MUV-LUV大戦   作:土井中32

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やりすぎたかもしれん…。


48話 勝利の鍵

 

 

四週間。

国連が接近する小惑星への対応を決めるのにかかった時間だ。

正直言って遅すぎる。ハガネの準備は五日で終わったというのに。

 

初手せん滅か、対話を試みるか。

これを決めるだけで一週間かかったのだ。

そしたら今度はどこの国がどれだけ人員を出すかでまた揉めた。

対話に成功した時に備えて一人でも多くの人員を派遣したいと暗闘が繰り広げられ。

その様にぶちキレた俺が

 

「これ以上先延ばしにするならハガネ勝手に飛ばすぞ」

 

と脅して無理やり終わらせた。

シロガネ級設計者でいろいろ常識をぶっ飛ばしてきた俺ならほんとにやりかねないと思ったらしい。

…本当にやろうとしてブリッジ要員にとっ捕まったけど。

 

「地球からちょっとでも遠くで対応したい、とかのたまいながら無駄な時間使いやがって。全員途中で捨てていい?」

「怒りはごもっともですが、ご自重ください博士。人類間で内戦の火種をこれ以上増やすわけにはいきますまい」

 

ハガネのブリッジにて。

空いた席に拘束された俺が吐いた愚痴に水無瀬艦長が付き合ってくれている。

結局国連理事国から全権大使級が一人ずつ、そのほかの国はそれぞれの連合から一人ずつ、ということで落ち着いた。というか落ち着かせた。

艦載機の方は帝国が一個大隊、米軍が一個中隊。残り2個中隊は他の理事国からの寄せ集めだ。

正直これでいざ戦闘となったら連携とれるのか不安で仕方ないんだが、必要なことだと将軍様に命じられれば俺にはそれ以上何か言う権限はない。

 

「それに博士には仕事があるでしょう。鬱憤はその際にぶつけられては?」

「軍人じゃなくて上の阿呆共にぶつけたいんだがな」

 

ハガネの宙間戦闘については問題ない。

実際に宇宙に出て何度か試している。

訓練や想定通りにいくかはやってみなければわからないが、少なくとも不具合は出ない。

 

むしろ問題があるのは艦載機の方だ。

月から撤退して19年。宇宙空間で人型兵器を運用した記録はない。

つまり宙間戦闘に何が必要かすらわからないのだ。

それでも艦載機載せてるのは上陸作戦時に必要になるからだが、同時に行きの途中で宙間機動のデータ収集もやってしまおう、というわけである。

 

いや、実を言うと帝国にはすでに宙間戦闘のデータと訓練を積んだ衛士はいる。

タウゼントフェスラーと再突入殻設計した時にどうやって戦術機を乗せるのか聞かれたときに、

 

「え、ゲシュペンストは普通に宇宙でも運用できるよ?」

 

といったのだ。

すぐにどういうことだと詰め寄られ、ゲシュペンストは最初から宇宙空間での戦闘も視野に入れて設計・開発したと言えば全員からため息をつかれた。

その後、タウゼントフェスラーで軌道上まで上がり、宇宙空間での運用データ収集も行われていた。

もっとも地球上のBETA掃討も終わらぬ内から必要になるデータと経験とは思えず、せいぜい一個中隊くらいしか経験してないんだけど。

公的なデータではないので、この際他の国にも経験を積ませてしまおう、となったのだ。

 

そういうわけで、格納庫にはゲシュペンストしかいない。

米軍はガーリオンを持ち込みたかったようだが、気密性など宇宙で活動するために最低限必要な機能がなく、改修も間に合わないため海兵隊のゲシュペンストが参加していた。

ハイネマン技師はゲシュペンストが宙間戦闘も視野に入れていることを見抜いていたが、ガーリオン開発時に上からそんなもの必要ないと言われ切り捨てざるを得ず、それ見たことかと首脳陣に言ったらしい。

それでも現在は宙間戦闘仕様への改修を進めているらしいが。

正直言って同じ気持ちだ。ガーリオンの機動性は宇宙という広大な空間でこそ最大のアドバンテージを発揮するというのに。

 

「大鉄艦長、時間です。搭乗員も全て確認しました」

「よし。ハガネ発進。目標、地球圏に接近する巨大構造物」

「了解。ハガネ発進。目標、巨大構造物!」

 

ハガネがドックを出て離水する。

徐々に高度を上げる様子を見ながら、これから向かうあれについて考える。

 

「お前なのか。本当に帰ってきたのか」

 

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地球を出発して五日。

道中寄せ集め故の諍いはあったものの、大過なくここまで来ることができた。

移動しながらゲシュペンストを外に放り出してスパルタで宇宙での動かし方学ばせることになったが、そのおかげで哨戒行動の真似事ぐらいはできるようになっている。

…時々衛士共からすごい目で睨まれるが。

 

「近くで見るとやっぱりでかいな。正確な大きさは?」

「計測によれば一辺150kmを超えるようです。複数の小惑星を接続しているようで、形は例えようがないですが」

 

普通に岩の塊でいいんじゃないか。

 

「で、こちらからの呼びかけには応答なし?」

「視認距離まで近づいていながら、まったくの音沙汰なしです。とっくに気付いているはずですが」

 

俺の他にも乗ってきていた各国の科学者たちがさまざまなアプローチを試みているが、まったくの無反応である。

レーダーらしき電波は探知されているので、こっちに気づいているのは間違いないのだが。

 

「ソ連の連中は?ESP発現体連れてきてんだろ?」

「こっそり見張らせてはいますが、特に何かをつかんだようには見えないそうです」

「というより、初日のごたごたでそれどころではないというところではないか?」

 

正確には第3計画から派遣された連中だが、ソ連が半ば私物化してるのは公然の秘密だからな。

連中美沙よりも世代の進んだ、おそらくは第5世代あたりを連れてきていたようなのだが。

初日の面通しで俺を見た途端、ひっくり返って泡吹いて動かなくなってしまったのだ。

すぐに医務室に担ぎ込まれ精密検査が行われたが、原因は医学的なものではなく。

美沙いわく、俺の頭の中を見てしまったのが原因らしい。

大量の技術情報と常時それに対して行われている考察、俺が見てきた数々の悪夢に未来で起きうる事象。

それらをいっぺんに受け取ってしまい、頭がキャパオーバーを起こしてしまったのだ。

かろうじて意識は戻ったらしいが、受け取った情報量が過多すぎて脳の一部に障害が出てしまい、内容を思い出せない上に能力も使えなくなったらしい。

 

あわよくば俺の持つ技術情報も手に入れたかったんだろうが、結果として自分たちの首を絞めただけに終わった。

乗ってきている連中は偉い奴ばっかりなので第3計画で行われていることを知ってるから、今回の裏事情にも気付いている。

ソ連の連中は艦内で肩身の狭い思いをしている、というわけだ。

 

…恒常的に覗いてる美沙は平気なのかと聞いたら、昔から見ていたから慣れているし、すごく相性がいいから問題なく処理できているらしい。

普段は俺の頭ン中覗かれないようにガードもしてくれていたらしいが、今回はこうなると確信していたからわざと見せたとか。

これでソ連連中は二度とこんなことしようとは考えないだろう。

 

「死が私たちを分かつまで、どこまでもあなたを守ります。あなたを脅かす全ての存在から、絶対に」

 

などと微笑みながら言われて、ちょっと直視できなかった。

 

「さて、いつまでも眺めてたってしょうがないし、俺も加わるか」

 

ブリッジから眺めていた岩の塊から目を離し、解析に躍起になっているであろう科学者たちのいる解析室へ行こうとした時。

 

「構造物に反応アリ!」

 

ブリッジが一気に緊張感を増す。

 

「詳細を報告せよ」

「構造物よりデータが送信されてきました、正面に出します!」

 

正面の大型ディスプレイに表示されたのは。

 

『パスワードを入力してください』

 

の一言のみ。

…ただし、その下でカウントがどんどん減っていたが。

 

「博士、これは!」

「時間までに正しいパスを返せなければ何らかのアクションを取る、ということだな。いい方向のアクションではなさそうだが」

 

カウントは今も減っている。あと300秒。

 

「下の様子はどう?」

「解析室ですか?殴り合い一歩手前ですね。誰が真っ先に試すかで揉めているようです」

 

科学者ですらこれかよ。そんなんだからBETAに負けるんだっつーのに。

 

「あ、今アメリカ代表が入力を行いました」

 

入力されたのはHelloて、ただのあいさつかよ。

当然弾かれた。

その後も代わる代わるいろんな人間が試しているが、全部弾かれている。

その間に軍人たちは戦闘準備を進めている。科学者たちにはどうにかできそうにないと見切りをつけたらしい。

全権大使級はさすがどっしりと構えているが、その下の連中は浮足立っている。

下手するとここで宇宙の藻屑になるからな。慌てるのは分からんでもないが、そうなる可能性考慮してなかったのか?

 

そうこうしている間にもう残り60秒を切った。

科学者たちはもうあきらめ顔だ。誰も入力しようとしない。

 

「諦めんの早すぎだろ。まだ時間あるってのに」

「博士、愚痴はいいですからせめて席についてください!これから戦闘になる可能性が高いんですよ!?」

 

小野寺大尉は慌てているが、逆に水無瀬艦長はさすがどっしりと構えている。

…というか鎧衣課長から何か聞いてるのか?

 

「しゃーねえな。通信手、ヘッドセット貸せ」

 

いきなりの要求に面食らっていたが、通信手は素直に貸してくれた。

ヘッドセットのマイクに向かって、俺はそれを”入力”した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パスワード入力。”P・A・S・S・W・O・R・D”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カウントが、止まった。

ついでに俺を見ていたブリッジ要員も。

解析室でうなだれながら聞いていた科学者共も。

貴賓室でモニターしていた大使たちも。

 

『…声紋認証、パスワード入力、共にクリア。マスター、そこにいるのですね?』

 

スピーカーから聞こえてきたのは、明らかに合成とわかる声だった。

つーか、俺が設定した奴そのまんま(●●●●●●●●●●●●)だな。

 

「やっぱりお前だったか。本当に帰ってくるとはな」

『あの時言ったはずです、マスター。”必ず任務を達成して見せる”と』

「そうだな、お前は確かにやって見せた。お前は宇宙一の”AI”だよ」

『恐縮です、マスター。シロガネ級に乗る皆さんも歓迎いたします。私はマスター・稲郷九郎が開発した自己開発・自己人格型AI、”かぐや”と申します。

今、皆さんの前にある小惑星集積型宙間プラットフォーム、”きぼう”の統括コンピューターでもあります』

 

急速ターンを決めた状況に誰も追いつけず、艦内は沈黙が満ちるばかり。

が、一番に追い付いたのはこの場の最高責任者だった。

 

「シロガネ級二番艦ハガネ艦長、水無瀬大鉄だ。かぐや、と呼んでよいのか?」

『それで構いません、水無瀬艦長』

「我々の目的は君の管理する”きぼう”の調査だ。問題がないのならばその宙間プラットフォームとやらを調査させてほしい」

『私も”きぼう”もマスターの物です。マスターの許可なしではそれを受け入れることはできません』

「俺は構わねえよ。細かいところはお前任せだから、実際どうなってるのか見たいしな」

『承知しました。第3ゲートを開放します。誘導ビーコンに従って入港をお願いいたします』

 

通信が切れ、岩の塊に変化が生じる。

一部が動き出して内部がさらされ、そこから誘導ビーコンが発振された。

 

「操舵手、誘導に従って入港しろ。保安要員には白兵戦の用意をさせておけ。万一の事態に備える」

「…はッ!?ハイ、了解しました!」

 

呼びかけられて意識が戻ってきた小野寺大尉が艦内に指示を飛ばす傍ら、水無瀬艦長がこっちを見る。

 

「どっから説明してほしい?」

「最初から、一字一句残らず、聞く権利のある者全員の前で、です」

 

口にくわえたパイプをギシギシ言わせながらこっちを睨んでくる水無瀬艦長に、俺は素直にうなずくしかなかった。

 

 





〇泡吹いてぶっ倒れたESP発現体

試しに10KBダウンロードしようとしたら、強制的に1000TB叩き込まれたとイメージしていただければ。
本来だったらその場で頭がパーンしてもおかしくなかったのですが、そうなる前に無意識でリーディングを打ち切ったために何とか死なずに済みました。
代償は大きかったですが。



〇スパルタ

九郎「ハガネはこの先の暗礁宙域を迂回してこの座標に5時間後に着く。それまでにあのデブリの中潜り抜けて指定したポイントまでたどり着け。間に合わなかったら置いてくから」
いきなり機体ごと外に放り出された衛士たち『ちょ!?』

なお、何とか全員時間に間に合った模様。
衛士たちの結束は強くなったが、九郎を見る目に殺気がこもるようになった。


今週の更新は以上です!同時に今年最後の更新となります、皆様よいお年を!
…いい加減、バイトじゃなくてちゃんとした仕事決めないとなぁ…。

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