MUV-LUV大戦   作:土井中32

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でも3話合計で1万7000字オーバー…多すぎました?



閑話2 とある技術者の日記2

 

□月×日

喜ばしいニュースが入ってきた。

上司がいつになく上機嫌だったので気になって聞いたところ、あの設計者さんの無事が確認されたらしいのだ。

ゲシュペンストの開発後、帝国内で作られている様々な新兵器にも関わっていたのだが、仕事中毒が過ぎて将軍様にお叱りを受け、気晴らしに旅行に行かされたと聞いたまではよかったのだが。

その後、行った先で消息不明になった、と聞いた時には一同血の気が引いたものだ。

あれから数か月。せめて任された仕事だけでも完璧に仕上げて見せようと邁進していたが、無事が確認されたということでどこか張りつめていた職場の空気も弛緩した。

あの設計者さんは人類の宝だ、無事で本当に良かった。

仕事に戻るのは少し先だそうだが、旅行先で何かやっているらしく。

近日中に設計図が送られてくるらしい。

……仕事中毒は相変わらずのようだ。

 

□月△日

送られてきたのは、F-4用追加装備の設計図だった。

TC-OSへの換装は必要だが、これを装備すればF-4で噂に聞くF-14を上回る機動性を得られるらしい。

既に欧州連合にて正式な開発計画となっているらしく、専用TC-OSの開発に入っているんだとか。

”どうせだから撃震にも対応させてしまおう”ということで、撃震にこの追加装備、仮称パッチアーマーをかぶせてデータを取ってほしいということだった。

見れば見るほど見事な設計図に技術廠の人間はくぎ付けだ。

この設計ならばF-4系であれば現存するどの機体にも、ほぼ無改造で装備できる。

それでいて性能は米国最新鋭機を上回るのだ。見事というほかない。

特に内部構造に手を入れるのではなく、外側にかぶせることで強化する、という考え方は目から鱗だった。

この方法なら型落ちと化した旧式機でも前線を張れる戦力として運用できる。それも短期間で。

全体的な戦力向上に寄与できる、というわけだ。

帝国仕様のF-4である撃震は生産が絞られゲシュペンストの生産が進められているが、国内に全くないわけではない。

それらを手軽に戦力向上できるとなれば、やらない理由はないだろう。

すぐにでも取り掛かり、満足させられるデータを送って見せようじゃないか。

 

追記

操縦の失敗例としてブレイクダンスをするMigー21の映像が送られてきた。

見ていた全員が思わず笑ってしまったが、衛士の面々はこうなってたまるか、とむしろ気合を入れていた。

まあ当然か。誰だって笑いものとして歴史に名を残したくはないだろう。

 

△月〇日

紆余曲折あったが、パッチアーマーのデータ取りが終了。TC-OSの方も正式版がマスターアップし、帝国内の機体はすべてこれに換装済みだ。

パッチアーマー本体は順次製造中。近日中には全ての撃震に装備される予定だ。

撃震乗りの衛士たちはTC-OSに苦戦中だが、そのうち慣れるだろう。

例の設計者さんはすでに帰ってきているそうだが、やはり私たちとの接触は禁じられたままだ。

消息不明になった、というのがかなり重く受け止められているらしく、警備体制がさらに強固になったらしい。

直に会って話をしてみたいものだが、こればかりは仕方がない。

設計者さんに何かあれば、人類全体の損失だ。

 

追記

終業間際になって、例の設計者さんからメールが届いた。

”新兵器を開発したので、歩兵を集めておいてほしい”とのこと。

……何故歩兵なのだろう?

 

△月△日

例の設計者さんから新兵器が届いた。

戦術機の4分の1ほどの巨人。名をスコープドッグ、というそうだ。

一緒に送られてきた設計図と概念説明書を皆で読み込む。

……なるほど、設計者さんの着眼点に唸る。

あぶれた戦力を有効に使うというのは戦略としてみれば当然のことだ。

あぶれた理由が力不足なら、その力を与えてしまえばいいというのも確かにその通り。

より強力な兵器を、と邁進してきたが、活躍の場所のない歩兵を戦えるようにするというのは思いもしなかった。

旅行に出たのは設計者さんにとってプラスだった、ということだろう。

集められた歩兵小隊の顔は明るい。

これが正式採用されれば、自分たちもBETAと戦えるとなればさもあらん。

操縦方法も知らずに我先にと乗り込もうとして乱闘騒ぎになりかけている。

気持ちは分かるが、まずはこれのコピー生産のため分解して解析しなければならない。

設計者さんは一機しか送ってくれなかったのだ。まずは数を増やさねばならない、といった時の絶望顔は彼らに悪いが内心笑ってしまった。

 

〇月△日

スコープドッグの開発が進んでいる。

当初こそ解析のためにばらした時は驚きの連続だった。

民間用トラックの部品が使われていると知った時には、何人かが倒れかけたほどだ。

コストを抑えるためとはいえ、まさか民生用の部品まで使っているとは。

それでいて求められる性能は満たしているのだから、やはり設計者さんは天才なのだろう。

とにかくデータを取るためにコピー生産し、歩兵の皆さんに乗って乗って乗りまくってもらった。

テンション任せに乗り回したせいで何人かがぶっ倒れたが、おかげで有用なデータがいくつも取れた。

設計者さんは戦車級掃討を目的として開発したようだが、それだけに留めるのはもったいない、というのが私たちの見解だった。

マガジンが共用できるということは、弾薬が不足した戦術機に自分の弾薬を提供できる、ということだ。

弾や燃料が不足し、その果てにやられるというのは戦術機の撃墜理由として最も多いものだ。

戦場に武装や弾薬を詰めたコンテナをばらまいてはいるものの、そこにたどり着けずやられてしまうものは多い。

 

ならば、コンテナそのものが移動出来たらどうだろうか。

それもある程度の自衛力を持ち、補給中の戦術機を守れるとしたら。

 

幸いにもスコープドッグの背中には大型のハードポイントがある。そこに武装だけではなく、補給用の燃料タンクやマガジンラックなどを装備すれば。

戦場で孤立してしまった戦術機部隊に、BETAを蹴散らしながら物資を届けに行ける補給部隊。

 

その構想を設計者さんに伝えたところ、自分にはなかった発想だ、とすぐに必要な装備の設計を引いてくれた。

現在はそれを目的とした戦術・隊形・運用も含めて検証してもらっている。

手持ち火器も設計者さんが作った専用マシンガンのほか、対大型種用に専用の無反動砲や戦術機用の突撃砲をスコープドッグで使用できないか、などの検証も進められている。

 

一方で近接武装については迷走気味だ。

設計者さんもここに関してはかなり悩んだようで、とりあえずとしてスパイクシールドが送られてきている。

しかしこれを使うためにはBETAとほぼ密着する距離まで近づかねばならない。それに殴り殺すまで時間がかかるし殺せる数も一匹ずつがせいぜいだ。

かといってスコープドッグ用の長刀を作るのは生産ラインへの圧迫が懸念される。ただでさえ想定されているスコープドッグのラインだけでもそれなりに帝国のリソースを圧迫するそうだし、腕の可動範囲的に長刀捌きも戦術機ほどの物は望めない。試しに65式短刀を使ってみた者がいたが、見事に振り回されていた。

何かいい案はないかと片っ端から試している状況だ。

おかげで倉庫は試作品の山だ。120ミリHEAT弾を転用した使い捨てハンマーから棘付き鉄球なんて色物まで転がっているぐらいだし。

 

ヨーロッパの戦線はゲシュペンストの投入で拮抗しているらしいが、中国・ソ連側の戦線は今も後退を続けている。

私たちにできることを、一つでも多くそして早く進めねば。

 

×月□日

スコープドッグの陸軍採用が内定した。

やはり陸軍でも歩兵が戦力外であることは悩みの種だったらしい。

テストパイロットとして歩兵が中隊に増やされ、機体も兵士も使いつぶす勢いでデータ取りと検証が進められている。

近接武装に関しても進展があった。戦術機の長刀を作っているチームが合流したのだ。

光学斬撃兵器の実用化で、この先戦術機用の実体剣の需要は大幅に落ち込むことが予想される。そこでスコープドッグに活路を見出したらしい。

確かに、スコープドッグの出力では光学兵器の運用は難しい。既存の物にバッテリーを仕込んで試したが、費用対効果は劣悪の一言だ。

生産ラインについても74式長刀のラインを転用するらしい。既に縮小が決定しているのでちょうどいいとか。

合流してすぐに最適な形状に関して検討に入ってくれている。採用までに形になってくれるといいのだが。

一定の基準に達したら、ヨーロッパ戦線に派遣しての実戦データ収集も予定されている。

機体構造のブラッシュアップはほぼ終了しているため、現在進められている主な内容は基本戦術の策定と運用マニュアルの構築。それとは別に生産ラインをどうするかについて偉い人たちが協議中だ。

国内向け生産は本土で行うとしても、ヨーロッパ戦線での活躍次第では海外から山のような生産依頼が来るはず。

当然国内で賄えるはずがないので、どこに委託するかで揉めているらしい。

最有力候補は米国らしいが、あそこはいまだにゲシュペンストの生産ラインすら出来上がっていない。

見返りとして解析用の、ブラックボックスのないゲシュペンストを送ったにもかかわらずだ。

昔のF-4の件もあって、米国に対する不信感はぬぐえない。

今も外務省が説得を続けているらしいが、期待はしないほうがいいかもしれない。

次点でヨーロッパの欧州連合だ。

設計者さんがゲシュペンストの開発時に協力してもらった縁もあり、友好的な関係が続いている。

しかし対BETA戦線を抱える上、ゲシュペンストの生産ラインができたばかりだ。この上新たな生産ラインを敷設する余裕があるかどうか。

せっかくいい機体に仕上がってきているというのに、前途は多難だ。

 

×月△日

戦術機との異種模擬戦闘が行われた。

相手は撃震のパッチアーマー型とゲシュペンスト。スコープドッグが既存の兵器とどう違うのか、どんな運用が有効なのか調べるためだ。

先立って行われた既存の戦闘車両との模擬戦では、正面からの撃ち合いではデータリンクとFCSを搭載した74式戦車改にボロ負けしたものの、その他の旧式車両は機動性で翻弄。逆に圧勝した。

その74式改にしても何もない平野であればの話で、起伏や障害物などを上手く使って近づけば充分勝機はあることも証明されている。

特に市街戦が顕著で、オプションの一つであるワイヤーガンを利用した疑似3次元機動を駆使した立体攻撃に戦闘車両群は対応しきれず、ほぼ一方的に叩かれていた。

今回行われた模擬戦では、それぞれが歩兵分隊10機と戦術機小隊4機で頭数に差があったものの。

平地戦では空を飛べる戦術機相手では隠れることが難しく。

上空から一方的に叩かれたものの、対空射撃によってある程度は対応して見せた。

一方で市街戦時にはその小ささを生かしてゲリラ戦を展開。

最低限の機能だけを残して機体を停止させての待ち伏せなどを駆使し、撃震から撃墜判定をもぎ取りゲシュペンストすら小破判定を出すなど戦術機部隊を大いにてこずらせた。

スコープドッグの主武装である36ミリマシンガンはゲシュペンスト相手ではあまり意味をなさないが、関節部を狙えれば話は別だ。

加えて的の小ささと両足に付けられたターンピックを駆使する緩急自在な平面機動、何よりチームワークは相手を務めた衛士たちから「戦車級より厄介」と言わせたほどだった。

スコープドッグのパイロットたちはその評価を聞いて喜んでいた。

今まで日蔭者だった彼らが、花形である戦術機を苦戦させたのだ。喜びもひとしおだろう。

 

×月〇日

今日、正式にスコープドッグが陸軍に採用される。

既に陸軍歩兵部隊には歩兵大隊規模のスコープドッグが納入され、慣熟訓練を待つばかりだ。

そして慣熟訓練が終われば、ヨーロッパへの海外派兵が待っている。

やはり実戦でどれだけ有効なのか、検証する必要があるということで決まったそうだ。

派遣先はドイツ連邦。対BETAの最前線だ。

何とかスコープドッグ用の近接兵装も間に合った。

正式量産機には両腕に鞘に収まったブレードが装備されている。

腕の外側に固定された肘関節までの長さがあるこのブレードは必要時に鞘から立ち上がって展開、逆手になる形で手の中に納まる。

ローラーダッシュ中にこれで切りつけたり、懐に飛び込まれても片手で押さえながら刺す事が可能だ。

長さが違うがナイフのように使えるということで乗り手たちからも好評だった。

 

 

自分たちにできることは全てやったつもりだが、それでも祈らずにはいられない。どうか一人でも多く帰ってきてほしいと。

それができるように作ったつもりだが、戦場で絶対はないのだから。

 

 





あの世界の戦力不足って、歩兵が役に立たないせいだと思ってます。
対人戦争ならばなくてはならない存在ですが、対BETAにおいてはお荷物でしかなく、ほぼ出番がありません。
結果として機甲部隊の護衛などを戦術機がやらざるをえず。それが前衛不足につながり、加えて戦車級なんて小さい目標含めて後ろに通すななんて無茶をやらされて衛士一人当たりの負担が増え、キャパオーバーの果てにやられているのでは、と。
爆撃機の護衛を戦闘機がするのは当然ですが、それだってきちんと守り切れるだけの数か質をそろえるのが前提ですからね。
補給部隊なんかに配置換えとかはしてるのでしょうが、言い方悪いですがあの世界で歩兵になる人たちって衛士や戦車乗りへの適性がなかったいわば落ちこぼれなわけですから、配置換えにも限度があるはず。
この辺を戦力化できればかなり改善するのでは、と愚考した次第です。
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