この展開でいいのか悩んでました。
時間置いてから見ないと矛盾点や考察の抜けに気づけないんですよね…。
「初めましてだな、天才物理学者殿」
「嫌味かしら、帝国躍進の立役者さま?」
帝都某所。
とあるホテルの一室にて、俺はこの世界のキーパーソンと顔を合わせていた。
マウント取るために遅れてくるかと思ったがちゃんと時間通り来たな。まあその場合は会う気がないと判断してさっさと帰ってもう会わないつもりだったが。
「一応、評価しているって言いたかったんだがな。香月夕呼博士」
「とてもそのようには聞こえないわね、稲郷九郎博士」
香月 夕呼。
マブラヴ原作において、人類が勝利できるか否かはこの高慢ちきな少女に懸かっている。
自他ともに認める天才なのだが、とにかく言動が目的達成にだけ向いており、敵を作ることをいとわないせいで恨み妬みを持つ人間も多い。そのせいで肝心かなめの計画に邪魔が入ることもしょっちゅうだった。
「それで?お互い忙しい身だ、さっさと用件に入ろうか」
テーブルに着くなりさっさと話しを進めてしまう。
彼女が求める物はなんとなくわかってるし。
「せっかちね。少しは会話を楽しむ気はないのかしら」
「ない。あんたが欲しいのは俺の技術か、影響力か。そうでないなら――
――かぐや、だろ?」
図星らしい。口元が引き締められた。
「因果律量子論、そこから派生した量子電導脳の開発。その行きつく先は生物学的根拠0、生体反応0な非炭素疑似生命体。それを用いたBETA諜報員計画。それがあんたの提唱している次期オルタネイティヴ計画日本案、だったな」
「…そこまでご存じとはね」
かぐやは俺の人格をベースにしたとはいえ、独立した人格を持った自己人格型AIだ。
本来の00ユニットとは経緯が違うが、要件を満たしているのは間違いない。
開発時には量子コンピュータの雛型を使ったから、処理能力もかなり高いし。今は最新の研究で作り上げた量子コンピュータに換装してあるから、やろうと思えば地球中のコンピュータをすべて乗っ取ることも可能だ。ネットワークが未熟なこの世界では独立端末も多いからあまり意味もないし、誰にも言ってないけど。
リーディングやプロジェクションこそできないが、調べれば量子電導脳型00ユニット開発の大きな一助になるのは間違いない。
「悪いがお断りだ。俺はあいつに人殺しをさせるつもりは一切ないんだ」
「まるで私が人殺しをさせようとしてるように聞こえるのだけど」
「あんたがやらせなくてもいつか必ずそうなる。00ユニットとはつまるところ無人兵器だ。それを手に入れた人類のやることなんて容易に想像できる。違うか?」
香月が沈黙する。
いまだ17の未成年とはいえ、大人の醜さについてはよく知っているだろうし。
「00ユニット開発に助力いただけなくても、無人兵器が投入されれば前線がどれだけ助かるか理解しているはずでしょう?」
今度は情に訴えてきたか。だが無駄だ。
「すでに無人兵器の準備は始めてる。かぐやのコピーじゃないがな。だがどんなに厳重なプロテクトを掛けようが、人の作ったものである限り必ず破られるときは来る。そして人類ってのは、便利なものがあれば必ずそれの悪用をするものだ」
確かにその気になればいつでも無人兵器を投入できる。
かぐやに封印させたWシリーズを投入すればいいだけだからな。
Wシリーズ。
スパロボOGに登場した一勢力、”シャドウミラー”が運用していた人造人間だ。
個性と固有の名前を与えられたハイエンドモデルの通称”ナンバーズ”と画一的な見た目と性能の量産型が存在するが、どちらも対人白兵戦闘から機動兵器の操縦までこなせる兵士として見るとかなり上等な能力を持っていた。
そして人造人間の名の通り、工場で量産できる兵士でもある。
かぐやの対人コミュニケーション端末であるあのガイノイドは、ナンバーズをベースに組み上げられたものであり、当然製造設備は最重要機密エリアに秘匿されている。
量産したWシリーズにかぐやのコピーAIを乗せた無人兵器が戦場で稼働すればどれだけ戦死者を減らせるかなど、言われなくても分かっている。
考えなかったわけではないのだ。きぼうの小惑星の一つを丸ごと大気圏突入カプセルに改造し、Wシリーズを乗せたゲシュペンスト2000機をカプセルに突っ込んでカシュガルにぶつける。
おそらく瞬間的な数の暴力でカシュガルを落とせるし、無人兵器だから帰還手段を考慮する必要はない。全滅しても重頭脳級を倒せればそれだけで十分お釣りがくる。
だがそれは、無人兵器の力を知らしめしすぎる。
その結果起こるのは、人のいない戦争だ。
殺し合いの痛みを忘れれば、人は今より愚かしくなる。
そうして馬鹿になった人類の愚かな所業によって滅んだ世界だってごまんとある。
だから俺は、できれば無人兵器に頼りたくなかったのだ。少なくとも地球を取り戻すまでは。
防衛圏できた後で勝手に殺し合う分にはどうぞご勝手に、というスタンスだし。
我ながら矛盾してると思うよ。人の死に引っ張られてるくせして無人機は作りたくないってんだから。
BETA追い出した後のことはどうでもいいと言いながら、無人機で地球を取り戻した後のことを心配してるし。
俺は一体、人類にどうなってほしいんだろうな。あれこれ言ったが結局開発を始めてるわけだし。
…放射能汚染著しい中国大陸奥地では陸戦戦力の展開が難しいので、仕方なく準備してるわけだが。
それにかぐやのコピーが難しいという問題もある。
アステロイドベルトの集積基地に一基存在するが、それの製造に3年かかったとかぐやからは報告を受けていた。
あそこまで高度に成長・人格形成したAIをコピーするのは人間の精神をコピーするのとさほど変わらない。当然それに付随する問題も発生する。
目の前に自分が現れれば、人はそれに殺意を覚えるという。
自分という存在の単一性を脅かされるからだ。
かぐやのコピーも同じ理屈で全く同じコピーを作ることはできなかったらしい。微妙に性格が違うとか。
要するに、かぐやをそのまま大量生産するのは無理だ。
量産型Wシリーズをそのまま運用するにしても、その思考ルーチンは対BETA戦に合わせて一から組まなければならない。TC-OSから収集したビッグデータを活用しても年単位の仕事になるだろう。
量産体制が整う前にカシュガルに攻め込む方が早い筈だ。
…まあ、ここまでが割と理屈的な理由だ。
「10年。己以外何もない場所で、ただ使命だけを胸に必死で頑張って帰ってきたあいつを、これ以上地獄に送り込みたくはないんだよ。俺は」
話相手は己のコピーだけ。それもかなり作業が進んでからのはずだ。
それまでずっと一人で頑張って。直接は関係ない人類のために1割以下の成功率を超えて帰ってきたあいつを、俺はただの機械と割り切れないのだ。
帰ってきたあいつに、何が褒美に欲しい?と聞いたら、あいつはこう答えたのだ。
「では、マスターのお世話をさせてください」
と。
以来、最初に作られたあのガイノイドは俺の家で美沙と一緒に家の家事を担当している。
ケンカするかと思ったが、二人仲良く家事をするさまは仲のいい姉妹のようだ。
そんなあいつを、コピーだとしても戦場に送り込む?
きっとそこであいつは、人間の負の面をいやというほど見ることになる。
いや、見るだけでは絶対に済まない。その片棒を必ず担がされる。
…頭がメリットを囁いても、心が拒絶する。
だから俺は、かぐやを戦場に出したくないのだ。
「…存外、甘いのね」
「何とでも言えばいい。情を捨てれば俺はただのろくでなしだ。そして誰が何と言おうと、かぐやに関する権利は俺のものだ。俺を納得させない限り、かぐやに関する情報を公開する気はない」
何より、俺は量子電導脳を開発させたくないのだ。
香月夕呼は00ユニット開発時に、致命的な失態を犯している。
量子電導脳はその機能維持のため、ODLと呼ばれる液体で内部を満たしているのだが。
このODL、機能維持のためどんなに長くても72時間ごとの交換が必要で、抜き出したODLをどうしていたかというと。
なんと横浜ハイヴの反応炉、つまり頭脳級にぶち込んで浄化処置を行っていたのだ。
結果、00ユニットから頭脳級を介して人類側の情報が漏れるという致命的な失態を犯してしまい。
BETAが人類に対する有効な対策を打ち出す前に、中枢たるカシュガルの重頭脳級を倒す作戦、桜花作戦を急遽発動せねばならなくなってしまったのだ。
成功こそしたが急な作戦だったために世界規模で多大な損害が出てしまい、その後の人類に大きな爪痕を残すことにもなってしまった。
BETAに関する研究が不十分だったとはいえ、佐渡島攻略戦で他のハイヴの情報も抜き出せたことから頭脳級が通信装置の役割を持つ可能性にも気付けたはずなのに。
その後もODLを横浜反応炉にぶち込んでいたというのだから、天才が聞いて呆れる。
問題はまだある。
量子電導脳の開発に成功した場合、それを介して並行世界の因果が流入してくる可能性があるのだ。
原作において白銀がこの世界に来た原因である鑑純夏はハイヴ内にあったG元素を用いて並行世界に干渉し、人一人を構成できるだけの因果を引き込んでいる。
結果、白銀は因果導体として並行世界間の因果の出入り口として機能してしまい、元の平和な世界にこちらの世界の因果を持ち込んで様々な悲劇を起こしてしまった。
香月の開発しようとしている量子電導脳も並行世界に存在する全ての量子電導脳とリンクして並列処理をする、という仕様らしい。
つまり、因果導体に近い機能を有していることになる。
もしも、原作の白銀のように因果の通り道として機能してしまったなら。
今度は無差別に因果がぶちまけられるかもしれない。下手をすると人類に不利な因果ばかりが。
現状ですら無能や馬鹿な連中が幅を利かせて困ってるのに、それがさらに増えるとかもうBETA戦どころではない。
そんな地獄絵図などごめんだ、避けられるなら避けたい。
何よりこの女、敵を作り過ぎる。
なまじ頭がいいせいかナチュラルに他の人間を見下し気味だし、そのせいで自分で考えたことの穴に気づけない。天才の自分が考えたことが間違ってるはずがないと思い込んでるからだ。
だから量子電導脳の完成に並行世界の自分の手が必要だったし、ODLの問題に気づくのが遅れた。
聖母ではあるが、同時に死神なのだ、この女は。
…俺が言っていいことじゃないがな。
もっと他の人間を頼ればこういった問題も解決できたかもしれないのに、全てを見下していたから彼女は失敗し続けた。
ひらめきというのは、どこから得るかわからないものだ。
平和な世界の香月が、クソゲーやってるときに新たな理論を思いついたように。
俺自身、マッドどもの突拍子もない行動から閃いたものはいくつもある。
結局、一人で成せることなどそう多くはないのだ。
かつての俺と同じく、他者を信用していない今の彼女では何も成すことができないだろう。
「話はそれで全部か?なら帰らせてもらう。あんたよりもやること山積みなんだ」
今のこいつに俺を説得する材料はないらしい。
だから話を切り上げて帰ることにする。昔ほど無茶はしていないが、それでもやることはたくさんあるのだ。
「…逃げるのかしら?」
「己一人で人類背負った気になってるガキ相手にしてるほど、こっちは暇じゃない。この無駄な時間を取り戻さなきゃならんのだ。まともな話したけりゃ、その人間不信と見下し精神何とかしてからにするんだな」
どの口が、と幻聴がした。
…十分理解してるよ。
「…帝国侵攻」
ドアノブをつかもうとした手が、止まる。
止めてしまう。
「予測困難とはいえ、あれは明らかにそれまでのBETAの行動規範から外れた行動だった。私はあれにあなたが関係していると睨んでいるのだけど?」
大した女だ。半分はカマかけだろうが、俺の反応で確信したんだろう。
振り返れば勝ち誇ったような顔でいる。
「仮に、そうだとして」
だが、こいつはまだ甘い。
俺がどんな人間か見切れていない。
「それが公表されたとしても、俺のやることは変わらない。火星まで人類の生存圏に組み込み、対BETA防衛網を構築する。それができたら、いつでもこの首くれてやる」
「…公表されれば、それも難しくなるのではなくて?」
「別に俺の手柄である必要はない。最終的にそこまで行ければ俺が途中で死んでも問題ない。今だって物事進めやすいから生きてるだけで地球を取り戻す道筋はつけてあるし、いつ死んでも問題ないよう準備は整えてる」
もしもトロニウムの件が漏れた場合、俺が帝国侵攻の原因であることを証明する証拠や書類は自動的に世界に公表されるように仕組んである。
帝国がそれを糾弾できないよう、俺が脅していたという捏造した証拠付きで。
…じいちゃんや叔父さんにはでかい迷惑かけてしまうが、俺のせいで帝国が、ひいては世界が割れるほうが問題だ。
運命共同体と言ってくれた将軍様たちには悪いが、責任全部俺におっかぶせて知らんぷりできる逃げ道を残しておかねばならない。
予測不可能?事故だから責任はない?そんな言葉で人の感情を収められるわけがない。ましてや書類上はともかく俺は事実上ただの平民だ。
将軍様や総理大臣、BETAよりも叩きやすい相手が現れれば、必ずそっちに矛先が向く。
大切なものを失った恨みか、義憤か、我欲か。理由は知る由もないが、間違いなく俺は戦犯としてつるし上げられる。俺を守ろうとした人間も巻き込んで、だ。
”坊主憎けりゃ袈裟まで憎い”だからな。俺に関わった全ての人間が被害を被りかねない。
俺は死んでも技術を残せる。だが人望やコネ、個人に付随する能力はそうはいかない。
彼らの能力はまだ失うわけにはいかないものだ。
まだ完全ではないが、地球を取り戻すための俺の構想については殿下に話してあるし、必要と思われる技術や兵器の設計図はかぐやに託してある。
時間はかかるだろうが、俺がいなくてもBETAに勝てる可能性は残してあるのだ。
…全部知っていて黙っていてくれる美沙には、本当に済まないと思ってるが。
「今この場で死んでも問題ない。あるとするなら人類間の内戦勃発することぐらいか」
きぼうとかぐやの権利が浮くからな。絶対取り合いが発生する。
オルタネイティヴ計画の強権を以てしても、きぼうの接収など不可能だ。誰もそれを認めることなどできないだろう。何よりかぐやがそれを受け入れまい。だから規模までは予想できないが戦争が起こる。
それでどれだけの犠牲が出るか知らないが、そうなったら好きにしていいとかぐやには言ってある。
あいつがどんな判断するか知らないが、馬鹿どもが後悔する結末になるのは間違いないだろう。
「で、それで終わりか?」
彼女は答えない。
一切揺るがない俺を見て、はったりではないことが分かったのだろう。
悔しそうな顔をしているが、俺を止める様子はない。
「つまらん。中途半端過ぎるなお前は」
カマをかけるのならそこから詰めまでしっかり準備しておくべきだったのだ。
俺をしっかりと見極める前に動いたから失敗した。
白銀同様ループしてる可能性も考えていたが、これは見た目通りのガキだ。考慮に値しない。
それきり視線を外す。鎧衣課長は最大限に注意を払ってくれているはずだし、斯衛の連中も警備のためかなりの重装備を持ち込んでる。
だがそれと真っ向から戦うことになってでも俺を、あるいは俺の首を欲する連中は枚挙にいとまがない。外にいる時間は一秒でも短いほうがいい。
改めて部屋の外に出ようとして。
「主よ、不遜なる悪魔に裁きを!!」
廊下が大爆発した。
…よりによってお前らかよ!?
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『白銀様、緊急事態です』
「…使える機体を教えてくれ」
救いたいものがたくさんあった。
何もできないもどかしい時に出会った。
俺にできることを用意してくれた。
未だ力足りぬ俺の代わりに、この世界を救うために必死で戦っている。
だから、助けに行くのに理由なんていらない。
もう二度と、大切なものを取りこぼさない。
そのために、力を欲したのだから…!
次回、舞い戻る英雄(嘘)
次話は明日更新予定です。