MUV-LUV大戦   作:土井中32

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14話 敵の定義

 

 

海王星(ネプトゥーン)作戦。

 

ポーランドに展開するBETAを湧出撃滅し、欧州の戦況好転を狙った一大反抗作戦。

国連軍、米軍、欧州連合軍、ワルシャワ条約機構軍という4軍合同、いがみ合っていた西と東が手を取り合って戦おうとするその最前線にて、もめ事が起きていた。

 

「あんた!もう一遍言ってみなさいよ!」

 

一方は、ワルシャワ条約機構軍に東ドイツの代表として参加する666戦術機中隊所属、アネット・ホーゼンフェルト少尉。

 

「何度でも言ってあげるわよ――」

 

もう一方は、西ドイツ陸軍第51戦術機甲大隊”フッケバイン”第2中隊所属、キルケ・シュタインホフ少尉。

 

「――あなたたちの国は、薄汚い”犯罪国家”だってね!」

 

西側の様子を見に来た彼女らにキルケが難癖をつけ、それに怒ったアネットが売り言葉に買い言葉を続けた結果が、今の状況だった。

 

「あ、アネット、もうその辺に……」

 

アネットの隣にいる少女が何とか止めようとしているが、ヒートアップした二人には全く届いていない。

 

イングヒルト・ブロニコフスキー少尉。

 

カティアが救助された戦場において負傷。後方に下げられていたが、怪我が完治したため負傷したファム・ティ・ラン中尉と入れ替わりで666中隊に戻ってきていた。

アネットとは親友でブレーキ役だったのだが、現在は全く役目を果たせていなかった。

 

ケンカを止めるために割り込もうとするカティアを止めながら、テオドールは焦る。

不味い。

このままでは現場レベルでの致命的な不和が発生する。

アイリスディーナはこの作戦を通して西側とのつなぎを作ろうとしている。

シュタージを倒し、革命を成功させたとしてもそこで終わりではない。

BETAと戦うためには西側との協力が絶対不可欠だ。

自分たちもそのあたりを考えて動かなくてはならないのに、その西側ともめ事を起こしてはそれどころではない。

 

だがどうやって止めれば。そう考えていたテオドールに、救いの悪魔はやってきた。

 

「エーベルバッハ少尉、ヴァルトハイム少尉、ホーゼンフェルト少尉、ブロニコフスキー少尉、ホーエンシュタイン少尉。中隊ブリーフィングのお時間です。イェッケルン中尉がお探しですよ」

「アッシュ?ブリーフィ…いや、そうか。分かった、すぐに向かう。アネット!同志中尉がお呼びだ、もうその辺にしとけ!」

 

そう言って割り込み、アネットを無理やり引っ張っていく。

 

「はあ!?そんな予定聞いてなもごもご!?」

「し、失礼しました~~」

 

察したイングヒルトがアネットの口を抑え、リィズが足を抱えて二人がかりでアネットを運んでいく。

カティアが挨拶をして、あっという間に彼らはいなくなってしまった。

 

「では、自分も仕事がありますので」

 

そう言って立ち去ろうとするアッシュに、興奮冷めやらぬキルケが嚙みついた。

 

「ま、待ちなさい!まさかあんたも東ドイツの兵士なの!?」

「中隊付き整備員を拝命しております、アッシュ二等兵と申します。記憶喪失ゆえこの名も仮の物ですが、栄光ある東ドイツのため粉骨砕身の思いで働く身であります」

「し、信じられない。こんな小さな子供まで戦場に出すなんて、やっぱり東の連中は狂ってるわ!あんな国、BETAに食われたほうが世界のためよ!」

 

流石にまずい、と同僚たちが止めに入るが、それより早くアッシュが口を開く。

 

「シュタインホフ少尉殿。あなたはここへ何をしに来たのですか?」

「いきなり何を」

「BETAを殺しに来たのですか?それとも……人を殺しに来たのですか?」

「何…ですって」

 

恐ろしく冷めた目で、彼はこちらを見ている。

まるで、養豚場から出荷される豚を見るように。

 

「先ほどから聞いていましたが、あなたの言動は場にそぐわないものばかりです。これから一緒に戦う相手に対するとは思えない言動の数々、それが何を起こすか理解されていないのですか?

民族、宗教、貧富、肌の色、主義主張。”自分が納得できる理由”があればいくらでも殺し合いができるのが人間です。

それでも共通の敵を倒そう、と言いたいことを飲み込んで今我々は共にいるというのに、あなたは個人的感情を優先してそれを台無しにしようとしている。

ただでさえ4軍合同という寄せ集め。火種などいくらでも転がっているこの場所でなぜそんな火遊びができるのですか?

あんたがばらまいた不和が原因で作戦失敗になったら、どれだけの人間が死ぬと思う?どれだけの人間に被害が及ぶと思う?

 

歴史で、パレオロゴスで、一体あんたたちは何を学んだんだ!!」

 

それまで淡々と続けられていた言葉が、最後には叫びとなって叩きつけられる。

圧倒されていたというのに、それでも彼女は言い返す。

言い返さなければ、プライドを保てなかった。

 

「そ、そんなもの、西側の力があれば――」

「物量こそが最大の武器であるBETAに物量で挑むのか?それでうまくいかなかったから中国は、ソ連はこんなことになっているんじゃないのか?」

「そ、そんなのは兵器の質と戦術で――」

「たった2週間で人類は空を失った。どんな新兵器も戦術も物量の津波の前に消えた。そもそもの話――

 

――BETAが、人類の予想のうちに収まったことがあったか?」

「……」

 

言い返せない。彼の言っていることは正論だ。

”間違っていない”ことに返せる言葉はないのだ。

しかし、それでも――

 

「その辺にしといてもらえねえか、アッシュ二等兵」

「バ、バルク少佐!?」

 

――言葉が口から出る前に、キルケたちの上官が姿を現す。

 

「西ドイツ陸軍第51戦術機甲大隊指揮官、ヨアヒム・バルクだ。うちの若いのが失礼な態度をとった。申し訳ない」

「バルク少佐!?」

 

上官が頭を下げたことでキルケたちが慌てだす。

 

「頭をお上げください、バルク少佐。他国の軍人とはいえ、尉官に対して自分が行った言動は明らかな越権行為です。規律の面から言えば自分が罰せられてしかるべきです」

「だとしても、先にもめ事起こしたのはこっちだ。ならこっちが謝るのが筋だろう」

「……では、お互いに問題行動があったということでここはひとつ」

「助かる。申し訳ない」

 

このまま引きずってもいいことなどない。だからこの場はお互いに何もなかったことにする。

あっさりと察してそこに結末を持っていく目の前の少年に、ヨアヒムは内心冷や汗が止まらない。

 

「しかし頭の回るもんだ。何歳だ?」

 

先ほどよりは温度の戻った眼で、彼は答えた。

 

「記憶喪失のため正確な年齢は覚えておりません。医者の話では10歳ぐらいだろうとのことです」

「……その年で戦場にいることに、何か思うことはないのか?」

「己を証明するものを何一つ持たない自分を拾っていただいたのです。その恩を返すために必要だというのなら、この身一つでも戦って見せる覚悟です」

「……そう、か」

 

自分たちの国の子供たちを、こんな風にはさせたくない。

ずっとそう思って戦ってきた。

だが、いざ実物を見ると心に来るものがある。

言葉を出せなくなったヨアヒムをしり目に、仕事がありますのでと彼は帰っていく。

しばらくその背中を見ていたが、やがて気持ちを切り替えるとキルケたちに向き直る。

 

「少佐、その……」

「憤りはわかる。それをぶつけたい気持ちもわかる。だが、俺たちは国の代表としてここに来ているんだ。俺たちの行動そのものが西ドイツの意思として認識される。そのことを頭によく刻み付けろ」

 

 

 

 

 

 

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