俺には夢がある   作:衛鈴若葉

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何故か抜けてた話。




裏庭から大通りに来た。

店に戻るか大通りに出るか、地上に帰ってきたのは久しぶりだ。

それも夜の地上となるととんでもなく久しぶりだ。

だから少し散策してみたくなった。

私もオラリオに感傷がないわけではない。

私も貢献した平和を味わいたくなる時は確かにある。

まあ、何時までも裏庭にいたくなかったのが感情の大部分だ。

何か問題があればリリルカから通信が飛んでくるだろう。

問題はないはずだ。

 

葉巻は吸い終わった。

ならば夜のオラリオを散策だ、というところで知った顔が見えた。

灰色の髪に耳、耳から狼人ということは分かる。

隣には金髪の狼人の女性がいた。

つまり、だ。

 

「いつも仲良しだな。ベート」

 

ベートの傍に立つ女の名は、レーネ。

私はこの二人以外を助けられなかった。

しかし、逆に、この2人は助けられた。

 

「あ?なんでお前ここに…」

 

「飯を食いに来た。外の空気を吸いに出てるだけだ」

 

「…そぉかよ。テメェが助けたあの雑魚はどうした」

 

「俺の後輩だったらしくてな。歓迎会してるよ」

 

そう言って【豊饒の女主人】を指さす。

 

「……チッ」

 

気にしていたらしい。

眉間に皺を寄せて、複雑な表情で舌打ちをした。

ベートは私に助けられている。

ベート自身は一度のみ、それは幼少の頃のみだ。

己の身は己で、鍛え上げた牙で守り続けていた。

しかし周りは違う。

私はベートの家族を殺した【平原の主】を殺さなかった。

瀕死にはしたが、レーネとベートを優先させた。

だから、ベートは討伐しに出かけた。

その最中にもう一人、死にかけている。

だからだろう。

ベートは私に【英雄】を見ている。

 

「素直じゃねぇな」

 

「うるせぇよ」

 

ベートにとってベル君は【雑魚】だ。

そしてベートは陰口を言うようなやつではない。

 

「それでいい。レーネ、そいつを頼んだ」

 

死ななかった。

その事実は揺るがない。

ベートに変化をもたらしたのは間違いのない事実だ。

でも、今のベートは本編とそう変わりはない。

その原因はまた、私だろう。

私がいなければ、私という強者がいなければ死んでいた。

そんな事実が、それだけのことが、ベートを打ちのめしたのかもしれない。

あるいは生きていたという事実が枷になったのかもしれない。

ベートは繊細だ。

 

「はい」

 

レーネは笑顔で私にこう返した。

この世界で、ベートという存在を一番理解しているのは彼女だろう。

自分で自分を打ちのめす、そんな彼に彼女が共に居てくれるのはありがたい。

私は決して【英雄】ではない。

 

「結婚式には呼べよ」

 

【豊饒の女主人】の扉に手をかけたベートに呼びかける。

 

「だ、誰が呼ぶかぁ!」

 

「ふふ、特等席を用意しておきます」

 

「お前は黙ってろぉ!?」

 

「おしどり夫婦になるなァおまえたちは」

 

「テメェも黙ってろぉ!」

 

だがまぁ、複雑な感情はあったとしてもだ。

きっとベートは守るだろう。

レーネもリーネもレナもみんな、手が届くなら守るだろう。

ファミリア内の人望は悪くはないようだ。

でも、罵倒はずっとしている。

ヴィーザルから頼まれて【ヴィーザル・ファミリア】から抜けたベートを見つけた時から。

私を見つけて、真っ直ぐに蹴りを入れてきた。

 

「懐かしいな」

 

まあ粉砕してやったが。

足はへし折った、腕も骨を粉にした。

死なない程度に加減はしてやった。

その足で【ロキ・ファミリア】に連れて行ってやった。

レーネには泣かれた記憶がよぎる。

ビンタされただろうか、何故か記憶が曖昧だ。

 

「アームストロング」

 

「なんだ」

 

扉はまだ開けていないようだ。

 

「そいつは強くなんのか」

 

「知らん。だが背中を押されたらどうなるかは分からんな」

 

「そうか」

 

「頼んだ」

 

「うるせェよ」

 

そう言って、ベートは扉を開ける。

レーネも会釈をして入っていった。

ベートは汚れ役を背負ってくれるだろう。

あいつは優しいやつだ。

 

「さて、と。どうするかね」

 

もちろん、これから起きるであろうことの下準備はしておく。

何が起ころうとベル君が死なないように、成長するように。

それが大前提だ。

 

とりあえずの呼び出し。

現在動けるのは、何人だろうか。

雑にメッセージを投げるだけだ。

この時間は予定を空けておくようには言っておいた。

そして、リリルカに通信を繋げる。

 

『聞こえるか』

 

脳内だけで会話が成立する。

呼び出し音も周りに響かない。

同じ技術を扱えて、故意に盗聴をしようとしないと確実に探知はできない。

まあ、使う人間の所作でバレることはあるが。

それでも知らないと何かやってるくらいにしかとられないだろう。

 

まあ、そんなことはどうでもいい。

 

『なんですか。さっさと帰ってきてくれません?』

 

『絡まれたくない』

 

『はいはい。で?先に帰っておけと?』

 

『ああ。あとベルについてだが』

 

『ダンジョンに行くだろうから行かせてやれですか?』

 

思考が少し止まる。

なぜ分かるんだこいつ。

 

『そうなる』

 

『備えは?』

 

『もう待機しているらしい。早いな』

 

『了解です。あなたの帰りは?』

 

『適当』

 

『かしこまり』

 

リリルカについては、私の思考を読んでいたのだろう。

彼女ならば有り得る。

そう思わなければ悩みの種が増えていく一方だ。

 

「…ラーメンでも食うか」

 

そうしよう。

酒場とはまた違った魅力なのだ。

ラーメンとは、そういうものなのである。

 

「ん?」

 

「はい?」

 

スレたOLのような雰囲気。

水色の髪にメガネ。

 

「久しぶりだな。今は外じゃなかったか?」

 

【ヘルメス・ファミリア】の団長であるアスフィ・アル・アンドロメダ。

今は主神と共にオラリオの外に出ているはずだったが。

 

「色々ありまして…」

 

「そうか。スレたOLみたいだな」

 

「なんなんですかそれ…ヘルメス様も言ってましたけど」

 

「最適な表現だから仕方ねぇよ」

 

「仕方なくないですよ…はぁ」

 

「そんなに疲れてんなら寝てろよ…」

 

アスフィとは技術者仲間として結構仲がいい。

アスフィからもらった魔道具からこっちも新しいものの着想を得て、もちろん逆も然りで。

ヘファイストスや椿とも技術者の延長で仲はいい方だ。

たまに高周波加工を教えろと詰め寄られる。

 

「今が帰りですよ」

 

「飯は?」

 

「まだですけど…」

 

「そうか。なら奢ってやる」

 

「えっ」

 

「よしみだ。酒はないが、店も教えてやろう」

 

ヘルメスは、正直苦手である。

悪い奴ではないのだろうがアスフィのこの惨状をみて好きになれるかというと、微妙だ。

今がベストではあるのだろうが、それでもである。

そのため、少しは労うとしよう。

 

「甘えておけ」

 

「もぉ、なんなんですかぁ…。待ってください!」

 

アスフィは苦労人である。

私はまあ、甘やかしてやろう。

 

 

 

 

 

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