【カオ転三次】終末を約束された世界で心のままに生きていく 作:緋咲虚徹
研究を始める事になった発端は、武器式神の構成素材更新のため、私が創り出したアダマントス合金木を食べさせた際、死の概念からか苦味が酷く、甘味料を加えたりしても苦味を緩和させる事が出来ないと言う愚痴を、掲示板で見かけた事*1。
態々無機物を食べてみようとは考えてなかったため、そんな話を見かけて実際に囓ってみたところ、確かに純化した死の力が、命の終焉や死の絶望、地獄の苦しみなどから連想される〝概念的な苦味〟として、前面に押し出されており、他の死の安寧や肉体からの解放と言った、苦味以外の概念的な味を感じ難いと言うのがわかった。
この辺は死が忌避する物で、その無意識的認識から、忌避=苦い物と感じる面が強く表れているのだろうと思う。
そんな訳で、食材として創り出した物では無いとは言え、私の創り出した物が苦くて不味いと言われるのも癪な話と言う事で、アダマントス合金木を美味しく食べられる方法が無いか?と研究を始めたのが去年の九月頃。
まあ他にも研究したり、対処しないと行けない事柄が多かった事も有って、細々と空いた時間に研究していた程度なため、形になってきたのはここ最近の事なのだけども。
「素材の性質や能力を維持しつつ、美味しく食べられる様に調理するのは何とかなりましたが……。これだと最低限【食没】を習得していないと食べる事自体出来ないですし、味覚の方も普通の味覚だと知覚しきれないですね」
【神通力】の内、あらゆる
まあ理論を構築したとは言っても、ジャンニキを初めとした料理系黒札なら、意識的であれ無意識にであれ大なり小なり行っている技術であり、単体のスキルとしてはカード化されていなかった感じの物。
それらの調理技術に加え、食材の分類に無い物も含めて、美味しいと感じられる様に調理する特殊スキルと言うのが正しいところだろうか。
ただまあ、概念的な味覚>霊的な味覚>物質的な味覚の順で、感じる味の調整をしているため、食べる側にもそれぞれの味覚が備わっていないと、十全に味わうことが出来ないと言う問題点が残っていたりする。
ちなみに、〝神話級の味〟と表される品々の基準になっているのが、この概念的な味覚まで踏み込み、それぞれの味覚を統合した味の調和に至って居るかと言う物で、神話級に一歩届かない料理や霊酒などに関しては、概念的な味覚部分が上手く噛み合っていないパターンが多い。
「霊的な味覚に関しては、覚醒してレベルが上がる過程である程度自然に鍛えられて行きますけど、概念を味として感じ取るのは、意識して味覚を鍛えて行かないと正確に認識するのが難しいんですよねぇ……」
私の場合はそれこそ、失敗作を含めて数多の食材を食べてきたのと、【他心通】の習得と鍛練の過程で概念的な認識に至った経緯から、体得した知覚だったりする訳で。
これが普通の料理であれば、感じ取る順番が物理的味覚>霊的味覚>概念的味覚だったり、霊的味覚>物理的味覚>概念的味覚の順でも、料理自体の味に概念的な旨味が加わって、正確に認識出来ていなくても〝神話級に美味しい物〟と言った漠然とした感覚で感じられるため、別段問題などは無かった話。
今回は研究の発端となったアダマントス合金木みたいに、物質的にも霊的にも美味さとは遠い無機物でも、美味しく食べられる様にするのが目的なため、感覚として
「元々はアダマントス合金木が苦くて、何をしても中和すら出来ないと言う愚痴が発端ですし、調理技術を確立して美味しく出来ても、食べる側がそれを確りと認識出来なければ、気付けるか微妙な隠し味程度にしかならないでしょうし……。概念的味覚を認識出来る人だけ分かれば良いと割り切るか、或いは概念的味覚を認識出来る様にする食材でも――ん?そう言えばトリコにそれっぽいのありましたっけ?」
いっそのこといつもの様にそれ用の食材でも創ろうかと思ったところで、脳裏をよぎったのはトリコのストーリーに絡んでくるある特殊な食材で、作中ではグルメ細胞を活性化させ、驚異的な回復能力や特殊な能力を得られる、アカシアのフルコースと呼ばれている八種類の内の一つ。
原作において重要な意味を持つ食材だけあって、ストーリーに大きく絡む効果を持ってる訳だけど、大体は特殊な地形を越えるために必要な能力だったり、グルメ細胞に直接関わる能力や得た能力を強化するための効果だったりして、実のところメガテンな今世だと、再現する意味が薄かったり、再現自体が難しい物もあったりする。
そんな訳で、特別なフルコース食材とまとめられている物を、歯抜けで再現するのもどうかとの思いから、研究候補から外していたんだけど、求める効果に合致する元ネタがあるなら、概念的な補強も込めて再現しようかと思うところ。
「新たな味覚を開花させて、石ころだろうと美味しく食べられる様になると言う設定のアナザを再現出来れば、今回の目的としては丁度良い感じでしょうかね?後、ネタや浪漫以外でフルコース食材を再現するとしたら、やっぱり驚異的な自然回復力を得られるサラダのエア、次点でスープのペアが候補に入るぐらいですかねぇ」
アナザの再現をしようと考えたのも良い機会と、改めてアカシアのフルコース再現の可能性も考えて見たのだが、取り込める酸素量の増加や新陳代謝の爆発的な促進、それらに伴う回復力増加をもたらすサラダのエアは、以前にも想定した通り、効果の再現性も霊能的な有用性も有りと思うところ。
スープのペアに関しては、飲むことで裏の世界を認識可能になるのがメイン効果な訳だけど、死者の魂だとかの描写的に、今世だと覚醒した時点で同じ事が出来てる訳で、態々再現する意味合いが薄れてる部分。
とは言え、原作で描写されたペアの持つ力については、スープが詰まった木の実の状態で、実を打ち合わせた音色だけで満腹になれる様な、旨味の音色を奏でることが出来たり、作中で表裏一体の雫と表現されている様に、性別を反転させたり、生と死の知覚を反転する結果として、裏の世界――死後の世界を認識可能になるとの設定になっており、それまでの自身とは反対の在り方を認識させ、知覚可能な状態へ作り替えたりしていると言う意味では、今回の目的とも近しいところがある話。
しかしながら、より明確に味覚の変化をもたらすアナザがペアの次ぎに登場している事を考えると、霊能的に当て嵌めた場合、ペアで開花するのは霊的な味覚の範囲とも考えられるため、性転換の効果を含めても、態々ペアを必要とする程でも無いと言ったところか。
豊富な栄養を蓄えるスープであり、確実に覚醒が可能な上に、霊的な五感の開花まで行えると言う点では、有用な食材では在るのだろうけど、グルメ細胞が存在する原作でなら兎も角、メガテンな今世だと、覚醒するか弾けて死ぬかの二択になりかねない事も有り、積極的に再現しようとは思えないところ。
肉料理に当たるニュースだと、グルメ細胞の分裂速度が光速を超える様になる効果なため、仮に再現するとしたら、グルメ細胞の代わりに通常の細胞分裂速度を速くする感じになると思うのだが、細胞分裂を早めると言う事は、言ってしまえば急速に老化する上に、細胞のガン化リスクを高める事にもなる訳で……。
それと、光速を超える細胞分裂の速度で可能になるのが、裏の世界を作れる様になると言う、原作だと重要な能力な訳だけど、霊能的に似た現象を当て嵌めるとするなら、結界術式か異界作成辺りになると考えられる訳で、想定されるリスクとリターンが釣り合わないと思われるところ。
「改めて考えても、再現する意味合いも含めてエアとアナザ、暇が有るならペアを研究するぐらいの優先度になりますね。今回のアナザが終わったらエアの再現に取りかかるとして、とりあえずアナザに関する要素をピックアップするところから始めましょうか」
アナザに関する設定だと、まず注目する点は何を置いても旨味に特化しているところだろうか。
原作においてアナザが生息している海域は、〝出し海〟だとか旨味の海流〝旨潮〟の始まる場所などと言われ、水深三万メートルある海域全体に旨味の層が形成されているらしいが、その旨味自体を生み出してるのがアナザ自身であり、更に言えばトリコ世界の海に満ちる旨味の全ては、アナザから溢れた物との設定を考えれば、特化具体が分かる話。
他には遊泳速度の最高速が光の速さを超える事、最高速に達する事で現世から幽世への移動が可能になる事、超光速に至る過程で何度も脱皮を繰り返し、脱皮した皮がアナザの稚魚となる事、後は正しく調理する事により、旨味の奔流とでも言うべきエネルギーがアナザと同じ形を取って溢れ出すと言った辺りだろうか。
「んー……、原作の描写からして、物理法則に囚われていない生命体っぽい感じですし、ドリー・カドモン・スライムによる造魔をベースにして、概念情報生命体な感じに創っていくのが良さそうですね」
スキルカードの作成時に使う
一方で旨味の概念を抽出した後の素材から、更に食材の概念を抜き出して白紙のカードに注ぎ込み、食材としての在り方に純化した【造魔/フード スライム】を作り出す。
「次は出来た造魔と昇華させた旨味概念を組み合わせ、情報生命体化させてアナザの姿形を構築。霊体を基本状態に固定して光速での遊泳を可能に、光速以上での脱皮と分離した皮が別個体として成長する生態を設定。特定の調理工程を経る事で、儀式による霊体から実体へ変化させる術式として組み込み、概念的味覚を開花させる食材として効能を発揮可能に――っと」
【造魔/フード スライム】のままでは器の容量的に、昇華させた旨味概念は流石に入りきらないため、〝食材〟と〝生命〟の要素だけを残して分解しつつ概念を混ぜ合わせ、〝旨味概念の食材〟と言う情報で構成された情報生命体を誕生させる。
存在を成立させるための霊力を注ぎながら、姿形を構築し、情報生命体としての生態を組み込み、経年による情報変化が起きない様に、変化すると問題になる部分についてはロックも掛けておく。
それから重要部分である、食材として実体化させる特殊調理の工程を組み込む訳だけど、黒札の認識補強や概念強化も兼ねて、あえて原作と同様の工程と時間が掛かる様に設定し、アナザが生み出す旨味の概念を更に高めていく。
「必要だろうと感じたのは間違い無かったみたいですが、これは調理補助用の時間加速術式と道具も必要になりそうですね。蓬莱島内なら、原作再現で〝タイム0*3〟の異界を造るのも有りでしょうけど」
必要な要素を組み込み終わり、【神通力】に加えて【輪廻写輪眼】の固有瞳術【吉祥天】【黒闇天】も使い、可能性の未来から良さそうな結果を見つけて因果を結び、〝魚宝アナザ*4〟が一応の完成となる。
その後は食欲界のトリコ層で、一番水深の深い場所へと放流し、個体数を増やすため一時的に時間加速も行って作業は完了、ある程度成魚の数が揃った所で調理し、食材としてストックしておけば良いだろう。
個体の繁殖とトリコ層の海洋部分を原作に近付ける作業はこれで良いとして、アナザが逃げ込む先の場所として、タイム0の異界――停止した時間の世界構築へと取りかかる。
「タルタロスの封印が完了した後は、管理のために蓬莱島へ移設する予定でしたし丁度良いですかね」
少し前に改良したダンジョンコアと飛行石を取り出し、二つを連結させて太極炉術式による動力や、光量子コンピューターによる処理能力を増強させ、異界構築の核を用意。
異界の形式としては、シャドウ異界や電脳異界と近い性質を持った霊体のみが行動可能な世界として構築し、内部では認識時間の加速を行う事で、外での一秒が一日でも一年にでもなる、外部から観れば限りなく停止した時間の世界を造り上げる。
「後は、島内の異界を繋げて構築した階層の深奥にこの異界を設置して、深淵や冥府としての側面を付与すれば、封印の安置場所としても機能するでしょう。魚宝アナザが超光速へ至った時の移動先としても設定し終わりましたし、多少の経過観察はありますけど、一先ず研究終了ですね」
数日はトリコ層の一部に時間加速を掛けての、個体数を増やす時間だったり、食材にするための調理工程なども有ってまだまだ時間が掛かる訳だけど、アナザがどんな味を魅せてくれるのかと思うと、待つ時間も楽しくなる物。
「さて、アナザの数が増えるのを待つ間に〝食王エア〟の再現に取りかかりますかね」
まあそれはそれとして、時間が空いたなら次の研究に取りかかるのだけども。
技術の幅が広がることで、より多彩な味を表現可能になる。
普段は光速で海中を泳いでおり、マグネタイトを取り込み成長する過程で、体から旨味が溢れ出すため、生息する海域は様々な旨味が層を成す出しの海へと変貌してしまうほど。
また、遊泳速度が光速以上となった際に脱皮を行う性質があり、脱皮した皮が周囲のマグネタイトを吸収する事で稚魚となり、個体数を増やす生態をしている。
なお、成魚となったアナザの場合、正しく調理可能な技術を持つ相手には自ら調理されに寄っていくが、そうで無い相手からは全力で逃げる性質を持つ。