シャニマスをバトルものだと勘違いしている転生者の話 作:リィンP
突然だが、どうやらボクはゲーム、またはアニメ世界に転生したらしい。
5歳の誕生日の夜、夢に現れたやたら威厳ある爺さんから「前世で頑張った君にご褒美だ。シャニマスの世界に転生させたので、後は好きに生きるがよい」的なことを一方的に言われて、目が覚めた。
普通ならおかしな夢だと笑い飛ばすところだが、爺さんの言葉は本当の事なのだと直感が告げていた。
そもそもボクには前世の記憶がある。もっとも、エピソード記憶──つまり思い出の方はほとんど覚えていないのだが。
ただし、意味記憶──知識の方は全て覚えているようで、学校で教わった知識は転生しても引き継いでいた。
また、アニメや漫画などのサブカルチャーの知識も覚えており、おそらく自分が生前見ていたものは知識として記憶しているようだ。
そしてボクが知る限り、『シャニマス』というのは『アイドルマスターシャイニーカラーズ』というゲームだと推測される。
アイドルマスター。アイドルを育成するシミュレーションゲームで、様々なシリーズがリリースされている。
シャニマスはその内の1つであることには間違いない。
どうにも転生してからボクの知識よりもテレビでアイドルを多く見かけると思っていたのだが、それは気のせいではなく、本当にアイドル育成ゲーム世界へ転生したからだ。
つまり夢に現れた爺さんの言う通りシャニマス世界へ転生したのは間違いないと思うのだが…シャニマスというゲームは、通常のアイドル育成ゲームとは一味違うようなのだ。
ここで重要なのが、ボクが有するシャニマス知識は少ない。
知識量的に前世では実際にプレイしたことはないと思われる。
ただまったくのゼロではないことから、話題にあがったときに動画やネット記事などを見ていたのかもしれない。
以下に、ボクが知りうるシャニマス知識を列挙していく。
其の一、アイドル育成ゲーム。
アイドルをスカウトし、育て上げてトップアイドルに導く。
しかし、どのように育て上げるかまでは知識がなく、アイドルたちのスカウト経緯や成長ストーリーはほとんど知らない。
其の二、イラスト。
シャニマスは魅力的なイラストが多く、いくつか記憶に残っていた。
前世のボクがその絵に対してどう感じたまでかは分からないが、好印象を覚えていたはずだ。
そんなイラストの中で、拳を構えたり、剣を構えたり、銃を構えたりと、武闘派な構図がチラホラと見られた(ん?)
まだ拳は分かるが、普通のアイドルが武器を手に持つだろうか…?
コラを疑ったが、それにしてはあまりにもイラストの完成度が高過ぎるため、その線は消滅した。
となると考えられるのは、実際にゲーム中で戦闘の描写があり、その一瞬の光景を切り取ってイラストにした…そう考えると全てがしっくりくる。
其の三、アイドルの台詞。
シャニマスには複数のアイドルが登場するのだが、その内の何人かはアイドルゲームでは言わないような台詞を残している。
『あんたはここでふゆと死ぬのよ*1』
『……安心して。あんたのことは、ふゆがちゃんと終わらせてあげるから*2』
『ふゆたちは空中戦じゃ分が悪すぎるでしょ……!*3』
以上の台詞を、ただのアイドル育成ゲームで発言するだろうか、いやないだろう。
このような台詞は、バトル漫画でしか見たことがない。つまりシャニマスはバトルものだった…?(疑念)
其の四、カードゲーム化。
とあるトレーディングカードゲームでは、鬼狩りの長男や死神代行が主人公などの有名なバトル漫画がカード化された。
それらバトル漫画の知識についてはしっかり覚えていることから、前世でそれらのアニメか漫画を読んでいたと思われる。
そして衝撃的な事実だが、シャニマスもそれらバトルものに混じってカード化されているようなのだ。
ちなみに、そのトレーディングカードゲームで他にカード化されている漫画のジャンルも全てバトルものである。
このことから導き出されるのは──シャニマス、お前バトルものだったのか…(驚愕)
以上のことより、シャニマスがただのアイドル育成ゲームではなく、
バトルアイドル育成ゲームって何だよと思うかもしれないが、安心してほしい。
ボクもよく分からないから(ドン!)
ただ推測だけはできる。
おそらくボーカルやダンス、ビジュアルなどのアイドル的要素をレッスンなどで伸ばしながら、攻撃力や防御力、器用さ、素早さなども並行して鍛えていくのだろう。
きっと表はアイドルとして活動しながら、裏では世界の平和を守るために悪の存在を倒しているに違いない。
シャニマスがバトルものと気付いてから、ボクの行動は早かった。
親に頼んで近所の空手道場に通い始めることにしたのだ。
空手の知識についてあまり深く知らないことから、前世のボクは空手を習っていなかったと思われる。
というか、剣道や柔道、合気道などの格闘系の知識が不足しているので、前世では武道にまったく触れていなかったのだろう。
しかし、手探りで空手を始めてみたが、教えてくれる指導者がよかったのか着々と実力を伸ばしていった。
師範はボクの稽古姿を見て「君には才能がある」と誉めてくれた。
それが凄く嬉しくて一段と修練に力を入れ、さらに実力を伸ばしていったのだが、順風満帆とはいかなかった。
あるとき重大な問題に直面した。
1年経っても師範は実践的な技を教えてくれなかったのだ。
空手の型を覚えるのは楽しかったが、この技ではこれから現れてくる敵を倒すのはどう考えても無理だろうということに途中で気付いた。
例えば正拳突き。
この技でただの暴漢を倒すことは容易い。
しかし、相手が人外である呪霊や鬼、宇宙人などになると、倒すことは難しい。そもそも通常の物理攻撃が効く相手ではないだろうし、気や念的な超常的な力が必要になるのは間違いない。
そのような事情があって、バトルものによくある必殺技を伝授してもらおうと師範に頼み込んだ。
よし、黒閃連発で敵をぶち倒すぞ!
「コクセンとは何かね?そも、呪力などという力は聞いたこともない」
…よし、霹靂一閃で敵を真っ二つだ!
「呼吸で雷の速度を出す?それはもはや呼吸とは言わず、別物ではないのかね」
………かめはめ波で、敵をぶっ飛ばしたり…。
「凝縮した気を放出して相手を倒す?確かに気功を修める武道家はいるが、そこまで強力な技を使える者なんて聞いたことがない」
……何……だと……?
バトルもの必須である必殺技が存在しない…?
こんなことが許されていいのか(震え声)
「何を焦っているのか知らないが、今のお前の実力なら世界に通用する。だから安心して稽古に励め」
違うんだ、師範。
世界大会に出場するために空手を鍛えているわけじゃなくて、いずれ現れる世界の敵を倒すために必死になって修練しているんだ。
夢に出た爺さんは言った、好きに生きろと。
ボクだって叶うならそうしたい。
しかしバトルもの世界で好きに生きるのは、それ相応の実力がないと難しい。
バトルものなら敵が出るのはお約束のため、いざというときに自分の身を守れる程度には力が欲しいのだ。
師範はバトルもの特有の超常的な技を知らない。
しかし、これは師範が知らないだけで、他の達人なら知っている可能性があるはずだ。
ということで、ボクは1年習っていた空手を辞めて別の武術を習得することにした。
よし、剣とかカッコイイし剣道にしよう。
空手を辞めて剣道を学びたいと師範に告げると、彼女はとても残念そうにしていたが、無理にボクのことを引き留めることはなかった。
「お前ならどの道に進んでも大丈夫だろう」と別れの言葉を交わし、師範の伝手で有名な剣道の先生に弟子入りした。
師範、ここまで鍛えてくれありがとう。
ボクは彼女への感謝の気持ちを込めて、空手を止めた後も正拳突きを毎朝欠かさず続けていくことにした。
もちろん、何年続けても特に音速を越えることはなかったが。
こうして剣道を習い始めたボクであったが、一般的な剣道の技しか教えてもらえなかった。
1年経っても基礎的な内容しか教えてくれなかったので、痺れを切らしたボクは先生に一撃必殺の技を教えてほしいと詰め寄った。
「水の呼吸?火の呼吸?なんですかそれは、いいから素振りを続けなさい」
「飛天御剣流?三刀流?そんな流派聞いたことがありません。それより目の前の相手に集中しなさい」
初めは実力がない者には秘匿しているのかと疑ったが、先生の反応を見るに本当にそんなものは存在しないことがわかった。
ふざけるな、面や小手でどうやって戦えばいいんだ!
とういうことで、習い始めて1年で剣道を辞めることにした。
ボクが求めるものはここにはなかったことを先生に告げると、彼女は困惑の表情を浮かべていたが、最後には別の道を示してくれた。
「これほどの才能を持つ君がどう羽ばたくのかを見たかったのだが…一介の指導者である私には止める権利はない。次は柔道を習いたいと言っていたな?全国大会にも出場したことがある優秀な選手を知っているから紹介しよう」と便宜を図ってもらい、先生の紹介でテレビで見たことある柔道の選手に教えを乞うことになった。
柔道と言えば、柔よく剛を制すことで相手を倒す。
この技術を習得してしまえば、いかに強力な相手だろうと関係ない。
そう、相手の力を利用して攻撃すればいいのだから(ドン!)
よし、今度こそ頑張るぞ!
許して、冬優子。