MUV-LUV大戦   作:土井中32

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63話 一意専心

 

ソ連軍はもはやハイヴ攻略どころではなかった。

後に超重光線級と呼ばれる新種によってハイヴ攻略の主力部隊を一瞬で失い、上級指揮官達もまとめて消し飛ばされてしまったからだ。

もはやまともな連携など望めず、各部隊が個別に場当たり的な対応をするのが精いっぱいだった。

 

それでもかろうじてまだ軍の体裁を保っていられるのは、超重光線級を決死の覚悟で抑えている者たちがいたからだ。

 

米軍の軌道降下兵団所属ステラ・ボンバーズ。

ソ連軍戦術機部隊ジャール大隊。

 

己の命も顧みず彼らが気を引いているからこそ、他の部隊はかろうじて命を繋いでいた。

しかしそれも、限界が近い。

いい加減煩わしくなったのか、超重光線級が触手だけでなくレーザーまで向けはじめたのだ。

しかも先ほどと違い速射・連射に重きを置いているのか、インターバルが0,1秒を切るという理不尽仕様。それが重光線級の威力で上から降ってくるのだからたまらない。

既によほどの幸運に恵まれたものか、並外れた技量の持ち主以外はこの地獄から去っていた。

 

「ステラ1ッ!これ以上は持たんぞッ!?」

『分かってる!!もう少しだ!!』

 

それでも彼らがまだ足掻いているのは、どうにかできる算段があるからだ。

そしてそれは、彼らが全滅する前にやって来た。

 

『こちら”スクルド”。よくぞ耐え抜いた、後は任せろ!』

『”シグルーン”だ。そこのデカブツはこっちに任せて後退しろ』

 

XG-70d2 ヴァルキュリア級戦略航空機動要塞

 

紆余曲節の末ついに実戦配備された、XG-70につけられた名前だ。

ラザフォード場だけでは無力化される危険を排除できなかったため、日本帝国より購入した別の原理で展開される重力障壁(Gテリトリー)との二重防壁を採用。

搭載火器も各部に備え付けられた36ミリチェーンガン、VLS、レールガン、そして胸部中央の大口径荷電粒子砲と要塞の名にふさわしい火力を持つ。

ステラ・ボンバーズとジャール大隊が目標から離れるのを待って、その大火力は叩きつけられた。

 

大小VLSから放たれる大量のミサイル、120ミリと2700ミリという類を見ない口径のレールガンが次々と超重光線級に着弾する。

 

勝った、と見ていたソ連軍は思った。

これで終わってくれ、と米軍は祈った。

 

その願いは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…くそっ!目標健在、繰り返す、目標は健在!!』

 

BETAには届かない。

ダメージこそ負っているが、どれも軽症の域だ。行動の阻害すらできていない。

当然、反撃が行われる。

 

『シグルーン、合わせろ!』

『了解!!』

 

ソ連軍を蹂躙した大出力レーザーが再び放たれる。

その巨体故躱すことのできないヴァルキュリア級は、しかし2重の重力障壁でそれを受け止めて見せた。

その光景は周りに希望を抱かせたが、それぞれの艦長の顔は険しく歪んでいた。

 

『2隻がかりの2重防壁で防御力を底上げしても耐えるのが精いっぱいか!そう何度も受けられんぞ!?』

『荷電粒子砲を当てるしかない。だがチャージが終わるまでどうやって攻撃に対処する!?』

 

既に乱戦と化した戦場では味方を巻き込む危険から影響範囲の広い荷電粒子砲が使えなかった。ゆえにそれ以外を全力でぶつける全力投射だったのだ。それを耐えられた以上、もはや味方も巻き込む前提で最大火力をぶつけるしかない。

しかしチャージ中はそちらに電力が取られるため、120ミリはともかく2700ミリが使えない。ミサイルとチェーンガンだけであれを止められるとは思えなかった。

加えて防御フィールドにも影響が出る。次も耐えられる保証はない。

 

『ステラ1、もう一度気を引けるか!?』

『応えたいところだが、こっちもボロボロだ。意地と見栄で1分てところだな』

『こちらジャール1、まだやれるのは私と副長だけだ。残りは飛ぶことすらできん』

 

後退すれば後ろの残存ソ連軍が奴の暴威に晒される。

スクルドの艦長の頬を冷や汗が流れた時。

 

『委細承知。ならばそれはこちらに任せよ』

 

ずっとヴァルキュリア級のほうを見ていた超重光線級が、突然向きを変えた。

あらぬ方向に向けてガトリングのごとく撃ち出されるレーザーと、それを追うように繰り出される触手。

 

その一切を無視して、それは目標に突っ込んだ。

 

 

 

「キィィィィィエエエエエェェェェェィッ!!」

 

 

 

無線越しに放たれるその奇声に誰もが驚愕する中、その大鬼は。

 

手に持った自身の身の丈を上回る大剣で、超重光線級に深々と一撃を見舞って見せた。

 

『チィッ!踏み込みが浅かったか!』

『いや、十分な隙だ』

 

胴体の半分に切れ込みが入る一撃を食らい、それでもなおそれをなした大鬼――グルンガスト零式を攻撃しようとする超重光線級に対し、さらなる攻撃が加えられる。

 

『ターゲットインサイト。撃ち抜けトロンべ!!』

 

照射膜を正確に撃ち抜かれ、その強力無比なレーザーの威力が下がる。

 

『試作品の長距離レールガン。精度も威力もなかなかだな』

『畳みかけろ、持ち直す暇を与えるな!』

 

次いで現れたのは濃紺の凶鳥――ヒュッケバインと総勢14機のゲシュペンスト。

 

『遅れてすまない。こちら日本帝国派遣部隊、オーガ中隊指揮官のカイ・キタムラ少佐だ。コールサインはオーガ1、これより未確認大型種への陽動を行う!』

『日本帝国!?』

『じゃああれが帝国侵攻時に現れたっていうビッグオーガ!?』

『オーガ15、16、合わせろ!』

 

直後、露軍迷彩仕様(ロシアンカラー)を先頭にタイプS3機、開とデシデリ、モンダイナイの機体が飛び上がる。

 

『究極ッ!!』

『トリプルッ!!』

『ゲシュペンストォッ!!』

 

三身一体、完璧なタイミングでそれは繰り出された。

 

 

 

『『『キィィィィィックッ!!』』』

 

 

 

直撃していれば、それだけで倒せていただろう。

 

 

 

 

 

直撃すれば。

当たる直前、不可視のフィールドに阻まれる。

 

『何ッ!?』

『重力波を検知!ラザフォード場か!!』

『お、押し切れねぇ!!』

 

計算上、頭脳級のラザフォード場を容易に突破しうる一撃が、弾かれる。

防がれたことに驚愕しつつも、そこはさすがの教導隊に歴戦の衛士たち。即座に態勢を整えて着地し、触手の攻撃範囲から離れる。

 

『クソ、あれを防がれるとは!』

『奴の防御力は頭脳級以上ということか!?』

『いや、それなら零式の一撃も防がれているはずだ!』

 

答えたのはヴァルキュリア級の艦長だった。

 

『こちらでモニターしていた。奴はラザフォード場を一点集中させて防いだんだ。つまりそうしなければ防げなかった、ということでもある』

『ビッグオーガの一撃は薄く張った全周囲型だったせいでぶち抜けたようだな』

『それにラザフォード場展開中はレーザーを撃っていない。恐らく同時に使えるほどの機関出力はないんだろう』

『…打つ手は決まったな。ヴァルキュリア級、荷電粒子砲発射までどのくらいかかる?』

『あと2分で何とかして見せる』

『こちらもだ』

『よし、荷電粒子砲のチャージが済み次第、同時多角攻撃で仕留める!奴の対処能力を飽和させてやれ!』

『『『了解!』』』

 

攻撃が超重光線級に集中する。

擱座していた機体からもとにかく使える火器が叩き込まれ、ラザフォード場に負荷を与え続ける。

実弾とミサイルだけであれば撃ち落とすこともできただろう。だがその中に混ざるビームやレールガンがそれを阻む。

多少のダメージなど無視して迎撃すればいいのだが、照射膜を正確に狙っている奴がいるせいで迂闊に反撃に出られない。

 

身動きが取れない超重光線級をよそに、静かに準備を整える者たちがいた。

 

 

一つは言うまでもなくヴァルキュリア級の乗員たち。

大口径荷電粒子砲にてケリをつけるべく、エネルギーのチャージに追われていた。

 

 

一つはグルンガスト零式。

TGCジョイントの実用化に伴って製造された超大型目標への打撃用装備、”零式斬艦刀”を蜻蛉に構え、静かに氣を練り上げる。

次こそは真っ向両断するために。

 

 

最後の一つはヒュッケバイン。

出来れば使ってほしくない、と言われた超兵器の使用を決断し、チャージとロックオンを行っていた。

 

 

その他の機体はとにかく攻撃を続け、その場にくぎつけることを優先していた。

ここであれを何とかしなければハイヴ攻略どころか人類自体が危ないと、誰もが理解していた。

 

そして超重光線級が動く前に、こちらの準備が整った。

 

『初手は任せてもらおう、いくぞシグルーン!』

『いつでも!』

『『荷電粒子砲、発射ァッ!!』』

 

超重光線級のレーザーに勝るとも劣らない閃光がヴァルキュリア級から放たれる。

それに対して超重光線級の対処はシンプル。

ラザフォード場を一点集中させた。

もはやダメージは避けられないと理解し、致命傷だけは避ける判断を下したのだ。

荷電粒子砲が、ラザフォード場に散らされる。

自身たちの最強の攻撃を防がれ、しかし彼らは嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

『マヌケめ。こちらの思惑通りだ』

『やはり大した頭ではないな、化け物め』

 

 

 

 

 

 

直後、巨大な黒い球が超重光線級に後ろから襲い掛かった。

 

 

 

 

 

『私に出会った不幸を呪うがいい。消え去れ、照星の彼方で!』

 

 

ブラックホールキャノン。

文字通りマイクロブラックホールを敵に向かって撃ち出すトンデモ兵器である。

超重力によって対象を圧壊、消滅させる荷電粒子砲がおもちゃに見える超兵器だ。

必要となるエネルギーも桁違いだが、ヒュッケバインならば運用できるとして持たされていた。

 

ラザフォード場を一点集中していた超重光線級にこれを阻むすべはなく、その巨体をごっそりと削られる。

文字通り質量が半減し、誰もが勝った、と思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

照射膜が、光る。

向けられた先は、荷電粒子砲発射直後で身動きが取れない移動要塞。

 

『まだ生きてるのか!?しぶとすぎるだろ!!』

『何でもいい!とにかくブチ当てて止めろ!!』

『間に合いません!照射開始まで5秒!!』

『総員対閃光対ショック!!』

 

ヴァルキュリア級がレーザーを食らう寸前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

力を溜め続けた鬼が、吼えた。

 

 

『チィェェェェェェストォォォォォォォォッ!!!』

 

 

雲耀を超えた速度で放たれた袈裟切りは、その場にいた全ての存在の認識を振り切って。

文字通り今度こそ、超重光線級を切り捨てた。

 

『我が斬艦刀に、断てぬものなし』

 

ようやく倒れ伏した化け物に勝どきは上がることなく。

誰もがやっと終わったと、安堵の息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何をしている、まだ終わっていないぞ!!残敵の掃討と部隊の再編急げ!!』

 

その言葉に慌てて動き出す羽目になったが。

 

 





○帰って来てすぐの話
エルザム「ヒュッケバインをお土産として持って帰りたいのだが駄目かね?」
九郎「いいわけないだろボケ。機密以前にフレームからして別物だし、独自部品多くて部品共有率2割切るぞ。整備班に殺されたいのか?」


次話は明日投稿予定です。

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