恋愛原子核ですから(何が?)
「九郎!ミンスクハイヴ攻略成功ってホントか!?」
もう少し落ち着いて入ってこれねえのかこいつは。
「事実だ。被害はそれなりに出たが反応炉の破壊に成功。残存BETAも相当数を討ち取れたそうだ」
「よっしゃー!この時点でハイヴを落とせたってのはかなり大きいんじゃないか!?」
そんな単純なわけなかろう。
「落とせたとは言え、欧州連合は弾薬・燃料だけじゃなくそれなりの損害も受けたし、ある程度のBETAは撤退に成功してる。そこから重頭脳級がどんな対策を打ってくるかは未知数だ。一概にいいことばかりじゃねえよ」
「あ、そっか」
いつものごとく、地下研究所。
月一のデータ提出に来た白銀との会話だ。
世間的にはすでにミンスクハイヴの攻略成功は報じられているものの、詳細についてはまだ伏せられている。
何せ新種が二つも見つかったうえ、明らかな戦術的行動を見せたのだ。刺激が強すぎるとして、世間一般には公表しない予定だ。
「ちょうどいいや、お前も見ていけ。反応炉と母艦級の映像から思いつく対策とか聞いときたい」
「映像って、まさか突入部隊のカメラ映像?どっから手に入れたんだよ」
「突入部隊にコネがあってな。欧州連合自体にもでかい貸しがあるから、このぐらいは朝飯前だ」
代わりに犠牲になった奴はいたが。片っ端から釣り上げながら、一切餌をやらなかったあいつも悪い。
年貢の納め時だ。
まあ、あいつのことはいいや。ある意味男の夢をかなえたんだし。
つーわけで、二人でカメラ映像を見る。
「うわ、頭脳級もこういう攻撃できるのか。横浜の奴はこんな事一切しなかったのに」
「人類の観察が最優先だったからじゃないか?それこそこれは最終手段なんだろうし」
「母艦級!直接見るのは主観的には初めてだ。こんなにでかいのか」
「面倒だよなあ。これからは防衛線の内側に出てくることも想定しなきゃならないんだから。まあそれ考えるのは偉い人の仕事だけど」
「うわ、なんだあれ!?あんな攻撃できるの!?スーパーロボットじゃん!!」
「実際そのつもりで作ったからな、タイプSは。土壇場であれ繰り出すとは思わなかったが」
一通り見たが、やはりBETAにも変化が起きている。
「反応炉、つうか頭脳級に戦闘能力があったとか、母艦級の存在が認知されたとか考えることは多いが、何より面倒なのが一つ」
「BETAの戦術的行動、だな」
「冷静に考えりゃ単純な作戦ではあるんだが、あの数で戦術的行動とられるってのはやっぱ脅威だよなあ」
今までは数に任せて突撃してきたのが、これからは囮だの待ち伏せだのを警戒せねばならないわけだ。
人類ならば伏兵されても数はたかが知れているからある程度見抜いたり対処もできるが、BETAの物量でやられてはたまらない。
陽動と分かっていても戦力を割かざるを得ないからだ。
まあ、悪いことばかりでもない。
「数が脅威なのは間違いないが、ある意味こっちの土俵に引きずり出せた、ともとれるしな。そこらへんは頭のいい軍人どもに頑張ってもらおう」
「放り投げんのか」
「技術者が戦略考えてる時点でおかしいんだよ」
他に考えることも多いしな。
「頭脳級の倒し方については、距離を取ってひたすら飽和攻撃か、タイプSのパワーでごり押ししてもらうとして、上から最優先で頼まれたのが母艦級への対処なんだよなあ」
「基本的に地面の下だから攻撃が届かないし、現れればその場でBETAまき散らすしで面倒この上ないよな」
「地中にいるあれを攻撃する方法は今はないし。すぐにできる方法つったら、振動センサーバラまいて先に見つけて、現れて口が開ききる前に爆弾放り込んでまとめて吹っ飛ばす、ぐらいだよなあ」
「こう、ドリルミサイル!とかモグラロボ!みたいのとかない?」
「
「ドリルはあるのか」
「それに地中であれを爆砕した場合、間違いなくでかい地震になるぞ?戦場ならともかく、防衛線の内側でそれやると周辺被害がな…」
「対処が面倒すぎる…!」
うまい方法ぱっとは思いつかねえな。継続審議ってことで。
「そういえば、ヨーロッパの状況は?ハイヴ落とせたとは言え、それなりに被害が出たんだろ?」
「突入したゲシュペンストにこそ大した被害はなかったが、陽動を行った部隊は半分が損傷ないし撃墜。弾薬・燃料も備蓄の6割を吐き出したらしい。当面大規模な作戦は無理だな」
加えてあちらも母艦級の対処に頭を悩ませている。
いつどこから現れるかわからない上、中には旅団クラスの戦力が入っているのだ。街中にでも現れたら目も当てられない。
とはいえいい方法なぞすぐに出るわけもなく、現状はあちこちに振動センサーバラまくぐらいしかできないようだ。
「損耗した分は米軍が穴埋めしているそうだが、回復するには年単位で時間がかかるだろう。実質膠着状態だな」
「そっち方面からの進展は当分無理か」
かくいうアメリカでも揉めている。
BETAがラザフォード場を使えるということが判明したからだ。
これでG弾は完全に止めを刺された。原理が同じだから中和される可能性が高くなったからな。
XGシリーズも防御能力がほぼこれだよりだったから、今の仕様では逆に鹵獲されかねないと抜本的な見直しが必要になってしまった。
開発陣は阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。ご愁傷さまです。
さて、この状況で次に動きがあるとしたら。
「中東戦線次第、だろうな」
「次の攻略作戦か?」
「アンバールハイヴにかなり近づいている。ミンスクの結果を受けて次は自分たちだ、と士気も上がっているだろう。オイルマネーにものをいわせてゲシュペンストを連隊でそろえてるし、攻略の可能性は十分ある」
もっとも、あっちにはタイプSがいない。飽和攻撃だけで頭脳級を倒せるか。
「今回の攻略を受けて、重頭脳級がどんな手を打ってくるかもわからん。まだまだ予断を許さない状況だな」
ついでに人間の方にも気を配らねばならない。
ちょっとでも戦況が好転するとすぐに内ゲバ始めるからな、マブラヴ星人は。
「損傷したF-4はそのまま退役。理想はゲシュペンストだろうが、どこも生産ラインはフル稼働状態。すぐには揃わないだろうな」
どのみち、F-4は生産を絞って新型と交代させるべきだ。
パッチアーマーも本来は延命処置でしかないんだし、全身にスラスターを増やしたせいで整備性も悪化してる。
一から設計して作ってる暇は多分ない、というかそれをやるならゲシュペンストを生産した方がいい。
その場合、中継ぎ最有力候補は第二世代の傑作と名高いF-15か、小型軽量低価格のF-16か。
どっちも米軍では現場、特に海外派兵を経験した連中から反対されて導入はとん挫したらしい。
”そんなガラクタよりゲシュペンストを寄越せ!”と言われたとか。
専用のパッチアーマー用意すればF-22クラスまで上げられるか?
「向こうに送ったマシンガンも粗が多いしなあ」
陽動に参加する戦術機がF-4ばかりだと知って火力不足が懸念されたため、急遽技術廠で試作中だった新型突撃砲を吶喊改造して送ることとなったのだ。
F-4用に継続生産されていた突撃砲に試作パーツを組み付けてテストしていた物に、更に強引な改造を施してでっち上げたものだったんだが。
今回の作戦に合わせF-4で使用できるよう120ミリを外し、空いたスペースに大容量バッテリーを装備。ユニット化したレールガンである延長バレルを組付けたのがこいつの正体だ。
従来の火薬式で撃ち出した弾を延長バレル内のレールガンで再加速。威力的には突撃級の正面甲殻を10発前後で貫ける。
ただし試作品を強引に改造したものだから当然本体のバランスは考慮されていない。
加えてレールガンユニットが故障してもただの36ミリチェーンガンとして使えるが、120ミリがないから火力低下が著しい。
今回の作戦で得られたデータを回してもらったが、やはり命中精度と稼働率がかなり低い。
F-4では反動に耐えられないため、腕の関節強化も必要だった。
総じて問題だらけなのだが実際に使用した現場から届いた声は”もっとくれ!”である。
既存機でも火力の向上が著しかったのが理由らしい。
とりあえず技術廠で改良中だ。ここからは地味な仕事だから、むしろデータの集積があるあっちでやったほうが早いだろう。
実はカートリッジ式ビームライフルである「フォトンライフル」も開発中なのだが、1カートリッジ当たりの弾数が30発程度が今の限界で、開発がストップしている。
現状でもかなり大型のマガジン、というかカートリッジを使っているのに、これ以上の弾数となるとさらに大型化させねばならない。それは携行カートリッジ数が減ることと同義だ。
弾数を増やすとカートリッジが減るとか本末転倒である。これ以上はコンデンサーやバッテリー技術のブレイクスルーが必要だ。
…やろうと思えばできなくはないのだが、担当している開発チームが
「絶対に俺たちの手で何とかしてやる」
と燃え上がっていて、ちょっと水を差し辛い。
まあ、やる気があるってんなら任せてみてもいいだろう。レールガンが実戦投入されてるからすぐに必要というわけでもないし。
「考えても考えてもよくならぬ我らの暮らしよ、だったか。さっぱりよくなってる気がしねえな」
「それでも、やめる気はないんだろう?」
当たり前だ。まだ俺は、人間を見限っていない。
なんてことを話し合っていたんだが、お客さんが来たらしい。
美沙が部屋に入ってきた。
「失礼いたします。九郎様、白銀様。御剣様と煌武院様がお見えです」
「おう、現地妻が来たぞ。顔見せてやれ」
「ちょ、現地妻って俺はそんな気は」
「遅かれ早かれだと思うがな。いいから行って来い。シミュレーター訓練なんぞ普段からやってるようなもんだ。月に一度しか会えなくて寂しいって泣きついてるらしいぞ?泣かせたくないなら行ってこい」
「う…分かったよ」
そう言って白銀を送り出す。
やはり恋愛原子核のなせる業か、月に一度しか帝都に来ないのに御剣冥夜と煌武院悠陽に出会い仲良くなっていたのだ。
本来なら下賤な平民の子となど、という連中が現れるんだろうが、平民なのは間違いないが今回の白銀は武家の縁者である。
というか崇宰現当主の甥である。妹が白銀の母らしい。一体何がどうして平民になったのだろう?
知った時は白銀ともども唖然としたものだ。
ともかく平民とは言え五摂家の縁者では陰口も叩けない、というわけだ。いい気味だ。
原作でも白銀のデータがなぜか武家にかかわる人間の物しかないはずの城内省にあったが、恐らく原作でも五摂家かそれに近い家の縁者だったんだろう。
ちなみに冥夜と悠陽は双子の姉妹だが掟によって引き離され、別の家で育つというのが原作の流れだがこの世界では苗字こそ違うが普通に一緒に暮らしている。
生まれたときは確かに”双子の忌み子は世を分かつ”つって騒いだんだが、たまたまその場にいた俺が思わず言ってしまったのだ。
「いつまでカビの生えた呪いにすがるつもりだ」
って。
その場で切り殺されそうになったが、叔父さんとか一緒にいた将軍様とか、他ならぬ煌武院家当主の煌武院雷電が止めてくれたおかげで今も生きてる。
まあ、本人たちも今の時代にそぐわないことは自覚してたんだろう。
書類上は別人ということにして体裁を整えたが、煌武院家で幼いころから傍つきを養育するとか何とか屁理屈をこね上げて二人が一緒にいられるようにしたわけだ。
しきたりというのはやはりめんどくさい。
そんなわけで白銀がいなくなったので俺も俺のやることを再開しようとしたのだが。
美沙がずっと俺を見ているのだ。微動だにせず、ずっと。
気になってしょうがないので、机に向かいながら聞いてみる。
「どうした?」
「九郎様は、幸せになりたくないのですか?」
いきなりなんだ、変なことを聞いて。
というか、こいつが俺に質問をするのはかなり珍しい。俺に規則正しい生活をさせるか、話しかけられなければ自発的な行動を起こさないからだ。
「自身の身を削り、心を削り。そうしてまでも誰かのために戦い続けるさまは、まるで自分の幸せなどどうでもいいと言ってるように見えます。なぜそこまで自分をないがしろにするのですか」
「他に同じことできる奴がいないからだよ」
でなきゃ、全部そいつに放り投げて高みの見物してたはずだ。
「なぜそこまで他者を信じられないのですか」
「知ってて聞くか」
こいつは俺の心を読んでる、それもかなり深いところまで。
今までの経験からそれは間違いない。恐らくは、じいちゃんにしか話したことのない
「この世界の結末は、大体が人類自身の自業自得だ。自覚しながらやめられない連中をどうして信じられる?」
「ならばなぜ、そんな人類のために身を削るのですか。どうしようもない者たちと知りながら、なぜ?特に白銀様への気遣いは、他の方々へのそれと比べても手厚すぎます」
「記憶や心が見られるからって、全てが分かるわけじゃない、てか」
美沙に向き直る。
「まだ、全部に失望したわけじゃない。まともな連中だってこの世界にはいるんだ。そいつらが必死に足掻く姿を見て嘲笑できるほど、まだ俺は人間やめてない。
白銀の方はもっと簡単だ。あいつはもう十分戦った。本人が全部覚えてるかは知らんが、軽く数十年。必死に足掻き続けた大先輩だ。敬意を持つのは当たり前だし、一度ぐらい戦いのない幸せをつかんだって罰は当たらないはずだ。
だから、あいつが戦場に出る前に全てを終わらせたい。自己中心的な理由だろう?これで満足か」
美沙はしばらく俺の顔を見ていたが、やがて頭を下げて部屋を出て行った。
再度机に向き直り、俺は作業に戻る。
「…言えるわけないだろう。幸せになれるわけがないなんて」
世界中から狙われ続けることが確定してる俺が、人並の幸せを手に入れられるはずがないなんて。
人類が変われないなら、また殺し合いを始めるようならBETAを叩き出した後、さっさとこの世からオサラバしようと思ってるなんて。
だから、生きる気がほとんどないだなんて。
言えるわけがない。
仮にも、婚約者相手に。
漢 の ロ マ ン
白銀「そういえばなんでドリルがあるんだ?」
九郎「MAPW突っ込んだドリルミサイルで地下から頭脳級を直接狙えねえかな、と思ってな。その試作品だ。結局航続距離とか目標を探知する方法とか超えるべきハードルが多すぎてとん挫したけど」
白銀「じゃあそれ使って母艦級を!」
九郎「さっきも言ったが地震が起こるぞ。日本と違って海外だと地震対策してないところ多いからな?」
白銀「ぐぅ……でもやっぱドリルはかっこいいよなぁ」
九郎「…実用性はともかく、見てくれの良さだけは同意してやるよ」
煌武院の双子について
専制君主や貴族のような特権階級がある国だと、双子がお家騒動の元なのはわかるんですが、現代でそこまでやるの?と。
中世だったら生まれたその場で殺してたんでしょうし、まだ穏便な方だとはわかるんですが。