【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
激動した五月が終わって六月、タルタロスの攻略準備を少しずつ進めて行く一方で、個人的な趣味の成果もそれなりに形となってくる物で、いつもの様にガイア連合農業部へと顔を出す。
「なるほどねぇ。それで今回持ってきたのが、この〝加工肉植物*1〟ってことね」
「原作だとベーコンの葉やウィンナース以外にも、カニカマの花とかローズハムとか色々種類有りますから、牛や豚に鳥魚と、肉を加工した物が育つ植物を創ってみた感じですね。味や食感は肉ですけど、物としては植物ですので、生臭に当たらないのが利点ですかね?」
「ここまで肉々してるのに精進とか言われても、何言ってんのって感じだけどね。確り植物してる訳だし、そこは納得するけど、これも
「自分で使う分は個人生産してますし、連合に投げておけば気に入った人が品種改良して、より良い物や新しい方向性を見せてくれますからね。モアイモの糖度を更に上げたり、焼くだけでメンチコロッケになるポークポテトの新品種、メンチポテトを作り出したりとか」
「ああ、あのズボラ飯食材ね。私はレンチンでカツになる、ロースカツバナナかしら、ビールのお供にも良いわよ?」
タイミング良く農業部の事務所で書類仕事してたカタリナネキと、いつもの様に雑談しつつ手続きを進めていく中で、話題のネタに出てきたのは、一部の黒札から好評なズボラ飯食材と呼ばれるシリーズ作物。
今回私が創ってきた加工肉植物とも繋がる部分が有るけど、こっちはより直接的に、食材単体を焼くか煮るかレンチンするだけで、料理が一品出来ると言う代物。
人気なのは、私の言った主食代わりにもなるメンチポテト、酒のつまみにもなるロースカツバナナ、メンマ竹からの派生で、笹と一緒に煮込むだけでラーメンになる麺竹辺りで、現在も味の品種改良や、新しいズボラ飯食材を目指して開発している部員がいるぐらいには、人気の研究テーマでもある様子。
「手軽に食べられて料理した気分になれるってのも、人気な理由みたいですからねぇ。今回の加工肉植物類はその辺も多少意識して、収穫直後でも焼いたり茹でたりでも美味しく食べられる感じにしましたし」
「加工肉って事だし、そりゃそうよね。ハムとかそのまま食べるし、厚めに切ってハムステーキとかもするし、っと登録は終わったわよ。販売益の設定もいつも通りならこんな感じだけど?」
「……ええ、これで問題無いですね」
「それにしても、相変わらず取り分少なくしてるわよね。その分農業部の資金に回って、余裕が増えるから助かってるんだけどさ。あ、お茶にするけど、どう?」
「ではクッキーでも出しましょうか。マッカなら修行場異界で稼ぎますし、元々稼ぐ目的じゃ無いですからねぇ。それに、最初の頃は地産地消程度の感覚でしたし。いつの間にか全国規模まで販売先が増えて、農産物で収益出せるレベルになってましたけど」
「農産が上手く行ったから畜産の方まで範囲広げたものね。まあ販路の拡大に合わせて輸送の問題も増えたんだけど……」
「ガイア連合山梨支部発足当初は、本当に輸送が難しかったですからね。下手にトラックとかで運ぶと、メシア教やダークサマナーの襲撃が有りましたし、セツニキの式神とか【トラポート】が可能な人員で何とかやりくりして、対処していましたが」
手続き自体はさっさと終わり、序でに休憩時間にでもするのか、お茶に誘われたので茶菓子を色々取り出し雑談タイムを継続。
販売益の話から販路・流通と話題が流れたけど、それこそ初期は支部どころか派出所も無く、輸送の必要があるのは、地方から星霊神社へ修行にくる人員ぐらいで、派出所が設置されるようになった頃には、既にある程度名が売れていたのもあって、物資の輸送時には襲撃の危険が発生する様になっていた。
状況がある程度変わったのは、かなり不本意だけど、メシア教日本支部との共同による結界敷設作業が行われた頃辺り。
まあ契約で輸送路などへの攻撃を封じれた、と言うのが大きいのは確かで、大陸や半島に名家()の様な連中への警戒に労力を回せる様になり、最近では陸路や海路での輸送もそれなりに可能になっていた。
「傘下に入った地方霊能組織もかなり数が増えて、輸送関係に梃入れしようって話が出たところで、この間の半終末でしょ?幸いというか何と言うか、ロボ部――の枠組みで良いのかわからないけど、付喪神化させた駆逐艦や戦艦*2が有るおかげで、近海の航路は確保出来てるし、海外との航路も目処は立ってるみたいだけどね。何故か」
「全力で趣味に走った結果が、思わぬところで役に立つのも、私達らしい話ですよねぇ。まあ海路が維持出来るのは良い感じですが、陸路の方はどうです?東海や北陸などで霊道を敷設するってのは聞いてますけど」
「あー、その辺の物流は農業部の方でも話題になってるけど、それより富豪ニキネキの方が大きく噛んでるわね。それぞれ戦前戦後の違いはあっても、地元に根ざした企業ってのもあって、ガイアグループへの統合は兎も角、本拠地を動かすのは難しいもの。となると、本拠地を終末対応シェルターへ再開発するのと、終末後の環境構築に動くのは当然の話よね」
「なるほど、各地の支部を霊道で繋ぐのは基本方針って事になりそうですね。ブーストニキのおかげで、電脳空間経由のターミナル移動は可能になってますけど、半終末の今でも数人ずつなら兎も角、大量の物資移動には向かないですし、大量の物資輸送方法を考えるのは、大量生産大量消費社会としてはマストになりますか」
「現代社会としてはそれが基礎だし、しょうが無いわよね。探求ネキはその辺、大量生産の技術まで用意する割りに、自分は少数の品質重視よね、何か理由でもあるの?」
「品質重視と言うより、レベル相応の品質でないと効果が無いので、活動場所と霊格の関係から必要に応じてと言ったところですね。出来る限り量産可能にしてるのは、単純に私がラストエリクサー症候群に罹ってるからってだけですし、一人で何でも出来る様にしてるのも、終末後に手に入らない可能性を下げるためですから」
実際の話、私が創ってきた物は試作品や実験品を除けば、全て再現手順を確立した再生産可能な物で、一点物と言えるのはせいぜい個人専用に調節した場合ぐらいだけど、それ自体も作り直す事は可能にしているため、再現可能かわからない特級品、なんてのは実のところ作り出したことが無かったりする。
それこそ宝貝の
ある意味ラスエリ症候群の最たる例が、拠点や異界に作ってるもので、食欲界や素材迷宮は、様々な素材をいつでも得られるようにするためだし、学びの園や外部解放区画は、自分で作らなくてもマッカなどの対価を払い、入手出来る範囲を増やすと言う目的を含んでもいる。
「ラスエリ症候群かぁ、なるほどね。勿体ないってのは私も良くわかるけど、使い時を見誤るのは別の話だもんねぇ。だから勿体ないと思わない様に、いくらでも作れる様にしたってわけか」
「十分にストックがあって、いつでも追加生産出来るなら、使う時にためらうことも無いですからね」
「随分力業な気もするけど、それが出来るなら確かに解決方法の一つよね。まあこっちとしては、その方針のおかげで助かってるんだけど――あ、そう言えば、新しく養豚始めたんだっけ?」
「ええ、新ハワイ島でやらかしかけた【
「ガイア連合山梨支部の範囲内なら、私達農業部や畜産部で賄えるけど、地方支部やグループ全体で考えると、需要に供給が追いつかないわよね。やっぱりもっと設備投資して増産するべきかしら……?」
「香辛料関係とか色々増産してきましたけど、穀物関係も一気に不足し始めてますからね。ICBMの影響で、海上でも【幽霊船】や【クラーケン】だとかの悪魔が出没して、輸送船の沈没事件が相次いでいますし」
霊能関係なら、異界で栽培したり養殖した魚介や畜産もあって、半終末現在でもさほど問題無い訳だけど、一般社会の方はそう言うわけにもいかず、突如出現する様になったそれなりのレベルを持つ悪魔により、海上交易路が封鎖された事で、物価の高騰どころか、物自体が存在しない何て事態になり始めているところすらある始末。
まあ流石に物すら無いなんてのは輸入専門店ぐらいの話だけど、全体的にそう言った傾向に有るのは間違い無い話で、輸入に頼っていた各種工業素材のみならず、各種食料品や衣料品など、直接的に日常へ関わる部分においても窮地に立たされているのが、一般企業の現状らしい。
この辺、富豪ニキネキを中心にガイアグループとして、以前から外国依存を減らし、国内生産の準備していた事も有って、素材の出所さえ誤魔化す事が出来ていれば、何とか出来る体制を構築出来ていたのが幸いと言ったところ。
ちなみにその手の出所不明な材料は、新ハワイ島の様な避難民受け入れ地域や、各地の異界で生産された物を運び込んだ物で、外国との海運が死んで入港出来なかったコンテナ船など、本来なら無くなっていた予定分の積み荷を隠れ蓑にして、流通に乗る物資の量を誤魔化していたりもするが。
「海運がいきなり潰れたのは痛いわよね。おかげで穀物、特に麦の増産が急務になったりしたし、後は海外情勢との絡みで、メディアがいつも以上にうるさくなってきた事かしらね」
「麦の方は電脳異界で作って持ち出せないか実験してますし、情報の物質化自体は可能ですから、費用対効果が釣り合う程度に技術が進めば、落ち着けるかと思います。ただまあガイアグループ傘下に取り込んだメディアも幾つか有りますけど、大手を取り込める程ではないですから、メディア関係は当分都度対処するしか無さそうですよね」
「あ、電脳異界の方そこまで行ってるんだ、なら耕作地を増やすより、時間加速で回転速度上げるのが良さそうね。で、やっぱりメディア関係はしばらくモグラ叩きか。ギルニキ辺りが言うには、グループ傘下に入らなかったとこは海外資本が主体だから、しばらくしたら勝手に潰れるだろうって事だけど」
「海外が地獄になって、資本元が潰れたり消えたりしてますからねぇ。だからこそ過激に動いてくる可能性も有る訳ですが……。とりあえず、表で活動する人用にメディア対策の御守りでも作りますかね?」
「有ると確実に助かるだろうけど、どんな御守りになるのよ」
「余り強力にし過ぎると未覚醒者が持てなくなりますし、身勝手な想念を利用して呪い返しするぐらいでしょうかね」
メディア対策が必要なのは、覚醒修行をする暇も無い富豪ニキネキなど、未覚醒の一般人と言う事を考えると、道具の所持者として血を一滴程度登録に使うぐらいにして、効果のメインは余所からエネルギーを持ってきて発揮するタイプがせいぜいだろうか。
特に世間への露出が多いニキネキ達を考えると、逆恨みも良いところな邪念が飛び交っているのはわかってる事だし、どうせならそれらの対処用に製造している結界などと合わせて、道具の所持者に向けられた邪念の方向を、身勝手に暴き立てたり貶めようとする者へと向け、行動が裏目に出る様な呪詛を構築。
それに加えて、万一呪詛返しされた場合に備え、呪詛の向かう先が邪念の出所になる様に術式防御を組み込んで、メディア対策の御守り〝うつし鏡〟をサクッと作り上げる。
「そうやって道具も使わず片手間に作ってるのみると、高位霊能者って規格外よね」
「農業関係ならカタリナネキも
「私は農業に特化してるだけだもの、規格外とは言えないわよ。それより、話の流れ的にだろうとは思うんだけど、その鏡がメディア対策の御守り?」
「姿を写す鏡と言うのは概念的に色々使い易いですからね。今回の場合なら、身勝手に一方的な攻撃を仕掛ける者達を映して、同じ様に映る別の者に対象を移すと言った事も出来ますし、鏡に映る醜悪な姿を見て思いとどまらせる術式も組んでますから、それを越えて行動したなら害を与えようとしたと判定して、呪詛が向く感じです」
「それって、実際にその鏡を見せないと駄目だったりとかしない?」
「いえ、実際に直接映す必要は無いですね。所持者に邪念を持つ相手側の周囲にある鏡が媒介になりますし、それこそ過去に鏡を見た経験が有れば、行動を起こそうとする直前に思い浮かぶ形で、醜悪な行動をする自身の姿を突きつける感じです」
「なるほどね。まあそんな事する連中が、醜悪な自分の姿を見た程度で思いとどまるとは思わないけど」
「そこは私も同意見ですね。なので術式の基礎には、ハンムラビ法典に由来する同害報復――〝目には目を、歯には歯を〟のフレーズがわかり易いですかね?まあ他にもタリオ法などとも言われたりする、過剰報復を抑制する制限を入れる代わりに、警告を無視して行動した事を条件として、行おうとした事をそのまま当人に撥ね返す感じにしてます」
「私も聞いたことあるわね、そのフレーズ。やり過ぎないと言うか、勝手に自滅して行ってくれるならとりあえず持ってれば良い訳だし、御守りとしては有り難い話ね。これもいつもの様に製造班に回してくれるって事で良いのよね?」
「富豪ニキネキ達みたいな表側や運営に回ってくれる黒札なら、修羅勢の寄付を使えますからね。いつもの様にレシピは送っておきますから、必要個数を連絡するよう言っておいて下さい」
「伝えとくわ。それにしても、これもかなりの利益になるでしょうに……」
「新人の生産組には丁度いいぐらいでしょうし、初期の私達と比べて稼ぐ方法も、生産でレベルを上げる方法も少ないですからね。新しくちょっと難しい事にチャレンジする、と言った感じのレシピはいくらあっても良いですし、後輩の手助けは先達の勤めでしょう?」
「そう言われたら否定なんて出来ないわね。さて、と。そろそろ休憩終わらせて仕事に戻るわ、連絡事項も増えたしね」
「では私も戻りますかね。あ、クッキーは追加で置いていきますので、皆で食べて下さい」
「ありがと、差し入れ貰った事は言っておくわ」
つい長々と話し込んでしまったけど、話に区切りが付いたところでカタリナネキがスパッと休憩終了を宣言し、気持ちを切り替えた事で、情報交換を兼ねた茶飲み話は終わり、仕事へと戻るカタリナネキに差し入れを渡して農業部を後にする。
「さて、話の流れで〝うつし鏡〟が出来上がりましたし、何時注文が来ても良い様に、製造班の方でレシピの登録と作り方の指導ぐらいはしておきましょうか」
ちょっとした思い付きでやることが増えるのも、ある意味私達らしい、いつもの日常の一コマと言ったところだろうか。