突然ドカッと降るんじゃねぇよ!!(タイヤ交換と雪かきを一度にやる羽目になった)
ちょっと早いけど更新です。
二週間後。BETAが、帝国に上陸した。
予想通り最前線となったのは九州。続々と海から上がってくる醜悪な化け物を、防人たちが迎え撃つ。
『海軍がしこたま機雷と攻撃仕掛けたってのに、まだこんなにいるのかよ…!』
『当たり前だ、削ってなお45万の大群だぞ!?』
『全機、攻撃開始!要塞に張り付かせるな!』
上陸したばかりのところを要塞砲が吹き飛ばし、それを抜けてきた連中を備え付けられた盾に身を隠しながら防人たるゲシュペンストたちが狙う。
要塞の上に陣取る彼らはみな一様に重装備で身を固めており、最初から機動力を捨てている。
細かい攻撃ができない要塞砲の穴を埋めるのが彼らの仕事だった。
『ヒャッハー!120ミリレールガンを食らえー!』
『劣化ウラン弾とビームのフルコースだ、たっぷり味わえ!』
『まだ足りない?いいだろう、いくらでもくれてやるぜ!』
メガバスターキャノンが、ビームライフルが。
120ミリと36ミリのレールガンが。
ミサイルとロケットが。
機体中に括り付けられたそれらを、後先考えずにばら撒きまくっている。
『出し惜しみはするな、ヤンキー共がくれた弾がまだまだたっぷりあるからな!』
『死んだBETAはいいBETAだ。生きてるBETAは悪いBETAだー!』
『弾切れ起こした奴はすぐに交代しろ、まだまだ続くぞこの状況は!』
過剰威力な120ミリレールガンや極太ビームにより死骸も吹っ飛ばされ、射線を遮るものは何もない。
とはいえ、全てを処理できるわけでもない。
『クッソ、やっぱ戦車級に取りこぼしが出てる。上がってくるぞ!』
『小さすぎるんだよあの蜘蛛モドキ!』
『スコープドッグ隊、出番だ!』
『任せろ、内側には一匹たりとも生かして通さん』
『野郎ども、ここを奴らの
『『『応!』』』
上がってくる戦車級をスコープドッグが迎え撃つ。
顔を出した瞬間、銃身を切り詰めたカービンモデルのヘビィマシンガンでハチの巣にし、次々と外に叩き返す。
光線級に狙われないよう要塞上部には段差が作られており、下側を走り回りながら戦車級に対処する。
今のところ水際で止められているが、下側に溜まり始めているBETA群を放っておけばいずれ対処能力を超えるのは明白。
ゆえに、対処する。
『下側に溜まってきた。砲兵隊、準備は?』
『待ちくたびれたぞ、早く撃たせろ!』
要塞の内側。内陸部に展開する砲兵部隊から曲射射撃が行われる。
統制射撃の着弾点で富士山を描いて見せる、という世界有数の練度を存分に発揮し。
要塞の壁にダメージを与えず、BETAには最大効率で打撃を与える位置に着弾する。
時折身を乗り出したゲシュペンストやスコープドッグが昇ってくる戦車級を薙ぎ払い、ついでとばかりにグレネードを投げ込んで死骸の山が出来ないように吹っ飛ばす。
光線級からのレーザーが時折集中するがゲシュペンストは短時間なら耐えられるし、要塞に備え付けられた分厚い固定盾は重光線級の照射ですらびくともしない。
後は盾に隠れながらレールガンなり要塞砲に連絡して吹っ飛ばすなりすればいい。
戦闘開始から三時間、今のところは順調に迎撃できていた。
-----------------------------
「今のところは順調だな」
地下研究所に備え付けられた大型ディスプレイを見つつ、俺はつぶやく。
帝都に置かれた総合司令部から情報を回してもらっているのだ。
「ですが、BETAとの戦いは物量との戦いです。最後の一匹を倒すまで、こちらが持つかどうか」
「この状況をどこまで維持できるか。まだ大陸側では最後尾が海に入っていないのだろう?」
「アメリカ第七艦隊が反復攻撃続けてるし海神改も頑張ってるが、向こうも少なからず損害出してるし消耗もしてる。そう長くはないかな」
同じ部屋で戦況を見守る小野寺鉄哉大尉と水無瀬中佐が俺のつぶやきに乗ってくる。
小野寺大尉はシロガネ副長として水無瀬中佐が連れてきた人材だ。
まだ若いが、副長として自分の下で鍛えるつもりらしい。
「それに、母艦級がまだ確認されていない。いつ陣形を壊されるかわからない、てのはかなりのストレスだろうな」
「やはり、有効な対策はありませんか」
「地中にいる間に倒す方法は、な。出てきたところで叩くならいくらでもあるんだが」
「だが、それを見越して砲兵部隊は分散配置されているし、九州内陸部にはS-11弾頭を装填したランチャー装備の戦術機部隊も待機している。一方的に混乱させられるということはあるまい」
「楽観視は危険。だろ、中佐。俺たちは常に最悪を考え続けなくちゃいけない。現実は大体その斜め上か斜め下だ」
「ひ、悲観的すぎませんか、博士?」
甘いぞ、大尉。
「楽観視し続けたが故の今の地球の状況だろ。俺たちは人類の常識の外にいる奴らと戦っているんだ。せめて想像だけはいくらでも重ねておかないとな」
そのせいで俺は人殺しになっちまったのだし。
もしかしたら、この状況も…いや、それを論ずるのは確かめてからだ。
頭を振って一度思考を追い出しコーヒーをすする俺に、水無瀬中佐が顔を向けてきた。
「しかし博士、今日で何徹ですか?BETA侵攻からこちら、休んでいるところを見たことがないのですが」
「…何徹目だっけ?3徹から先は覚えてないな」
「今日で6徹目です、九郎様」
ジト目の美沙の言葉に二人が同じ目で俺を見る。
「博士、多少でもいいので休むべきです。ここまでくれば後は我々軍人の仕事です」
「今のところは順調なのだ。休めるときに休んでおくべきだ」
「この侵攻が終わるまで、という約束ですが、そろそろ許容できません。強制的にでも眠ってもらいます」
にじり寄る美沙を二人は止める気はないらしい。
だが、まだその時ではないのだ。
「ダメだ。まだ休むわけにはいかない。シロガネの準備を少しでも進めておかなきゃならん」
「頼んだのは儂だが、身を削ってまでというのは」
「テストもなしのぶっつけ本番なんて危険すぎるんだ。少しでも不安要素は排除しておきたい」
本当に出撃という事態になった時、1%でも不具合が出る確率を下げておきたいのだ。それがそのまま中佐たちの命に直結するのだから。
認識齟齬で最大威力発射など二度とごめんだ。
「変化があったら教えてくれ。俺はシロガネの方に――」
――行くことはできなかった。
戦況が、変化した。
「振動センサーに反応?母艦級か!?」
「だが待機している部隊が対処に…待て。これは、一体ではない?」
すぐに端末に飛びつき、現地から送られてきているデータを解析する。
「クソッタレどもめ、司令部!」
出た結果に悪態が出る。
恐らく向こうでも解析しているだろうが、こっちの方が端末の性能がいい分早く結果が出る。それを伝えるため総合司令部を呼び出す。
『こちら帝都司令部。稲郷博士か?』
「振動センサーの解析結果だ。最低でも5体、最悪8体の母艦級が同時に出現する。九州内陸部にだ!」
『!?』
向こうの喧騒がこちらまで伝わってくる。
複数の母艦級出現は本土防衛軍でも想定していたが、さすがにここまでの数が一度に、というのは想定していない。
この状況にいかに対応するか揉めている間に、さらに状況が動く。
『報告、BETAの一部が海底を東進。本土に迫っています!』
『不味い、山口あたり、いや中国地方に上陸されれば補給線が機能しなくなるぞ!』
『そもそも民間人の疎開が終わっていない。とても戦闘ができる状況ではない!』
『水際で叩くには火力が足りん、海軍艦艇の状況は!』
『弾薬を打ち尽くした連合第一艦隊と第二艦隊が交代中、待機艦艇を向かわせるが、ほとんどが駆逐艦だ』
『本土側の予備戦力を緊急展開、絶対に内陸に入れるな!』
九州が最大の激戦区と目されたため、ベテランや精鋭はそっちに集められている。
本土側に待機する予備戦力にいないわけではないが、多くを占めるのは新兵や経験の浅い若い連中だ。
奮戦はするだろうが、不安は大きい。
そして後方が脅かされれば、九州で戦っている連中にも動揺が広がる。
台風が来なかったこと、連中が合流してから向かってきたことで同時波状攻撃はないと踏んでいたんだが…!!
「博士」
「……タイムアップ、か。もっと万全な状態にしたかったが」
水無瀬中佐の言葉に、その時が来たことを悟る。
「司令部。シロガネを出す」
『……すまない、博士。もう一度言ってくれないか』
すぐには理解しがたかったのか、聞き返される。
「シロガネを出す、と言ったんだ。本土防衛戦に参加させる」
『馬鹿を言うな博士!シロガネはまだ未完成だろう!?』
「8割がた完成してる。ぶっつけ本番だが戦闘は十分可能だ」
『なおさらだめだ!シロガネは対BETAの切り札だぞ!?こんなところで損耗、いや失うわけには』
「ならなおさらだろ。今出さないでいつ使うんだ。そもそも出るっつってんのは艦長の水無瀬中佐だぞ」
『水無瀬中佐!!』
「防衛線が崩れれば反抗も何もありますまい。それにシロガネは目立ちます。新兵への負担が少しは減るかと」
『しかし…!』
『稲郷、水無瀬中佐』
やめさせようとする司令部の連中を抑えて、将軍様が顔を出す。
『出撃までどれくらいかかる?』
『殿下!?』
『言ったところで止まるまい。ならば生きて帰れるよう、少しでも万全の状態で送り出してやるべきだ』
よくわかっていらっしゃる。
「1時間、いや50分で出して見せる」
『承知した、紅蓮』
『は!』
『16大隊を率いてシロガネに乗れ。あの大馬鹿どもを絶対に死なせるな』
『…帝都の守りがほぼ空となりますぞ?』
紅蓮のおっさんの言うとおりだ。
斯衛軍第16大隊は斯衛最精鋭。本州側に何かあった時の最後の砦として残されていた虎の子だ。
それ以外の斯衛はほぼ全て九州防衛線に参加している。
帝国軍も同様の状況だ、16大隊が動けば今帝都を守る戦力はほぼないに等しい。
『防衛線を抜かれれば意味などない。それにな、もしもこの状況で良からぬことを企むものあらばそれはもはや人類の敵よ。帝国の全権を、民の命を預かるものとしてわが手で切り捨ててくれるわ』
『…承知いたしました。稲郷、受け入れ態勢を整えておけ』
「7番ゲートを開けておく。遅れたら置いてくからな」
通信を切る。すぐに準備に取り掛からねば。
艦船ドックのスピーカーをONにする。
「艦船ドック全体に通達!建造終了、これよりシロガネは実戦へ投入される!全部丸っと百も承知で出すんだ、余計な疑問挟んでる暇があったら、少しでも万全な状態で出せるよう手を尽くせ!」
「シロガネ艦長の水無瀬だ。現在九州を迂回した一部のBETAが本土に迫っており、このままでは後方補給線が脅かされる。シロガネは出撃し現地部隊に合流、これを阻止する。シロガネ乗組員は速やかにシロガネに搭乗、出港準備にかかれ!」
艦船ドックで働いていた作業員が一瞬呆けるが、すぐに動き出す。
移動を始める水無瀬中佐に俺も付いていく。
「博士?」
「何呆けてる。俺も乗るんだから当然だろ」
「稲郷博士!?それは流石に危険すぎます!」
「他に誰がダメコンの指揮とれるんだ、大尉。今あの船に最も詳しいのは俺だぞ?」
「ですが!」
「将軍様も言ってたろうが、”あの大馬鹿ども”って。俺がこうすることは承知済みだよ」
「鉄哉大尉、こうなってはてこでも動かん。生きて帰せるよう手を尽くすしかあるまい」
「大鉄中佐…」
諦め顔の二人をほっといて、俺は後ろについてきている美沙を見る。
「なんでお前も付いてきてるんだ、できることなんかないんだからここでおとなしく」
「衛士資格とタイプS搭乗資格なら持っております」
「は?」
思わず足を止める。
見れば確かに、衛士資格とタイプS搭乗資格を示す証明書を美沙は掲げていた。
「叔父様から九郎様の護衛も引き継いでおりますので。危機的状況に陥りましたら私が絶対に脱出させます」
「最近護衛から外れることが多いと思ってたら…」
少なくとも、俺の護衛を任せられると叔父さんが判断できるほどの”実力”を身に着けていたらしい。
最近自主的な行動をするようになった、とはじいちゃんたちから聞いていたが、まさかこんなことをやっているとは。
「…なあ、なんでそこまで俺に尽くそうとする?心が読めるならわかってるだろ、俺は碌な人間じゃない」
中佐たちが先に行き、誰もいないことを確かめてから聞く。
いまだにわからない。こいつがここまでする理由が。
「人間なんてクソだ。どこまで行っても内ゲバをやめられず、いつか自滅する。自分もその一人でありながら、俺は内心自分以外のすべてを見下しているんだ。お前のことも。
己以外を人扱いしてないクソッタレに、なんでそこまでして付き従おうとする?それでお前に何のメリットがある?」
人間は欲望と打算の生き物だ。物理的にしろ精神的にしろ、自分に理があるから行動する。逆に言えばそれがないなら見向きもしない。
将軍様や軍人ども、政治屋、はてはマーシャル議員だって、俺に力を貸してくれるのは俺
ただのガキだったら見向きもしないだろう。
なのにこいつは、美沙の行動からはこいつにとっての利が見えない。
俺から得たい
婚約者だからというだけでは説明がつかない、自分の命を天秤にかけてまで。
どう考えても費用対効果が悪いはずなのに、なんでそこまでして俺を――
「あなたを守れます」
――返ってきた言葉が、頭に入ってこなかった。
「そうやって見下していると言いながら、あなたは人類が生き延びられるよう身を削って戦っている。本当は一人で逃げるだけなら、いつでも逃げられるのに。
望めばいつでも一人で生きられるのに、今を必死に生きている人たちを見捨てられない。だからそんな人たちのために身を削って戦っている。
そんな優しいあなたを守りたい。人類の業と闇を知りながら、それに傷つきながら、それでも心の奥底で人の光と善性を信じて戦うあなたを。
私は、
そう言って、わずかに微笑んだ美沙に、見惚れてしまった。
慌てて顔を背け、歩き出す。
「…13番ハンガーの機体だ。OSはノーマルモードにしてある、すぐにとって来い!」
そう言い捨てるので精一杯だった。
そんなこと、あるはずがないと。
打算のない、純粋な好意が自分に向けられるはずがないと思いながら。
とにかく、今は誰にも顔を見せたくなかった。
誰にも。