MUV-LUV大戦   作:土井中32

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それでは続きをどうぞ。


13話 言葉と心と

 

 

666戦術機中隊所属、テオドール・エーベルバッハ少尉。

現在進行形でストレスをため続ける彼だが、その理由の一つは今隣にいる少女。

 

「あの、テオドールさん。具合でも悪いんですか?」

 

カティア・ヴァルトハイム少尉。

 

先日救助した、元西ドイツ所属で亡命してきたという変わり種。

なぜか救助して以来こうやって自分についてきて聞いてもいないことをべらべらとしゃべり続けていらだたせる相手だ。

おまけに人には言えない爆弾もちで、それに巻き込まれたことが余計彼にストレスを与えていた。

 

「エーベルバッハ少尉、だ。いつまでついてくる気だ」

「私はテオ、エーベルバッハ少尉のことが知りたいんです。この国のことも、そこで生きる皆さんのことも。お互いを理解しあって手を取り合えば、BETAにだって――」

「その先を言うんじゃない!!」

 

無理やり黙らせる。

すぐに周りを見回し、彼女を無理やり引っ張っていく。

 

誰もいない場所へ、誰の目もない場所へ。

 

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「何度言わせる気だ!この国でそういった言葉は危険なんだ!!」

 

建物の外。

誰もいないだろう場所まで引っ張ってきて、テオドールはカティアを怒鳴りつける。

 

十人に一人。

国家保安省(シュタージ)が抱える密告者、スパイの数だ。

BETAとの戦争において士気を保つためという理由で、国家に反逆的な行為・発言をしたものは誰であろうと捕まり、処刑される。

親が子を、子が親を見張る超監視社会が、東ドイツの実態だった。

 

「とりわけお前は過去を探られると危ないんだ!わかったならおとなしくしてろ!」

 

カティア・ヴァルトハイムにはもう一つの名前がある。

 

ウルスラ・シュトラハヴィッツ。

 

東ドイツ軍第一戦車軍団を率いていた救国の英雄、アルフレート・シュトラハヴィッツ中将の娘。

東ドイツの体制に異を唱えて粛清され、歴史から抹消された男の娘と知られれば、国家保安省は必ず彼女を殺しにかかるだろう。

 

何度も説明したというのに、彼女の言動は非常に危うい。

事情を知ってしまってから、彼の心労は増す一方だった。

 

「でも、それでも私は――」

「あのさ」

 

二人だけだと思ったそこに、差し込まれる声。

ぎょっとして見回せば、そこにもう一人小柄な人影があった。

 

「もっと周りを気にかけてから内緒話してくれない?そっちの事情に巻き込まれるのは勘弁なんだけど」

「す、すみません!アッシュ君!」

 

アッシュ。

カティアを救助する少し前に戦場で拾った、記憶喪失の少年。

当初は後方に送るはずだったが、何を思ったのか中隊指揮官であるアイリスディーナが中隊付きの整備員にしてしまったのだ。

最初こそこんな子供に何ができるのか、と皆が懐疑的だったが。

音を聞いただけで故障個所がわかるなど機械に対する圧倒的な知識と技術で元々いた整備員たちを圧倒し、今や整備班の副官的立ち位置に収まっていた。

 

「……どこまで聞いた?」

 

どこから手に入れたのか、山積みされた資材の上にマットを敷き、その上に座っていた彼にテオドールは問う。

もしも、全部聞かれていたら。

 

「知られたくない過去の一つや二つ、誰にだってあるだろ。いちいち気にすることでもない」

 

俺にはそれすらないけどな、と興味なさげに続け、彼は手元に目線を戻す。

何をしているのかとみれば、彼は携帯式の無線機をいじっていた。

 

「……何やってるんだ?」

「聞いてみる?なかなか面白いことになってるけど」

 

そう言って刺さっていたイヤホンジャックを引き抜けば。

 

『マライ・ハイゼンベルクはまだ見つからんのか!?』

『八方手は尽くしているのですが、いまだに影すら…』

『早く探し出せ!このままでは我々がアクスマン中佐に粛清されるぞ!!』

 

聞こえてきた内容に総毛立つ。

 

「おまえ!これ!?」

「国家保安省の交信内容の盗聴。いろいろ聞けて面白いよ?」

 

これを面白い、などと言えるのか。

言ってることが理解できず何も言えないテオドールをよそに、無線機を懐にしまったアッシュは立ち上がって格納庫へ向けて歩き出す。

 

「もうすぐブリーフィングの時間でしょ。いかなくていいの?」

 

先ほどの衝撃から立ち直れず、立ち尽くしていたテオドールたちにアッシュは首だけ向けて問う。

あまりにも自然体な姿に、テオドールは思わず聞いた。

 

「お前は、国家保安省が怖くないのか?」

「落ち目の狂人を誰が怖がる?」

「落ち、目……?」

 

やはり理解できない。

そんな顔をしたテオドールに、アッシュは向き直って言葉を続ける。

 

「人間の最強の攻撃は何だと思う?」

「えっと、核、とか?」

 

カティアの答えは彼を満足させるものではなかった。

 

「囲んで棒でたたく、だ。有史以前から、そうやって人間は”敵”を排除してきた」

 

けどな、と彼は言葉を続ける。

 

「数と質が同数であれば、勝敗を左右するのは何だと思う?」

 

今度はカティアでも正解を出した。

 

「チームワーク、ですか?」

「正解。だから人類はBETAに負けてる」

「ただでさえ数で負け、質も数を凌駕できるほどではないのに、この国はチームワークの根底たる”他者への信頼”を徹底して否定している。そんな国がBETAに勝てると思うか?」

「そう遠くないうちに滅びるよ、この国は」

 

何でもないかのように示された未来に、二人は反論できない。

 

「そんな致命的な欠陥にも気づけず、弱い者いじめして悦に浸ってる馬鹿を何で怖がる?断言するが連中の頭ン中には”国民全員を管理・統制する理想社会であればBETAに勝てる”何ていうお花畑が広がってるぞ?」

 

そんなの烏合の衆でしかないのにな、というアッシュが、テオドールは恐ろしくて仕方がない。

あの恐ろしい国家保安省が、この少年にとっては”時勢の見えていない狂人”扱いなのだ。

間違っても東ドイツの人間の考え方ではなかった。

 

「じゃあ、アッシュ君はどうすれば、この国を救えると思いますか?」

「カティア!?」

 

彼女の問いに驚くテオドールだが、アッシュはあっさり答えた。

 

「国民全員で議会に押しかければいい。もう疑うのはうんざりだってな。社会主義ってのはそういうことだろ?……100パー無理だろうけど」

 

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「アッシュについて聞きたい、だと?」

 

基地から少し離れた廃村の教会。

この国で神に祈るものなどいないことから、表ざたにできない話をするにはうってつけの場所として使われていた。

呼び出されたアイリスディーナは、なぜそんなことを聞くのか、と言いたげにテオドールを見た。

 

――ああ、口止め忘れてたな。お互いに秘密をばらさない、ということで頼むよ――

 

そう言って格納庫へ去っていった彼のことがどうしても気になり、しかしそれを話せないために別の理由でテオドールはアイリスディーナに答えた。

 

「普通に考えておかしいだろう。まだ十かそこらのガキを軍属として使うなんて。今までは流してたがあんたたちに乗ると決めた以上、どうしても気になって仕方がないんだ」

 

アイリスディーナ・ベルンハルトは”国家保安省打倒”を目指す反体制派である。

表向きは東ドイツとドイツ社会主義統一党に忠誠を誓いつつ、国家保安省による監視国家を打破する準備をひそかに進めている。

カティアの秘密を知り、アイリスディーナの覚悟を知ったテオドールは彼女と共に戦う覚悟を決めていた。

 

「あいつの事情はお前も知っているだろう。記憶喪失の身の証も立てられない子供など、今のこの国でまともな扱いをされるわけがない。それにあいつにはそのうさん臭さを補って余りあるほどの能力もあった」

「機械の知識と、技術か」

「以前、訓練中だった戦術機が燃料漏れで爆発した事故があっただろう」

「貴重な機体をおしゃかにしたとかで騒ぎになったあれか」

「あの時、あいつは跳躍ユニットの音を聞いただけで燃料漏れが起きていることに気づいたんだ。オットーですら無理、と言っていたことをだぞ?」

 

オットー中尉のことは自分も知っている。

第2次世界大戦から整備に携わっているベテラン中のベテランだ。

その彼をすら、あの少年は上回っているというのか?

 

「それに、あいつが国家保安省である可能性もゼロだ」

「なんで言い切れるんだ?」

「当然、胡散臭いゆえに国家保安省から任意同行を求められたんだがな。あいつ、それになんて答えたと思う?」

 

――小官は構いません。栄光ある社会主義と東ドイツ、そして党のために生贄が必要だというのなら、喜んでなりましょう――

 

「言外に奴はこういったのさ。”こんなガキをしょっ引かねばならないほど、この国はガタガタなんだろう?”とな」

 

絶句する。

そのまま連れて行けば、シュタージは”こんな子供にひっくり返されると思うほど、東ドイツを信じていない”と自ら喧伝することになる。

情報操作が奴らの十八番とはいえ、敵対する人民軍の前でそれを認めるなどできるはずがない。

結局、彼らはアッシュを捕まえることなく、すごすごと退散することになったらしい。

 

「あいつにとって、国家保安省など路傍の石ころか何かなのだ。そんな奴が国家保安省のスパイだとは、とても思えんよ」

「……革命の同志として、あいつも使うつもりなのか?」

 

テオドールの問いに、彼女は肩をすくめる。

 

「まさか。あくまでも手の届く範囲で助けられそうだったから助けただけだ。流石にあんな子供をいばらの道に誘うほど外道になったつもりはない」

「……そうか」

「だが、仲間としてあいつのことは気にかけてやってくれ。私たちの機体を常に万全の状態に保つため、あの小さな体で大人顔負けの仕事量をこなしているからな」

「何より、あんなすれた子供が希望を持てる未来のために、私たちは戦おうとしているのだからな」

 

 





国家保安省があっさり引き下がってますがこの人たち国境警備も仕事のうちですからね。
きっと国境付近が騒がしくて、子供にかかずらっていられなかったんでしょう(棒)。
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