「ここが、日本帝国か」
私の名は、エルザム・V・ブランシュタイン。
故郷ドイツにて代々軍人を輩出してきた名門、ブランシュタイン家の長子だ。
私自身現在は西ドイツにて部隊を預かる身なのだが、先日久しぶりに旧友より文が届いた。
「この終わりなきBETAとの戦いに終わりをもたらすカギがある。それの完成のためお前の力を借りたい」
戦いを終わらすカギ、という言葉に興味をひかれ、私は友のいるこの国に来たのだ。
空港にて迎えを探せば、その男はすぐに見つかった。
「久しぶりだな、友よ」
「エルザム、よく来てくれた」
旧交を温め合うのもつかの間、すぐにそのカギのもとへ向かう。
「姉君のことは聞いた。今更ながらお悔やみを申し上げる」
「すまんな。出来れば姉上のもとに案内したいが、九郎が早くつれて来いとうるさくてな」
「話に聞く甥か。随分と懐かれているようだな?」
「むしろ便利に使い倒されているがな」
そんな世間話をしながら、ついたのは一軒の屋敷。
ゼンガーの師であり、姉君殿の義父が構える道場だそうだ。
案内されれば、居間にその少年は座っていた。
ゼンガーよりは黒みがかった灰色の髪に、鋭い瞳は黒真珠のよう。
まだ十歳にも至ってないそうだが、それを忘れさせる迫力を持っていた。
「あなたが、エルザム・V・ブランシュタイン少佐?」
「ああ、そうだ。稲郷九郎君、だね?」
きれいな正座をした少年に言い知れぬ何かを感じ、私も対等の立場をもって返す。
「遠路はるばる、こんな極東の果てまでよく来てくださいました。BETAとの戦争でお忙しい中時間をいただき、感謝の念に堪えません」
「堅苦しい言葉は不要だ。私は友の言う戦争を終わらせるカギという物に興味を引かれただけだからね」
ゼンガーに聞けば、それを作ったのはこの子だという。
友が嘘をつくとは思っていなかったがなるほど、この子が作ったと言われればどこか納得してしまう雰囲気を感じる。
「では早速見ていただきましょう」
そういって少年はテレビのスイッチを押した。途端、
「ムッ!?」
部屋がエレベーターのように下降しだしただと!?
まさかこんな仕掛けがあるとは!
してやったり、という表情をする目の前の子供に笑うしかない。
どうやら見た目相応のいたずら心もあるようだ。
やがて見えてきたそれに、私は驚くことしかできなかった。
現在配備されているどんな戦術機とも違うフォルム。
だが見ただけで感じる、その身に秘められた圧倒的な力。
「PTXー001 ゲシュペンスト。こいつの開発にあなたの手を借りたいのです」
そういって提示されたのはこの機体のカタログスペックと使われてる技術の概要。
核融合炉を搭載している!?
アメリカですらいまだ机上の空論のはずだぞ!?
光学兵器の実装!?
対光学バリアの装備!?
戦場の常識がひっくり返るぞ!!
連続2000時間稼働の実現!?
何日戦わせるつもりだ!!
推定第六世代機、という言葉を締めくくりに説明は終わったが、私の口は空いたまま閉まらない。
こんなもののどこに私の力が必要なのか、と一瞬思ったが、すぐに気づいた。
「ハードに関してはわかった。だがソフト、操縦系に関しては省いたね?」
私の質問に彼は破顔する。
「ええ。手伝っていただきたいのはまさにそれです」
そういって見せられたのはTC-OSの概要。
なるほど。と納得する。
「機体の完成度をより高めるためには、優秀な衛士の機動パターンが必要。そのサンプリングのために私を呼んだのか」
「はい。何せ今いる面子はとにかく近づいて殴ることしか知らない原始人ばっかりなもので」
後ろですごいオーラを感じるが言った本人はどこ吹く風である。
随分と肝の据わっているものだ。
「それで、ゼンガーは私を呼んだのか。確かに射撃戦で私以上、という者はそうはいないだろうな」
「手伝っていただけるなら、いろいろと便宜を図らせていただきますが」
「ほう、具体的には」
「こいつのライセンス生産の優先権、とか」
思わず彼を凝視する。
「いいのかね?国に黙ってそんなことをして。これは君一人で作っているわけではないのだろう?」
「金から技術からまるっと100%すべて俺の物ですから。俺がどうしようと国は何も言えませんし言わせませんよ」
明らかに不機嫌になった彼に訝しんでいると、ゼンガーが耳打ちで教えてくれた。
なるほど、不機嫌になるのも納得できる。
「しかしそれならライセンスと言わず全て持ってうちに来る気はないかね?こう見えてそれなりに国の上層部に伝手もあるのでね。君が存分に腕を振るえるようにできると思うが」
キタムラ、といったか。衛士の一人の顔がゆがんだが無視して聞いてみると、彼はあっさりNOと言ってきた。
「BETAに押されているうえ、今は東とテーブルの下で足の蹴り合い中でしょ?俺は政治の道具にされるのは嫌ですし、暗殺・誘拐もごめんです」
思ったよりも色々見えている子だ。
これは無理だなとあきらめる。
「承知した。今はライセンスで納得しよう。出来れば実機を何機か融通してもらいたいが」
「それはあなたの働き次第、ということで」
その言葉に頷き、手を伸ばす。
「改めて、エルザム・V・ブランシュタインだ。よろしくお願いする」
「稲郷九郎です。働きに期待します」
小さな、それでいて偉大な手と握手を交わし、私の仕事は始まった。