【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく   作:緋咲虚徹

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064:約束にはまだ早いが予想されていた日

 五月に入ってゴールデンウィークも過ぎ去った中旬、隣の島での試験的な養豚が始まったり、交流の一環として外部解放区画の素材迷宮(マテリアルダンジョン)学びの園(アカデミー)、食欲界の試験解放に協力して貰ったりと、少しずつ蓬莱島も変化してきた頃。

 ガイア連合の黒札用掲示板に一つの情報が書き込まれた、〝米国からICBMが発射された〟と――。

 

「さて、隠蔽術式は問題無し、ショタおじが破棄した地球脱出プラン*1から、流用させて貰った核エネルギーを利用する術式の準備も完了。目標接近まで後三十秒ってところですね」

 

 いつもの様に個人研究したり依頼された物を作ったり、蓬莱島内の異界を確認して回ってる所に凶報を感知し、情報を得てすぐに準備をして、弾道高度に転移してきたのがついさっきのこと。

 今も情報収集を続けている別の木分身によると、最初の発射を皮切りに、ミサイルが世界各地目がけて発射されている様で、現状だと終末ではなく世紀末な感じに核の炎に包まれる事になりそうな状況らしい。

 

「こうして確認すると、被害予想はもっと悪い方向に修正しないといけませんね。やはりメシア教……いえ、ペ天使は碌な事をしない」

 

 感知範囲に入ってきたミサイルを順に食欲界へと送り、向こうで待機していた木分身が準備していた、エネルギー変換用の結界に放り込んでは、発生した極ロウ属性のメシア汚染された核爆発から、ロウ属性の概念を抽出して結晶化させる作業を行っていく。

 また別の木分身が、ロウ属性が抜けてニュートラルに戻ったエネルギーを使い、食欲界の規模を拡大するのと同時に、星の力を少しだけ分離させて食欲界に組み込み、ミニ地球的な星の雛形として構築し、内部で完結する別世界として成長していく様に異界を変化させる。

 序でに以前からちょこちょこ調整に手間が掛かっていた、異界内にあるトリコ大陸とモンハン大陸を別の階層に分けて、それぞれ一つの惑星世界として成長していく様に再構築する事にしたけど、まあガイア連合内に解放する最低ラインの九月までには何とか調整も終わるでしょう、多分。

 そんな作業を太平洋側から日本へ飛んでいくミサイルが無くなるまで続け、他の方面から飛んで来ていた物については、日本へ逃れてきてガイア連合と契約している多神連合の神々や各地域の黒札などが対処した事で、どうにか防ぎきる事に成功する。

 最も、ICBMの撃墜に成功したのはガイア連合と関連する勢力の守りがあった地域だけの話で、地球上の各地に核ミサイル――正確に言うなら、メシア教に洗脳された霊能者を素材にし、放射線と同時に周辺の地脈を極ロウ属性(メシア汚染)にするミサイルが降り注ぐ事になったのだが。

 

「一夜明けて被害状況も多少は判明した訳ですが、端的に言って地獄ですね」

「GPが一気に上がったって両親も言ってましたね。瑞樹さんがテスターとしてCOMPやアガシオン渡してくれましたので、何とかなってるそうですが」

「汚染された地脈と天使召喚プログラムで無限沸きだもんねぇ。海外だとレベル30前後の悪魔も確認されたんだっけ?」

「日本が完全に防いでGPの上昇を抑えたから、まだ物質界寄りを維持してますけど、魔界化する途中で何とか止まった程度の状況みたいですからね」

 

 メシア教による全世界同時核攻撃と言う大事件が起きた翌朝、日本には落ちてこなかったとは言え、流石に核ミサイルが発射されたとの情報は隠しきれる物ではなく、日本でもメディアがこぞって取り上げており、危機感の煽りを受けて全国的に学校が休校となったのは、ある意味当然の話だろう。

 そんな訳で急に暇になった琴音と、妊娠中のため家とその周辺での行動が基本になってる綴も加えて、朝食後にゆっくりとお茶をしながら集まってきた情報の共有をする事に。

 とりあえず木分身で夜通し集めた情報を整理して、大まかな状況を把握したところ、まず判明したのは日本が迎撃に成功していなかった場合、人間界と魔界の境界が崩れると言う、ある意味終末案件だったこと。

 まあこの核ミサイルについては、メガテン的に東京へ落ちる事で終末の引き金になるパターンが多い事も有って、撃ち落とす準備は潤沢に用意していたし、事前に一カ所や二カ所潰したところで、過去に作られた核ミサイルと言う実物が消える訳でも無いし、全ての暗躍を潰す何て到底不可能なため、自国防衛とそれによる終末化の回避が可能だろうとの占術結果もあっての、既に予想されていた事件だったりもする。

 とは言え、それは単純な核ミサイルによる文明の衰退ぐらいの物で、霊能者を部品にした神聖属性の核ミサイルにより地脈をメシア汚染し、高レベルのペ天使が出現し易い環境を作った上で、核爆発のエネルギーを利用した爆発式悪魔召喚機などと言う代物により、【魔人】や【大天使】の種族に分類される強大な悪魔を強制召喚する等という、外法戦術まで見通せていた訳では無い話。

 なお、米国政府を通して日本政府経由で避難してきた穏健派を名乗るメシア教信者は、過激派がやったことで自分たちは関係無いとの主張をしているらしいけど、その時点で黒札からの好感度は下がるし、私的にまだマシな部分が有るかと思っていた日本メシア教支部の支部長も、結局はメシアンだったと見切りを付ける切っ掛けになった程度の話だけども。

 

「んで、海外が地獄になってるのはどうしようも無いから置いとくとして、昨夜の影時間を考えると、しばらくは間引きに力を入れる必要がありそうだよね」

「世界中で死の想念が溢れかえりましたからね、総人口の減少でその内以前よりシャドウが少なくなる可能性も有りますが、メガテンのメシア教なら異界に人間牧場でも作ってる可能性も有るんですよねぇ。地上で活動するためのMAG供給源としてるなら、人の集合的無意識にも繋がっているでしょうし、時間加速してる異界で増やしていたら、タルタロスに出現するシャドウの数は、逆に増加する可能性まで有りますし」

「人間の死に対する想念が集積された場所と言うのは、本当に厄介ですね」

 

 重大な話では有るけど、直近で関わる訳でも無い海外の被害状況についてはそこそこで切り上げ、私達にとってもっと重要な影時間とタルタロスについての話に移る。

 と言ってもまあいつもの様に、一時間シャドウと戦い続けてきただけでは有るんだけど、世界中でICBMによる死の恐怖が発生した事が原因と思われるが、一日前の影時間と比べても、明らかにシャドウのレベルが上昇しているのが確認された。

 ここ数年の探索記録から、常に出現数が増加し続けているのはわかっていたんだけど、同時出現数には上限があるのか、ここ半年の探索だと一時間で遭遇する数はそのままに、シャドウの霊格が少しずつ上がってきているのを感じていたところ、今回の件で一気に10レベルぐらい跳ね上がった状況。

 元から〝タルタロス(冥府)〟と言う名称と異界の核となっている【ニュクス(死の象徴)】、人間の集合的無意識領域から構築されている異界である事を考えれば、ストレス社会から生じる負の想念や死への憧憬、末期の絶望などにより発生したマグネタイトが凝縮された結果としては、順当な変化と言ったところだろう。

 

「厄介と言えば、タルタロスの深部に近付いたのと今回の件でわかって来ましたが、多分シャドウ異界の核となってる【ニュクス】を倒しても、タルタロス自体を消滅させる事は出来ない感じがしますね」

「ん~?あ、集合的無意識から構築されてるせいか。でもそうなると、マヨナカテレビやメメントスも完全消滅が難しい感じかなぁ……」

「人の意思が存在する限り、シャドウ異界の発生が止まる事は無いでしょうから、仕方ない部分ですけどね。それに、タルタロスを構成する要素が死と言う根源的な概念をメインにしている分、想念が集まりもう一度同じ物が出現して最初から、なんて事になる可能性も高いでしょうね。消せるならそっちの方が楽なので探って見てましたけど、予定通り封印具の作成も進めておきますよ。消せないなら、管理出来る様にした方が面倒が少ないですからね」

「封印に成功してタルタロスを管理出来る様になったら、巌戸台支部の方も忙しくなりそうですね」

「封印が完了したなら蓬莱島の学びの園に入り口を移す予定なので、巌戸台の方は修行場付きのシェルターとして他に譲る形になると思いますよ」

「瑞樹がそう言うって事は移すのは出来るんだろうけど、そうなると行動の基本は完全に蓬莱島の方になるかな?いやまあ葦原荘の部屋はだいぶ前に引き払ってるから、今も変わらないって言えばそうなんだけど」

「まあ蓬莱島の方も外部解放区画の試験運用が始まって、隣のハワイ島の人達が来るようになりましたし、こっちでのやることが増えるのは元からわかってましたから、タルタロスを移設して管理すると言うのもわかりますけど、具体的にどんな感じになるんですか?」

「ペルソナ使いの適性があれば、日没後の学びの園から行ける様にする予定ですね。まあ今考えてる封印方法が上手く行くなら、島にある異界は全部繋げて、封印する【ニュクス】に集まってくる負の想念を変換して、異界や島の運営に利用する感じにしようかと思ってますし」

 

 やろうとしている事については、簡単に言うと陰の極致でもある【ニュクス】をコアに組み込んで、太極の循環による増幅を行う動力炉を作ろうと言う話。

 まあ際限無く流れ込んでくるだろう〝死〟に関連する想念の籠もったマグネタイトを、タルタロスから溢れ出さない様に他の異界や島のエネルギーとして使用する目的のため、増幅する部分は、陽の属性を釣り合わせるためと言う理由が主な物だけども。

 

「なるほど、つまり封印を破れる程の力を蓄えさせない様に、集まってくるマグネタイトを他の事に使おうって事か。タルタロスの移設もそうだけど、独立していた複数の異界を繋げるとかって大丈夫なの?」

「島にある異界は、主となる悪魔を括っているタイプでは無いですからね。異界内の情報処理を行うダンジョンコア自体に、複数のコアと接続してマグネタイトの供給経路を付けるだけで良いですし」

「何かどんどん島の異界が変更されて行く感じですけど、秋に予定している外部解放って大丈夫ですか?確か食欲界も構造を変えたんですよね?」

「惑星上に二つの大陸があった状態から、大陸ごとに別の惑星に分けて、それぞれ別の空間とした感じですね。元々トリコとモンハンでそれぞれの認識や概念が干渉して、不安定になる事がありましたし、今回の件で大量のエネルギーを確保出来たので、思い切って追加したって所です。異界としては以前より安定しましたし、秋頃の解放には十分間に合いますよ」

 

 食欲界に関しては、元から有った大陸はそのままに、それぞれで一つの惑星として分割して大陸を追加する形となったため、追加した大陸の生態系についてはこれからだけど、いずれは利用者の要望も取り入れて特殊な環境や特異な地形なども入れていきたいところ。

 一応最初の大陸には無かった地形も作っているため、生態系としてのバリエーションは増えた訳だけど、トリコ世界の方については、いっそのこと食材や料理が湧き出す地形を創ってみるのも面白いかもしれない。

 今回の改造で食欲界自体の概念強度も上がっている事を考えると、マグネタイトが自然と食材の形に集束する様に法則を構築するのは、難しくないレベルになっている訳だし……。

 と言ったところを話してみると、二人に加えて湯乃葉も話題に加わってきた辺り、順調に食いしん坊に育ってきている気がするこの頃。

 

「食材や料理が湧き出す地形と言う事は、もちろん酒豪諸島*2は創るのでしょう?」

「食いしん坊かと思えば、呑兵衛でしたか……。まあ在って困ることも無いですから予定に入れておきましょうか」

「あ、じゃあ私はアレ!コンソメマグマ飲んでみたい!」

「飲む分には火炎無効か最低限でも耐性があればいけそうですし、旨味の概念を凝縮させたら良い感じになりますかね」

「私はチョコの泉でしょうか、正確にはチョコレートファウンテンみたいに、色んな液状のチョコが噴き出す場所があると楽しいかなって」

「良いですね、カカオの濃度やフレーバーの違いを楽しめるチョコのエリア。いっそのこと甘味系とか酸味、辛味などでエリア分けして概念的に合致する食材や料理が湧くようにするのも面白そうです」

「そう言う地形特有の動植物ってのも、居ると良いんじゃないかしら?完全な新種じゃなくても、既存のマイナーチェンジと言うか、亜種みたいな感じでね」

「確かトリコのゲームだと、亜種やら希少種みたいなのも居たっけ。そんな感じで既存のバリエーションってのは、私も良いと思うけど、瑞樹ってその辺創ってる?」

「今のところは新種を創るばかりで、亜種とかの研究はしてないですね。確かにそっち方面で種類を増やすのも有りですか」

 

 話の流れで出てきた意見だけど、確かにこれまで創ってきたトリコ食材は、原作漫画を基本とした物ばかりで、亜種と言えるのは最近創った銀白米ぐらいだろうか。

 そう考えると今まで創ってきた食材達に別の特性を加えた、亜種や希少種的な物を創ると言うのも面白そうな話。

 

「じゃあ食べられる地形を創るのに合わせて、今までに創った品種の亜種も研究してみるとしましょうか」

 

 世界的には危機的な状況に陥っているとは言え、ガイア連合山梨支部としては半年近く前から予知・予想して備えていた事態。

 全てが予想通りなどとは言えないが、本当の意味での最悪は回避出来たなら、変化した環境に対応し新しい日常へと適応するのが人と言うもの。

 後に〝半終末〟と呼ばれる事になる、終末へ至る途上のモラトリアムな日々が、こうして始まった。

*1
本家様の『小ネタ 転生者たちの初期プランと現在の状況』より、ショタおじの当初案ではミニ地球的な異界を作って地球脱出する予定だったとのこと。

*2
トリコに登場する様々な酒で構成される海域〝酒海〟にあり、多種多様な酒が湧き出し、酒の肴となる動植物が生息する島々。




ストックと更新までの猶予時間が尽きたので、水曜の更新が無ければ間に合わなかったと思って頂ければ。
週一の日曜0時更新は、何とか落とさない様にしたい……。
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