VRMMOって聞いてたんすけどなんなんすかねこれ 作:なみん
「んめっちゃ寝たぁー!!」
いつもなら「おいセクマ、起きろ」とか言いながらバフ付きで叩き起しに来るフィーエが、今朝は姿を見せない
もしかして昨日のレイジングボアで疲れが残ってるのか、それともついに俺を見捨てたのか。後者だと寂しいけど一番可能性高い。涙出てきた。もう乾いた
ごろごろと寝返りを打って、結局自分で起き上がる
エリマキトカゲになってから宿の1階に降りると、何やら騒がしい
カウンターの近くで、エリマキトカゲ4人が固まって、エリマキトカゲに必死に何か訴えている。傍から見たら色んな意味で怖すぎるなぁ
「本当にお願いします!! 私たちにもやらせてください!!」
「一人前として認めてほしいんです!!」
4人に囲まれてるのは多分フィーエかな。困ったような顔している。多分ね。可愛いなおい
ガン見してるとフィーエがこちらに気付く
「あ、セクマか。おはよう」
「おはよう。よく俺だって分かったね……何かあった? 随分賑やかだけど」
「昨日の墜落で兜がとんでもないくらいひしゃげてるからな。エリマキトカゲの中で唯一外見で判断出来るよお前」
つまり愛ってこと? 俺の事好きすぎるでしょ
フィーエの愛に溺れていると、4人が一斉に話しかけてくる
「セクマさんお願いします!! どうか私達だけでパーティーを組む許可を頂けませんか!?」
「お願いします!! もう迷惑はかけられないので!!」
「お願いします!!」
「お願いします!!」
「お願」
お願いされてまああああああああす!! うっさいんじゃ!! こんなにお願いされたら良いよしか言えないよ俺!?
一旦両手でやんわりと少し待ってねをする。この対応出来る俺かなり偉いですよ
「まずなんのお願いかもよく分かってないんだけど、何事? 教えてフィーエたん」
「たんはやめろ。説明すると……」
フィーエがため息混じりに話し始める
「この2日で稼いだ金は均等に分けているのは知ってるか? その顔は知らないな。とにかくアナ、サラ、マリア、エッダ。彼女たちは自分たちの分を半分返したいらしい。代わりに残り半分の金で装備を整えて、自分たちだけでパーティーを組んで自立したい、お世話になりっぱなしは心が痛い、だそうだ」
なるほどなあ。なんでそんな微妙そうな顔してるのフィーエたん
まあ、自立心があるのは偉い。偉すぎる
「偉いね。ちゃんと自分たちでやろうって思えるの」
俺がそう言うと、フィーエが引きつったような笑みを浮かべた
「……多分、違う理由だけどな」
何それー。気になる言い方しちゃってこのっこのっ痛いっすみません
「何するんだいきなり!! ……僕的には全然いいと思ってる。でも、皆に聞いてからの方がいいと思ってる。セクマ的にはどうだ?」
「俺は良いけど、ここで自立するの? もっと遠くへ逃げなきゃじゃない? なんだっけほらあの、フェイタリティ?」
「物騒すぎるだろ。ニュータリティな。勿論そこまで一緒に行った後の話だ」
「あ、そうなの。ならいいんじゃない? 忘れててごめんね」
「いや、むしろうっすらでも覚えてた事を褒めたいくらいだ。見直したよ」
なんか褒められた。期待値低いとうっすら覚えてただけで褒められるんですねえ。バグ技みたいだ
まあ、別に反対する理由もないし、彼女たちが自分でやりたいならやればいいんじゃない? 自立出来ればバルドさんも安心だろうし
そうこう話していると、宿の入口から煮付けともによが揃って入ってきた。
「おはよーっす。お、セクマさん起きたっすか」
「おはようございます!! セクマさん!!」
2人が何故か入口から来た。外で寝てたの?
「おはよう。随分と大きい荷物だね」
「ニュータリティへ出発する準備をしてたっす。セクマさんが寝てる間に」
なるほど。俺が寝てる間に動いてたのか。偉いな。としかして偉くないのは俺だけか!?
「で、今話してた件なんだけど」
フィーエが簡単に状況を説明する。自立したい、金は半分返す、という話だ
「あー、それならアタシらも賛成っす。なんならお金は返さなくていいっすよ」
「私もそう思います!! 何事にもお金は使うと思うので!!」
まあそうなるよね。あーしら束縛系じゃないし〜、やりたいならやりな〜? みたいなね。ギャルのマインドある
「うぅっ……っ!!」
「よかった……本当によかった……!!」
アナ、サラ、マリア、エッダの4人が、突然泣きながら抱き合った
肩を震わせて、声を押し殺すようにして泣いている
「このままだと、頭おかしくなるところだった……」
「私も皆さんについていけなくて……本当に限界だったんです……」
なんか酷くない? そんなに変な事してました? してた。俺と、多分煮付けが主犯格
隣を見るとフィーエの顔が引きつっていた
「もしかして僕もその中に含まれてるのか……!?」
まあ多分そう。でも割と常識人枠だから一番最初に話しかけられたんだよきっと。誇りに思おう
結局、返さなくていい方向で全員一致。地竜ボーナスのおかげで山分けしても全然余裕で暮らせるらしい。クソッ俺のレイジング5万ゴールドはカスってか!?
「こほんっ、まあ、ともかくだ 。そろそろ出るか」
フィーエさんそう言いますけどね、俺は起きたばっかで準備とか全くしてないんですけど。良く考えたら大剣しか持ってなかったわ。行けます自分
俺たちが宿を出ると、すでに馬車が止まっていた。どうやら煮付け達が手配してくれていたらしい
荷物を積み込んで、全員で馬車に乗り込む
ニュータリティへ向けて出発〜。2日間だけだったけどいい所だったね
馬車が動き出すと、煮付けが突然身を乗り出してきた。
「セクマさん、一つ聞いてもいいっすか」
「急だね。ごめんだけど何個でもいいよ」
「セクマさんって、寝てる時に夢とか見てるんすか? ちょいちょい意味わからないこと言ったり、なんなら動いてるってフィーエさんが言ってましたよ」
「そうなの? 覚えがないなあ」
「覚えがあるなら起きてるって事だろうが」
「そうかな。そうかも。でも、本当に夢を見た覚えがないよ」
夢って見たことないんだよね。そもそも夢とは見るものじゃなくて叶えるものって教えてもらったよ。そういう意味じゃない? そうですか……
「フィーエさん、どんな寝言だったっすか?」
「一番ヤバかったのは、この宿に止まった初日か。夜中にいきなり起きたかと思うと『ウィーン、ウィーン、ガニ股ロボだよ自動でカニ歩きをする凄いやつだよ』とか言って、1時間くらいその場でガニ股で腰を前後に動かしていた。あれは怖すぎて眠れなかったし、僕以外の2人も泣きながら布団に包まっていたよ」
「え、怖いねそれ」
「お前の事なんだよ」
流石に嘘だよね? マリアとエッダを見る。困った顔をしているが否定しない。本当なんだ〜。本当なら俺も怖いよ
「いつものフィーエならツッコんで正気に戻しそうだけど、何でしてくれなかったの?」
「ツッコむとかの前に怖すぎて何も考えられなかったんだよ!!」
なんでぇ!? 今ツッコんでる!! 今ツッコんでますよ!!
「流石にアタシも怖いっす。前からとんでもない幽霊に取り憑かれていて、この世界に来る時に一緒に来たとか無いっすか?」
「いやいや、このご時世幽霊なんていないよ」
「この場合いてくれた方が救いなんすけどね……」
でもそうか、だからここに来てから2人が怖い物を見る目で見てきたのか。逆にフィーエはいつも通りだったな。おかしいよ君
「セクマさん、夜中に私とすれ違った時『世界を滅ぼす』とか『私が神だ』とか言ってましたけど、それは意識がある状態ですか!!」
もにょが聞いてくる。多分意識がない状態です!!
「記憶にございません」
「政治家かよ」
「言ってたっす。アタシも聞いたっす。『ダスヴィダーニャ』まで言ってたっすよ」
二人して肯定してくる。嘘だろ。
「フィーエ、俺もしかしてヤバい?」
「聞くまでもなくヤバいだろ。でもまあ、煮付け達が聞いた寝言はまだ分かる。言いそうだし、ただ廊下を歩いてるだけだからな」
言いそうって思うの? いや実際にほとんど言ったんだけど。君、俺の事詳しいねえ〜!!
ところでただ廊下を歩いてるだけって言うけど、寝てる人が廊下を歩いてるのは怖いことだと思うよ
「でも、ガニ股ロボだけは本当に分からない。言ってる意味もだし、行動も、腰を前後に振っていた時間も全てが怖い。夢であって欲しいと未だに思うくらいだ」
フィーエが窓の外を向きながらそう言う。なんかエリマキトカゲが黄昏ててウケる。しかも現実逃避してるのもっとウケる
「じゃあさ、今夜試してみないっすか?」
「試すって何をだ」
遠い目をしながら聞くフィーエ
「セクマさんを囲んで寝るっす。アタシが右、もにょが左、フィーエさんが足元。寝言とガニ股ロボが出てきた瞬間に全力で抑えるっす」
「そうです!! 科学的検証です!! 必要なら武力行使もやむを得ません!!」
「 やめて? 皆に武力行使されたら普通に死んじゃうよ」
「これはもうガニ股ロボになる方が悪いっす」
「フィーエ、助けて」
まだ遠い目をしているフィーエが、少し考えた後に口を開く
「……いっそここで楽にしてやるか……」
「やだっ死にたくない!!」
結局、馬車の中で「セクマ夜間行動観察会」の開催が決定してしまった
煮付けが「今夜が楽しみっすね」と目を輝かせ、もにょが「記録用の紙とペン、用意します!!」と意気込んでいる
フィーエは相変わらず窓の外を見たまま、小さく呟いた
「……ガニ股ロボだけは、本当にやめてくれ」
俺はただ、静かに空を見上げた
そんなこと言われましてもね。自覚が無いのにやめようもないですよ
ちなみにこの日は謎にわちゃわちゃ動きながら『5万ゴールド!! 5万ゴールド!! 今ならなんと100万円!!』だったらしい。俺からしたらぐっすり眠ってたらいきなりボコボコにされた感じで心も身体もめっちゃ痛かった。俺の意思じゃないのになんでこんな酷いことするの!!