力炉が形になり、五行器改め〝陰陽五行器*1〟が完成した事で、久遠の〝武成王*2〟と湯乃葉の〝空天狐*3〟も完成を迎える事になる。
まあ機体が完成したなら試運転も必要と言う事で、その日の影時間にタルタロスの二百五十階に、木分身と久遠に湯乃葉の三名でやって来た訳なんだけど――
「戦闘自体はまともに出来る様になった感じですね」
「無重力での三次元戦闘にもだいぶ慣れてきたな。この階層でも相変わらずの襲撃数で、装甲強度はすぐに出力限界まで上がってしまったが」
「
「月へ真っ直ぐ向かって辿り着けるなら、まだ何とかなる可能性はあると思いますけど、その辺は本格的に攻略を再開してからですね」
久遠の武成王が装甲を陽光の如く輝かせ、シャドウの攻撃を一身に引き受けながらも、その手に持つ偃月刀を振るい群がるシャドウを切り捨て弾き飛ばし、湯乃葉が空天狐の尻尾を伸ばして近くのシャドウを弾き飛ばしながら、デバフ込みの【
階層内全体が宇宙空間さながらの真空とは言え、概念レベル以上が基本な領域となると、物質界の法則を塗り替えて燃え盛るぐらいは普通の話、一つの炎に状態異常耐性を燃やす
そんな二体が暴れ回っても、前後左右に上下も含め、正しく全周囲から襲いかかってくるシャドウの全てを対処とはいかない訳で、私も龍泰樹用に調節した〝甲縛式O.S. 別天翠呪〟を展開して、音を霊力波動として増幅し全周囲に叩き付け、〝森羅律奏〟の旋律により形作られる矢が敵を撃ち貫き粉砕していく。
一応偵察と間引きを兼ねて動き回っているのだが、二百四十九階までの導になってくれた松明や篝火が原始的な概念を強く持つ性質上、空気の無い空間では使えない事もあり、偵察としてはたいした成果は無く、専ら間引きと超機人を使っての戦闘習熟にしかなっていないのが現状ではある。
生身で戦っている時とは異なり、多少の被弾は機体の強度で弾き返せるのもあって、普段よりも余裕を持ってシャドウを薙ぎ倒しながら進む事一時間、結局は毎度と同じく戦い続けて間引きをしてこの日の影時間が終了し、諸々の日常業務を片付けて帰宅する事に。
とりあえずの成果としては、超機人が十分な戦力になると証明出来た事と、全周囲戦闘用の手札をもう少し増やした方が良いとわかった事だろうか、具体的には面制圧攻撃とかMAP兵器系。
「――と言う訳で、超機人の機体側に広範囲攻撃術式を仕込んで、トリガー以外は自動で発揮される様にしようかと思いますが、どんな攻撃が良いか希望とかあります?ちなみに久遠は、霊力の衝撃波を球状に放出する攻撃で、湯乃葉は装甲護符を使って術を儀式規模に拡大する仕組みになりましたが」
「二人の機体ってもう出来たんだ。私も早く使ってみたいけど、面制圧攻撃かぁ……」
「頭上からの奇襲はこれまでもありましたけど、今までは地中からの攻撃って殆どありませんでしたし、地面がある分速度も遅かったから何とかなってた感じですよね」
「巨大シャドウ相手では、一撃確殺とはいかないでありますし、ノックバック性能を高めた手数を希望するであります」
タルタロスで毎度繰り広げられている犇めくようなシャドウとの戦闘を思い返しつつ、思案する琴音と綴の二人を余所に、さっくりと要望を出してきたのは琴音の式神であるアイギス、元から遠距離物理でのサポートがメインと言う事もあって、何を重視するかの点については決まっている感じなのだろう。
「ああそっか、序でに起動して攻撃タイミングを外させるだけでも十分だよね。より広範囲に届く様な機構を付けるか、出鼻をくじく小技にするか、或いは多少時間を掛けて周囲を一掃出来る必殺にするか――」
「一掃するなら権能載せた攻撃が必要になりそうですし、主旨からズレてる様な?私の方は高速移動が基本になる予定ですから、いっそのこと移動速度に合わせて、周囲にダメージなりノックバックなり発生する様に出来れば戦い易くなるかもですね」
「あ、それ良いかも!私も接近戦の方が多いし、一時的な速度強化とかも出来たりしない?」
「……トランザム的な?」
「そうそう」
「まあ速度と出力の向上ですから、組み込むのは出来ますね。移動速度に応じて周囲の敵を弾き飛ばす結界を付ければ、二人の要望も何とかなりますし、ただまあ自分で言って何ですが、仕組みの名称はトランザム以外のにしますよ?GN粒子使ってる訳じゃ無いですし」
「そこは別に拘ってないから気にしないけどね」
「私も名称に関しては特に、琴音ちゃんと私のアイディアを合わせた物になるならそれでお願いします」
「ではそんな感じで仕様追加して設計し直したら、建造に取りかかりますね」
とまあ予定外が生じて超機人の建造が遅れることになったり、既に造った三体の改修もしたりとしつつ、四月の上旬もそれなりに平穏に過ぎていったんだけど、私達が知らないところでも世界は動いている訳で、アメリカはマサチューセッツに【邪神 クトゥルー】が召喚されたとの情報が飛び込んでくる。
第一報は例の如く私達らしい掲示板への書き込みだった訳だけど、直ぐさまガイア連合山梨支部の運営陣によって正確な情報調査が行われた結果、どうやら召喚されたこと自体は事実らしく、メシア教に大きな混乱が発生しているとの事で、掲示板上で『ざまぁ』の大合唱になっていたのはわからないでもない話。
ただ、メシア教の最大勢力圏であるアメリカが混乱に陥っているのは、何も喜ばしいだけの話では無いのが世の常で、組織や個人としての敵認識はさておき、日本に本拠を置く関係上、同盟国の米国が混乱する影響は確実に波及してくると言う物。
具体的には、メシア教が引き起こしている紛争の影響で上昇していた物価が、【邪神 クトゥルー】招来による混乱で加速しているし、詳しい状況はまだ不明だけど、高位の悪魔が顕現したと言う事は、その分現地のGPは急上昇しただろうし、世界全体のGPも連動して上昇しているだろうと予想される話。
「まあ元凶は〝ナイア神父〟でしょうね。やらかしたのはメシア教でしょうし、巻き込まれた現地の人にとってはどの道たまった話ではないでしょうけど」
「だろうね。星辰も揃ってないのにクトゥルー召喚なんて事、出来るとしたら天使召喚プログラム(笑)を使った儀式ぐらいだろうし、大方【大天使】辺りを召喚する直前にパッチをアプデして対象変更でもしたんじゃない?」
「コノ〝ヒーホーパッチ*4〟はお蔵入りデスネー。流石に同じ手段は警戒するでショウ」
「残念だけど仕方ないか。〝十戒プログラム〟はとっくに出来てるし、後はデビオク回りと悪魔全書のデータ、他からのアプデブロックぐらいね。悪魔合体アプリの開発を禁止されたのは不満だけど……」
「最初は十戒に見せかけた〝姦淫聖書*5プログラム〟を仕掛けようかって話で、用意してましたからねぇ。メシア教相手だと効果が薄くなるので、結局ヒーホーの方になりましたけど。後、今回は予防策で利便性を追求する訳じゃないですからね」
さて、この寝耳に水な事態によるガイア連合として最大の問題は、穏健派を自称し、混乱する米国から避難してきたと言い張るメシア教の連中への対処だったりする。
実際に避難してきた大部分は本来の一神教信者だったり、上のやらかしを全く知らず霊能者でもない一般のメシア教信者達で、その殆どが善良でまともな人と言う事もあり、米国政府から日本政府を通しての要請と言う事もあって断る訳にはいかないし、かといって快く受け入れる等とは言える訳も無く。
結局は代表者による話し合いと言うかケジメを付けて、渋々ではあるけど受け入れに動く事になり、その際手土産として
まあ天使を信仰するなんて異端を堂々とやっている一神教の異端者連中にとっては、完全な善意の行為なのだろうけど、メシア汚染されて人間を家畜と認識しているのが殆どのペ天使しか呼べないゴミを渡されても困るってのが正直な感想なのだけども。
ただ、ここで問題になるのは、黒札にとっては役に立たない代物でも、一般霊能者にとっては十分以上に有用な物である事と、近い将来に天使召喚プログラムが一般ネットへ流布されるとの占術結果が出た事の二点。
つまりは、ガイア連合で使おうが使うまいが、〝悪魔召喚プログラム〟の名称がネットの裏表問わず知れ渡ると言う事で、一般人を使った悪魔召喚呪詛による無差別テロも可能になるという話。
そんな訳で、少なくともガイア連合の低レベル一般連合員やその周辺、それと可能なら日本国内はメシア教産のプログラムによる被害を抑えようって事で、デジタル技術部総出で準備に駆り出されていて、私にも声が掛かった次第。
「バグチェックは完了デスネー。他の悪魔召喚プログラムからのアップデートブロックは問題無しデスヨ」
「おけおけ、まあ都度バージョンアップは必要だろうけど、そんなのはどれも同じだしね。とりあえずの予防としてなら、レベルは10以下制限で、未覚醒だとそもそも起動しない様にしておけば良いかな?」
「GPの兼ね合いもありますから、その辺が限度でしょうね。それにこのプログラム、四文字由来なせいか微弱ですけど概念化してるのもあって、終末を想定したガイアグループ産のパーツを使っていない一般の機器でも、インストールしただけで異界に対応しますし、腐っても鳩の加護って事ですかねぇ」
「その分自覚無しに起動する一般人が増えるって事だな。まあ個人的にはこんな面白い物、もっと色々調べて改造したいんだけどなぁ~。…………やっちゃ駄目?」
「実力が足りてないから駄目」
「史さんは典型的な研究者ですし、自衛手段も自力蘇生手段も無いのに許可は出せませんよ」
「ちぇ~」
とまあ愚痴を言いつつも作業の手は止まらず、とりあえずの配布用は物の数時間で完成し、後は具体的にどの様な運用をしていくか、それに合わせて制限内容をどうするかなど、運営陣の判断待ちになった辺りで解散し、細かな調整は新人などへと投げることに。
黒札への公開は運営陣やショタおじの判断と、掲示板の反応を見てとなるだろうけど、悪魔召喚プログラムが手元に来るとなると、メガテンらしさが増してきた様に感じるのは何故だろうか。
「メガテン的に使いたい気持ちもありますけど、ペルソナ関連では特に使いませんし、現状追加で悪魔が欲しいところは蓬莱島の
新たな思い付きを胸にデジタル技術部の部屋を後にして、拠点へと足を向ける。
心の赴くままに、思い付きを形にするために――――
瞬間的に大量のマグネタイトを消費した場合でも、太極の循環を行っている所から消費されるため、五行循環で増幅した分が補充され、元の出力へ短時間で戻す事が可能になっている。
装甲材には、エレクトラム合金木とアステリコン合金木を何層にも貼り合わせた複合装甲、結晶筋肉には合金樹皮と結晶仙人掌にミスリルを混ぜ合わせたMCT、骨格には〝アダマントス合金木〟を使用。
外見は武骨な人型で、モビルトレースシステムを採用した防御力寄りの性能をした近接物理特化型の機体。
装甲や骨格、武器に【強度逓増】の術式を組み込んでおり、長期戦になるほど防御力が上昇していく上に、物理的な強度の上昇を概念的な強度に反映させる術式と組み合わせる事で、魔法防御や属性耐性に状態異常耐性の側面も比例して強化する仕組みになっている。
装甲材には、白木鋼とアステリコン合金木を何層にも貼り合わせた複合装甲、結晶筋肉には合金樹皮と結晶仙人掌にミスリルを混ぜ合わせたMCT、骨格には〝アダマントス合金木〟を使用。
イメージは、元ネタの一体である虎龍王の虎部分が狐になって龍の意匠を外した感じで、尻尾は術式補助として必要に応じて一本から九本まで装甲護符の展開により生やす仕様。
術式増幅と拡大による対巨体・広範囲攻撃性能向上を目的とし、近接戦闘も一応可能な性能を持たせた人型と獣型に変形可能な機体で、情報接続加工により湯乃葉の化身となった。
モーセの十戒における「汝、姦淫するなかれ(Thou shalt not commit adultery)」という節の not が抜け、「汝、姦淫すべし(Thou shalt commit adultery)」と誤植されていた事から、姦淫聖書と呼ばれている。
現地で起きた出来事の詳細などは、まだガイア連合山梨支部まで回ってきていない感じ。