シャニマスをバトルものだと勘違いしている転生者の話   作:リィンP

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タイトル回収回。


ようやく、バトルものっぽくなってきたな(勘違い)

 

 番組お馴染みの司会が進行を務め、まずは最初に対戦する文田と燕の紹介が始まった。

 

 ちなみに燕の紹介コーナーでは『突然現れた本格武道派アイドル!?ボクシングで世界大会優勝経験あり』と司会が説明してくれたが、続いての紹介で彼女の剣道経験がとても浅いことも明かされた。

 

 『剣道経験1年で段位七級という七色選手だが、果たして実力者相手から大金星をあげることができるだろうかぁ!?』と司会が場を盛り上げていったが、ほとんどのスタッフは二十年以上剣道を鍛えている文田が勝つだろうと考えていた。

 中には一瞬で勝負が決まってしまい、盛り上がりに欠けてしまうことを心配するスタッフもいるほどであった。

 

 そんな周囲の心配を他所に、防具を身に着けた燕は試合に臨んでいく。

 

 第一試合。先鋒、七色燕 対 文田一郎

 両者向かい合った状態で、竹刀を互いに向けたまま静止する。

 そして審判の開始の合図を受けても、文田はどうやって目の前の少女に勝利しようか悠長に考えていた。

 

 しかし、その考えは杞憂だった。なぜなら既に勝負は決していたからだ。

 スタッフが危惧した通り、一瞬で勝負は決まった。

 

 気付いたら文田の視界から少女の姿は消えていて、同時に頭にビシッと衝撃が走っていた。

 

「い、一本!」

 

(な、何が起こった!?)

 

 審判に宣告されてようやく文田は、対戦相手である燕に面を打たれたことに気付いた。

 慌てて振り返ると、彼女が残心している姿が目に映った。

 

『おおぉと、何ということだぁ!?開始早々、七色選手の鮮やかな面が炸裂したぁ!文田選手、一歩も動けずに敗北!し、信じられませんっ!』

 

(そんな馬鹿な、あの一瞬で面を打っただと!?こ、これは何かの間違いか…?)

 

 司会の実況を耳にして、ようやく自身が何もできずに敗北したことを悟る文田。

 混乱を隠せない様子の彼に向かって、残心を解いた燕は言葉を掛ける。

 

「確かに文田さんの言う通りでした」

 

「えっ…」

 

「剣道の試合に段位は関係ない。七級でも四段相手にこうして勝利することができる」

 

「っ!」

 

「とても参考になる試合でした。ありがとうございます」

 

 七色の言葉を聞いて、怒りで顔を真っ赤にして彼女に詰め寄ろうとした文田であるが、一歩踏み出した足はそれ以上前に進まない。

 いや、進めないと言った方が正しいか。

 

 彼の本能が告げていた──下手に距離を詰めれば斬られる、と。

 いつの間にか、またこちらに突き付けられた竹刀から、見えない圧力を感じた。

 文田の剣道人生の中で『殺気』という存在を感じたことはなかったが、今まさに感じているが圧力が『殺気』であると彼の本能が訴えていた。

 

 誰もが想定していなかった燕の圧倒的な勝利に周囲の人たちは戸惑いながらも、進行を進めていく。

 だが、いつまで経ってもその場から動こうとしない2人に、近くのスタッフが控えめに声を掛けた。

 

「あの、次の試合が控えていますので…」

 

「すみません、剣道の試合は礼に始まり礼に終わるでしたね。久しぶりで忘れていました」

 

 スタッフに謝罪した燕は構えていた竹刀を下げ、最初にいた位置に進んで構える。

 文田もぎこちない動きながらも指定された場所に戻り、お互いに礼をして第一試合を締めくくるのであった。

 

「っ!?」

 

「え、文田さん…!?」

 

「どうしよう、追いかけた方がいいかな…?」

 

 カメラが止まった瞬間、文田は防具を付けたまま逃げるように退室していった。

 そんな文田の様子に一部のスタッフが慌てた様子を見せるが、彼と同じチームのベテラン俳優が言葉を掛ける。

 

「君たちが様子を見に行く必要はないよ。彼の出番はしばらくないし、しばらく放っておこう」

 

「え、ですが…」

 

「自分よりも段位の低い少女に負けたことが余程悔しかったのだろう。今連れ戻しに行っても撮影の邪魔になる。そんなことより…」

 

 彼は文田が消えていった方から、燕の方へと視線を向ける。

 そして、ダンディな笑顔を浮かべながら賞賛の言葉を彼女に伝えた。

 

「素晴らしい試合だったよ、七色さん」

 

「ありがとうございます、剣須木さん」

 

「それと文田が済まなかったね。彼は段位で実力を測った気になる悪癖がある。会う度に注意はしているのだが、残念なことに真剣に受け止めてくれることはなかったんだ」

 

「そうだったんですね」

 

「あぁ、だから君には感謝している……この後の試合も楽しみだよ」

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「お疲れ、燕。凄い試合だったね」

 

 お疲れ、プロデューサー。

 まぁ特に疲れてないけどね。

 

 しかし、何も見所がない試合だったな。

 いや、唯一あるとしたら最初に相対したとき、奇しくも同じ構えだったことか。驚いたねぇ、坊や。

 

 まぁ審判が合図した後、少し様子見してたけど、相手はなぜか上の空だったから、普通に面を打って勝ってしまったけど。

 しかもあの様子じゃあ、しばらく面を打たれたことに気付いていなかったじゃないか、あの男?

 うわっ…お前の実力、低すぎ…。

 

 しかも最初に言われた台詞をそのまま返してあげたら、試合は勝負はついたにも関わらず、竹刀を突きつけられた。

 ほう、第二ラウンドか。まぁバトルものなら最初は相手が舐めぷして、次から本気で戦うお約束もあるしね。

 

 正直今ので相手の底は知れたけど、命のやり取りのない試合は楽しいからもう一度戦うのも構わない。

 来いよ、フミッタ。剣なんて捨ててかかってこい!

 

 ところが、いつまで経っても相手は一歩踏み出してから動こうとしない。

 そのうち外野から声が掛かって、試合は終了になった。

 進行に促され最後の礼を終えた瞬間、相手はどこかに走り去ってしまった(えっ)

 

 何やってるんだよ、お前ェ!!

 逃げるな、卑怯者ッ!責任から逃げるなぁ!!

 

「そろそろ収録が再開する時間だし、現場に戻ろうか」

 

 奴のことは仕方ない、切り替えて次の試合を見るとしよう。

 ほう、これが次鋒戦か……中堅戦……副将戦……うーむ、最後に大将戦を残して両チーム2勝ずつか。

 どっちが勝者になるかは台本になかったけど、実は裏でやり取りしてたりするのかと勘繰るほど、拮抗した試合になってるな。

 というか、一瞬で試合終わらすとか普通に考えてテレビ的によくないよね。

 えっ、まさか仕事失敗扱いにならないよね、プロデューサー…?

 ヤバい、ボクの出番はもうないから卍解…じゃなかった、挽回するのが困難だ。

 

 ふふ、出番ないわ(思考放棄)

 いや、本当にどうしよう……あ、大将戦も終わってしまった……もう終わりだ…(絶望)

 

 ん、誰かボクに話しかけてきたな。

 見ない顔ですねぇ……!

 いや嘘、見覚えあったわ。大将戦で最後勝った剣須…剣好きさんだったかな?

 さっき一回話したけど、今日の出演者の中で一番実力があるとしたら、この人なのは間違いない。

 え、そんな人がボクと個人的に戦いたい?

 まさか挽回する機会をくれるというのか!?

 剣好きさん、本当にありがとう。お礼に全力で戦うことを誓うよ。 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 最後は剣須木が一本先取して、男性チームが3勝2敗で勝利という結果で幕を閉じた。

 しかし、収録が終了して現場を片付けようとするスタッフに剣須木が断りを入れる。

 

「剣須木さん、この場所は延長できて後1時間になりますけど…」

 

「そうか、できれば個人的に使いたいので、1時間延長してもらえないかな?もちろん、費用は全て私が持つよ」

 

「えっと、それはもちろん構いませんが…」

 

「ありがとう。七色さん、もしよければ私と一戦どうかな?」

 

「ボクとですか?」

 

「あぁ、私は君の試合を見たときから一度手合わせしたいと思っていたんだ。もちろん、難しいようなら断っていただいても構わないよ」

 

「やります!」

 

「そ、即決だね。でも嬉しいよ。それでは準備をするとしようか」

 

「剣須木さん、もしよければ自分が審判を続けてもよろしいでしょうか?」

 

「いいのかい?こちらはとても助かるが…」

 

「自分もお二人の勝負は気になりますから」

 

 

 そして、五分後。防具を身に付けた七色と剣須木が開始線の上に立つ。

 両者向かい合った状態で、竹刀を互いに向けたまま静止していた。

 半分ほど残った出演者とスタッフが固唾を飲んで見守る中、試合が始まる。 

 審判の開始の合図があがっても、両者は睨み合ったまま動かずにいた。

 

 いや、厳密に言えば動いている。剣須木が踏み込む素振りを見せ、小手や面などを打とうとしているのだが、相対する七色がしっかり反応してくるため、迂闊に攻め込めずにいたのだ。

 

(これは…先の先は難しいか。ならば後の先を狙うまで)

  

 剣須木が得意とするのは先の先…相手が打とうと思う瞬間に打つ方法だ。

 しかし七色の方から攻めてくる気配はなく、しかも反射神経が向こうの方が上だと思われるためこの方法は諦めた。

 

 そのため後の先…七色に技を発動させて、その技の隙を打つ手段をとることに集中した。

 

(先程の一戦で彼女の技の速さは見たが、とんでもない速度だ。しかし経験が1年では対人経験は浅いはず。わざと隙を見せて彼女打ち込んできた瞬間、その隙をつくしかこちらの勝機はない)

 

 戦略を組み立てた剣須木は、機を見て隙を作る。

 もちろん、罠だとバレないようとても小さな隙であったが、七色はその隙を見逃さず初めて攻めに転じた。

 

(相手が隙を作った瞬間に攻めてくるのは流石だが、あまりに素直すぎたな。すまないが、この勝負もらったっ!)

 

 燕の鋭い一撃を上手く躱しながら、彼女の胴に竹刀を振るう。

 しかし、完全に決まったと思われた彼の一閃は空を斬った。

 

(なに、あの体勢から躱されたっ!?)

 

 剣須木の一撃をくるっと回るようにして燕は避ける。彼が胴を狙ってくることを読んでいなければ到底できない動きに、彼の思考は一瞬停止する。

 そんな剣須木の頭に衝撃が走る。

 それは紛れもなく、燕が握る竹刀の一撃であった。

 

「い、一本!」

 

 審判から一本があがり、試合は七色の勝利で決まる。

 負けた方の剣須木は悔しい様子を見せず、むしろ彼女の実力の高さに脱帽した。

 

「参った、まさか面を打ち込んだ体勢であの一撃を躱すとは」

 

「正直紙一重でした。次も勝てるかどうかは分からないです」

 

「はは、そう言ってもらえて光栄だよ。こうして試合を終えて、君に1つ聞きたいことができた」

 

「何でしょうか?」

 

「君ほどの実力者がどうして1年で剣道を辞めてしまったのか…差し支えなければ教えてほしい」

 

「理由ですか…剣道ではボクが求める強さを得ることが不可能だと気付いたからです」

 

「…なるほど、とてもユニークな理由だ。では、剣道では得られない強さが、ボクシングにはあったという認識でいいのかな?」

 

「いえ、ボクシングでもボクが求める強さは見つけられませんでした」

 

「ほう、それでは君はまだ真の強さを求めている最中というわけだね」

 

「はい、まさにその通りです。ボクがアイドルになった理由も、ここが一番強くなれる可能性が高いと思ったからですから」

 

「強さを得るためにアイドルか…ハハハ、君は本当にユニークだね。いや、それとも私が知らないだけで、他の若者も強さを求めてアイドルになったりしているのかな?」

 

「他人のことは分かりませんが、少なくとも283プロの先輩たちはボクより強いですよ」

 

「き、君よりもかい…?283プロダクション…恐ろしい事務所だね」

 

 剣須木はひきつった笑みを見せながらも、最後はお互いに礼をして、健闘を称え合うのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「参った、まさか面を打ち込んだ体勢であの一撃を躱すとは」

 

 剣好きは踏み台野郎と比べ物にならないくらい強かったが、そこは反応速度の差でボクが勝利した。

 流石に剣好きだけあって、いい太刀筋だったよ。

 

「はは、そう言ってもらえて光栄だよ。こうして試合を終えて、君に1つ聞きたいことができた」

 

 呼吸の習得方法とか?それはボクも知りたい。

 この人、剣道の実力者としてけっこう有名だけど、そんな人でも呼吸などの必殺技を使ってくることはなかった。

 少し期待していたけど、まぁそれはいいか。挽回するっていう目的も果たせたし。

 これで最初の試合の失態はカバーできたはず…これで初仕事は成功だよね、プロデューサー?(震え声)

 経験値、もらえるよね?(届かぬ願い)

 

「君ほどの実力者がどうして1年で剣道を辞めてしまったのか…差し支えなければ教えてほしい」

 

 なんだ、そんなことか。

 剣道ではバトルもの必須の技を習得するのはできないと途中で気付いた。

 だからボクは剣道から違う武術に切り替えたんだ。

 

「…なるほど、とてもユニークな理由だ。では、剣道では得られない強さが、ボクシングにはあったという認識でいいのかな?」

 

 いや、別にユニークじゃないと思うけど…。

 それとボクシングも結局ダメだった。まぁボクシングだけでなく、他の武術もそうだったけどね。

 

「ほう、それでは君はまだ真の強さを求めている最中というわけだね」

 

 その通り。だからボクは少ない情報から283プロを探して、そこのアイドルになったんだ。

 

「強さを得るためにアイドルか…ハハハ、君は本当にユニークだね。いや、それとも私が知らないだけで、他の若者も強さを求めてアイドルになったりしているのかな?」

 

 他人のことは分からないけど、うちの283プロは最強だよ。

 眷属強化、暴食、天候操作、空中飛行、領域展開、時戻し等々。

 何も能力がないボクでは逆立ちしても勝てない先輩たちばかりだ。

 

「き、君よりもかい…?283プロダクション…恐ろしい事務所だね」

 

 確かに敵だったら恐ろしいけど、味方なら凄く頼もしい存在である。

 あぁ、早くボクも先輩たちみたいな強者になりたいぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに、2人の会話を聞いていたスタッフたちが『283プロは武道派アイドルグループだった!?』と勘違いして、プロデューサーがその誤解を解くのにめっ↓ちゃ↑苦労するのであった。

 

 

 





第一部完!
賛否両論あるネタ作品だったと思うけど、ここまで書けてよかった。

最後に一言。
生きていれば辛いときもあると思うけど、そのときはこれを読んで少しでも笑ってくれたら嬉しいです。
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