お待たせしました、本編です。
1992年、中華戦線。
ようやく再編成の終わった統一中華戦線が前線に復帰し、各国からの支援と帝国軍の合流によりようやく戦線が安定し始めた矢先のこと。
『HQ、こちらアルファ1、BETAと接敵、旅団規模だ!』
『クソ、長距離偵察の帰りで出くわすとは!』
『弾も燃料も消耗しています、戦闘は避けましょう!』
『馬鹿言うな、こいつら越えなきゃ味方に合流できんぞ!』
その高速巡行性能を利用したハイヴへの長距離偵察を終えた米軍のガーリオンたちを襲うBETA。
味方と合流するためには奴らを越えねばならず、しかしそのために必要な物資には不安がある状態だった。
『デリバリーは!?』
『最速でも15分はかかると』
『遅せェ!5分で俺たちゃ奴らの腹ン中だぞ!?』
衛星軌道から軌道爆撃の要領で落とされる補給コンテナも、こんな突発的な事態には対応できない。
通常の間引き作戦などならばスコープドッグなどが補給コンテナを背負ってそこかしこに居たりするのだが、彼らは少数での偵察の帰りだった。
にじり寄ってくるBETA達から距離を取りつつ、しかしそれは連中の支配圏に近づくことを意味する。
意を決した隊長が強行突破を選択しようとした時。
『スティール2より偵察小隊へ、支援砲撃を5秒後に開始します。砲撃範囲より離脱してください』
『ッ全機後退、離脱しろ!』
BETAの頭上に死が降り注いだ。
降ってきた青白いエネルギーが地面に、あるいはBETAに着弾し、大爆発を起こす。
地面ごと耕すように吹っ飛ばされていく数百のBETAに一瞬呆けるも、偵察小隊の隊長はすぐに遠くの空からやってくる影を見つける。
『ハガネか、どうやら助かったな』
『シロガネ級が来てくれたのか』
『HQよりアルファ1、無事ですか?』
『こちらアルファ1、全員無事だ。ハガネが来てくれて助かった』
『哨戒任務で近くにいたため、救助に向かってもらいました。そのままハガネに搭乗、偵察結果は司令部で報告してください』
『アルファ1、了解した。どうやら今回も生き延びられたらしい』
『ハガネに乗って帰還とは。贅沢過ぎて涙が出そうだ』
先年進水したばかりの日本帝国最強の戦艦。
空を飛び、戦術機2個大隊を運用し、宇宙空間でも活動可能という破格の万能性を持つその船を帝国は中華戦線へ派遣していた。
BETA侵攻によって防衛線の維持が不可能になった帝国が、積極的攻勢に出ることでこれ以上の侵攻を阻止する、という方針を打ち出したからだ。
それに合わせて派遣された帝国軍の中でも機動力と打撃力を併せ持つハガネは現在、中華戦線において引っ張りだこの存在であった。
「大鉄艦長、偵察小隊の収容完了しました」
「よし、これよりハガネは中華戦線総司令部に向かう。進路変更!」
「はっ、操舵手、進路変更!目的地、中華戦線総司令部!」
小野寺大尉の号令でブリッジ要員が動き出す。
わずかな揺れの後ハガネが回頭、司令部に向けて進みだした。
「大鉄艦長。偵察小隊を降ろしたのちハガネは帝国への帰路につきます。行き先は呉のドックでよろしいですね」
「ウム。到着次第、わしとお前は帝都の軍本部に行くことになる。今のうちに準備を済ませておけ」
「了解しました。…しかし、突然の帰国命令、何かあったのでしょうか?」
「分からん。だが、ハガネが必要とされる事態が迫っているのかもしれん」
二人の不安をよそに、ハガネは順調に進んでいた。
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「鎧衣課長が直接持ってくるってことは、相当やばい案件?」
「やばいのかどうかはさっぱりわかりませんが、有識者の意見が欲しいのは確かですな」
地下研究所にやってきた鎧衣課長から渡されたのは、一枚のデータディスクだった。
「まずは見てみなきゃ始まらん、と……なんだこれ」
「まさしく見た全員がそれで首をひねっておりましてな」
中に入っていたのは、一枚の写真。
宇宙に浮かぶ、巨大な岩の塊だった。
「これ、撮ったのはハッブルか?とするとこれは地球に迫る小惑星?」
「流石ですな。アステロイドベルト方向からまっすぐ地球に向かってきているそうで。しかしBETAの着陸ユニットとも様子が違うことから、NASAとアメリカも対応に苦慮しているようです」
一見するとただの岩の塊だが、拡大すればところどころ人工物が見える。
何より真っ直ぐ向かってきているということは、推進機関で進路を微調整している、ということだ。
「小惑星の皮を被った人工物、か。BETAの物とは考えづらい、よなあ。明らかにデザインラインが違うし」
「もしかするとBETAとも違う新たな異星人ではないか、と盛り上がっている者たちもおりまして。この事態を知っているのはまだ一部の人間だけですが」
「それで、殿下からこれについて聞いてこいとお使い頼まれたわけか」
解析ソフトにかけながらおっさんから事情を聴く。
「苦慮しているとはいえ、何もしないわけにはいかないでしょ。アメリカ、というか国連はどうするつもりだ?」
「これ以上地球圏に接近する前に対応すべきだ、という点については一致しましてね。ハガネが派遣される方向で調整が行われています」
「あー、なるほど。自国の船提供するんだから、少しでも情報が欲しい、というわけか」
装甲駆逐艦では航続距離どころか戦闘になった場合の戦闘能力含めたあらゆる点で不足が目立つ。
タウゼントフェスラーは元々輸送機だ。航続距離は十分だが宙間戦闘できるかと言われれば俺はNO、と言うね。
結果、万能戦闘母艦であるシロガネ級、それも唯一稼働しているハガネしかない、と。
「そうすると中華戦線から引き戻すのか。あっちは持つの?」
「シロガネが近く修理完了しますからな。そちらが代わりに派遣されることになるかと」
「それが妥当か。まあ、持て余し気味だったこと考えればこっちのほうがいいんだろうが」
ハガネの艦首特装砲は、一度も実戦で使われていない。
太平洋上で一度だけ試射を行ったのだが、あまりの威力に各国がへっぴり腰になってしまったのだ。
欧州やアメリカなど賛成派もいるにはいるが、国連全体の総意がまとまらないうちに使えば、原作でのアメリカに帝国がなってしまう危険性がある。強行はできない。
特に強く反対しているのがソ連だが。
「オルタネイティヴ3、いよいよ打ち切りがカウントダウンに入ったって?」
「結局目に見える成果を出せていませんから。ハイヴ攻略にかこつけてESP発現体を投入。コミュニケーションと情報収集を行う、という青写真だったのが、ハガネの登場で手頃なハイヴは軒並み消し飛ばされる、となれば反対もするかと」
「結局は己の利益が減るからか。後ろで皮算用できるってのはいいもんだな。俺もそっち側だけど」
「博士は文字通りその身を削って人類のために頑張っているではないですか」
「罪を償うためにやっていることだ。我欲のためってところは一緒だよ、と」
解析の結果が出た。やはり人工物で間違いない。
「隠してるが、武装もしてるな。実際に近づいてみなけりゃ、ビームか実弾かは分からんが」
十中八九ビームだろうが。宇宙空間ならビームのほうが利点が多い。
「しかしでかいな。複数個の小惑星を無理やり接続してるのか」
余裕で100㎞を超える巨大物体だ。重力に引っ張られて落ちればそれだけで地球は終わるな。
…ハガネのバスターキャノンが使えなければ、迎撃すらままならないんじゃないか、これ。
「こいつからわかるのはこれで全部だな。後は実際にこの目で確かめるしかないか」
「……同行なさるおつもりで?」
眉根を寄せた鎧衣課長が聞いてくる。当たり前じゃないか。
「現場であれの技術解析する人間が必要だろ。それも話の分かる技術者が」
「それこそ他の人間でもいいのでは」
「俺以上に未知の技術に明るい人間がいるの?」
沈黙した鎧衣課長。が、ただの沈黙ではなかった。
「…何か隠していませんか?」
「なんでだよ?」
「帝国侵攻の時もそうでしたが、何か一物抱えている時ほどあなたは現場に出ようとする。今回もこれに関して、何か知っていることがあるのではと」
「あれに関してはないな」
なんかほっとしたような顔になる鎧衣課長。
「心当たりはあるけど」
頬を引っ張られた。意外と力強いなこの人。
「ひょーひき、ふまくひふほはほもっへはひゃったひゃら、へんはにひはなひほひゃくひょうひゃえひゃれひゃいんひゃよ」
「何言ってるのかわかりませんな」
「現場に行って確かめないと確証が得られない、と申しております」
通訳してないで助けてくれないかな、美沙。
「何もかも一人で進めてきた罰です。人を信じることにしたのですから、それは甘んじて受けてください」
「婚約者からのお許しも出ましたし、もう少しその身で罰を受けてもらいましょうか」
10分ぐらい続いた。しばらくまともな言葉が話せなかった。
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「では、殿下には博士の同乗に関しても話しておきます」
「ほろひふ」
「よろしく、だそうです」
「…きちんと確証が得られれば、話してもらえるのですな?」
「…」
美沙、通訳。
「成功の確率が一割以下だったため、自分でも信じられないそうです。他の可能性も十分考えられるため、いたずらに混乱をあおりたくない、と」
「…分かりました。出来れば我らで何とか出来る範囲で収まることを願っております」
帰っていった鎧衣課長をよそに、俺は外出の準備を進める。
国連がどれくらい時間を無駄にするのか知らんが、いつでもハガネに乗れるようにしておかなくては。
「シロガネの修理はもう俺の手を離れてるし、ランドグリーズは欧州の管轄。Mk-Ⅲの量産も順調。俺がいなくなってもとりあえず大丈夫か」
「いなくなっても、というのは最悪死んでも、ですか」
聞くまでもないだろ、それ。
「予想通りになればいいが、そうじゃない可能性も十分あるんだ。最悪の可能性もちゃんと考えておくべきだろ」
「ありえません」
美沙に後ろから抱きしめられる。
「何があっても、必ず私が守ります。だから、もっと、自分を大切にしてください」
「…無理だよ。俺はきっと、一生自分を許さないから」
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互いが撃ち出したビームが掠る。
既にABフィールドが意味をなさない至近距離。
ライフルを捨ててプラズマクローを展開。突撃しながら振りかぶる。
対して相手はクローもカッターも展開せず無手のまま。
構える相手に突撃そのままにクローを振り下ろせば、当たる瞬間に腕をつかまれ。
背負い投げをブースターの出力任せに振り切る。
無理やり引っこ抜いた右腕に異常。しかしまだ動く。
仕切り直すために距離を取ろうとするが、即座に距離を詰められる。
ブラスターキャノンを近づいてくる相手に撃つが、スウェーで避けられる。
そのまま一回転し、今度はあちらがブラスターキャノンを発射。
ギリギリでかわすがそのせいで下がり切れず、今度こそ接近戦に持ち込まれる。
覚悟を決めてクローを展開。機体各所のカッターも展開して体当たりを敢行する。
肩からぶつかりに行ったが、いなされて地面に向けて突っ込まされてしまう。
そのまま背中にクローを突きつけられ、終了。
シミュレーターが解放される。
「冷や汗ものだったぞ、白銀」
「勝った人のセリフじゃないですよ、北村少佐」
相手を務めてくれた北村少佐からタオルとドリンクをもらう。
ひとしきり汗を拭いてドリンクを飲む。
一息ついたらすぐに今の戦闘の検証だ。
今の俺は九郎が見出した将来有望な衛士候補、ということになっている。
俺自身の希望もあって、今から衛士としての教育を行っている、と。
そのついでに開発衛士の真似事もさせているということで、時々こうして軍の人と手合わせをさせてもらっている。
体がまだ小さいため実機こそ乗れないが、シミュレーターで模擬戦をすれば8割は俺の勝ちだ。
残り2割は北村少佐みたいなスーパーエース級、いわゆるタイプS乗りの人と戦った時だが。
このクラスの人たちとなると一瞬の判断ミスが即致命傷になるため、どうしても身体能力で劣る今の俺では粘り強く追いすがったり出来なくて、操縦が粗くなった瞬間にひっくり返されてしまう。
より動作を効率化することで何とか食らいついているが、やはり負けることが多い。
「大した向上心だ。その年でこれだけできれば少なからず天狗になってもおかしくないというのに」
「上を見ればきりがありませんから。驕ってなんていられませんよ」
そう、もっと強くならなくては。
守りたいものがいくらでもあるのだ、今度は何も奪わせない。
何も話してくれないが、九郎はあの侵攻について何か負い目を持っているように見える。
8年後に起きるはずだった被害に比べれば、民間人の被害はほぼ0で、軍の被害もかなり抑えられたというのに。
夕呼先生のように、言えない何かを抱え込んでいるのは分かる。
それに対して、俺ができることはほとんどない。
だから、もしも次があったとしたら、その時こそは俺が力になる。
あいつも、俺が守りたい大切な仲間なのだから。
〇命大事に
「わかりました、鎹を以て無理やりにでも自分を大切にせざるを得なくします」
「ちょ」
この後布団に引きずり込まれた模様。
次の話は明日更新予定です。