VRMMOって聞いてたんすけどなんなんすかねこれ 作:なみん
ゲーム初めて3秒で地獄
「「「「……。」」」」
全員が行動を起こさないまま、何秒経過したのか
地獄のような空気がこの場を支配する
すみません運営さん、バグですか?こんな状態からスタートするオンラインゲームって無くない? 大体はムービーから始まったり、なんならVRはそのまま街にリスポーンするのが主流だと言うのに、こんな椅子の向き反転させた椅子取りゲームみたいな場所からスタートさせる? こんなの人見知りじゃなくても気まずいわ。
一旦ゲーム落として、時間を置いてからログインしよう。こんな地獄みたいな場所にいられるか。フルダイブVRはな、ゲーム終了と頭の中で念じればゲームを落とせるんだよ。良い時代になったじゃないか。少なくとも今はこれ以上ない程この機能に感謝している
「あれ?」
が、駄目っ……! 何故だ、なぜ動かん!!
「どうした?」
真正面に座っている女に話しかけられる。
腰まで伸ばした薄青色の髪。それを肩より少し下の方で髪を結んでいる。目は俺と同じくらい吊り目で、瞳の色は真逆の群青色。口は一の字に結ばれている。目と髪の色のせいか、俺よりもクールな印象だ
それにしても俺と見た目が似てるな。つるぺたな所までそっくりとは……。もしかしてお姉ちゃん!? 名前分からないし、死に別れたお姉ちゃんって事にしておく。あ、死んでたら会えないか
存在しない記憶が芽生えつつも、ログアウトが出来ない事は報告した方が良いかもと思ったので、お姉ちゃんに分かりやすいように伝える
「いや、地獄みたいな雰囲気だったんでゲーム落とそうとしたんですけど、ゲーム終了が出来なくて」
「……確かにキャラクリ終わってすぐがコレは地獄だが、直球すぎるだろ」
「すんません、へへ……」
おっと、テンパってしまってつい本音が。暫定お姉ちゃんも呆れた様子だ
「三下みたいな笑い方だな……。あれ、本当に出来ないわ」
器用にも俺にツッコみつつ、ログアウトが出来ないと分かると顔を少しだけ顰めた。それにしても最近の若者は妙に気安いなぁ! いきなりタメ口でツッコミまでしてくるたぁいい度胸じゃねえか!? 正直親しみやすいし、地獄みたいな空気を変えてくれたので助かったのも事実
「マジで出来ないっすね……。バグかなこれ」
右隣から聞こえてきた声の主は、桃色の髪に緑色の瞳で穏やかそうな目付きをしている女だった。でも俺が1番目を引いたのは、グラビアアイドルのような体型だ。こんなん子供の教育に悪いよ
と言うか、なんだそのぼろ雑巾みたいな服は? 胸が服を押し上げているせいで下半身見えかけてんぞ。最近の若者はけしからんな
しかし念の為に自分の姿も確認すると、似たようなものだった。なんでやねん。キャラクリ時に着ていた、いかにも冒険者っぽい服装は何処へ
「あの、まず自己紹介からしません?」
最後の一人がいきなりそんな事を言ってきた。いやいや、それは全然忘れてた。自己紹介は大事だもんね
「私、もにょと言います」
どたぷんっ
もにょが自己紹介した時、胸がどたぷんと揺れた。本当に胸がどたぷんって言ってるのかと錯覚するくらいのデカさだ
身長は俺よりも低く、目つきも柔らかい。髪がツインテールなのもあってか、胸のでかいロリにしか見えない。所謂ロリ巨乳か
仮に走ったりしたら、これでもかと言うほどデケェ胸が、縦横無尽に跳ね回るのだろう。その光景は、正に圧巻の一言に尽きるのだろう。おっぺぇの悪魔がよ……
ともかく、会話のきっかけになったのは間違いないので、巨乳の悪魔、もとい、もにょには感謝しかない
「ああ、僕はフィーエだ。よろしく」
俺に顔つきが似ている彼女、お姉ちゃんの名前はフィーエと言うらしい。それに続いて、グラビアアイドル体型の彼女が自己紹介をする
「アタシはウ〇コの煮付けって言います、よろしくっす」
美しい外見から放たれるクソみたいな自己紹介。うーん、この。これが認知的不協和とでも言うのだろうか。流石にフルネームで呼ぶのはアレなので、煮付けと呼ぶ事にした
「よく名前弾かれなかったな……」
「余裕っす」
煮付けはドヤ顔で言葉を返す。まあ、下品な名前の付け方はいくらでもあるし、なんなら俺もやったりする。
とは言え、この状況でふざけた自己紹介が出来る者がいるとはな。日本の世は明るいぜよ
「何がだよ……」
まあ、余裕だよな、分かる。デメリットは身内以外と遊び辛い事だけど
さて、次は俺の自己紹介だが、俺の名前もまぁアレなので少しやり辛い。どうしようか……
「で、アンタは?」
「ん?」
「皆、自己紹介してただろ」
だが、皆が自己紹介したので俺だけがスルーされるはずもなく、フィーエに促されてしまった。あえて気付いてなかったフリをしてみる
「ああ! そういう事か!」
「気付けよ!?」
フィーエが驚いた様子でツッコんできた。いい反応するねぇ。フィーエはいじられキャラになるかもしれない。現代にこのような若者がいるとは日本の世は明るい
だが自己紹介はしないといけない雰囲気は残ったままだ。なら、潔く散るとしようじゃないか
「俺は
「……は?」
俺の名前を聞いたフィーエがぽかんとした表情で固まった。
「だから、
フィーエの顔が徐々に赤くなっていく。どうやら下ネタに耐性がないらしい。純情ピュアボーイかもしれない。ちなみに男だと思った理由だが、VRなんて女の子になりたい男の割合がとても多いからだ。特に日本人はそういう傾向にある。昔から存在しているVRゲームでは、こぞって女の子のアバターを買っては鏡の前で
「よろしく。じゃねえーー!!」
顔を真っ赤にしたフィーエが吼える。その姿は正に可愛い男梅。この場合は女梅かもしれないが
ここで謝ったり、狼狽えようものなら確実に俺が悪いということになってしまうので、あえてシラを切ることにした
「え、どういう事?」
「お前の名前ぇーー!! 下ネタの塊ぃーー!!」
勢い衰えぬままツッコんでくるフィーエ。残念ながら、この時点で俺の中でフィーエがツッコみ役というのは確定した。
それに、ひとつ訂正しないといけないことがある
「違うよ」
「何がだよ」
「ちゃんとS〇XのEは3にしてるし、machineもaを4にしたり、iだってちゃんと1にしてる」
なので、ギリギリでセーフのはずだ。英語のスペルに数字を混ぜ、あえてカッコつける事により、いやらしさを相殺する高等技術。これで何人たりともこれ以上の追求は出来ない
「そんな事しても読める人には読めちゃうだろ!! モラルはどこだモラルは!!」
出来ました。されました。そりゃそうだ
ビシィッ! と音が聞こえそうな程、勢い良く人差し指をこちらに向けながら叫ぶフィーエ。流石美少女アバターを使ってるだけあって、可愛い動きと言うのをよく分かっているようだ
「もら、る?」
「なんでわかんねえみたいな顔してるんだ……」
フィーエが困惑しながら言う。分かっちゃったら俺の負けになるからね
自己紹介も済んだので、今後について皆と話したい所だ。VRマシンの不具合か、ログアウトが出来ないこの状況だ
「とまあ、みんなの名前が分かったところで、これからどうしようか?」
「何事も無かったみたいに話を進めるなーー!!」
別にボケた訳では無いのだが、未だにツッコミを入れてくるフィーエ。うんうん、天性のツッコミスキルだな
「ログアウト出来ないのは真面目にヤバいっすよね〜」
「なんでお前はすんなり会話に入れるんだ……?」
「だってアタシの名前ウンコの煮付けだし」
「そうだったーー!!」
早くも煮付けからもいじられているフィーエ。これはもうツッコミの天才だ。
「……まあ、実際ヤバいのはヤバいだろうよ。さっき試したが、メニュー画面も開けない。最悪、長時間プレイ時の警告も出なかったら確実に死ぬな」
流石に落ち着いたのか、あるいは諦めたのか、フィーエもテンションを落としつつも、現状の危険性について言及した
「そんな事あるっすかね? 流石に出そうなもんっすけど」
「1人ならともかく、3人同時に同じ状況なんだ。もにょが試したのかは分からないが」
「試しましたが出来ませんでしたね」
「だそうだ」
つまり、どうにかログアウトしないと、緩やかに餓死するって事だ。
おまけにVRマシンもバグりまくってると来た。最悪、顔の良い美少女が倒れ伏せたまま、一生ログインしたままの状態で放置されることになる。しかもこんなところで。こんなところでね。
「あの、私思ったんですけど、緊急停止とかって出来ないんですか?」
もにょが提案するが、俺には方法が思い付かなかった
フィーエが椅子に座り、両手を組む。そこから少し間を置いて、フィーエが話しだした
「そう言えば、VRマシン本体の設定次第では停止出来るな」
フィーエの情報が正しければ、それは朗報だった。正に地獄に垂らされた蜘蛛の糸のような
だが気になるのは、設定次第と言う点か。そんな設定をしている人なんて、ゲームが好きな奴らにいるとは思えない。無論、俺も含めてな……!!
「視界が激しく揺さぶられたりして、気分が悪くなった時に警告してくれるシステムがあるんだ。その機能でもしかしたらログアウト出来るかもしれない」
「でも、ログアウト出来ない位バグってるのにできるの?」
そもそも本体が壊れているのだ。これでログアウト出来るなら、普通にログアウトも出来ると思うんだけど
「フルダイブをした時、物を持つ感覚がリアルだったり、感情が表情に出るのは、VRマシンと脳がリアルタイムで通信をしているからだ。まだダイブ出来てるって事は、その機能はまだ失われてない筈だ。」
小難しい話をするフィーエ。俺達が話についていけてるか確認した後、話を続ける
「マシンが強烈な不快感をキャッチすると、警告が出てくる。設定次第では警告ではなく、強制的に落とせるんだ」
「でも、そんなのオンにしている人いるかな?」
俺の純粋な疑問を聞いたフィーエの表情が少し曇った
「……僕はオンにしている。だから、試すとしたら僕にやってもらうしかないな」
なるほど、そんな機能をオンにする程に三半規管の弱いフィーエだが、今から滅茶苦茶に三半規管を揺さぶられると思うとそりゃいい思いはしないよな。俺もそうだったけど、ほかの2人もその機能を知らなかった事から、自分以外は設定していないとフィーエは悟ったのだろう。となれば
「では早速」
「おい」
「ん?」
思い切り拳を握り、弓を引くように拳を後ろへ持っていく。それを見て、少し焦った様子のフィーエ
「なんだその握り拳は」
「ん」
俺はその場で、思い切り拳を振り抜く。それがどういう意味なのか伝わったのか、フィーエの焦りがまた大きくなる
「よし、そのジェスチャーだけで殴るつもりなのが分かったよ。でもその前にいいか」
「ん?」
諭すように、フィーエはゆっくりと俺に語りかけてくる
「もしこれでログアウト出来たら、僕が君たちを助けなければいけない。だから君たちの住所を」
「んーー!!」
説明も聞かず、俺は力任せにぶん殴った。頭を揺さぶるため、振り抜いた拳は、吸い込まれるように顎へと近づいていき……
拳が顎に触れた瞬間、轟音と共にフィーエが真横に吹っ飛んだ