【ホロライブ・オルタナティブ『獄』】〜セフォーの冒険〜   作:たかしクランベリー   

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1話・セフォーの知らない世界

 

小鳥の囀りと、

灘らかな風が全身を優しく刺激し

俺の意識を起こす。

 

芝生の奏でるサラサラとした音も、

かえって心地良い。

 

(けどどうしてだ……

何か『違和感』を感じる…………)

 

拭いきれず、形容し難い違和感を

抱えたまま俺は立ち上がる。

 

「うわわっ!?」

 

身体がびっくりして、姿勢が一瞬崩れる。

 

持ち前の反射神経でなんとか

姿勢を正すが……

やはり、酔いは抜け切れてないようだ。

 

(クソっ。

昨晩調子に乗って、ディザの奴と

トールの店で酒を呑み過ぎちまった。)

 

こんな時、"聖女"のナリリシャが近くに

居てくれれば『清めの水』で多少なりとも

二日酔いの症状を和らげられるが……

 

最悪な事に、ナリリシャは愚か。

周囲に人っ気一つない。

 

見晴らしのいい草原の中に、

俺は一人取り残されていた。

 

(昨晩どんだけ酔ったんだよ。

やっぱ、飲み過ぎは良くないな。)

 

自分を戒めるよう心に言い聞かせ、

周囲を改めて確認する。

 

酔った勢いとはいえ、

そこまで遠くにはいってない筈。

……何はともあれ、

みんなもきっと心配してる。

早く教会に戻ろう。

 

ナリリシャ、ティーナ、リアンナ、

トール、ディザレベン、グアット……

 

待ってろよ。

 

俺、必ず帰ってくるから。

風呂掃除の刑だって、

甘んじて受け入れる。

 

それが今、

俺に与えられた罪滅ぼしなんだ。

 

(ん……?)

 

少し離れた木々の合間から、

黒煙が高く昇っていた。

 

誰かがこんな辺境で

キャンプでもしてるのだろうか?

しかし偶然にしては助かった。

 

どこかもわからないこの場所から

いつもの場所に帰るには、

彼らの案内が大きな手助けになる。

 

今そんなに金は持ってないが、

上手く交渉すれば何とかなるだろう。

 

俺は覚悟を決め、

キャンプをしてる集団の元へ向かった。

 

キャンプ場で薪を焚べて

食事をしていたのは、3人の少女だった。

 

髪質の似通った双子っぽい獣人と、

左右半々で白黒に分かれた髪色をしてる

ミステリアスな少女。

 

そこらでは中々見ない独創的な服装だ……。

異国から遥々やって来たのであろうか。

 

と、此方の気配に気付いた獣人が

慌て始めた。

 

「おわわっ!? 

何か知らない男の人来た!?」

「ちょっとモココ、

初対面の人にその反応は失礼でしょ。」

 

「でもフワワちゃん。

だってだってぇ……BAUっ…………。」

「ごめんなさい。うちのモココが……

この子、人一倍警戒心が強いんです。」

 

突然謝られた。

けど、彼女らの気持ちが

分からないでもない。

 

知らない男が何も言わずに近づいて来たら

誰だって怖い筈だ。 

 

「気にしないでくれ。

俺の方も配慮が欠けていた。

……でも安心して欲しい。

俺は君たちに対して、敵意はない。」

 

「――"敵意はない"ねぇ……?

果たして、本当にそうかしら。」

 

「しおりん、またやるの?」

 

「えぇ。アタシ達を欺いて捕えようとした

輩は、これまでにも多くいたでしょ。

彼が敵かどうか判別するには……

これが一番手っ取り早いの。」

 

ミステリアスな少女が、

不敵な笑みを浮かべ此方に歩み寄ってくる。

 

梔子色に淡く光る眼光は、

確実に臨戦態勢のソレだった。

 

彼女は右腕を構え、

俺の右耳を狙うようにその手を横へ薙いだ。

 

「――『ノベライズ』。」

 

バチバチバチっ……!!

 

「「「――ッ!?」」」

 

3人の少女は驚愕の顔を浮かべた。

俺も、全く訳がわからなかった。

 

俺の右耳に触れる寸前で、

磁石の対極を無理やり

押し付け合ったような 

反応を見せる……彼女の手。

 

そして何より。

 

放電を思わせるバチバチバチ音が

発生しているのが、

更にその異常さを際立たせている。

 

手を加えた彼女の方も、

苦しそうな表情で訴えていた。

 

「くっ……何なのこの男ッ……!

こんな事って……!!

ダメっ、これ以上はっ。」

 

パリィンッ!

 

硝子が砕け散る音が響き、

彼女は後方へと吹き飛んだ。

咄嗟に受け身を取ってたようで、

幸いな事に無傷だ。

 

この行為に、どちらが悪いかなんて

決めつける事はできない。

 

俺にできるのは、

彼女らの対応を静かに待つコトだけだ。

 

「――驚いたわね。

こんな屈辱、久々に味わったわ。」

 

その言葉とは裏腹に、

楽しそうな笑みで再度近寄ってくる。

 

「嘘でしょ。しおりんの『ノベライズ』が

通じないなんて……」

「その上、弾き飛ばした。

あの人は一体、何者なの?」

 

冷や汗を垂らしながら、

愕然とする獣人2人。

 

俺だって一連の流れに

理解が追いついてないが、余計な口出しを

すれば場が更に混乱する事はわかる。

 

「2人とも、そんなに驚かないで頂戴。

そもそも、アタシの魔力だって

必中じゃないわ。」

 

ダメだ。気になって仕方がない。

 

「魔力……ノベライズ?

さっきから君たちは何を言ってるんだ!?」

 

「「…………。」」

 

あからさまに目を逸らす2人。

それ程までに、俺がされていたアレは

危険な技だったのだろうか。

 

「フワワ、モココ。気にしないで。

アタシ自身が話すわ。

ほら、貴方も

そこの切り株に座りなさい。」

 

これは、一先ず敵認定は免れた……

という事か。 

 

当初想定していたコンタクトとは

全く違う形になったが、

話の通じる相手なのは分かった。

 

話の区切りがついたら、

案内して貰えるよう頼んでみるか。

 

取り敢えず、指定された切り株に

腰をかけよう。

 

「よいしょ。」

 

お、この切り株。

やけに座り心地がいいな。

 

「席に着いたわね。

じゃあ、お待ちかねの

トークタイムといこうかしら。

まずはそうね……"魔力"について。」

 

チリチリと爛れる木材の音を

BGMに、話は始まった。

 

「魔力……一言で言えば、

この世界の誰しもが持つ"特殊な力"。

その力は千差万別、

人によって能力も性質も大きく異なる。

とある書物では、その者に眠る魂の本質が

具現化したものと伝えられてるわ。」

 

「そんなものが……」

 

「その中でも。

アタシの魔力『ノベライズ』は、

他者の記憶を『栞』に変えられるの。」

「もしかして、さっきの技は……」

 

「――そう。貴方の記憶を栞越しに

覗き見て正体を探るつもりだった。

結果、失敗に終わったんだけどね。」

 

恐ろしい子たちだ。

そんな能力を持ってたら、

それ相応のリスクが付き纏うだろうに。

 

おっと。彼女らの身の心配を

してる場合じゃない。

俺には俺の、やるべき事がある。

 

「なぁお嬢ちゃん達。

個人的な頼み事があるんだが、

付き合ってくれないか。」

「何かしら?」

 

「実は俺、二日酔いでさ。

酔った勢いで彷徨って、

目が覚めたら見知らぬ草原に居たんだ。

……帰路を見失った今、見ての通り

俺は遭難中の迷子なんだ。だから、

君たちに近くの街を案内して貰いたい。」

 

「いいわ。」

「「しおりん!?」」

 

「2人とも落ち着きなさい。

いきなり攻撃をしたアタシ達にも

非はある。謝罪の意も込めて、

案内に応じるべきだわ。」

 

「……いいのか?」

「ええ。しかしその前に、

貴方の身分証を確認していいかしら。

案内に必要な情報源なの。」

「分かった。」

 

えーっと、確か。

右下のポケットにしまってたよな。

 

(ん? んむむ?)

 

「――無いッ! 俺の身分証っ!!」

 

「……貴方、それ本気で言ってる?

よく思い出してみなさい。」

 

よく……思い出す。

 

――セフォーさん! また性懲りも無く

トールの店に行くんですか? ――

 

――仕方ないんだナリリシャ。

ディザの奴がどーしてもって言うから……――

 

――最近身分証を取られる事件が

多発してるんですよ!?

セフォーさんも、狙われますよ! ――

 

――分かった分かった。

身分証はナリリシャに預けるから、

それで勘弁してくれ。――

 

――良いですよ。但し、寄り道せず

ちゃんと帰って来なさい! ――

 

ああ、なんてこった。

思い出してしまったよ。

自分のどうしようもない過失を。

 

「ごめん。俺、

仲間に身分証を預けてたみたいだ。」

 

「この人、PONなの?」

「ちょっ、モココ。口を慎みなさい。」

 

なんか遠回しに馬鹿にされた気がするが、

多分気のせいだろう。

 

「仕方ないわね。

貴方、財布は持ってる?」

「ああ、財布なら持ってる。」

 

他に証明できるモノと言ったら

それくらいしかないよな。

当然っちゃ、当然だけど。

いざ財布を確認されるとなると、

そわそわするな。

 

これといって、

怪しいモノは入れてないが。

 

「――ッ!?」

 

「しおりん、どうしたの?」

 

「嘘でしょ……こんな通貨、

この世界の"何処にも無い"わよ……。」

「それって……しおりん、もしかして。」

 

「信じ難い事実だけど、だとしたら

彼の言動とも辻褄が合う。

彼は間違いなく……

この世界に迷い込んだ『異界人』よ。」

 

「異界人? 俺は、酔った勢いで

違う世界に迷い込んだって事か?」

 

彼女は渋々と頷いた。

 

「ええ。只者じゃないオーラは

薄々感じ取っていたのだけど、

これでは話が変わってくるわね。

貴方とは、長い付き合いになりそうだわ。」

 

「なんだよ。それ。」

 

「要するに、代名詞で呼び合って済むほど

手短な事柄じゃないってワケ。

アタシ達も自己紹介するから、

お先に貴方から名乗って頂戴。」

 

異界に迷い込んだ俺の為に、

元の世界に帰れるよう

手を貸してくれるのか?

 

俺は彼女らに迷惑しかかけてないのに……

なんて良い人達なんだ。

 

このご厚意を棒に振るほど、

俺も馬鹿じゃない。

 

「俺の名は"セフォー"。ただの詩人だ。」

 

「ねぇ、フワワ。しじんって何?」

「ポエマーよ。」

「イタいセリフを綴るお仕事?」

「しっ、それ以上言ってはダメよモココ。」

 

「あのー……」

 

俺の職業って、

そんなに盛り上がるものなのか?

 

「気にしないで。うちの番犬ちゃん達は

いつもこんな感じなの。直に慣れるわ。

……自己紹介に戻っていい?」

「あ、はい。」

 

「アタシは"シオリ・ノヴェラ"。

ただの『収集家』よ。

セフォー。何も知らない貴方を

野放しにするのも後味が悪いし、

ちゃんと帰れるよう手を貸してあげる。

但し……」

 

「但し?」

 

「但し……アタシ達の雑用兼、用心棒として

これからガッツリ働いて貰うわ。

それでも了承できる?」

 

まぁ、タダで善行する訳ないよな。

知ってたよ。

見返りの一つや二つある事くらい。

 

だが、ナリリシャ達に再会する為には

手段なんて選んでられない。

 

「ああ。どんなキツイ仕事も任せてくれ。

俺で良ければ力になる。」

 

俺は手を差し出し、了承の意を示す。

彼女……シオリもその手に握手で応えて、

快く言った。

 

「これで交渉&契約成立ね。

今日から宜しくね。セフォー。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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