MUV-LUV大戦   作:土井中32

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38話 出来ることを、一つずつ

 

「アンバール攻略がとん挫した?」

「鎧衣が知らせてきた。ほぼ間違いないだろう」

 

年も変わった1989年。将軍様に呼び出されて登城すれば、告げられたのは中東戦線のハイヴ攻略失敗。

 

「理由は?連隊規模のゲシュペンスト投入して、まったく成果がないということはないはずだ」

「籠城だ。最下層にぎっちりと詰まったBETAに進行を阻まれ、そこから先に進めないらしい」

 

そうきたか。

 

「メガバスターキャノンをもってしても抜けないと?」

「一時的には穴を開けられるが、すぐに下から上がってきたBETAが穴を埋めてしまうそうだ。現在も最下層手前で間引きが行われているようだが、削り切る前にこちらの弾薬が尽きるであろうな」

 

ビーム兵器が本体からのエネルギー供給で使えるとはいえ、使えばビーム発振器も少なからず損傷する。

そしてこちらの攻撃で失われる数よりも、向こうの生産力が上回っている、ということだ。

こうなるともうどっちが音を上げるかの我慢比べになる。そしてハイヴ内はBETAの庭だ、向こうが有利に決まってる。

おまけに倒した死骸も積み重なって侵攻を阻む、と。

 

「加えて母艦級の存在も探知された。そちらの対応にも部隊を動かさなければならない以上、これ以上の攻略続行は困難、というのが国連軍司令部の判断だそうだ」

「妥当っちゃ妥当か。中東の連中が納得できるか、というのを除けば」

 

消極的だが有効な作戦だ。

とは言え、ほめてばかりもいられない。

 

「今後のハイヴ攻略が困難になったな」

「タイプSを集中運用すればごり押しできる可能性は高いが、あれを使い捨てにするなどということはできんな」

 

機体もそれを十全に動かせる衛士も同量の金より貴重だ。前線基地の攻略ごときで失うなど許されない。

 

「こうなると、やはりそなたの進めるあれの必要性が高まってくる。進捗の方はどうなっている?」

「おおよそ予定通り。とは言え、試作でもある一番艦をぶん回して、そのデータを反映するとなればやはり時間はかかるよ」

「急がば回れ、か。体を壊さぬ範囲で急いでくれ。そなたが倒れれば誰もあれを完成させられないのだからな」

「ま、事故らない程度に急ぐさ」

 

そう言って執務室を出る。

しかし、ずいぶんと消極的な対策に出たものだ。

守るばかりでは重大災害(人間)はどうにもできない。どこかで攻めに転じなければいけないはずなんだが。

…既にその準備が始まっている、ということだろうか?

 

「考えても分からん、か。今は俺のできることをやるしかない」

 

 

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「世話になる、小沢大佐」

「水無瀬中佐もお変わりなく」

 

出港準備中の紀伊型戦艦一番艦紀伊。その艦橋にて、二人は旧交を温めていた。

 

「これが、現在建造中だという新型戦艦に搭載する新型の大砲ですか」

「正確には副砲だ。主砲の搭載は設計者からの許可が下りなかった」

 

紀伊の主砲は本来の物が取り外され、別の物が搭載されていた。

シロガネ級の開発に当たって搭載する砲の射撃データが必要となり、急遽紀伊を使っての射撃実験が行われることとなったのである。

再度の実戦配備のため改修中で、ちょうどよかったということだろう。

 

九郎は地面に固定して実験するつもりだったが、海軍からの横やりが入りやむなく副砲を紀伊に乗せることとなった。

 

「射撃実験でも、前方以外に向けての射撃は禁止された。ほぼ間違いなく転覆する、とな」

「それほどの反動が?」

「作った本人が地面に固定しなくては撃てない、といっていた時点で察するしかあるまい」

「背広組はそのまま砲の換装を目論んでいるようですが」

「撃ってみればわかることだろう。ただし、最大限に注意してな」

 

そう話していた数時間後、予定通りに出港した紀伊は試験海域に入った。

すぐに射撃準備が始められる。なお、九郎が言っていたことを重く受け止めた水無瀬中佐の提言により、紀伊は注水できるギリギリまで艦を重くしていた。

 

「射撃準備完了しました」

「かなりかかったな」

「砲の仕様上、仕方あるまい。何せ”エネルギーを半固体化して撃ち出す”などというトンデモ兵器なのだからな。紀伊の機関でも直ぐにはエネルギーは溜まるまいよ」

 

衝撃砲。

シロガネに搭載予定の新型砲である。

注入されたエネルギーを圧縮。半固体化させることでエネルギー兵器でありながら質量をもち、実弾のような曲射射撃も可能であるなど画期的な兵器であるが、運用に必要なエネルギーは紀伊型戦艦をもってしても一発撃つのに10分かかるという膨大なものであった。

 

「照準固定。いつでも撃てます」

「総員対ショック姿勢。最悪船がひっくり返るかもしれん。周辺機器の固定がされているかいま一度確認させろ」

 

ややあって、確認と固定が終わる。

 

「全艦、準備完了しました」

「発砲を許可。撃て」

「てェっ!」

 

 

 

 

次の瞬間、紀伊が後ろに吹っ飛んだ。

それはもう、船が浮き上がるほどに。

 

 

 

 

「うおおッ!?」

「艦の立て直しに集中!水平を維持しろ!」

 

艦が水平を取り戻したのは、そこから3分もかかってからだった。

すぐに損害報告が行われたが、艦体自体は見える範囲では問題ないものの、まさか戦艦が主砲の発射でバックするとはだれも思わず、物品の固定が徹底されたというのにいたるところで物が倒れただの壊れただのの報告が上がっていた。

 

副長と小沢艦長、水無瀬中佐で話し合う。

 

「これは、とても第2射は」

「無理だな。今ので竜骨が曲がった可能性もある」

「砲塔を確認していた応急員より連絡。砲塔基部に亀裂が見られるとのことです」

「むしろよく砲塔が吹っ飛ばなかったものだ。その場合は艦上構造物は根こそぎ消えていたでしょうが」

「ここまでだな。小沢艦長、帰港いたしましょう。この様を見れば背広組もばかなことは言いますまい」

「こうなる前に思い留まってほしかったですがな。修理にどれだけかかるやら」

 

結局、新型砲の砲撃試験はたった一回撃っただけで終了となった。

紀伊はこの後すぐにドッグ入りとなり、半年にわたる点検と修繕が行われることとなった。

背広組ではこの責任を取らされて降格・左遷の嵐が吹いたとか。

 

 

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「だからやめとけって言ったのに」

 

衝撃砲射撃実験の結果を見て、俺はそうつぶやく。

結局、テストは地面に固定して行われることとなった。

最初からそうしていればいいものを、おかげで戦艦一隻の修繕費用という余計なコストが発生してしまった。

紀伊の乗員たちは恐れ慄いているらしい。副砲でこれなら、主砲載っけた新型戦艦とはどんな化け物なんだ、と。

…まあ、化け物ではあるか。

 

とりあえず、そっちのほうはどうでもいい。後のことはお偉いさんが考えることだ。

次に俺が目を向けたのは。

 

「意外と早かったな、ライバル」

 

アメリカの作り上げた新型だ。

 

AMF-23 ガーリオン

ハイネマン技師が作り上げた、アメリカからのゲシュペンストへの刺客。

デザインやカタログスペックはスパロボOGに登場した物そのままだ。

ただし、操縦系はゲシュペンストと同じ匿体とTC-OSが採用されている。

機種転換訓練の手間を少しでも省くためらしい。

 

テスラドライブの搭載と積極利用により機動性に優れ、長距離飛行能力も高い。

空中戦では、ゲシュペンストでは敵わないだろう。

半面、機動力に出力を回したせいか武装に使える出力が低く、ビーム兵器の使用には制限が付く。

装甲も機動性を高めた結果として薄く、白兵戦で殴りあうには不利だ。

広い場所でその機動性を生かした高速射撃戦を行うのが最も向いている。

今の米軍には合った機体だろう。

海外派兵に積極的だがその分カバー範囲が広く、緊急展開能力を求められる傾向にあるのが今の米軍だ。機動性に富むガーリオンはまさにうってつけだ。

装甲の薄さはテスラドライブの積極的利用で補っている。

テスラドライブは一定以上の出力まで上げるとブレイクフィールドというバリアを発生させる。

これは実弾・ビーム共に一定以上の威力がないと抜けず、ぶつけられれば喰らった相手だけが一方的にダメージを受ける。

こちらの射程範囲に入るまではこいつで光線属種からの攻撃を防ぎ、接近した後は自前の機動力で振り切る、というのが基本思想だな。

値段もゲシュペンストに比べると安く、生産性でも勝っている。

武装は戦術機用の物を転用しているほか、例の突撃砲型レールガンの正式モデルを主兵装としている。

量産が容易で、バッテリー式だから本体側のエネルギーを使わないからだろう。

すでに米軍ではこいつへの転換が始まっており、作戦能力獲得は早ければ来年になるはずだ。

ただ、前線国家からの反応はよろしくない。

前線国家の最終目標はハイヴ攻略による国土の奪還だ。ハイヴ内という狭い場所ではガーリオンの高すぎる機動力は生かしにくく、装甲の薄さも相まって生存性は低くなると言わざるを得ない。

前線で自らを盾にして食い止める彼らからすると、やはり装甲と頑強さで優り必要な機動力も備えるゲシュペンストの方がいいのだろう。

実際、海兵隊など任務内容が多岐にわたる部隊は変わらずゲシュペンストを求めているらしい。

まあ、この辺は使い分けだろう。

 

で、なんでこいつを俺が調べていたかというと。

ハイネマン技師から一機、ブラックボックス化されてない状態で送られてきたのだ。俺を名指しで。

いつかのゲシュペンストを送ったのをやり返してきたわけだ。

…どっちかというと自慢だろうが。”どうだ、短期間だけどこれほどの機体を作ったぞ”という感じで。

まあ、もらったんだからありがたく解析した結果がさっきの説明なわけだ。

軍部の連中、報告したらすぐに”これ以上の物を作れ!”とかほざいたから”寝言は寝て言え”と間髪入れず返したが。

 

それとは別にタイプSの増産について話もされた。

中東戦線のハイヴ攻略失敗を受けて、国際的にタイプSの需要が高まっているらしい。

実際、ミンスクハイヴにとどめを刺したのはタイプSだったし、アンバールの攻略時に小隊で用意できていれば攻略できていた可能性が高い、というデータもあるらしい。

ただ、俺は今の条件を緩めるつもりはない。

ただでさえ馬鹿げた性能を十全に発揮するのにとびぬけた腕が必要だし、生産・整備に熟練の職人を必要とするなど、ほとんど工芸品作ってんのと変わらない。

部隊単位で運用するとなったら、どれだけの時間・手間暇・金を消費することやら。

何より、こいつが敵に回ると止める手段が少ないのだ。

並の戦術機など言うに及ばず、同じゲシュペンスト(量産仕様であるタイプR)でさえ小隊程度では足止めにすらならない。

中隊以上でようやく止められるだろうか、なんてものを無作為にばらまいた後の内ゲバが恐ろしくてしょうがない。

シミュレーションクリアという条件は、衛士の心、人格の部分も含めて見るために設定しているのだ。

 

簡単に折れる・諦めるような心の弱い人間に預けられる力ではないのだ、こいつは。

 

結局、俺の言うことは変わらない。シミュレーションをクリアしろ、だ。

実際、クリアできた人間は海外にも少なからずいるし、彼らには約束通りタイプSも送っている。

欲しかったら腕を上げろ、としかいうことがないのだ。

一部の連中は納得しがたいようだが、将軍様以下現場に近い連中は分かってくれた。特に斯衛の連中は。

いい武器が欲しければ力を示せ、というのは頭脳筋な武家にはわかりやすかったらしい。

実際、シミュレーションクリアに最も積極的なのが斯衛の連中だし。

 

「ま、今はそれどころじゃないしな」

 

地下研究所にある一室。

最大級に厳重な防御が施されたそこで、俺はそれを手に取った。

 

 

 

 

 

 

米粒大の、光る結晶を。

 

 

 

 

 

 

「果たしてこいつは福音か、地獄の窯の蓋か」

 

 

 

 

…後に、俺はこいつに手を出したことを一生後悔し続けることになる。

 

 

 





統一中華戦線が発足するまではBETAに押されまくっていたので、危機感を煽られた海軍が原作より前倒しで紀伊型の再配備を決定。近代化改修の最中にシロガネの話を聞きつけて衝撃砲の射撃実験をねじ込みました。
結果は本編の通りでしたが。

ガーリオンが登場、ただしコックピット回りはゲシュペンストに準拠しているため、OSもTC-OSに。
この辺は戦術機のコックピットがどの機種も一律で共通している影響です。原作では100%メイドインステイツらしいですし。
機種ごとに操縦方法バラバラでは転換訓練が大変ですしね。


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