MUV-LUV大戦   作:土井中32

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閑話 とある技術者の日記

 

 

〇月×日

今日、突然上司から現在開発中の斯衛用戦術機の開発中止が命じられた。

あまりに突然の事態に皆一瞬呆け、すぐに上司に食って掛かった。

難航してはいたが既に実機試験も順調で完成間近というところでのこれである。到底納得できるはずもない。

問い詰められた上司も不機嫌そのものだったが、理由については教えてくれた。

曰く、”鶴の一声”らしい。

そんな理由では納得できないが、正式に決まったことと言われれば従うほかない。

皆落胆の色を隠せなかった。

他ならぬ自分も悔しくてしょうがない。しかもこんな理不尽は二度目だ。

一度目はあの設計図。

どこかの誰かが送り付けてきた、墨入れが入った戦術機の設計図だ。

名前がなかったため便宜上”亡霊”と呼ばれたそれの解析に自分も参加したが、分かる範囲だけでもその性能は当時陸軍に採用予定だったF-4をはるかに上回っていた。

上の連中は不気味がっていたが、解析に携わった人間はむしろ設計者に好意的な印象を持っていた。

設計図の端っこに小さく一文が刻まれていたからだ。

「これが、一人でも多くの命を救う力になりますように」と。

しかし、設計者の願いとは裏腹にそれは封印されてしまった。

納得できず皆で上司を問い詰めたところ、理由はとてもくだらないものだった。

規格が全く違う亡霊をこのまま開発すれば、わざわざ米国まで行って習得してきた戦術機の開発ノウハウが生かせないばかりか、それに付随する利権が手に入らなくなる。

そう考えた一部の人間が上層部を動かして破棄させようとしたのだ。

自分たちの激烈な抗議によって破棄は免れたが、亡霊から得られるはずだった各種技術は露と消えてしまった。

もしあのまま亡霊が開発されていれば、今大陸でBETAと必死に戦っている同じ人類の大きな助けとなったはずなのに。

そして今回の開発中止だ。

度重なる理不尽にもはや嫌気がさしてきたが、ここで折れるわけにはいかない。

亡霊の設計者が願ったように、自分たちも一人でも多くの命を救うためにここにいるのだ。

クソッタレな上の連中への罵詈雑言はここだけにして、明日から改めて頑張ろうと思う。

 

追記

急だが、明日格納庫に戦術機が運ばれてくるらしい。他国から参考用に何か買ったのだろうか?

 

〇月△日

出勤したら格納庫に亡霊が置いてあった。意味が分からない。

知っている人間はみな格納庫でそれを見上げて間抜け顔をさらしていた。当然自分も。

立ち直るのに多少時間を要したが、すぐに上司を問い詰めた。

何でもずいぶん前から設計者を探していたそうだが、最近ようやく特定したらしい。

封印に関してのごたごたも承知していたらしく、何と頭に来たから自力で作ってしまったんだとか。

偉い人が頭を下げたうえ、いくつかの条件を付けることで墨入れされてない設計図と実機を提供されるに至ったとのこと。

設計者さんはすでに量産試作の段階に入っており、今格納庫にあるのはそのうちの一機だそうだ。

設計者さんのほうでも行うそうだが、こちらでも各種試験を行い、問題なければまずは開発中止になった機体の代わりに斯衛軍に採用される、とのこと。

亡霊を封印させた連中が騒ぎそうだと思ったが、上司によると連中それどころじゃないらしい。

詳しくは教えてもらえなかったが、あの口ぶりからするとお縄になったのではないだろうか。ざまあみろ、だ。

それよりも、紆余苦節あったが亡霊、正式名称ゲシュペンスト(ドイツ語で亡霊、幽霊を表す言葉らしい。偶然だろうか?)がきちんと認められ、人類の刃として表舞台に立てたことのほうが重要だ。

しかも一度は設計者の期待を裏切った自分たちに、実機試験を任せてくれるというのだ。

直接顔を合わせることは禁止されたそうだが、気になったことや分からないことはどんどん質問してほしい、とのこと。

現場での改善案なども随時募集中だそうだ。

二度も裏切るなどありえない。自分の技術者魂のすべてをかけて、ゲシュペンストを最高の戦術機として世に送り出してやる。

 

……しかし、設計者さんに頭を下げた偉い人、というのは誰なのだろうか?

生半可な人間では設計者さんも納得しないだろうし、政府の大臣クラスか、あるいは有力武家の誰かあたりだろうか?

流石に五摂家ということはないだろうが。

 

とにかく、自分が今やるべきことはゲシュペンストについての理解を深めることだ。

今までも忙しかったが、明日からはもっと忙しくなる。

だが、同時にわくわくしている自分がいる。

墨入れされていても軽く数十年先の技術が垣間見えたのだ。

原本からは何が飛び出すのやら。それが楽しみでしょうがない。

何にせよ、今は休んで明日からに備えねば。

 

〇月□日

おかしい性能しているのは知っていたが、ここまでぶっ飛んでいたとは。

オリジナルの設計図や資料、実機を調べてみれば見るほどオーパーツっぷりがひどくなっていく。

 

核融合炉。

光学兵器。

対光学エネルギー障壁。

慣性制御装置。

 

どれか一つだけでも搭載していれば既存機を陳腐化させられるというのに、こいつはまさかの全部乗せだ。

操縦系も既存の物とは違うが、慣れればこちらのほうがより良い動きができるだろう。

現状のネックはコストだそうだが、それも正式採用されて量産ラインが確立されれば、かなり落ち着くはずだ。

……遠回りさせられたことに改めて腹が立つが、ぶつけるべき相手はすでに塀の中だ。この思いは開発にぶつけることで消化しようと思う。

さておき、ゲシュペンストの試験は順調だ。

オプション装備も同時並行で試験とコピーの製作、衛士側から出た不満点の改良を試みたりしている。

最初は複雑そうな顔をしていた衛士たちも、今では鬼気迫る顔でゲシュペンストを振り回している。

突然の開発中止で思うところはあったものの、現行機をはるかに超える機体に触れられるということで喜びのほうが上回ってしまったらしい。

巌谷大尉など乗り回し過ぎて他の衛士たちから引きずり降ろされていたぐらいだ。

ゲシュペンストのOSは経験を積めば積むほどより思い通りの動きができるようになるそうだから、出来なかったことができるようになるのが楽しい、というのは分かる。

しかし連続15時間は乗り過ぎだろう。降りた途端にへたり込んでいたし。

だがやはり、実機が一台しかないのが響いている。コピー生産するにはまだ理解度が足らない。

何かいい方法を考えねば。

 

△月〇日

追加生産されたゲシュペンストが3機、技術廠に運び込まれた。

設計者さんがこちらでの試験の進みが遅いと知って、用意してくれたらしい。

頭が下がる思いだが、同時にメッセージも送られてきた。

曰く、ハイヴ攻略用の特殊仕様にかかりきりになるため、量産型のほうは全面的にこちらに任せたい、らしい。

特殊仕様、というのにも興味は尽きないが、設計者さんは俺たちをそこまで信頼してくれた、その喜びで体が震えてしまう。

高まり過ぎた熱のまま仕事に取り掛かりたかったが、上司にいさめられてしまった。

心は熱く、頭は冷静に、だ。ここまで信頼された以上、より完璧に仕上げねば。

 

□月△日

機体が増えたおかげで試験も大幅な進みを見せ、もはやいつでも採用できる、と思っていたら、設計者さんからの刺客がやってきた。

 

ゲシュペンストMk‐Ⅱ・タイプS。

 

設計者さんの言っていたハイヴ攻略用の特殊仕様。

衛士はなんとかつて教導隊にその人ありと言われた北村開元大尉。

訓練中の事故で復帰困難なけがを負い、除隊したと聞いていたのだが、まさかゲシュペンストの開発にかかわっていたとは。

設計者さんとの取引でけがを治してもらい、ゲシュペンストの開発衛士をしていたそうだ。

最初からかなり完成度が高いと思っていたが、北村元大尉がかかわっていたのなら納得だ。

北村元大尉の目的はタイプSの対人データ収集とこちらがどれだけできるようになったかの確認だという。

久しぶりに揉んでやる、との言葉に巌谷大尉達も犬歯むき出しの笑顔。

実機を使っての模擬戦となったが、何と1対4のハンデ戦。しかも北村元大尉は携行火器なしである。

流石にどうかと思ったのだが、これでもハンデが足りないとの言葉に巌谷大尉達はこのハンデ戦を了承。

絶対吠え顔をかかせてやる、と意気込んでいたのだが。

結果は惨敗。

試作品の一つだった大出力光学砲まで持ち出したというのに、結局一発も当てられず、たった一機に小隊が全滅してしまった。

いてもたってもいられず北村元大尉に突撃して問い詰めてしまったが、おかげでいろいろ聞きだすことができた。

設計者さんはゲシュペンストを最初から2機種用意するつもりだったらしい。

一つは今自分たちがかかわっているゲシュペンスト・タイプR(区別名があることを初めて知った)。

コスト、整備性、性能などトータルバランスに優れ、前線を支えるための刀に例えると”数打ち”の機体。

対して、今回元大尉が持ち込んだタイプSは、ハイヴ攻略などの少数で圧倒的な戦闘力が必要な場面を想定した、性能以外のすべてを度外視した言わば”名刀”なのだという。

もっとも、あまりにも高すぎる性能ゆえに乗りこなせる人間は世界中の衛士の中でも上澄み中の上澄みだけだろう、と言っていたが。

その後、こちらの進捗を確認した北村元大尉からは激励をもらった。

設計者さんは、ゲシュペンストを世界中で量産、採用を目指しているらしい。

”一時でもいい、せめてBETAを追い出すまでは表面上だけでも手を取り合ってほしい。その一助となれば”そう言っていた、と聞かされた。

世界が手を取り合う。個人的には不可能だと思う。

だがそれが仕事の手を抜く理由にはならない。

より一層の決意をもって、この仕事に取り組もう。

 

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