MUV-LUV大戦   作:土井中32

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あ、予約の練習で毎日1話ずつ本編3話&IF1話上げます。
皆様のご声援でここまで来れました。何とか完結まで頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いいたします!


44話 踏み出す一歩

 

 

ぱちりと、目が覚めました。

けだるい体の状態を確認しつつ、九郎様の様子を見ます。

私の胸の中で穏やかな顔で眠られているのを確認し、念のため今一度イメージの注ぎ込みを行います。

 

昨晩、私の思いすべてをイメージとして注ぎこんだ結果、九郎様は今まで心を(よろ)っていたすべての重荷を下ろし、私を求めてくださいました。

本来なら覗くことなどできない、深層心理の底までさらけ出して見せた結果、九郎様は私が心の底から自分の身を案じ、そして愛していることをようやく信じることができたのです。

泣き叫びながら今までずっと押し込めていた恐怖、不安、怒り、嘆き。それらを私にぶつけ、謝り、許しあい。

ずっと一人で抱え、押し込めていた全てを吐き出すことができたからでしょう、九郎様はそのまま眠ってしまわれました。

心を鎧うものが何もないゆえか、それとも私を信じてくれたゆえか。

今まで意識しなければできなかったイメージの送り込みが、今は眠りながらでもできるようになっています。

疲弊した体に鞭を打って寝室に戻り、九郎様を抱きしめ共に眠りについたのですが。

 

やはりここしばらく無茶を重ね過ぎたのでしょう。九郎様に起きる気配はありません。

本当なら朝食の準備を手伝わなくてはいけないのですが。

起きるかどうか考えていたらそっと、音を立てずに開かれたふすまから利秋様が顔を見せ。

少し私たちを見た後、口に一本指を立てながらふすまを閉め、戻っていかれました。

 

…何か、顔が火照って仕方ありませんが、このまま九郎様のそばにいていい、ということでしょう。

改めて九郎様を抱きしめ直し、しばらくお顔を見つめることにします。

…いつもより穏やかな顔をしている気がして。

私といるからだったらいいな、と。次第にもやがかかっていく頭で考えてしまいました。

 

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帝国侵攻終結より、一週間。

 

帝都城、将軍執務室。

 

将軍様に、紅蓮のおっさん。鎧衣課長。次の選挙で総理になるのがほぼ確定の榊官房長官。

重鎮中の重鎮が集められたその場に、俺はいた。

 

「して九郎よ。話したいこととは何だ?」

 

紅蓮のおっさんの言葉に、わずかに体が強張る。

覚悟してきたくせに、いまだに恐怖が心のどこかにあるらしい。

無理やり押し殺して口を開こうとした俺の手を、隣にいる美沙がそっとつかむ。

たったそれだけのことなのに心が落ち着いてくるとは、存外俺はちょろいらしい。

 

「今回の帝国侵攻、その原因についてだ」

 

一つ深呼吸してから俺が言った言葉に、返すものはない。

ただ、じっと俺を見ているだけだ。

 

「心当たりがあるのだな?」

「俺がやった」

 

紅蓮のおっさんが思わず立ち上がりかけ、ゆっくりと座り直す。

 

「一から十まですべて説明しろ。切るか殴るかはそのあとだ」

 

何とか自分を抑えたらしい紅蓮のおっさんがそう言った。

俺は懐に入れていた物を取り出す。

透明なカプセルに入った、米粒大の光る結晶を。

 

「それは、なんだ?」

 

紅蓮のおっさんの困惑をよそに、俺は将軍様を見る。

 

「皇帝陛下から頼まれた仕事、覚えてるか」

「由来不明の恐らくは隕石を調べてほしい、というものだったな」

 

その昔献上されて以来蔵に仕舞ってあった物だが、蔵の整理をした際に出てきてちょうどいいから調べてほしいと俺にお鉢が回ってきたのだ。

帝室に連なる人間が触れるとなぜか緑色に光る不思議な石、ということで今までにも何度か科学者による分析が行われたが、未知の物質ということしかわからなかったらしい。俺ならあるいは、ということで持ち込まれたのだ。

 

「それから生成できた新物質だ。トロニウム、と名付けた」

 

何もしていないのにうっすらと光り続けるそれを目の前に置き、説明を続ける。

 

「こいつは一定の手順を踏めば莫大なエネルギーを取り出すことができる。このサイズで、シロガネ級を30隻は賄える程の、な」

「…それが本当なら、地球上のエネルギー問題をまとめて解決できそうな代物だが。何か問題があるのかね?」

 

榊のおっさんの問いに、俺は答える。

 

「原理がまだ不明なんだよ。エネルギーが内部に貯蔵されているのか、どこかからエネルギーを引っ張ってきてるのか。それすらわかってない。もし後者なら、こいつは一種のワープ装置、てことになる」

「…君ですらよくわかっていない物質、か。しかし、それが今回の帝国侵攻とどう結びつくのかね?」

「こいつを発見してからずっと、動力機関として使うことができないか試行錯誤してた。で、どうにかジェネレーターとして形にできたから、どこまで出力を出せるのか試してたんだ。

 

あの日も、な」

 

ここまで言えば、部屋にいた全員が俺が言いたいことに気づいた。

 

「BETAは、トロニウムに引き寄せられた、と?」

「偶然ではないのか?あの日以外でも試していたのだろう?」

 

鎧衣課長と榊のおっさんに、俺は首を振ってこたえる。

 

「あの日は、出力限界を調べるためにひたすら設計限界目指して出力を上げていた。

出力が50%を超えたのと、カシュガルに動きがあったのは同じ時間だった。

それだけならまだ偶然で片づけられた。けど、シロガネへの攻撃集中で仮説は証明された」

「…載せていたのだな、トロニウムを」

「トロニウムエンジンを起動した途端だったよ、奴らがシロガネに群がり始めたのは」

 

高性能な電子機器でもG元素を使っているわけでもない只の動力機関に、BETAが殺到するはずがない。

たった数秒、1%にも満たない出力であれほどの激烈な反応を見せたのだ。

50%もの出力を出した時にどんな反応が起きるか、帝国侵攻で裏付けられたと言っていいはずだ。

沈黙する大人たちをよそに、将軍様を見る。

 

「俺がトロニウムをもっと慎重に扱っていれば、一人でやらずに誰かと相談しながら進めていれば、帝国侵攻は起こらなかった。

その責を、問いに来た。

 

俺は、どう償ったらいい?」

 

誰も、言葉を発してくれない。ただ俺を見ているだけだ。

震えそうになる体を、美沙の手の感触を頼りに押さえつける。

どれほど時間がたったのかわからなくなったころ。

 

「今一度、己の職務にまい進せよ。命を削らぬ範囲で、な」

 

将軍様の裁決は、あまりに軽すぎた。

 

「そしてこのことは余が許すまで誰にも話してはならぬ。許しがなければ墓までもっていけ」

「…この罪悪感を、一生背負え、ということですか」

「安易に許せることではない。しかし、すでに人類のため身を削りながら働くそなたにこれ以上の重責を課すわけにはいかん。そなたでなければできぬことがあまりにも多い故な。

この失態を胸に刻み、二度とこのようなことがないよう努めよ。そして失った者たちに報いることができた、と己が心から思えるほどの貢献をするのだ。それが、余がそなたに課す罰である」

「…承知、致しました」

 

ゆっくりと頭を下げる。

はたから見れば軽い、と思われるだろう。

だが、責任を感じている人間からすれば、これほど重い罰はない。

罰の終わりは、自分にしか決められないのだから。

 

「紅蓮、そなたはどうする?」

「既に殿下によって裁かれた者を、勝手に切ることはできませぬ」

「鎧衣」

「既に殿下が裁いたならば私から言うことはありません。トロニウムについては興味がありますが、うかつに手を出すのも恐ろしい代物。博士に一任するのが最も良いかと」

「榊」

「政治的に思うところあれど、博士が帝国と人類にもたらしてきたものを思えば、一方的に責めることはできません。殿下の御心のままに」

 

全員の意思が確認された。

 

「九郎よ、陛下には余から話しておくゆえ、トロニウムの扱いについてはそなたに一任する。されど、研究計画についてはその都度提出せよ。今回は不幸な結果になったが、使い方次第ではBETAと戦う上で大きな助けとなる。己で言ったように、慎重に調べを進めよ」

「はい。寛大な処分、感謝いたします」

「そしてこのことについてはこの場にいる者だけの秘中の秘とする。そなたは己の非と思っておろうが、そなたに大きな権限を与えた余も同罪。そなたに頼り過ぎたこの国もな。ゆえにその罪、そなただけの物にはしない。我らも背負う。異論など挟ませぬぞ」

 

…一人で背負って、勝手につぶれることは許さない、か。

いや。もっと自分たちを頼れ、一人で突っ走るな、ということだろうか?

 

「もとよりそなたに助言をもらいに行ったあの日から、我らは運命共同体。功も罪も全員の物よ。己にできぬことは誰かを頼れ。我らもできぬことはそなたを頼ろう。だから、一人で抱え込むな。

 

それとも、我らはそれほどまでに頼りないか?」

 

…信じれば、応えてくれる、か。

 

「…将軍様が頼りにならないのでは、この国も終わりだな。クーデターでも起こすか、榊総理?」

「まだ官房長官だよ。それに私では誰もついてこないだろう」

「フン、その時は帝国に仇なす者共などわしが切り捨ててくれる」

「脳筋がこう言ってますけど、頭脳労働担当のお二人さん?」

「そうならないようにするのが私の仕事だよ。今から胃に穴が開きそうだが」

「そうですなあ。しかしこの様子では、娘のような息子には当分会えそうもないですなぁ」

「あんたの子は娘だろうが。確かに男にしか見えないくらい平坦みたいだが」

「…うむ、その喧嘩買わせてもらおうか?」

「お、やるか?美沙、たたんじまえ」

「いやです」

「味方じゃねえの!?」

「流石に今のは弁護できません。おとなしく説教されてください」

「いや絶対説教で済まなアバー!?」

 

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鎧衣に落とされた九郎を背負った美沙が退出する。

苦笑いしながらそれを見ていたが、退出後に顔を引き締める。

 

「しかし、ずいぶんと大きなものを残していきましたな」

「まったくだ。しかも一条が説得しなければ一人で背負うつもりだったろうしな」

「最終的にはすべての責任と恨みつらみを引き受けるつもりだったのでしょうな。発覚した時の帝国へのダメージを減らすために」

「あんな子供に全ての責任負わせるなど武家以前に大人として末代までの恥よ。認めてたまるか」

「そうだな。それに、ようやく少しは頼ることを覚えたようだしな」

「今までの彼でしたら誰にも明かさず背負い込んで、全部終わってから自分で世間に公表して我らに付け入るスキなど与えなかったでしょう。大きな傷が残りましたが、怪我の功名というやつですな」

「子供が初めて頼ってきたのだ。わかっておるな?」

「「「委細承知しております」」」

 

あの者は未来に必要な人材だ。ここでつぶれさせはせぬ。

 

「しかし、あの単独突っ走りばかりだった彼が随分と変わりましたな」

「やはり、女を知ったからでは?」

「随分とやきもきしていたが、ようやくか。どう見ても両思いだというのに、ずいぶんと時間がかかったものだ」

「致し方ないでしょう。彼のほうは純粋な好意が自分に向けられるわけがないと思っていたようですし、彼女は自分の感情が何なのか理解できていなかったようですから」

「双方恋愛のれの字も分からなかったと。娘はそんなことにならないよう気をつけねばなりませんな」

「榊、それを教えられるほど家に帰れるつもりなのか?」

 

雑談になってしまっておるが、これでよい。

あやつのことを理解はできなくても、支えてやれるものは多いほうがよいのだ。

 

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「…美沙」

「はい」

「信じてもらえるって、うれしいことなんだな」

「ええ、そうですね」

「もっと、信じていいのかな」

「裏切る人もいるのかもしれません。ですが、応えてくれる人はきっと、九郎様が思っているより多いはずですよ」

「…うん」

 

 

 





〇この先のこと

「さて、地球上のBETAを駆逐できたら今までのすべての責を取って余は将軍を退く。皆そのつもりでおるように」
「後任はどういたします?今から引継ぎの準備をさせておくのですか?」
「斑鳩のところにイキのいいのがいたであろう。あやつを後釜にする」
「…よろしいので?少々イキがよすぎると思いますが」
「どちらかと言えば彼は陰に潜んでの黒幕を好むように思います」
「これからは老人ではなく若者の時代よ。それに野心があるのは結構。それに見合うだけの責を果たしてもらおうではないか」

斑鳩崇継がロックオンされました。

崇継「!?」

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