MUV-LUV大戦   作:土井中32

45 / 107

前書きに書くことがもう…ない…

ということで、本編どうぞ。


39話 最悪を乗り越えろ!

 

1990年になった。BETAは相変わらず沈黙を続けている、はずだった。

 

その日、地下研究所でとある実験をしていた俺は、突然帝都城に呼び出された。

最優先、ということで実験を中止し、登城してみれば。

通されたのは大会議室。今の帝国を動かす中心人物たちが根こそぎ集められていた。

ほとんどの者が集められた理由が分からず、しかし事情を知っていそうな面々の緊迫した顔にただ事ではないことを察し、会議室の空気はピン、と張りつめている。

最後に将軍様が上座に座し、集められた理由が話される。

 

「甲一号目標、カシュガルに動きがあった」

 

緊迫度が増す。敵の本丸に動きがあったとなれば当然だろう。

 

「ぐ、具体的には?」

「カシュガルから進発したBETA群が、東進を開始した」

 

東。つまりこっちに向かってきている。

統一中華戦線が間に居るとはいえ、他人事ではいられない。

 

「総数は、どの程度なのですか?」

 

重苦しい沈黙の果て、将軍様は答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「推定、30万だそうだ」

 

 

 

 

 

 

誰も、言葉を発せない。

当たり前だ、過去最大数のBETAが動き出したのだ。

統一中華戦線だけで止められるはずがない。周辺各国と連携してもどれだけ”削れる”か。

 

「す、すぐにでも部隊を編成して大陸派兵を」

「今からでは間に合わん。それより防衛線の見直しを」

「どこまで来るかもわからんのだぞ。そんなあいまいな状況で防衛線など」

 

 

 

 

「来るでしょ、ここまで」

 

 

 

 

 

俺の発言に、全員がこっちを向く。

信じたくない、という顔をする連中を無視して俺は続ける。

 

「資料見たけど、連中まっすぐ帝国(ここ)に向かってきてる。一匹もはぐれることなく、まっすぐ。これを偶然と片づけるのはまずいんじゃない?」

 

慌てた連中が資料の地図を見るが、地図が頭に入ってる連中はみな青い顔だ。

 

「大陸からこっちに渡ってくるとして、真っ先に戦場になるのは九州か。決戦要塞の準備ってどうなってたっけ」

「か、完成はしている。だが弾薬の運び込みが終わっておらず、民間人の避難も行われていない」

「待て、そもそも本当にここまで来るのか?どこかでまたハイヴを作るのでは」

 

「楽観論でどれだけ奴らに同胞の命をくれてやったのか忘れたの?今俺たちに必要なのは、考えうる限りの最悪に備えることじゃない?」

 

俺の言葉に、答える者はおらず。

代わりに、聞いてくる人間はいた。

 

「稲郷相談役。君の意見はもっともだ。だが予想が外れた場合はどうする?軍の移動、民間人の疎開。いずれもタダではなく、疎開させられる民間人にも大きな傷を残す。その責任をだれがとる?」

「俺に決まってんだろ」

 

間髪入れずに言った一言に、誰も言葉を返さなかった。

 

「予想を言ったのは俺だ。促したのも俺だ。だったら失敗した時の責任も俺がとるのが筋だろ。何もなかったらなかったでよかったね、でも馬鹿なことした責任はこいつがとるね、てことで俺を生贄にすればいい。懲役でも処刑でも何でも受けてやるよ」

「ダメだ。そなたは替えが効かん」

「それ以前に未成年を生贄にするなど世論が納得するはずが」

 

「役割の問題じゃないし見栄の問題でもない、通すべき筋の話をしている。俺たちはこの日本帝国の国民全ての命を背負ってんだ。それに対する責任の所在ははっきりさせなきゃダメだろ」

 

俺を止めようとした将軍様たちを言葉で止める。

何よりも最悪なのは、何の準備もないまま帝国侵攻を許すこと。それを防ぐためなら、生贄だろうが何だろうがなってやる。

 

「戦争とは、そこに至るまでの準備で決まる。違うかよ、軍人ども」

「その通りだな。可能性があるのなら、準備は一秒でも早いほうがいい」

彩峰ッ!

「守るべき子供が覚悟を示しているのです。それに応えられずして何が大人か、軍人か。すぐにでも動くべきです」

 

彩峰少将の言葉に、軍部の腹は決まったらしい。

 

「そうだな。私たちが一番に考えねばならないのは、国民の命と魂を守ることだ」

「榊」

「子供に尻を叩かれるなど、大人としてこれほど恥ずかしいことはないでしょう。これ以上の恥の上塗りはごめんですな」

 

榊官房長官の言葉に、政治屋共の顔も変わる。

 

「将軍様、あとはあんただけだ。さっさと決めろ」

「そなたは全く、なぜそこまで己を軽視するのか」

「必要だからだ。迷ってる時間すらねえぞ」

 

数秒俯いていた顔を上げ、将軍様は宣言した。

 

「良かろう。BETAが帝国まで進攻することを前提に動く。だが九郎よ。そなたに責任は取らせん。それはこの国の全権代行たる余の仕事だ。

もしもそのことに思うところあらば一層仕事に励み、そして人としての幸せも手に入れよ。これ以上己を軽視することは許さん」

「仕事に励むのだけは承知してやるよ。ほら御裁可出たぞ。時間がないんだから動け動け動け!」

 

-----------------------------

 

『なあ、やっぱり俺も』

「自分で言ってて分かってんだろ、白銀。10にも満たねえガキ戦場に出すなんざ誰も認めねえよ」

 

このクソ忙しいときに電話されるだけでも怒鳴り返したいぐらいなんだ。直接来ずに電話なだけでもまだ冷静な方だろうが。

 

『忙しいのも邪魔しちまってんのもわかってる。でも何もできないのは、やっぱり……』

「まだお前の出番じゃない、てだけだ。その怒りと悔しさは後8年ぐらいとっとけ」

 

まったく主人公気質だこと。だが残念、まだお前の出る幕じゃない。

 

『それにしても、なんでこんなに早く帝国侵攻が起こったんだ。バタフライエフェクトつったって8年のずれはいくら何でもでかすぎる』

「…さあな。こればっかしは連中に聞くしかないさ。

だがちょうどよかった。白銀、今から言う住所をしっかり記憶しろ。いよいよやばくなったら鑑連れてそこいけ」

『それって…!』

「あくまでも逃げるためだぞ?戦おうとしたら金輪際手ェ貸さねえからな?」

『……分かった。純夏は必ず守る。だから九郎、お前も死ぬんじゃねえぞ』

「死ぬときゃ死ぬが、せいぜい足掻くさ。じゃあな」

 

電話を切り、作業に戻る。

 

「進捗は?」

「予想以上のハイペースですよ。これなら間に合いそうです」

「こいつらにゃ最前線で暴れてもらわにゃならんからな。ギリギリまで不具合のチェックやるぞ」

「了解」

 

あの会議から3日。

帝国内への発表から1日。

そしてBETAの帝国襲来まで、推定あと2週間。

現在帝国は官民問わず地獄の忙しさだ。

 

30万ものBETAが帝国へ向かってきている、という内容は国民がパニックを起こすのに十分だったが、同時に将軍様の力強いお言葉を受けて表面上は冷静に動いてくれている。

九州へは軍の集結が始まり、同時に疎開も行われている。

当初は故郷を離れたがらない連中が出て難航するかと思われたんだが、軍の指揮で動けない将軍様に代わって何と皇帝陛下が現地に赴き、一人ひとり説得をし始めたのだ。

 

「あなたたち一人一人が、帝国の宝なのです」

 

なんて皇帝陛下に言われては連中もそれ以上そこにかじりつくこともできず、おとなしく疎開の列に入ってくれたらしい。

 

帝国軍の集結も順調だ。

九州沿岸に作られた大規模要塞群、通称”決戦要塞”に弾薬などの運びこみが行われている。

これは中国戦線が押されまくっていたころから作っていたもので、上陸してきたBETAを水際で迎撃、内陸部への侵攻を阻む目的で作られたものだ。

ひたすらに頑強、そして地面に固定しないと使えないような大型要塞砲による制圧力が重視されている。

その内側には砲兵部隊が展開。要塞越しに撃ちまくる予定だ。

戦術機部隊やスコープドッグ隊は都度動き回り、破られそうな場所の救援を行う。

海軍も必要最低限の艦艇を残し九州沿岸と日本海側に集結。水際迎撃に参加する。

とにかく帝国内の集められるすべての戦力が西日本に集結中だ。

 

一方、海外の状況は芳しくない。

一番旗色が悪いのは目下BETAと殴りあっている統一中華戦線だ。

カシュガルの動きに中華戦線側の各ハイヴが呼応、一斉に日本帝国めがけて動き出したのだ。

 

その数、カシュガル進発組と合わせて合計50万。

 

50万という今までにない数に偉いさん共ようやくやばい状況だと気づいたのか、それまでのいがみ合いを放り出して協力して対応したらしいのだが、いかんせん遅すぎた。

一度に全戦線にかけられた圧力に統一中華戦線は耐えられず、既に戦線は崩壊。

現在はかろうじて生き残った小部隊がゲリラ戦を行うので精一杯らしい。それも手持ちの弾薬が尽きるまで、だ。

国連軍が少しでも数を減らそうと側面から攻撃を仕掛けているが、数が多すぎて効果は微妙。

最高にうまくいって10万減ってたら拍手喝采、というのが俺の見立てだ。

唯一の朗報は連中合流を優先しているらしく、一塊になってからこちらに向かってきていることだ。

日本海側全体が戦場になる、という最悪の可能性はほぼ消えた。

 

 

その他の軍といえば、まずインド軍と欧州連合は動けない。

欧州連合はハイヴ攻略時の損耗から立ち直れてないし、インド軍はアンバールの動きを警戒するために下手な動きができない。

この辺りは援軍としては期待薄だ。

ソ連もシベリアのハイヴが動く可能性があるため、守りを固めざるを得ない。援護はかなり遅れるはずだ。

 

唯一、米軍だけが積極的に援護に動いている。

既に第七艦隊が日本海に展開。九州に渡るために海へ潜る寸前のBETAに対して制圧攻撃をかけるべく準備をして待っている。

そのほか合衆国陸軍が帝国軍に合流。共同してBETA迎撃を行ってくれる。

やっぱすごいわ、アメリカは。量産した100機単位のレイディバードとタウゼントフェスラーで部隊をピストン輸送してくるんだもの。

今も本国で生産した武器弾薬をせっせと運んできてくれている。派遣されてきた部隊も海外派兵で経験を積んだ猛者に最新鋭機であるガーリオンばっかりだ。

政治方面では現政権が良からぬことを企んでいたらしいが、マーシャル議員を中心とするまともな連中が議会を説得。

 

「ここで負ければ次の戦場は合衆国(ここ)だ。余計なことしている場合か!?」

 

と言われれば議会も現政権も首を縦に振らざるを得なかったらしい。おかげで派遣されてきた連中の士気は高い。負ければ祖国がピンチとなればそりゃ当然だが。

 

で、そんな中俺が何をしているかというと。

 

「2番ハンガーオーバーホール終了。確認願います」

「了解。…良し、すぐに搬出作業に移れ。一機でも多く戦場に届けるんだ」

「すぐにかかります」

 

現在、地下研究所は里帰りしたタイプSでいっぱいだ。

激戦が予想されるため、その前に万全の状態にしておこう、というわけだ。

帝国陸軍で運用しているタイプSは10機。そのすべてが九州防衛線に投入されることが決まっている。整備が終われば衛士が飛び乗って直接九州まで飛んでいくのだ。

それまで暇な連中はここにあるシミュレーターでギリギリまで訓練したり、連携を確認したり、あるいは倉庫に転がっている試作品の山を物色したりしている。

防衛線には斯衛軍も参戦するが、そっちのタイプSは自前で整備できるため向こうに丸投げしている。

流石は脳筋というべきか、部隊単位で運用できるほどタイプSの搭乗資格をもぎ取っていきやがった。

乗っている連中の練度も含めて、大きな戦力となるはずだ。

 

「九郎」

 

整備の指揮を執る俺に、叔父さんが近づいてきた。

 

「叔父さんのタイプS?オーバーホール開始は3時間後くらいに」

「特一号ハンガーの機体。あれを使いたい」

 

思わず叔父さんを凝視する。

 

「正気?乗ったことあるからわかってるでしょ。あれは」

「デメリットは百も承知だ。だが今という状況ならばあれにも価値がある。違うか?」

 

悩む。本音を言えば止めたい。

だけど叔父さんの顔は覚悟を決めた男のそれだ。

それにあれが大きな戦力であることも事実。

 

「…分かった、準備しとく」

「助かる。すまんな、忙しいときに」

「そう思うなら生きて帰ってきてよ。…家族が死ぬのは、俺だってたくさんだ」

「ああ。約束する」

 

そう言って叔父さんはシミュレーターの方へ向かう。少しでもあれへの習熟度を高めるためだろう。

俺もあれをいつでも出せるよう作業員たちに指示を出す。

 

「稲郷博士」

 

しっちゃかめっちゃかな状況を何とかさばいていたら、今度は水無瀬中佐がやってきた。

 

「シロガネの状況はどうなっています?」

「8割、てところだな。まあ浮くのは間違いないだろうが、それ以上は保証しかねるね」

 

なんとなくこの人が考えていることが分かったので先回りする。

というか、テストもなしに出すとか普通はありえないからね?

 

「充分です。もしもの時はいつでも出せるようにしてください」

「必要になる、と?」

「船乗りの勘でしかありませんが、おそらくは」

 

この人がそういうと本当に当たりそうだ。

 

「了解しました。何とかしてみましょう」

「感謝します」

 

船員たちを集めるためか、離れていく中佐をしり目に、俺も自分の仕事に戻る。

 

「……もしかしたら、確かめられるかもしれないな」

 

誰にも聞かせるつもりのない言葉を、つぶやきながら。

 

 

-----------------------------

 

 

日本海海底。

 

光の差さない深海で、それでも僅かな観測手段を頼りに戦う者たちがいた。

 

『この、この、この!』

『キーパー3、目暗で撃つな!魚雷と爆雷は搭載量に限りがあるんだ、撃ちまくるならメーザーにしろ!!』

『爆雷は一体でも多く巻き込めるように使うんだ、それが本土の防衛に繋がる!』

 

わずかなサーチライトの光とソナーを頼りに、海底を進む悪魔の軍団に攻撃を行う勇者たち。

 

81式強襲歩行攻撃機改装型 仮称海神改

 

A-6イントルーダーの帝国仕様。それをさらに改修した機体。

本来上陸時の海岸線橋頭保の確保が仕事の水陸両用攻撃機だが、ゲシュペンストに使われている各種技術を応用して既存機の性能を上げられないか実験する「再光計画」の一環として生まれた機体だ。

海底を進むBETAへの攻撃能力を付加する目的で開発されたが、いまだ大陸内にBETAを封じ込められている状況では必要性は薄いとして、試作機によるデータ取り後は技術廠の倉庫でほこりを被っていた。

帝国本土に迫る大規模BETA群を少しでも減らすべく、急遽組み上げられた機体が最初の防人として侵略者に挑んでいた。

 

『数が多すぎる…!まったく減った気がしない』

『そんなのは最初から分かっていたことだ、泣き言ほざいてる暇あるなら撃て!一匹でも多くぶっ殺せ!』

『大型種、特に重光線級と要塞級は最優先で潰せ!”ここ”なら光線級はただの雑魚だ!』

 

さしもの光線属種も水中ではその力を発揮できない。

深度を浅くとることで一方的な攻撃ができていたが、悪魔の進撃を止められるほどの損害は出せていなかった。

 

それでも彼らは諦めず攻撃を続ける。

それが後方で戦う同胞たちに自分たちができる、最大の援護なのだから。

 

 





81式強襲歩行攻撃機改装型 仮称海神改

海底を移動するBETAへの攻撃能力を付加する目的で開発された機体。
ゲシュペンストの開発で得られた各種技術で既存機を改良した、と言えば聞こえがいいが、実際はポン付けに近い。難航しているのを見かねた九郎から各種技術が提供され、何とか形になったというのが正しい。

水冷式核融合炉の搭載
スパイクアームとチェーンガンのオミット
フォノンメーザー砲の実用化と装備
肩部砲撃ユニットの水中用魚雷・爆雷ユニットへの換装
水中推進ユニットを電磁推進へ変更

などが主な変更点となる。
フォノンメーザーは片手に3基ずつ計6基が装備され、核融合炉の搭載と相まって長時間の水中継戦能力を本機に与えている。
BETAが海洋進出していない状況では時期尚早として試作機によるデータ取りだけ行われ、その後は技術廠の倉庫でモスボール保管されていた。
帝国侵攻時に倉庫より引っ張り出され、急遽予備パーツで突貫改修してでっち上げた新造機と共に海中攻撃部隊として出撃。
帝国防衛のため奮戦した。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。