今、ネギと共に温泉に浸かっている。
あの後、京都駅に着き予定通り清水寺や地主神社を見学した。
ハイテンションのエヴァに手を引かれ、ユエのやたらと詳しい解説付きの見学となったが、やはり色々と工作? を受けた。
なかでも酷い事になったのは音羽の滝だろうか……。
とわいえ、酒が混入しており生徒が酔い潰れただけだが、その所為で3-A の三分の一がダウンした。
その際、エヴァが音羽の滝になんて事するんだ! とキレ気味だったのだが、恐らくやった人間が判れば八つ裂き決定だろう。
その時の酒はエヴァが「この酒には罪は無い」とか言いつつ、ちゃっかりくすねていた。
そんなこんなで波乱の一日目を終え、ホテル嵐山の温泉を堪能していたら鴨葱コンビが入ってきたという具合だ。
ちなみに俺達以外の教師はもう上がった後である。
「風が気持ちいいですねー。アレイ先生」
「ああ、これも露天風呂の醍醐味の一つだろうな」
お互い気持ち良さそうな顔をして語り合うネギとアレイ。そこに近付いていく小動物。
「――ちょっと教えて欲しい事があるんスけどいいですか、旦那」
「――うん? 物によるが……、なんだ」
一瞬、衛生的に叩き出した方が良いのだろうかとも思ったが、よく考えればこいつは獣ではなく、妖精だったのを思い出し放置する。
「あのですね、桜咲刹那のことなんスけど西側の刺客じゃないんスか――」
その話を聞くと、どうもこの鴨葱コンビ刹那をスパイとして疑っているらしい。
このまま誤解したままでも面白そうだと一瞬考えるも、いや、余計な騒ぎになるかと考え直し、それを俺が口をしようとした時、カラカラカラと脱衣所の扉を開ける音がして、そこには何故か裸身のエヴァと茶々丸がいた。
「エヴァ、まだ生徒が入る時間じゃないはずだが?」
「そう硬い事を言うな」
と、エヴァ達がかけ湯をして身体を隠そうともせずに俺の横に陣取り、何処からか出したお猪口を渡してくる。
俺がそれを受け取ると茶々丸が俺達にお酌を開始した。
「昼間の酒なのだが地酒のようでな。中々に美味だぞ」
口をつけるとエヴァの言う通り中々に美味かった。
「確かに美味いな」と俺が飲み干すといつの間にかお湯に浸かっていたエセルが「どうぞ、マスター」と酒を注いでくれる。
それを見た茶々丸が残念そうにシュンとしてエヴァの酒を注ぐが、エヴァが「酒が不味くなる。どうにかしろ」と目で語ってきた。
それを受け、『こんな飲み方はしたくはないのだが』と考えつつもくっと飲み干し、杯を茶々丸の前に差し出す。
すると、茶々丸が俺の顔と杯を交互に見た後、心地嬉しそうに酒を注ぎだした。
交互に酒を注いでもらうか、と酒で口を湿らせながら考えていると先程から空気とかしていた鴨葱コンビが自己主張しだした。
「あ、あの、アレイ先生。生徒の飲酒を止めなくていいんですか?!」
……他にもっと言う事はある筈なのだが何故か飲酒に突っ込んだネギ。
「何を言っているんだ小僧? この国では二十歳以上は飲酒可能だぞ」
案の定、何をアホな事を言っているんだ、と言う顔を作って約六百歳のエヴァは堂々と言い放った。
あまりの堂々とした態度にネギは、あれ僕がおかしいの、と頭を抱えて悩みだす。
そうするとまた脱衣所の扉が開く音がして先程カモが言っていた刹那が現れた。
まだこちらに気付いていないのか「ネギが頼りない」とか、「俺にコノカを任せて大丈夫なのか」等、呟いていた。
「桜咲刹那! なぜお前がここに居る!?」
と、思考が止まっていたエヴァが驚きの声を上げると刹那は漸くこちらに気付いたのか。
「へっ!! な、何故先生方がまだいらっしゃるのですか!?」
と、慌てて前を隠す刹那。
「エヴァにも言ったがまだ生徒の入浴時間じゃないぞ」
「え……、私はエヴァンジェリンさんと茶々丸さんが脱衣所に入ったから、てっきり……」
要するにエヴァの所為で間違えたと言いたいらしい。
俺をその言葉を受けエヴァの方を向くと、エヴェはそっぽを向き「誰にでも失敗はある。お前もゆっくり浸かっていけ」等と言って誤魔化していた。
まあ、確かに丁度いいと言えば丁度いい。
「ふむ、刹那。どうもネギ達に西のスパイじゃないかと疑われているぞ」
俺がそう言うとネギと刹那が目を丸くしてこちらを見た後、お互いに顔を見合わせた。
「なっ、ち、違います。私はスパイじゃないです」
と、あーだ、こーだとネギ達と刹那が言い争っているとまた扉が開いた。
「あ、やっぱりここにいた。抜け駆けなんてずるいわよ。エヴァ」「あ、せっちゃんや。……もしかして、せっちゃんも誘惑に来たん?」
と、アスナがエヴァに言いつつこちらにやって来る。コノカは声も雰囲気も柔らかいが目がかなり真剣に刹那を観察していた。
一応、二人はきちんと湯着を着ていた。恐らく俺達以外がいた場合「間違えました」とでも言う積もりだったのだろう。
「そんな積もりはありません。おじょ『このちゃん』」
と、言う刹那にいつの間にか詰め寄ったコノカが訂正を入れる。
「ですがお『このちゃん』でも『こ・の・ちゃ・ん!』……このちゃん」
コノカに押し負け訂正する刹那を見て満足そうに頷いた後、コノカが俺達の方にやって来た。
「コノカって時々、押しが強いと言うか頑固よね」
と、呆れ顔でアスナが言う。
「ほぉか?うちとしてはアスナの方がよっぽど頑固やと思うけどなぁ」
「何処がよ?」
「ほら、昔からアスナって呼び方以外やと反応すらしてくれへんやない」
「それは拘りよ。こ・だ・わ・り。(はじめて貰ったモノだもの)この名前以外認めないし、呼ばれたくないもの」
アスナとコノカがそんなやり取りをしていると刹那が行き成り「失礼します!」と言って脱衣所に駆けていった。
それを心配そうに見ていたネギが何故か俺の方を見てきたので軽く脱衣所の方を顎で指してやるとコクリと頷いて走っていった。
「なんか変に懐かれているな。アレイ」
「だからと言って方針を変える積もりはないぞ」
その後、湯着を脱いだアスナ達も加えて代わる代わる酒を注がれたり、話をしたり、甘えられたりでそれぞれが時間一杯まで温泉を満喫した。
ちなみに、原作では脱衣所に式紙が仕込まれていたが、エヴァが早々に気付き破り捨てた為、それに気付いた術者は一目散に逃げ去った。
◆
「ねえ、アレイ。あれいいの? おもいっきり邪魔してるけど」
眼下のネギ一行を指してアスナが訊いてくる。
「構わん。どの道、主犯格さえ押さえられればそれでいい」
あの後、それぞれが就寝してから西の術者が動き出しコノカをこちらの予定通り誘拐したのだ。
その際、へまをしたのか、それとも腕が無いのかネギ達にバレ追いかけられているという寸法である。
こちらの予定では気絶させられた振りをしているコノカを連れた術者に根城まで案内させて内と外から奇襲し一網打尽する積もりだったのだが(エヴァ&ユエ立案)恐らくそれはもう不可能だろう。
相手はネギに見つかった時点で色々手を講じた筈である。
最初と逃げる方向が違う上、大回りして京都駅に向かった事からも判るが他の仲間に連絡して待ち伏せでもしているのだろう。
案の定、前鬼と後鬼を委員長とまき絵に抑えられ、刹那が突貫したらゴスロリ剣士が現れて刹那と五分の切り合いを演じていた。
と、言っても月詠と呼ばれた少女、刹那より腕が上の筈なのに遊んでいるのか、それとも時間稼ぎが仕事なのか刹那を切り捨てる気は無いようだ。
ネギは手を出したいのだろうが乱戦気味で今魔法を放てば下手をしたら味方に当たるとでも考えているのだろう、杖を構え機会を窺っている。
このままでは埒が明きそうに無い。
それにどうもあの女の術者が誘拐犯のリーダー格らしいという事で俺とアスナは戦闘が行われている京都駅の大階段の最上段に降り立った。
「予定変更だ。コノカ、その女を組み伏せろ」
俺のその言葉を聞いたコノカは地面に横たわっていた状態から跳ね起き「ほいな!」と気合の入っているのか判らない声と共に近くに居た女の術者の腕を極めて組み伏せた。
いや、組み伏せたというのは語弊がある、あれは自身と相手の体重を最大限活用して地面に頭から叩きつけたと言った方がいい。間違いなく常人なら死んでいる。
それに気付いた月詠が刹那を吹き飛ばし、コノカの方に向かって走り出そうとするが、アスナが旅館を出る前にお土産コーナーから失敬してきた木刀『嵐山』(2890円)で切り掛り月詠を止める。
「あなた強いですなー。ウチには今の一太刀でよーわかります。いったい何人切ればそんな殺気の篭った太刀筋になるんです?」
肩に木刀を乗せたアスナに淫靡なオーラを発し、艶の篭った声で問いかける月詠。
「(何体のゴン君を切り倒したか何て)そんなの一々憶えてないわよ」
眉を顰(ひそ)めつつ取り合わないアスナだが、
「そんな蔑んだ眼でウチを見んといて、濡れてまう」
と、内股になりながらモジモジし出した月詠。
それを見たアスナがバッとこちらを見て、
「どうしよう! アレイ! この人、変態さんだ!!」
ズギャーンと効果音が鳴りそうな勢いで半泣きのアスナが俺に報告してきた。
戦闘狂にドM、ドSとレズを狂気と一緒にブレンドしたような月詠。……まごう事なき変態である。
「早々に戦闘を切り上げないと(精神的に)大怪我をするぞ、アスナ」
と、コノカの元に向かって歩きながらアスナに忠告する。
「ハァ~~~♡アスナさんって言うんやね♡」
「うぅ~~もう大怪我してるわよ~」
と、泣きが入るが隙を一切見せないアスナ。
「ねえ~アレイさん、この人どうしたらええん?」
と、小首を傾げるコノカ。
「一応、縛り――『石の息吹』」
俺がそう言い掛けた途端、俺を中心にするように石化のガスが充満した。その魔法は懐かしい人工物(にんぎょう)の気配を俺に伝えてくる。
すぐさま俺はコノカとアスナを抱きかかえネギの立っている場所の上空へ浮遊術を使って離脱する。
「なーなー、アレイさん。もしかしてあれって石化魔法の『石の息吹』やないん?」
と、緊張感無く嬉しそうに抱きついているコノカがアレイの服をクイクイと引っ張りつつ言うとコノカと大差ない感じのアスナが疑問の声を出す。
「へっ、でも相手、陰陽師ぽかったわよ?」
「どうも、(アスナにとって)厄介な相手が向こう居うるようだ……」
「アレイさんの知り合いなん?」
アレイの言葉を聞いて小首をかしげるコノカ。
「――いや、恐らく奴本人ではなく奴の系譜だろう」
プリームムは大戦の折に破損した(死んだ)らしいしな……。
「ふーん。ちなみにどう厄介なの?」
「『完全なる世界』の幹部で強さとしてはエヴァよりは下と言った所か」
二人はそれを聞いて固まった。
アスナは完全なる世界と言う単語に、コノカは純粋にエヴァクラスの敵が居ると分かって。
ガスが晴れるとそこには誰も居なかった。
顔ぐらい見せるかとも考えてはいたがどうやら素直に引いたようだ。
下から「アレイせんせー」とネギ達の能天気な声が響いてくる。
そちらに眼をやると約二名と一匹、顔が青い様な気がするが放置しておく。
「どうかしたのか?俺達はすぐさま旅館に戻るが」
浮遊術を解かずにネギ達の近くに浮かびながら近寄り間髪いれずに宣言する。
自身が起こしていない騒動の跡片付けなど手伝わされては堪らない。
「え、いえ、コノカさんが無事でよかったで『あ、あの』」
と、珍しく刹那が割り込んできた。
「もしかして、私達はアレイ先生の計画を邪魔したんじゃないでしょうか?」
それを聞いたネギがアッと何か思い出した顔をして固まった。
ネギの表情を見てネギパーティーは気まずそうに俺の顔を窺うが今回は別段どうとも思っていない。
「今回は別に問題ない。むしろ結果的にはこれで良かったくらいだ。唯、今回の事を立案したエヴァからは小言を言われるだろうがな」
「それは今回、アレイ先生からはお咎めは無いが次はどうか分からない。と言う事でしょうか?」
「いや、何をしようと咎める積もりはないが、俺の行く手を遮るのならそれ相応の覚悟をしておけ、と言う事だ」
そう言い残してアレイ達は去って行った。
「あのいいんちょさん、アレイ先生の最後に言った事はどういう意味なんでしょうか?」
「そうですわね。自由に動いてもいいが、アレイ先生の邪魔になったら強制的に排除する。で通じますか?」
「あ、はい。すいません、日本語の表現はまだ不慣れなもので」
委員長の言葉を受け少し悩ましい顔をするネギ。
「どーしたの、ネギ君?」
「あ、いえ。プロは厳しいんだなと、あと何でアレイ先生はコノカさんを囮にする様な事をしたのかなと思いまして」
「アニキ、恐らくコノカ嬢ちゃんとアスナ嬢ちゃんだったか、あの二人は旦那のパートナーなんじゃないんスか。だから、敵を燻り出す為にあえて囮役にしたじゃ」
「やっぱり、そうなのかなぁ」
「……ネギ先生、そんなに心配しなくてもきっと大丈夫ですわ。アレイ先生に抱きかかえられていた時のコノカさんとても幸せそうでしたもの」
「うん、確かに幸せそうだったよね。二人とも。」
その後、ネギは大慌てで後始末をして翌日寝不足気味になるのは言うまでも無いことだろう。