MUV-LUV大戦   作:土井中32

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数話ぶりに出番です。


21話 亡霊は二度現れる

 

 

「お兄ちゃん放して!こいつ殺せない!」

 

「気持ちは分かるが待て!こいつに死なれると困るんだ!」

「見事なヤンデレだな。ぶっ壊れた人形だったのが多少は人間味戻ってきてるじゃないか」

「アッシュ!言葉の意味は分かんねえがお前も煽るな!」

 

「ファムお姉さん放してください!一発ぐらい殴ってもいいはずです!」

 

「気持ちは分かるけど後にしましょうね。今は何より情報が必要だから」

「後ならいいのか」

「アッシュ君、エーベルバッハ少尉と一緒にあとで説教ね」

「「解せぬ」」

 

「ええい静かにしろ貴様ら!」

 

騒がしくて話にならない。なぜこうなったのか。

 

-----------------------------

 

――数分前――

 

「確認しました。偽装していましたが周囲にチボラシュカが伏せています。ホーエンシュタインが言った通り我々が帰投して戦術機から降りたところを制圧するつもりかと」

 

ベーバーゼー基地から離れた廃村。

現在我ら666中隊はここに身を隠していた。

ホーエンシュタインからのリークを受け、急ぎ偵察を行った結果が今の報告だったからだ。

…隠れるときにもひと悶着あったが。

ホーエンシュタインとヴァルトハイムがエーベルバッハをぐるぐる巻きにして自分の機体に閉じ込めようとするのを隊の皆で止めるなど、少々余計な時間を食ってしまった。

 

「この分だと、基地はすでに制圧されているとみるべきか」

「恐らくは。基地要員がどんな状況に置かれているかまでは分かりませんが、我々が帰投しなければ奴らのやり方で情報を得ようとするのでしょうな」

 

眉をしかめる。

こちらの予想よりも早く連中は手を回してきたのだ。

ホーエンシュタインのおかげで中隊員は誰も捕まっていないが、整備班は敵の手の内だろう。

位置がばれる可能性があるため、ホーエンシュタインに国家保安省との通信をつなげさせることもできなかった。

 

「すぐに助けに行きましょう!今ならまだ間に合うはずです、オットー中尉達も私たちの大切な仲間です!」

 

ヴァルトハイムの意見を採用したい。だがそれは無理だ。

 

「どうやってだ?敵はこちらよりも高性能なチボラシュカ。加えてこちらはBETAとの戦闘で極限まで消耗し尽くしている。的になりに行くようなものだ」

 

ヴァルターの言葉がすべてだ。

今の我々には戦う力など残っていない。

むしろ、自分たちの命すら怪しかった。

 

「フランツ・ハイム少将と合流する。今の我々には力がない。少将と合流して補給を受けてから改めて、基地の奪還を目指す」

 

これしか取れる道がない。

もっとも、燃料もほとんどない状態でどこまで移動できるか。

最悪、どこかで乗り捨てて徒歩で移動も考えなければならない。

少将と合流できれば戦術機の融通も受けられるだろうが、そこにたどり着くまでが問題だった。

 

「でも、その間に中尉達に何かあったら……それに、バラライカでチボラシュカに勝てるんですか?」

 

ホーゼンフェルトの言葉に全員が顔を背ける。

こればかりは我々にはどうしようもない。

オットーたちの幸運を祈るしかないし、最悪の場合の覚悟もしなくてはなるまい。

間に合わなかったとしても、最善に向けて行動するしかなかった。

幸いなことに、ホーエンシュタインの事情を話したことで中隊員同士のわだかまりは(多少だが)解けている。

今のうちにできることをするしかない。

 

「――無理だな。加えて言えば向こうにはそれ以上の奴もあるし」

 

その言葉は、隠れていた教会の入り口から聞こえてきた。

そちらを向くと同時に、隊の何人かが銃を構える。

立っていたのは、フード付きのコートで顔を隠した小柄な影。

というか、今の声は。

 

「随分と派手にやったな。ありゃ直すのは骨だぞ?」

 

そう言ってフードを取れば、そこにあったのは見知った顔で。

次の瞬間、ホーエンシュタインが襲いかかった。

 

-----------------------------

 

「放して!あんな危険極まりないものお兄ちゃんに渡したこいつを許せない!絶対にぶっ殺してやるッ!!」

 

「頼むから落ち着いてくれリィズ!今はこいつから聞かなきゃならないことが山ほどあるんだ!」

 

「ファムお姉さん放してください。もうしませんから。後で思いっきり殴りますからグーパンで。それまで我慢しますから」

 

二人から拳銃を取り上げていて正解だった。持っていたら即座にぶっ放していたはずだ。

私自身言いたいことは山ほどあるが、今はそれを飲み込む。

何よりも情報が必要だった。

 

「よく脱出できたな」

「襲撃タイミング分かってたから。オットー中尉達にも逃げるよう言ったんだけど、俺たちは間に合わないからお前だけでも逃げろってさ」

 

襲撃タイミングがわかっていた、だと?

言葉の意味を教えてくれたのは、エーベルバッハだった。

 

「やっぱり、国家保安省の通信を聞いてたんだな」

「通信と実際の襲撃の間隔が短すぎて、結局一人で逃げるだけで精一杯だったけどな」

 

国家保安省の通信を、聞いていた?

 

「こいつ、ずいぶん前から国家保安省の通信を盗聴していたんです。話したかったんですが、カティアのことと引き換えで口止めされてて」

「何だと!?」

 

国家保安省の通信を盗聴できる!?

今最も欲しい情報源だぞ!?

 

「それは、今も可能なのか?」

 

その問いの答えは、懐から取り出した無線機だった。

イヤホンジャックを引き抜けば。

 

『こちらヴェアヴォルフ6。ターゲットはいまだ現れません』

『ヴェアヴォルフ8より6へ。もしかしてばれたのでは?』

『ヴェアヴォルフ9からの連絡もありません。失敗したとみるべきでは』

 

思わずホーエンシュタインを見る。

羽交い絞めにされながらも相変わらずアッシュを睨みつけていたが、無言で首を縦に振る。

 

「よし、これでかなり安全に移動できるな」

「しかし、我々のバラライカでどこまで移動できるか」

「アッシュ、どんな感じだ?」

 

簡易ヘッドセットで各機体の状態を確認していたアッシュの顔は険しい。

 

「ニコイチ、いやサンコイチで最低限動かせるかな。今のままじゃ20キロも飛べないよ。何より燃料が持たないし、そもそもここじゃばらして整備なんて無理」

 

やはり足が問題か。

 

「やむを得んな。どこかで車を確保して西方総軍と合流しよう」

「どれだけ時間がかかるかわかりませんね」

「ああもう、どっかに戦術機落ちてたりしないかなぁ」

 

ホーゼンフェルト、そんな都合のいい落し物があるか。

 

「ねえアッシュ、どっかに使える状態の戦術機落ちてない?」

あるぞ

「そっかー、あるのか…………ん?」

 

何、だと?

 

-----------------------------

 

「こんなところに、廃坑なんてあったのか」

「廃坑になったのはずいぶん昔のことらしくて、国家保安省も知らないらしい。おかげで知られたくないもの隠すにはうってつけの場所だったよ」

 

廃村から少し離れた山のふもと。

そこにある廃坑の中を、私たちは進んでいた。

 

「そういや、なんか言ってなかったか?。国家保安省にはチボラシュカ以上の戦術機がある、とか」

「ああ、アリゲートルが配備されたらしい。ベルリン派のチボラシュカが鎧袖一触だったってさ」

「ありげーとる?何それ」

「Mig‐27アリゲートル。ソ連製の第二世代戦術機だ。向こうでも配備しだしたばかりの新品だよ」

「モスクワ派はそんなものまでソ連から手に入れているのか」

「ますます勝ち目がなくなってきてるわね。ほんとに勝てるの?」

 

クシャシンスカ少尉の言葉に、勝てると返すことができない。

ただでさえ性能で水をあけられていたのが、さらに広がったのだ。

果たして戦術と個々の技量でどこまで巻き返せるのか、私にもわからなくなっていた。

 

「勝てるよ」

 

そう言ったのは、私たちを案内する少年だった。

 

「こいつを使って勝てなきゃ、あんたたちはよっぽどのへぼ衛士だよ」

 

そう言って彼は、持っていた懐中電灯を上に向ける。

それに照らされたのは。

 

「嘘、だろ?」

「いやいや、なんでここに?」

「まさか……」

「なんで?」

 

誰も、意味のある言葉を発せなかった。

当然だ、何せそこにあったのは――

 

「暫定第6世代機。アリゲートルごとき、師団で襲ってきても返り討ちにしてつりが出るよ」

 

――ゲシュペンスト(亡霊)が、私たちを見下ろしていた。

 

 

 

 




あの日一体何があったのか。待て次号!



次の話、 ifなんですけどね。
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