天井の水晶はすっかり光をなくし、夜の帳が降りている。
地上では怪物祭が終わった直後だろう。
もう、ダンジョン唯一の街である【リヴィラ】の道にも人は見えない。
酒場の明かりが表す人の数もまばらだ。
「なんで私たちにこんな依頼したんだろうね」
「……あの人の秘密主義は昔からです。気にするだけ無駄ですよ」
そんな道を歩いて目的地に向かう足は二つ。
普段の服装とは全く違う、黒装束を頭から足まで完全に包んだアーディと同じく黒装束のアーディの腰ほどの身長の少女だ。
この前は背丈に触れなかったが、アーディの隣を歩いている少女はモンスーンである。
深くまでフードを被り、その奥にはバイザーをしている。
機械特有の青い光がぼんやりと見えるだけで顔の全貌は見えない。
「それでもさ、いきなり18階層の宿屋に行けって。話も通ってるって言ってたけど」
「そうですね…。まあでも悪いようにはならないでしょう」
「確かに。あの人に限っては気にすることないか」
「ないです」
二人は、初対面である。
怪物祭の終わり際に呼ばれてパシられたのが経緯だ。
なぜこの二人が選ばれて、ここまで走らされているかは知らされていない。
「君とは初対面な気がしないな」
「…」
「顔、見せてくれない?」
「お断りします」
「そっかー」
モンスーンはその理由に察しがついている。
アーディも何かを感じとっているらしい。
「早く行きますよ」
顔を覗き込もうとしたアーディからサッと顔を逸らして歩く速度を早める。
その姿にアーディは少し微笑んだ。
「そうだねっ」
ポンと肩が叩かれる。
アーディらしく、活発に肩に大きな衝撃が与えられた。
「早く終わらせちゃおー!」
そしてモンスーンを追い抜いて腕を空に向けて上げる。
エイエイオー、というやつだ。
「ええ。そうですね」
フードの奥の顔はよく見えない。
夜であることも手伝った暗闇はそう簡単には照らし出されることはない。
だから表情も何も分かったものでは無い。
「じゃあ帰ったら一緒にお出かけしよっか?」
「分かりました。じゃあさっさと終わらせましょう」
声こそは変わっていないように感じられる。
駆け足でアーディの背中に追いつき、先程より足取りが軽やかになった。
少しは表情が綻んでいるのだろう。
「……なんですか」
「べっつに〜?」
「もう着きますよ」
「【ヴィリーの宿屋】だっけ?」
「はい。そこに【ハシャーナ・ドルリア】と誰かがいます」
「えっ。ハシャーナさんが?」
「そうだと聞いています。ほら、ここですよ」
街の中でも少し高いところ。
階段を上った先にあるのが、本来ならば殺人事件の場になる【ヴィリーの宿屋】だ。
レベル4の実力者であるため、結構親交があるらしい。
「すみません。失礼します」
「お?すまねぇが今は貸切だ。他を当たってくれ」
「ここに知り合いがいましてね。支払いをする時に紙を渡されたはずですが?」
「紙ぃ??そういやあったな…」
「早急に確認を」
「分かったよ…ちょっと待ってくれ」
獣人の男性、この宿の主人であるヴィリー。
本来ならば自身の店を殺人事件の現場にされ、今回はその縁でアームストロングに利用されるであろう哀れな男だ。
そんな彼はモンスーンに気圧され、慌ててハシャーナに渡されたであろう布袋を探っている。
「おっあったあった……。確かに【ガネーシャ・ファミリア】の紋章があるな。んでそっちの青髪は【
「ありがとねおじさん」
「お、おじ……!?お兄さんだろそこは」
「そんなことどうでもいいでしょう。いきますよアーディ」
「じゃあねぇ」
「宿は壊さないでくれよ…」
鍵に部屋番号は記されている。
それに宿屋が広くもないのですぐに着くだろう。
何か紙に書かれている文章を読んで項垂れているヴィリーを後ろに目的の部屋へと向かう。
息を潜め、足音も立てないように。
気配をできる限り、ほぼ完全に殺す。
『準備は?』
耳小骨が揺れ、頭に直接言葉が送られる。
『万端』
フードを深く被り直してアーディは返答する。
武器を片手に、突入準備はできている。
『いきます……』
ドアノブに手をかけることはしない。
バイザー越しに何を見ているかは分からない。
しかし、やることはひとつであった。
破砕音がこだまする。
扉はひしゃげ、留め具はちぎれ、鍵は意味をなくし。
扉は部屋の向こうへと旅立っていった。
「なっ…」
ベッドの上には男女がいる。
覆いかぶさっているのは全裸の女。
男の首に、手をかけている。
「なんだ…!?」
「死ね」
警告をすることはなく。
破砕音の次は発砲音が辺りに響いた。
「挨拶もなしか」
「必要が?」
「…ないな」
相手がタフすぎるのか、威力が低すぎたのか。
赤髪の女には銃弾があまり効いていない。
成果は、ハシャーナから女を引き剥がせたくらいだろう。
「油断しすぎた…。あんがとな」
「早く服着て」
「あ?あぁ…すまん」
睨み合いは続いているように見える。
モンスーンとアーディとハシャーナ、3人と相対しているのはただ一人の女だ。
アーディは第一級冒険者、モンスーンは第一級冒険者並の戦力、ハシャーナは第二級冒険者の中でも実力派。
どう考えても、女が劣勢だ。
しかし、女は面倒そうにため息をつくばかり。
勝てるとでも言わんばかりだ。
「なっ────!」
「……面倒だ」
「どこから、剣を」
「鬱陶しい」
いつの間にか、だ。
女の手には大剣が握られ、突撃したアーディの攻撃を防いだ。
「第一級か。だが」
光のない瞳がアーディの剣を容易に捉える。
銃弾は意に介していない。
薄皮を貫けるか、その程度でしかないようだ。
アーディでは攻めきれず、室内では戦いにくい。
「爆発」
ならばこそ、やることは決まっている。
そういった風に手榴弾を、モンスーンは投げた。
女はそれを脅威とも思わず、一瞬だけ気を逸らした程度でハシャーナが肩に垂らしているカバンに目を向ける。
ただの手榴弾、ただの爆発物だ。
もはや、女は銃を脅威としていない。
「何…!?」
だからこそ、不意をつかれる。
女の体が爆煙に包まれた。
「ナイス!」
「引きます」
「うん、賛成」
「チッ…逃がすか!」
「フラッシュバン」
爆煙の次は閃光。
そしてその後は再び破砕音が女の耳に聞こえてきた。
逃げられた、とすぐに頭の中で情報が完結することだろう。
奇襲の上に目的のものを持ち去られた、と。
青筋が額に浮かびあがる。
「クソッ。そう遠くには───────!?」
カチッと音がした。
ダメだ迫力ある感じに書きたかったのに書けねぇ。
なので次にリベンジ。
一旦区切って頑張ります。