週一にはちょっと早いですが、時間が取れましたので。
次はいつ更新できるか…でも何とか完結できるよう頑張ります。
…でも毎回面白い話書けてるか不安でいっぱいです。
「そなたに婚約者をつけることにした」
「とうとうボケたか
ハリセンで叩かれた。紅蓮のおっさんに。
「その口何とかならんのか!いちいち心臓に悪いわ!」
「朝一で呼び出したかと思えば過去一くだらない内容だぞ?頭疑って何が悪い」
「権威に対して斜めに見るのを控えろ、と言っているのだ!くだらないものだと思っているのだろうが、国という大きなものをまとめるには必要なものだ!」
「人を引っ張るのにそんなもの必要な時点で力が足りない証拠だ。カリスマってものがあるならそんなものなくても人はついてくるし、それでだめなら国の土台がしっかりしてない証拠だ」
原作では”将軍がいればあとは何とかなる”なんて行き当たりばったりでクーデターが起きたぐらいだし。
「そこまでにせよ。話がずれておる」
言い足りない様子だが紅蓮のおっさんが引っ込む。
「我らがいくら言っても休む気がないようだからな。そ奴にそなたの体調を管理してもらうことにした」
「いつも言ってるだろ、今が一番急がなきゃいけない時なんだ。カシュガル落とした後ならいくらでも休んでやるから今は」
「それまであと何年かかる?そこまでそなたの体は持つのか?」
「……」
「自覚していながらやめようとしないからこの措置なのだ。急がなくてはならない理由は百も承知だが、自分の命を無視するほどとなればこちらも見ているだけとはいかん。入れ」
ふすまを開けて、一人の少女が入ってくる。
武家の娘らしく和服を着た少女。しかしどこか儚さを感じる。
そこにいると思わなければ見つけることができない、そんな影の薄い女の子。
その理由は彼女の腰のあたりまで伸ばされた銀の髪と喜怒哀楽のない無表情を見ればすぐに分かった。
唯一俺の記憶と違うのは、その赤い目だろうか。
「ESP発現体か」
オルタネイティヴ計画。
BETAが発見されてから続いている、国連主導の対BETA対応計画。
1はコミュニケーション方法の模索、2はBETAの捕獲と研究、そして現在行われているソ連主導のオルタネイティブ3で研究されているのが、ESP発現体。すなわち超能力者のテレパシーによるコミュニケーションと交渉である。
そのためにソ連では人工的に超能力者を作り出す研究が行われている。倫理的に許されないような方法まで用いて。
「見た目この年ってことは、人工型の第一世代だな?なんでここにいる?」
「向こうからの贈答品だ。代わりにゲシュペンストが欲しい、とな」
将軍様の顔を見れば望んで受け取ったわけではないことは分かるが、それでも口に出す。
「失敗作やるから、代わりにそっちの一番すごいものを寄越せか。吹っ掛けるじゃないか」
「無論、突っぱねた。欲しいのなら正々堂々、真っ当な方法で手に入れろ、とな。結果、その娘子は帰る場所を失ったわけだが」
俺の言った言葉が聞こえていただろうに、彼女は一切反応を示さない。
そう作られていると知っていても、やはり腹が立つ。
「で、今度は俺に押し付けると。うちはゴミ箱じゃないんだが?」
「そなたは人の悪意に敏感だからな。彼女ならそういった感情は無縁であろう?」
そりゃそうだ。そもそも知らないんだからな!
「だとしてもソ連製だろ?意識的か無意識かは分からんが裏切る可能性は十分あるんじゃないのか?」
「そのあたりは遺伝子検査・暗示その他徹底的に調べてある。どれもシロだ。
今までを見る限り下手な人間ではそなたを止められぬ。だが彼女であればそなたも無碍にできまい?」
「だからストッパーにうってつけか、畜生め」
悪意ある相手ならば俺も相応の悪意をもって対峙しただろう。
だがそれ以前の、善悪すら知らない少女に強くなど出られるはずもない。
そもそも俺が何を言ってもこいつらは取り下げる気はないだろう、時間がもったいない。
憤懣やるかたないが、まとめて飲み下して彼女に向き直る。
俺の意識が自分に向いたのを感じたのか、彼女は三つ指をついて頭を下げる。
「一条
「稲郷九郎だ。いつまでの仲かはわからないが、あまり邪魔にならないようお願いする」
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とりあえず、彼女の仕事はうちの家事だ。
今まではじいちゃんが雇った家政婦さんが食事を用意してくれて、じいちゃんや俺の手が回らない時は洗濯などの他の家事もお願いしていた。
……俺は大体地下の研究所に缶詰で、めったに食べなかったけど。
で、今日からは彼女が家政婦さんを手伝うわけだ。
一通りのことは一条(五摂家である九條の累系)の家で教わっているそうだが、俺と同じまだ12歳だ。一人で全部はできない。
……成長促進剤でも使われたのか、年の割には発育がいいが。
まあ、俺は今まで通り研究所で缶詰だ。何も変わらない。
……そう、思っていたのだが。
「九郎様、お食事の時間です。居間にお戻りください」
「いらん。携帯食でじゅうぶ」
「ダメです。戻ってもらいます」
ひょい、と俺は座っていた椅子から持ち上げられる。
さっきも言ったとおり、彼女は年の割に体が出来上がっている。
対して俺は長年不摂生な生活しているせいか、同年代と比べても体が小さい。つまり。
「ちょ、放せ!まだやることが」
「ダメです。食事をとってもらいます」
純粋な身体能力ではかなわないのだ。あっさりと持ち上げられ、暴れれば関節を極められたまま連れていかれる。
で、メシを携帯食で済まそうとすれば。
「九郎様。口をお開けください」
「自分で食べれる!だから箸をよこせ、あーんはやめろ!」
研究所に作った隠し部屋に籠れば。
「ここですね、九郎様」
「なんでばれた!というかカギは!?」
徹夜しようとすれば。
「失礼します、九郎様」
「ミ”っ!?」
「睡眠薬を撃ち込んでも眠らせろと、ゼンガー様から言われていますので」
一事が万事、この調子である。
俺は強制的に、規則正しく健康的な生活を送らされていた。
無論、何とかしようとした。
これがほかの人間なら説得、できなかったら弱みを握って言うこと聞かせるのだが、そもそも彼女にそんなものはない。
生まれは知っている人間は知っていることだし、普段の生活にもやましい点は見られない。というか命じられたことが終わると部屋の隅でじっとしていて自分から何かをするということがない。
にもかかわらず俺が何か無理をしようとするとどこからともなく表れて邪魔をしてくる。
逃げ隠れしても絶対に見つかるのだ、それも最短距離で。
ESPで捕捉されている可能性が高いが、それらを遮断する素材の研究は優先度が低い。
個人的な事情で優先度を上げるわけにはいかない、いかないが……
「九郎様。就寝のお時間です」
「~~っ分かった、寝る」
抵抗しても無駄だし、また注射撃ち込まれるのも嫌なのでおとなしく布団に入る。
わざと痛い方法でぶち込みやがるからな、こいつ。
「おい。なんでお前も入ってくるんだ」
「寝たふりをするのがうまいので、ちゃんと寝るまでは見張るようにと利秋様とゼンガー様から言付かっております」
「じゃあなんで俺を抱きしめてるんだ!俺は抱き枕じゃねえぞ!」
「しっかり捕まえていないと隙を見て逃げ出す公算が高いので」
クソ、がっちり腕を回して掴んでるから逃げられねえ。
仕方ない、頭の中で設計図の…修正……を…………
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「眠ったか」
「はい」
九郎様が眠ったころを見計らって利秋様が様子を見に来ました。
今のところ九郎様は年相応、と言うのでしょうか。あどけない顔で眠っておられます。
「そのままよろしく頼む。今こやつに必要なのは心を休めることじゃ」
「分かりました」
利秋様が去って数分、すぐに九郎様の様子が変わります。
明らかに苦しそうな顔になり、呼吸にすら異常が見られます。
「グ…はぁ…ぎぃ……うう」
「九郎様、大丈夫です。すぐに良くなります」
そう声をかけて、私は自分の力を行使します。
そうすると徐々に、九郎様の寝顔が安らかになっていきます。
「スゥ…スゥ…」
「大丈夫です。今は何もかも忘れていいのです。何も心配しなくていいのですよ」
九郎様が眠らないのではなく”眠れない”ことを知っているのは、東郷家の人間と将軍様だけです。
布団に入っても九郎様の夢は決まって悪夢ばかり。
自分が殺される夢などまだいい方で、ひどいときには何もできない状態で、人類が滅びるさまをただ見ていることしかできない。そんな夢を、途中で起きることもできず最後まで見届けさせられる。
亡くなった方が現れ、ひたすらに責め立てることもあり。
いつのころからか、九郎様は眠ることを恐れるようになってしまったそうです。
睡眠薬などで無理やり眠っても、心労をため込むばかり。
困り果てた利秋様が将軍様に相談した結果、私と九郎様は婚約することとなりました。
私の名前は一条 美沙。
でもこれは帝国に来てからつけられた名前です。
最初の名前はニェウダーチャ・ポカリーニェヤ。
意味は知りませんが、ずっとそう呼ばれていました。
帝国の人はこの名前を聞くとすごく怒ります。私にではないようですが見るからに怒り、そして私に悲しそうな顔をします。
でも、私にはそれが何故かわかりません。
私は祖国の役に立つために生み出されました。
いずれこの身に備わった力をもって祖国のため戦い、勝利をもたらすのが使命だと。
ですが私の力は同時に生み出された姉妹の中でも弱く、また欠陥がありました。
同じ人間、それも波長の合う相手にしか効かないのです。
その相手もひどく限られており、成績は常に底辺でした。
ゆえに私は帝国へと渡されました。かの国へ渡ることが祖国へと私ができる最大の貢献なのだと。
帝国に来てからの生活は今までと全く違うものでした。
温かい食事、私に笑いかける人々、望めば外に出ることも許されました。
私が何かをした時、この国の方々は私の頭をなでて笑いかけてくれます。そのたびに胸の奥が温かくなる現象が”幸せ”というものであると知ることができたのは、ずいぶんと時間が経ってからでした。
最初の名前ではなく今の名前を名乗るよう言いつけられ、よくわからないながらも新たな主である将軍様、そして九條家当主様に言われたことをこなす日々。
後になってそれが花嫁修業なるものだと教えられましたが。
そんなある日、私は将軍様に呼び出されました。
そして隣の部屋からある少年を見て、力が使える相手か教えてほしいと言われたのです。
私が九郎様を見たのは、それが最初でした。
九條家当主様やその他の大人の方々相手に一歩も引かず、時には言葉で相手を遣り込める小さな背中。
でも、波長の合った、合ってしまった私は九郎様の内心がわかってしまいました。
その内を占めるのは、どうしようもないほどの”絶望”。
自分が殺される姿。近しい人が死ぬ光景。醜い殺し合いの末、誰もいなくなった廃墟。真っ黒な光に包まれながら消えていく、地球の姿。
そんな恐ろしい光景を”これじゃない””望む未来じゃない”と何度も何度も繰り返し、しかしその結果は常に絶望的な光景。
そして最後に見えるのは、取り囲む亡者たちに責められ、惨たらしく傷つけられる後ろ姿。
”お前が殺した””こうなったのはお前のせいだ”と。
責め立てる彼らから必死に目を逸らし。ただの悪夢だ、可能性の一つだと言い聞かせることで自身を騙し、ボロボロに疲弊しながらもあの恐ろしい光景を見るのを繰り返す九郎様を見て、なぜか私は涙を流していました。
理由もわからない自身の不調に戸惑う私に、将軍様はおっしゃいました。
「その力で、あの子の心を守ってやってほしい」
九郎様の事情をお話になり。彼の心労を少しでも軽くするため、私の力を使って眠れるようにしてほしい、と。
断ってもいいと将軍様はおっしゃいましたが、私はこのお役目を受けることにしました。
帝国に来てからの恩を返したいというのもありましたが、何より九郎様のことをお救いしたい。理由は自分でもわかりませんがそう思ったからです。
稲郷家に来てからの私のお役目は家政婦さんの手伝いですが、一番の仕事は九郎様のお世話です。
眠ることを恐れる九郎様は、何が何でも眠らないためあらゆる手を尽くしてきます。
それらすべてを乗り越えて布団の中に連れ込むのが私の最大のお仕事。
あらゆる方法で逃げ回りますが私の力は波長の合う人間であればそれこそ心の深層まで読み取れます。鍵のありかやパスワードなども私の前では隠せません。
布団に連れ込めば今度は心への干渉です。眠ることを拒否する九郎様に安心のイメージを送り込み、徐々にリラックスさせていきます。
元々眠らないせいで疲労している身体です。少しでも精神が揺らげば後は坂道を転がるように眠りにつきます。
ですが、ここからが大変です。
九郎様の悪夢は、私が送り込む安心のイメージをたやすく上回ります。
九郎様が安心して眠れるように、一晩中イメージを送り続けます。
帝国に来てから知った、温かいイメージを。
傍で心の深層まで見られるようになって、利秋様やゼンガー様からお話を聞いて、ようやくあの光景が何なのかわかりました。
九郎様には、前世の記憶というものがあるそうです。
生まれ変わる前の、別の人間として生きていた時の記憶。
その中に、今私たちが生きている世界によく似た世界を題材とした物語があり、前世の九郎様はそれを読んだことがあるようです。
その内容は、ただただ悲惨。
BETAに蹂躙されているにもかかわらず、人類は協力し合うことができない故に押され続け、やがて負けてしまう。
そんな未来を回避するために、九郎様は戦っています。
しかしそれこそが九郎様の悪夢の原因。
前世の物語を知るがゆえに、この世界の人間を色眼鏡で見てしまうがゆえに。
口では人類は協力し合えば勝てると言いながら、本心では無理だと思っている。
他ならぬ自分自身が他人を信じることができないという、自己矛盾。そんな自分自身への強烈な嫌悪。それが九郎様を追い込み続ける。
自身を追い込むように仕事に取り組むのは、人類がBETAに勝つ未来を掴みとる以外にそれを解消する方法を知らないから。
九郎様を苛む悪夢も、迫りくる未来を変えられなかったら、という恐怖と不安が休むことを許さないゆえに。
眠りながらでも未来を予測してしまい、しかし自身への嫌悪と人類への悲観故に暗い未来しか見ることができない。
そしてその不安を解消するために仕事に逃げる悪循環。
いっそのこと全てを放り出して逃げてしまうことができればよかったのでしょう。しかし、九郎様はそれができません。
家族の命と引き換えに生き残ってしまった負い目。
両親という大切な人たちが命を賭して守ってくれたという事実が、死んでこの世界から逃げる、という方法を封じてしまっている。
人を殺して生き延びた、という罪悪感。
西ドイツから誘拐されかけた時。どんな理由があろうと人を殺して生き延びた自分が、逃げることなど許されないという罪の意識が、戦いから逃げることを拒ませる。
優しすぎるがゆえにそれらを振り切ることができず、前に進むことしかできなくなってしまった九郎様は、一刻も早くそれを解消するために無理を重ねてしまう。
心の底、無意識で、そのまま死んでしまえればいいのにと思いながら。
自分を縛るがんじがらめの呪縛に、もはや疲れ果ててしまっているから。
だから意味ある死が目の前に現れれば、簡単にそちらに向かって進んで逝ってしまう。
飛行機を墜落させたのも。
罠だと分かっていながら、アメリカに行ったのも。
たとえそれで命を落としても、人類のために死んだと、免罪符にできるから。
死への羨望が、九郎様を死地へと引き寄せている。
死神が九郎様に囁いているのです。それが九郎様にとっての幸せだと。
…そんなこと、絶対に許さない。
でも今の私にできるのは、九郎様に一時の安らぎを与えることだけ。
それが、たまらなく悔しい。
九郎様を寝かしつけながら願います。九郎様が心から安らげる時が、少しでも早く来ますように、と。
「私がいる限り、
あれこれ書いてたら6000字越え…しかも話進んでない…
次話ではちゃんと進んでますので!