MUV-LUV大戦   作:土井中32

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急にお気に入りに登録する方が増えて何事かと思ったんですが、日間ランキングをふらふらしていたようで。いや、本当に何事?
とにかく登録してくれた方々に感謝を。何とか完結目指して頑張ります。




59話 出荷延期

 

「直接的な原因は例の無人機へのちょっかいです」

「やっぱり手ェ出したか」

 

実験中止してやむなく鎧衣課長から事情を聞くことになったんだが。最初は予定通りだったようだ。

 

BETAの本丸たるカシュガル。それがある中国大陸の奪還は重要案件だが、BETA以外にもそれを阻む要素が存在する。

大戦初期、中国軍はBETAの進撃を阻むため、自国内で核兵器の使用に踏み切った。

それはもう盛大に使いまくり、結果として中国大陸は人が住めない不毛の大地と化した。

その放射能汚染はすさまじく、専用の装備がなければ車や戦術機に乗っていても危ないほどだ。

 

つまり、逆撃をかけるとこの危険な場所で戦わねばならないわけだ。

 

ベイルアウトしようものなら数分で死にかねない。そんな立ってるだけで危険な場所など無理して取り戻したくなどないが、最低でもハイヴは攻略せねばならない。

そのためには地上戦力がどうしても必要。軌道爆撃と降下だけでは敵の物量に対応しきれない。

そう説得され、やむなく俺は無人機の開発に踏み切った。

そうして生まれたのがゾイドシリーズ、その試作機たるライガーゼロ、というわけだ。

広大な中国大陸で安定した走破能力を持たせるため四足歩行を採用。

実験機ゆえ人の手が必要なCASなどを盛り込んだが、量産される機体はできうる限りのメンテナンスフリー化を行い、投入したら後は人工衛星などで監視・ナビゲートするだけでゾイド個々の判断で攻撃を行うシステムにする予定だ。

加えてゾイドコアの放射線除去機能により、自然に任せるよりも早く人が住める大地に戻せる、というわけだ。

 

もっとも、放射線除去はゾイドコアの機能の一部でしかなく、その正体は周辺環境があらかじめインプットした環境に近づくよう取り込んだ物質を変換する物質転換炉、それを応用した環境改善装置なのだが。

内部に取り込んだ物質を原子レベルまで分解、テラフォーミングに有用な物質へと再構成して吐き出す。水と空気があれば生きられるどこぞの怪獣みたいなことをゾイドコアでやっているわけだ、取り込んだ物質全てに。そして分解・再構成時には副産物としてエネルギーが発生するので、それをゾイド本体の稼働に当てている。

ゆくゆくは火星などのハビタブルゾーンの惑星に放り込み、防衛戦力兼テラフォーミングマシンとして働いてもらう、というのが最終的な目標だ。

 

防衛圏に組み込む以上、火星のテラフォーミングは必須事項。

しかし火星でのBETAの駆逐に成功しても、新たな着陸ユニットによる再侵攻の可能性は残り続け、そんな中でのテラフォーミングは困難を極める。軌道上に部隊を張り付かせても絶対はないからだ。

大型の装置であれば防衛戦力を張り付かせねばならず、また地球とは別次元の過酷な環境に耐えうる頑強さ・保守点検ができる作業員も必要。彼らを生かすために定期的な物資投下すら必要だ。

かといってナノマシンを使った場合はナノハザードの可能性を無視できない。暴走したナノマシンの前例を知っている身としては特に。

そうした条件を考慮した結果、過酷な環境下でも安定した移動能力を持ち、それそのものが自己防衛のための戦闘力を備え。加えて大型且つ単独で全てを賄うのではなく小型複数機でテラフォーミングを行うことで故障・破壊された時のリスク低減と一定エリアへの集中投入・分散しての広範囲展開など柔軟な運用を目指した結果がゾイドシリーズというわけだ。

無人機であれば定期的な物資投下も必要なく、人類がやることは故障・破壊された機体の代わりを送り込むことぐらいで済む。必要数を投下したら後は人が生きられる環境になるまで彼らに任せればいい。

 

そのための長大な稼働時間、一部にナノマシンを採用してのメンテナンスフリー化だ。

…ナノマシン開発のため技術情報確認してたら、ズフィルードクリスタルの製造方法があって思わず変な声出たが。

原作OGではいまだ正体不明の勢力、ゼ・バルマリィ帝国が運用する金属細胞、一種のナノマシンだ。

自己増殖と再生だけでなく吸収した物体を解析、それを基にした自己進化すら可能という、これさえあれば全部解決するんじゃないかと思わず言ってしまいそうな夢の素材である。

さすがに製造技術が足りなくてそのものは作れず、地球版ズフィルードとも言えるマシンセル、その更に劣化版しか作れなかったが。

関節部などの摩耗しやすい部分に構造材として採用することで動きを止めているときに擦り減った分を自己修復できるようになったが、それ以上の能力はない。というかこれ以上の機能付加は暴走しそうで怖い。有人機への採用も。

データと基本設計図を技術廠に丸投げしたから、あとは向こうの仕事だが。コスト・量産性を考慮した量産1号機としてコマンドウルフの準備が進められている。

 

ちなみに。ゾイドシリーズの軍事利用は帝国が主導、というかほぼ単独で進めているが、ゾイドコアの効果検証・改良はカナダに作られた専門機関で国家問わず、民間すら巻き込んで研究が進められている。

特にカナダの入れ込みようがすごい。場所の提供だけでなく人材、資材まで相当な量をつぎ込んでいる。ある意味当然ではあるが。

74年にカナダ国内・アサバスカに落着したBETAの着陸ユニット撃滅に核兵器を集中運用したため、あれから20年近く経っても国土の半分が汚染区域のままなのだ。

効果検証にちょうどいいと思って政府通して声かけてもらったら、食い殺されそうな勢いで食いついたからな。

なのでゾイドコアの検証と改良については向こうに丸投げした。単体ならただのテラフォーミングのついでにエネルギーを生み出す発電装置だからな、危険性はあまりない。

カナダの呼びかけで専門機関が設立されるとは思ってなかったが。BETA支配地域を抱える国から派遣された人材が結構多い。

今のところはお行儀よく一緒に研究しているそうだ。

 

閑話休題。

 

で、防衛兵器としての実地データ収集として中華戦線に送り込むのが一番いいとはなったのだが。これまでの経緯から中国に知られると絶対にやらかすと俺だけでなく帝国も確信しており、しかしデータ収集と実戦試験は必要ということで悩んでいたところ、台湾側からある話を持ち掛けられたのだ。

 

「もう無理。帝国か国連の傀儡でいいからあいつら切るのを手伝ってくれ」

 

…と。

連中に振り回されたのは彼らも一緒だからな。なまじ共同戦線組んでるから一緒くたに扱われて迷惑ばかり被ってるし。

…で、誰かが言っちゃったのだ。

 

「もう連中暴発させて物理的に潰したほうが地球のためじゃないか?」

 

物資の中抜きから始まり、ハニトラ、強奪未遂、テロリストへの協力、挙句の果てにタイプSの横流し。

そもそもカシュガルにBETAが落ちてきたとき、鹵獲技術の独占を目論んで支援を断ったところから地球戦線は始まっている。

指導部はその責任を取ったかと言えば、トカゲのしっぽ切りとライバルや部下への押し付け、責任転嫁でいまだに椅子でふんぞり返っている連中ばかり。そして自分たちがやったこと・やっていることがどれだけ迷惑かけてるか理解していない。

なまじ現場の連中がまともなのばっかりなのが中華戦線に派遣された米軍や国連軍から報告されているから、余計に指導部へのヘイトが溜まる。

 

…半ば冗談のつもりで持ちかけたその話を、各国は了承。

連中が飛びつく餌を帝国が用意し、飛びついたらそれを理由に台湾側が蜂起し、そこに国連の名のもと介入。徹底的な膿み出し、というかほぼ解体を行って傀儡の指導者を立てる計画だった。

理事国の拒否権?今の全権大使は既に買収済みだ。

そういうわけで帝国よりデータ収集のために、そしておいしい餌として貸し出されたのがライガーゼロだったのだ。

そういう裏事情がなければ帝国派遣部隊で運用試験をしていたし。

後は連中が飛びつくのを待つばかり、だったのだが。

予想外だったのは、現場の連中も祖国に愛想をつかしていた、ということだ。

 

「無人機に手を出された時点で現場の運用人員がブチ切れましてね。所属基地だけでなく周辺基地にまで呼び掛けて、統一中華戦線からの離脱を宣言したのですよ」

 

代表のカーウァイ大佐曰く。

 

『我々は肥えた豚のために戦っているのではない。父祖が血と汗を流して手に入れた安住の地を、子や孫に残すために、取り戻すために戦っているのだ。その戦いに本来何の関係もないにもかかわらず手を貸してくれている友邦に迷惑をかける連中など、もはや同胞ではない』

 

その宣言に最前線で戦っていた兵士たちの実に8割が同調。

台湾はあまりの事態に蜂起するタイミングを逃し、あれよあれよという間に指導部子飼いの連中VSカーウァイ大佐に同調した連中でにらみ合いになっているらしい。

…いや、にらみ合いになってるとは言ったが、子飼いの連中って要するに指導部に尻尾振って甘い汁吸ってた連中なわけで。

装備はまあ最新鋭と言えるかもしれないが、練度はお察しである。

対してカーウァイ大佐たちは現役バリバリでBETAと殴り合っていた連中だから、多少装備で劣っていても練度で十分カバーできる、というか蹂躙しかねない。

にらみ合いになってるのは大佐たちが自分たちの仕事をほっぽり出さず、今も戦線維持をきちんと行っているからだ。

でなけりゃとっくに片が付いている。

カーウァイ大佐は統一中華戦線に対し中国側指導部の退陣、不正体質の是正を要求。認められないならば国連指揮下で戦いたいと現場の国連軍士官を通して伝えてきた。

 

離脱を宣言したから、彼らは国際法上無所属の武装集団、つまりテロリストだ。どこからも補給を受けられない。

それでも彼らはBETAと戦っている。あるところから強奪することなく、減り続ける物資を必死にやりくりしながら。

中国側は干上がるのを待つつもりらしいが、それは前線を見殺しにするのと一緒だ。しかも自国(+同盟相手の)軍の八割を、だ。

 

「当初の予定とは違いましたが、結果は同じ事になりそうです」

「ここまで行くとソ連も庇えんか」

「国民どころか軍人からも信を失った指導者など、只人と変わりませんから。アメリカが譲歩したので再建はソ連主導になりますが、西側の影響力が今以上になるのは避けられないでしょう」

 

大佐たちが国連軍に組み込まれるのはほぼ確定事項、クーデター組、台湾、国連の三者で既に細かい調整が始まってるらしい。

調整がつき次第、増派された国連軍が前線を押さえている間に大佐率いるクーデター軍が指導部がいる上海を襲撃。

肥えた豚さんたちを拘束後、国連軍に自首する事になる。

クーデターを起こした責任と刑事罰として大佐たちは前線送り、という筋書きだ。もちろん最新鋭の装備で。

豚さんたち?そりゃ闇から闇よ。

骨すら残らず丁寧に解体されてつま先の一片まで有効活用されるだろう。

 

「つきましてはまだ皮算用の段階ですが。中国戦線健全化に伴い、本格的なゾイドシリーズの投入が決定しまして」

「ゾイドコアの量産化を急いでほしい、と」

「放射能汚染を何とかしないと有人戦力の展開は難しいですから」

 

これがゲシュペンストだけなら、そもそも宇宙での運用も想定してるので気密性も高く戦闘後丸洗いで済む(当然だが、20メートル近い巨人の丸洗いは簡単ではない)のだが、車両とかはそうもいかないからな。

無人戦車作ればいい、という話でもない。特にこの世界では。

 

一般的にクーデターを起こす場合、最大のボトルネックは何か。

俺は人心掌握だと考える。

クーデターを起こし、政権を手に入れるためには最低限政治中枢を押さえるだけの軍事力が必要だ。

そのためには一握りのエースではなく大勢の歩兵、つまりは人間を仲間にしなければならない。

そして一般的な人間は誰かがクーデターを画策していたらそれをしかるべき筋に通報するだろう。

それを防ぐためには大義名分、あるいは参加する人間へのメリット、はたまた人を従わせるカリスマがなくてはならず、どれにしろ手間と時間をかけて引き込みたい人間を説得していかなくてはならない。

クーデターを起こした後も大変だ。今までかじ取りやっていた人間追い出して全部自分たちでしなくてはならないのだ。仲間にした人間たちが不満を持たないように。

だからクーデターは簡単ではないし、起こされたとしたらそれは起こされた側がそれだけ不味いことをしていた、とも言えるわけだ。

 

が、無人機だとその手間が丸々省かれる。

極端な話、整備とか無視すれば一人でクーデターができてしまうのだ。

後先考えられない人間でも巨大な力を得られてしまう。無人機の問題点の一つだろう。

初期のロボットアニメの敵役はまさにこんな感じだ。主戦力はほぼ無人機で、人間は少数の悪党だけ。

世界征服とか掲げていたが、破壊活動ばかりで具体的に征服した後どうするつもりなのかの描写が少ない。あっても中世とかそこらに逆戻りみたいな感じで、要は”自分が王様になって好き勝手やりたい”だけに見える。自分がいなくなった後とか考えてるようには見えない奴も多い。

 

これを踏まえてこの世界を見てもらいたい。

難民解放戦線、BETA恭順派、(今はいないが)第五計画派、(健全化の真っ最中だが)CIA、各国内の派閥などなど…。

 

少人数でも力を持てると知れば、BETAそっちのけで内戦まっしぐらな気がしてならない。

だから無人機の開発に消極的だったし、ゾイドシリーズはかなり我が強い。少なくとも無人機だからと無茶ばっかりやらせるような奴に彼らは懐かないし命令も聞かない。

俺が有人戦力を重視するのはそういう理由だ。そっちのほうがまだマシなだけだが。

とはいえ、無駄に死なせたいわけでもない。

 

「ゾイドコアの量産ラインについては設計図はできてるからな。後はそっちに任せるよ」

「本体は技術廠からの出向組預かりでしたな。承知しました」

 

生産ラインの設計図が入ったディスクを渡せば、課長は挨拶してすぐに去っていった。

今回の件、根回しとかで駆けずり回っただろうからな。この後も再調整とかで忙しいのだろう。

 

「完全には解決してないが、目の上のたんこぶが一つ減った感じか?」

 

今俺にできるのは、これ以上のイレギュラーがないことを祈るだけである。

 

 

 





中国政府が上海に遷都したのはオリジナル設定です。97年に台湾に受け入れられるまでどこにいたのか分からなかったので。

カーウァイ大佐が乗っていたタイプSは帝国派遣部隊に返却されました。
”二度もテロリストに渡ったなどという歴史を残してはならない”と言って自分で返しに来たそうです。
中国側からは再度の貸し出しを要請されましたがガン無視されてます。
元をただせば連中がレンタル品であるゼロたちにちょっかい出したのが原因ですから。
ちなみにそのゼロたちはカーウァイ大佐たちに懐いたのか、帝国への返却を拒否しました。
対人戦への投入禁止を条件にクーデター組と行動を共にしています。
クーデター組は減り続ける物資を必死でやりくりしてますが、なぜか戦場に『新品』の物資が結構投棄されているので何とかなっているとか。

○テラフォーミングについて
この世界でテラフォーミングを行う場合、常にBETAの襲来に備えなければなりません。
大型のテラフォーミング装置の場合、それ自体が防衛対象なので相応の戦力を張り付けなければならず。
逆にナノマシンを使った場合、ナノハザードの危険性が常に付き纏います。
軌道上に防衛戦力を張り付かせたとしてもBETAの着陸ユニットを100%迎撃できるとは言い切れないため、テラフォーミング中の惑星には常に地上戦力、それも即座に対応できるよう24時間体制で待機する必要があります(時間はBETAの味方ですし、軌道爆撃で殲滅できたとしても、最終的な効果確認は地上戦力が行う必要がある)。
有人機でやる場合最低でも3交代制ができる人員を待機させる基地を惑星各所に用意しなければなりません。かかるコストも手間も膨大です(大型テラフォーミング装置の防衛基地兼用ならまだやる意味はありますが、遊撃部隊と防衛部隊2隊分の基地施設・物資が必要になる)。
ならばテラフォーミング装置兼防衛戦力として無人機を投入するのはどうか、と考えました。
破壊された時のリスクはかなり低減され、それ自体が移動能力と防衛能力を持ちます。稼働に必要なエネルギーは物質転換時の副産物から賄い。主力装備を光学兵装にすれば、弾薬の補給も必要ありません。
これなら人間が生きるために必要な物資を補給し続ける必要がなく、製造した無人機を地上に放ち続けるだけで済みます。
そしてこの場合無人機は人の手が入っていない極めて過酷な環境で稼働し続けなくてはなりません。人型では地上走破性に不安が残り、スラスターを付けた場合整備する環境を用意する必要があります(ナノマシンも機械なので、あまりに高熱だと機能を停止する可能性がある。スラスター周りには使いづらい)。
なので安定した地上走破能力を持つ形態として四足歩行、シンプルな獣型がいいのではないかと。
ゾイドシリーズが採用されたのはそういう理由です。
人が地上に降りるのは住めるぐらいに環境が落ち着いてからでもいいですから。

次話は明日更新予定です。

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