MUV-LUV大戦   作:土井中32

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連日投稿三日目ェ!

というわけで短編集です。
例え一万字超えてても短編集です!


やっぱ腹壊すんだなぁ…(ディメンションズの今月のイベント見て)。




閑話九 短編集2

 

○技術者悲喜こもごも

 

アメリカの場合

 

「ケエエエエエエエエエエエエエエェェッェエェェェェ!!?」

「アギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!」

「プオープオープオー!!」

「ツクツクホーシツクツクホーシ」

「ピーポーピーポーピーポー」

 

「…ハイネマン博士、ここは動物園ですか?」

「残念ながら君たちが手配した会議室だね」

 

オリョクミンスクハイヴ攻略後のアメリカでの一幕。

週に一度開催される次世代戦術機開発研究会、通称ゴーストハントディスカッション。アメリカ中の科学者・技術者が一堂に会し第四世代戦術機とは何か、それにどんな技術が必要かについて激論を繰り広げるのがいつものことなのだが、今回に限っては誰も彼もが発狂してまともな単語すらほとんど聞こえない有様であった。

その理由は先のオリョクミンスク攻略に日本帝国が投入した戦術機のせいである。

 

「何だよあのヒュッケバインとかいうの!?」

「ブラックホールからエネルギー取り出すってどういうことなの…?」

「概算でも核融合炉なんか目じゃない出力ですよアレ」

「ブラックホール撃ち出してるくらいだしな」

「いやあの大砲もおかしいだろ。マイクロブラックホール撃ち出して目標を超重力で圧壊、消滅させる?なんで撃ち出した後消滅までコントロール出来てんの??」

「わーすごい、G元素なくてもG弾造るの簡単だったんだぁ(白目)」

「ML機関よりよっぽどヤバいことしてるぞあれ」

 

ビッグオーガ(グルンガスト零式)はまだいい、いや良くはないが。

なんか巨大な出刃包丁ぶん回してたり、攻撃しようと接触した戦車級が勝手に燃え上がって炭化したり、光線級のレーザー攻撃が吸い込まれてるのでシロガネ級と同じビーム吸収システムの搭載に成功してたりとか突っ込むところは多々あるが、まだギリギリ理解の範疇にいる。

しかしあれはだめだ。もうどうしようもない。

いろいろ言っているが彼らの想いはほぼ一つである。

 

「「「もうあれが第四世代機でよくね?」」」

 

常識をぶち壊され続け、彼らはすっかり疲れ果てていた。

 

「無理。あんなの持ち出されたらヴァルキュリア級でも勝てねえよ」

「戦術機サイズのヴァルキュリア級みたいなもんだしなあ」

「攻撃能力なら上だろ。ラザフォード場ごとブラックホールでボン、だろうし」

「つまり我々が目指すべきはヴァルキュリア級の小型化…?」

「20年ぐらいかければいけるんじゃないか?向こうは五世代くらい先に行ってそうだけど」

 

床に突っ伏したままうめき声をあげる彼らをよそに、ハイネマンは一人考え続ける。

 

(またすごいものを出してきたものだが、やはりそういうことなのかな)

 

ゲシュペンストを初めて見た時から感じていた違和感。

彼が新作を発表するたびに強くなるそれを時間をかけて考察し続けた結果、彼は一つの結論に至っていた。

 

あれは、稲郷九郎が自分で考え出したものではない。

 

この世界、対BETA戦向けに調整はしているのだろう。しかし大本の機体そのものは対戦術機。いや、『同サイズのロボット』と戦うために設計されている。

しかしそれは彼の思考と矛盾する。稲郷九郎という男は人間に対して不信感、いつかまた殺し合いを始めると考えている節があるが、だからといって現状必要ない機能を盛り込んで現場で戦う人間の命を危険にさらすような真似はしない。

彼が造る兵器に一貫しているのは”人間という最も貴重で増やし辛いリソースをできる限り失わない”ことであり、戦後ならまだしも今の段階から対人戦能力を付加するというのは考えづらい。

 

また、彼が作り上げた機体には試行錯誤の跡が少ない。

自分が戦術機を作るときは設計書が真っ黒になるぐらいあれこれ書き込んだものだが、一度見る機会があったゲシュペンストの設計書にはほとんど追加の書き込みがなかった。

後で消したのでなければ、彼は脳から紙にアウトプットした段階ですでに修正の余地なく完成させていた、ということになる。

現実の製造技術やイメージと実際の差異すら脳内ですべて織り込んでいた?そんなことが人間に、それもわずか3歳にできるのか?

 

そうして考え続けた彼が出した結論。

 

(未来か、あるいは異星文明の技術。彼の頭の中にはおそらくそれが詰まっている)

 

かなり突飛な発想だ。しかしハイネマンはそれが最もしっくりくると考えていた。

そして。

 

「まあ、そんなことはどうでもいいか」

 

至極あっさり、それを放り出した。

 

(つまり彼との対決は、未来なり異星文明なりの技術を僕が超えられるか、という勝負であるということだ。これほど挑みがいのある勝負はないじゃないか)

 

自分の才能を試す相手として、これほど高い壁はない。そしてそれを超えた時、自分はそれらに勝利したということだ。

 

「待っていたまえ九郎。君の引き出しが切れる前に、絶対に超えて見せるからね」

 

その目に燃える業火は、もはや青色を超えて白に至ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

ソ連の場合

 

 

「主任、呼び出しへの対応お疲れ様でした」

「内容はいつものあれですか?」

「ああ。”ヤポンスキーごときに作れたものがなぜ作れないのだ!”だとさ」

 

ミコヤン・スフォーニ設計局、その技術解析室にて。

西側から技術情報を得ることができず、ことごとく正式採用を逃し続けたスフォーニにソ連上層部は”これ以上の投資は無駄”と判断。

ミコヤンに吸収合併される形での廃止が決定された。

少し前までならバラライカ・パッチアーマーの輸出で外貨を獲得できていたが、ゲシュペンストの戦線普及が進み、もはや旧世代機を欲するところなどよほどの後進国ぐらいしかなくなってしまった。

外貨の獲得ができず予算に限りがある以上、成果を上げられないところにいつまでも金はかけられない、というのが上層部の判断であった。

彼らも元はスフォーニ側で働いていたが、現在はここで西側技術の解析に携わっていた。

…その成果は芳しくなかったが。

 

「上の連中まるで理解してないんですね、これのオーパーツっぷりを」

「どう考えても俺たちの100年は先を行ってる。その上ブラックボックスが強固すぎてまるで中を覗けやしない。チタンとスーパーカーボンでガチガチに固めた宝箱ですよこれ」

「それをこじ開けるのが俺たちの仕事だろうが」

 

目の前に鎮座するゲシュペンストMk-Ⅱを前にそう発破をかけるが、これがソ連に持ち込まれた5年前から遅々として進まない解析作業に、発破をかけた主任自身ですら諦めの境地に入りかけていた。

 

「ヤンキーどもは既に技術解析を終えて応用に入っているし、帝国はこれのバージョンアップすらしているっていうのに。俺たちはいまだに旧式のこいつの解析で躓いてるからなあ」

「技術レベルに差がありすぎますよ。蒸気機関が作れるからって原子炉が作れるわけじゃないんですよ?上の連中そこんところ理解できてるんですかね」

 

もともとソ連という国は電子機器の技術に強くない。

原作ですら国連経由で手に入れたトムキャットや戦場から違法に拾ってきたイーグルを解析してようやく追いつけたというのに、今彼らの前にあるのは完動品とはいえそれ以上のオーパーツである。解析の難しさは第二世代機の比ではない。

しかも取扱説明書はあっても基本的な構造以外はほぼブラックボックス処理されている。その状態から同じものを作れなどいくらなんでも無理があった。

 

「異民族の亡命騒ぎでそれどころじゃないだろうし、もう後に引けないんだろう。こんなことまでやってしまっていてはな」

 

その言葉とともに主任はゲシュペンストの奥にあるものを見る。

破壊されたゲシュペンストやガーリオンの残骸を。

 

「よく回収できましたよね、あれ。向こうもかなり神経とがらせていたと思うんですけど」

「どうやったかは俺たちが知る必要はないだろ。問題なのはあれからですら何も得ることができてない、ってことだ」

「仕方ないですよ。迂闊に触るのすら危険なのでは手の出しようがありません」

 

原作と同じく、遅々として進まない解析に業を煮やしたソ連上層部は国外の戦場で破壊された戦術機の残骸を違法に回収し、それらからのリバースエンジニアリングを試みた。

しかし旧世代機はともかく第三世代機の機密処理は彼らの予想をはるかに上回って強固で、一度など電源が入った瞬間に自爆装置が作動。

周囲の格納庫を巻き込んだ大爆発を起こしてすらいた。

これはBETAに鹵獲されることを恐れた九郎によるもので、衛士が脱出・死亡した時点で自爆タイマーが起動するように設定されている(衛士側で調整可能。動ける状態なら自動でBETAに向かって突っ込ませることも出来る)。

ハイネマンもそれに倣ってガーリオンの自爆装置を設定しており、基本的に戦場に転がっているのは自爆で飛び散った手や足ばかり。

結果としてあの残骸もまるで役に立っていない。

 

「どれだけやっても俺たちだけでは何もわからない、ということを見せつけられるばかりです。いっそ開発者に頭下げて教授を受けるべきじゃありませんか?」

「発言に気をつけろ!上がそんな敗北宣言を認めるわけがないだろう!」

 

慌てて発言した後輩の口を抑える。

正直同じ気持ちだが、誰かに聞かれればその瞬間に消されかねない。

しかし今のままではやはり行きつく場所は同じだ。

どうにもならない現状に、主任もまたため息をつくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

欧州の場合

 

 

「大佐、長旅お疲れさまでした!」

「出迎えご苦労、と言いたいところだが。目的はそちらではないのだろう?」

「向こうで稲郷博士の新作に搭乗されたと聞きました。ぜひそれについてのお話を聞かせていただきたく」

 

帰国したエルザム達を待ち構えていた技術者たちとの一幕。

欧州は戦術機開発競争に喰らいつくのをいったん諦めた。

日本帝国から供与されたランドグリーズの初期設計図から独自仕様にして世に出すことはできたものの、その実態はただのレイアウト変更。本体そのものにはほとんど手を入れることができなかった。

 

ソ連よりはましなものの根本的な技術蓄積、土台が足りていない。

 

そのことを痛感した欧州は今は雌伏の時であると割り切った。

10年先、20年先までは帝国とそれに追随するアメリカに勝てないだろう。

だが50年先は?100年先までこのままだろうか。

幸いにも日本帝国とは友好的な関係を結べているし、地政学的にも利害が対立する関係にはなりづらい。

 

今のうちに少しでも多くの技術を学び、次に繋げる。

 

そのためにも、彼らは手に入るならどんな情報でもどん欲に求めていた。

エルザムがようやく家に帰ることができたのは、実に2日後のことであった。

 

 

 

 

 

 

その他の国の方々

 

「あんなのに追い付けるわけないだろボケェ!!」

 

 

 

 

 

 

最後に…日本帝国の場合

 

「ひらめ」

「イヤー!!」

「アバー!?」

「またやってるよあいつら」

 

 

------------------------------

 

 

○飲んで飲まれて

 

「えへへへへ~~~みさだいしゅきぃ~~~~」

「はい。私も大好きですよ九郎様」

「やー。ふたりきりのときみたくよびすてがいい~~~」

「人目がありますから、お布団の中まで我慢してくださいね」

 

「……なんだこれ」

 

とある日の一幕。

親の都合で稲郷家に一泊することになり、日課のシミュレーター訓練を終えて地上に戻ってきた武が見たのは。

 

 

 

 

 

 

真っ赤な顔で婚約者にべったりとくっつく戦友の姿であった。

 

 

 

 

 

 

今まで一度も見たことのない満面の笑み(悪党じみた笑顔は時たましていたが)で縋りついているあれが、自分の知っている人間と同一人物とはどうしても思えず。

武はこの場にいたもう一人に聞くことにした。

 

「紅蓮大将。あれは俺の知っている稲郷九郎という男で間違いありませんか?」

「すっかりへべれけに酔っぱらっているが、あれが稲郷九郎で間違いない」

 

間違いないらしい。

 

「一体全体どうしてこんなことに?」

「あ奴も成人したことだしな。祝いがてら、溜め込んでいる鬱憤を酒の力でガス抜きさせようと思ったのだが、おちょこ一杯であのざまよ」

 

まさかここまで酒に弱いとは思わなかったらしい。

 

「おそらく血筋ではないかと。ゼンガー叔父様も下戸ですから」

「あの顔で飲めないんだ…」

「いやしかし、こやつにも意外な弱点があったものよ。まさか下戸であったとはな」

 

「うるせぇ脳筋ダルマ。棒振りしか能がないくせに」

 

「「…ん?」」

 

何かとんでもない暴言が飛び出した気がする。

聞こえてきた方を二人が見れば。

 

「ガキがご主人様に暴言吐いた程度で殺そうとしやがって。そんなんだから敵陣に放つ狂犬以上の役に立てねぇんだよ」

 

真っ赤な顔の九郎が据わった眼で睨みつけていた。

 

「まったくよ~どいつもこいつもよ~あの人でなしでとりあえず暴発させまくるスパイとか~他国の民間人は守れたけど自国と家族は守れなかった軍人とか~家族ないがしろにした挙句大義名分で無理やり押し通し過ぎてぶった切られた政治家とか~頭武家とか。そうならないように俺がどれだけ頑張って世界変えてきたのかわかってんのか、ええ、おい?」

 

「…酒で口が軽くなってる?」

「で、あろうな。まさか普段でも自制した方であったとは」

「何ごちゃごちゃ言ってやがんだ脳筋とヘタレ野郎」

「ヘタレ…」

 

暴言が全く止まる気配がない。

 

「手の中に残ったモノに満足できなくてもっかいループするなんて失くしたものへの未練タラタラな証拠じゃねぇか。そのくせこの世界では接触にも躊躇してやがるしよぉ。ヘタレ以外の何だってんだ、ああ?」

「いや、それは」

「そんで失くしたらまた自分のせいだって責めるんだろ?後で後悔するってわかってるんなら今後悔しろよ」

「う…」

 

武が反論できずに言葉に詰まっていたら、次の犠牲者がやってきた。

 

「うるさいわね、いったい何の騒ぎ?」

「よぉ、望んだものが絶対手に入らないかわいそ~なクソ外道」

「喧嘩なら買うわよアンタ!?」

 

業務報告に来た香月夕呼が次の犠牲者らしい。

 

「どーやっても自分一人では答えにたどり着けないくせに、他人を排除しまくって自分でできそーなことに片っ端から首突っ込んだせいで一番大事な研究に使える時間削っちまって結局失敗してるじゃねえか、ほとんどの世界で。必要としない世界なら簡単に答えにたどり着けるのにな。一人でできることには限界があるって早々に知っとくべきだったぜお前」

「向こうの私の話でしょ」

「並行世界の人間は厳密にいえば別物だが、裏を返せば厳密に調べなきゃわからないぐらいには同じ人間だ。同じ環境、同じ状況であれば同じ考え、同じ行動をするぐらいには。現にお前は俺がこれだけ引っ掻き回して人類に余裕がある世界に変えたにもかかわらず他の世界と同じように00ユニット造ろうとしたじゃねぇか」

「…それは」

「正直、初めて会ったときに下手な挑発や脅しなんぞしなけりゃ俺の懸念する問題点を伝えるぐらいはしてもいい、て考えてたんだぜ?あんなことになったからうやむやになったけど。

お前は確かに天才だが、同時にただの人間でしかないってこともよく覚えておくべきだな。じゃないと並行世界のお前や俺みたくなるぞ?XM3トライアルみたいな無駄な味方殺しやる人間に」

「…綱紀粛正が必要でやった、て話ね」

「なんでうやむやにできたのか不思議でしょうがないけどな。言ってしまえば”捕虜をわざと逃がして人員・設備・装備に損害を与えさせた”わけで、立派な利敵行為だ。わざとやったならその場で射殺すらあり得るし、事故だったとしても基地司令は責任取って更迭もあり得る。形だけだったとはいえ上官である基地司令挿げ替わって今まで通りにふるまえると思うか?下手すりゃ第五の先兵が来てたぞ。それでなくても損耗した人員はほかの国連軍基地から補填せざるを得ない。一体何人”敵”が混じってたんだろうな」

 

かなり悪し様に言っているのだろうが、言われれば言われるほどデメリットばかりが目立つ。

 

「最初からあまりよく思われてなかったのは、私が向こうとほぼ同じことやろうとしてたからね?」

「ヒトラーが目の前に現れたとして、お前は世界史という色眼鏡なしで奴と付き合えるか?しかもそいつはナチ党結成して政権を掌握、軍備増強を始めてる。”世界平和のためだ”という主張を額面通りに受け取れるか?お前と会った時の俺の心境はそんな感じだったよ」

 

自分の心情なんて普段口に出さないことが結構ぽろぽろ出てきているあたり、真面目そうな顔だがやはり酔っぱらっているらしい。

 

「せっかく人間不信でやらかした反面教師が目の前にいるし馬鹿な自分の一例を知ることができたんだ。エーベルバッハみたいに自分で軌道修正してくれなきゃ生かした意味がねェ」

「原作ではテロリストになる人だったっけ」

「未来を能動的に変えられるかの実験で積極的に干渉したけどな。その必要があると思ったし。結果としてあいつは自分で考えて自分で変わっていって、自分で望む未来を掴んだ。だから環境を変えれば全員は無理でも結構な人数がいい方向に変われるはずだ、と期待してたんだ。よりにもよって頭いいから一番変わってくれそうな人間が変わってくれなかったが」

 

ジト目で睨まれた香月が思わず目を逸らした。

 

「だからエーベルバッハより過激な方法で矯正することにした。つーことでマッドどもの監督から当分降ろす気ないから。せいぜい振り回されてぼろ雑巾になるほど苦労しろ(笑)」

「ほぼ嫌がらせじゃない!?」

 

香月が襟首掴んで嚙みついたが言った本人はケラケラ笑ってお構いなしだ。

 

「世界はお前が思っているほど狭くもねえし馬鹿ばっかりでもねェ。毎回やらかしてるが一芸だけならお前どころか俺すら超えることもある連中だ。自分の了見がいかに狭かったかよ〜く思い知れ。そして俺に笑いを提供しろ」

「とっくに思い知ってるわよあたしの理論の問題点論文見ただけで指摘してきたし!!なんであれだけできるのに毎回毎回やらかすのよ!?あとなんであたしがアンタに笑いを提供しなきゃなんないのよ!?」

「よく言うだろ?馬鹿と天才は紙一重って。あいつらは紙一重どころか完全に向こう岸だが。それとお前が笑いを提供する理由だが…エラソーなツラしてる奴が馬鹿に振り回されるのって見てて面白いだろ?」

「ブッコロス」

 

首をブンブン振り回されているが笑顔のままだ。まったく堪えてない。

 

「香月よ、あきらめろ。酔っ払いには何を言っても勝てん」

「なまじ普段よりも自制できてない分言葉の凶器度が上がってて危ないですね」

 

普段から誰が相手でもべらんめぇ口調で敬語などお構いなしだ。

それが酒が入ったせいで余計に悪化している。

 

「いわゆる社交パーティーに出しても問題ないか確認の意味もあったのだが、これはだめだな。とても人前に出せん」

「時間がもったいないって言って絶対出ようとしないと思うんですけど。強制ですか?」

 

現に今までも九郎はその手のパーティーに出たことはない。

 

「来月に皇帝陛下主催の園遊会があってな。そこにこれを出すことが検討されているのだ。流石に出ないという選択肢はない、のだが」

「お酒は絶対に飲ませちゃダメですね」

 

とんでもない惨状が二人の脳裏をよぎる。

技術体系だけでなく帝国そのものすらぶち壊しかねない。

 

が、酔っぱらっている当人はそんなことお構いなしである。

 

「皇帝陛下~?ああ、あのせんとムグッ!?

 

 

~しばらくお待ちください~

 

 

翌日。

九郎は自分が何を言ったのか全く覚えていなかった。

そして飲酒禁止令が出され、酒に近づくことすら禁止された。

最後に九郎が何を言おうとしたのか。それを知っているのはくちづけしてまで発言を阻止した婚約者だけである。

 

 

------------------------------

 

 

○臣下の苦労

 

 

「…将軍様よ、何しでかした?」

「そっくりそのまま返すぞ九郎。少なくとも余に心当たりはない」

 

普段であればかしづく側かしづかれる側である二人が、揃って一部の隙もない正装で同じ方向を向いて頭を下げている。

この二人がそうする相手など、この国には一人しかいない。

 

「二人とも、面を上げて楽にせよ」

 

その言葉とともに二人は顔を上げ、その人物を見る。

 

日本帝国の象徴、皇帝陛下を。

 

「忙しいところ呼びつけてすまぬな。本来であれば二人とも世界のためにやらねばならぬことがいくらでもあるであろう」

「滅相もございませぬ。陛下のお呼び出しよりも優先せねばならないことなどありませぬ」

「その通りでございます。して、いかような理由で我らをお呼び出しに?」

 

顔にも声色にも出していないがさっさと話しを進めたいのか、九郎が要件を促す。

将軍は一瞬咎める視線を向けるが、本人はどこ吹く風だ。

すぐに二人とも凍り付いたが。

 

「おぬしら、朕に隠し事があるであろう」

 

思わず顔を見合わせる。心当たりがない、からではない。

 

心当たりがありすぎた。

 

「皇帝陛下の臣下である我らが、隠し事など」

「朕に伝えぬ方がよいと判断して隠していたのであろうが、さすがに見過ごせぬ話が耳に入ったのでな。この場で認めるのであれば隠していたことについては不問に処す。どうする?」

 

将軍の苦し紛れの弁明も跳ね除けられる。もはや認めるしかないらしい。

しかし問題が一つ。

 

「どれのことだと思う?きぼうで勝手に進めている量子通信関係の技術開発のことか、こっそりクーデター組に流してる物資のことか、うちの馬鹿どもが物質転換炉(ゾイドコア)なしでG元素の生成に成功しちゃったことか?」

待てい。最後のは余も聞いておらんぞ」

 

相当に隠し事があったらしい。

勝手に罪状を増やしているが、なかなか正解にたどり着かない二人に一つため息をつき、皇帝はそれを聞いた。

 

八咫家(やたのけ)の孫が、例のからくりを動かしたそうだな」

 

ピシッと動きを止めた二人が油をさしていない機械の如くぎこちなく首を動かし、引きつった顔で皇帝を見る。

 

「Tーlinkシステムと言うたか。あの隕石と密接な関りのある機械だそうではないか」

「陛下、それは、その」

「以前そなたの願いで行われた試し、その結果もまだ聞いておらぬな。結果はどうであったのだ、んん?」

 

誤魔化せない。顔を見合わせた二人はそれを悟り、仕方なくゲロることにした。

それによって自分たちが被る苦労を、今は見ないふりをして。

 

「TPパッチテストの結果はLv8、国内最高峰であり、同時に世界最高峰でありました。この数値であればT-linkシステムで発生させられる障壁の強度は、先日現れた超重光線級のレーザーを防ぐことも理論上は可能な数値です」

 

その言葉に皇帝は破顔する。

二人にとっては死刑宣告に等しかったが。

 

「ふむ。であれば――」

「陛下、なりませぬ」

 

必死の形相で将軍が止める。

その先を絶対に認めるわけにはいかなかった。

 

「なぜだ。朕であればあの悪鬼の攻撃から臣民を守れるのであろう?ならばこのようなところに籠っておらず前線に出るべきであろう」

 

国家元首が最前線に出ていいわけないだろうバカ野郎。

 

思わず出掛かった言葉を九郎は無理やり飲み干す。流石に冗談抜きで首が飛びかねない。

自分はともかく、将軍まで累が及ぶのだけは避けなくてはならなかった。

 

「陛下がここで座しておられるからこそ臣下は安心して戦い、臣民は日々を生きられるのです。どうかご自重ください」

「心配はいらん、それは息子が継げばよい」

 

よくないからこうして説得しているのだ。

 

「陛下。Tーlinkシステムはいまだ未知の部分の多い装置です。確実な動作保証並びに命の保証はできません。また何かあれば現場のものは陛下のお命を第一に考えて動かねばなりません。これは陛下のお立場云々ではいかんともしがたいことです。どうかご再考を」

「…確実な動作保証ができるようになれば、朕が試してもよいのだな?」

「…………私が太鼓判を押せる出来になりましたら」

 

その言葉に、ようやく皇帝も折れた。

 

「いたし方あるまい。できるだけ早く出来ることを願っている」

「誠心誠意努力いたします」

 

そう言って礼を失しない程度に、しかし全速力で下がった二人を見て、皇帝はため息をついた。

 

「朕が戦場に立つのは当分先になりそうだな」

 

お願いだから勘弁してくれ。

聞いていた人間全員の総意であった。

 

 

------------------------------

 

 

「九郎、分かっていると思うが」

「できるだけ完成を遅らせろ、だろ?どっちみち作れんのは俺だけだからな、俺がダメと言えばそれが真実だ」

 

皇居から出ていく車の中で。

げっそりとした顔で、これからの相談をする俺たち。

今回は何とかしのげたが、次もどうにかできるとは限らない。

次がないように、というか皇帝が最前線に赴くなどという大暴挙を阻止するためにできることはすべてやらねばならなかった。

 

「どっから漏れたと思う?」

「妹君しか無かろう。鎧衣もこの件についてはこちら側だ、情報を流したとは思えん」

「ええいおしゃべりおばちゃんめ、こっちがどれだけ苦労してるかも知らないで」

「外で言うなよ。流石に庇えん」

 

皇帝に情報を流した元凶に対し怨嗟を吐く。

流石に窘めざるを得ない将軍様だが、本音を言えば同じ気持ちではあるのだろう。

それでも、表立って批判するような言葉は出せない。

 

「降嫁したとはいえ、皇帝陛下の妹君(●●●●●●●)であらせられるのだ。誰を敵に回すか分かったものではない」

「分かってるよ。鑑のばあちゃん(●●●●●●●)でもあるんだし。けど苦労してる側としては恨み言の一つも言いたくなるよ」

 

そういうことである。

 

事の始まりは大政奉還まで遡る。

公武合体によって正式に武家が政治を担うようになり、皇帝は帝国の象徴という立場となった。

 

では、皇帝に従う公家はいったいどうなったのか。

 

ほとんどの家は政治的ノウハウを欲した武家と何かしらの形で縁を結び、その家に同化していった。

しかし三家だけ、皇帝に直接付き従う形で残った家があった。

それが八咫家”やたのけ”、草薙家”くさなぎけ”、八尺家”やさかのけ”の三家である。

彼らの役目はシンプルで、皇帝の権威を示す三種の神器、すなわち八咫鏡、草薙剣、八尺瓊勾玉の管理。

それぞれがそれぞれの神器を保管・管理し、時として祭事を取り仕切るのも彼らの家業であった。

で、これだけ密接な関係だと当然血の繋がりもあり。

実際のところ、八咫家の前当主の妻は現皇帝陛下の妹君である。

彼女は八咫家に降嫁し、一男一女をもうけた。

 

兄は立派に成長して家を継ぎ。

妹は………鑑家へと駆け落ち同然で嫁いだ。

 

鑑家は八咫家の分家だが、もう何代も前に身分を捨てて平民となった家である。

それでも家同士の関係は悪くなく、年始の祝いには本家に挨拶に来る程度には交流があった。

しかしそこで鑑家の男に妹君…純夏の母親が一目惚れ。

猛アタックの末に攻め落とし、自らも身分を捨てて鑑家に嫁いだのだ。

当然相当に揉めたが、連れ戻しに行った連中はことごとく彼女の"拳"の前に沈み、八咫家現当主である彼女の兄が”好きにさせてやれ”と認めたためにこの件は彼女の降嫁を以て決着となった。

まあつまり、長々と書いたが。

 

鑑純夏は帝室の血を継いでいるのだ。かなり濃いのを。

 

正直この事実を知ったときは驚きより納得が先に来てしまった。

トロニウムの塊だった隕石が帝室の方に反応していたことから彼らに対しTPパッチテストを行ったのだが、結果は一番低かった方でもLv6、現皇帝陛下などLv8というとんでもない結果だったのだ。

帝室に所縁のない人間で最高位はLv3、原作OGにおける最高レベルがLv9ということをかんがみれば、どれだけぶっ飛んでるかこれだけで分かるだろう。

ちなみに白銀は現在Lv7、鑑は陛下と同じLv8である。

まあこの二人は五摂家や帝室に所縁があるから、ある意味先祖返りみたいなものなのだろう。

 

そこまでで済めばよかったのだが。

問題なのは、皇帝陛下が結構な武闘派である、ということである。

タイプS資格テストもクリアしてるほどで、むしろ陛下をガチで抑えられる人間の方が少ない。

そこにTーlinkシステムのことを、陛下が最も力を引き出せる装備の存在など知らせればどうなるか。

だからこそあれこれ理由をつけて皇帝専用機を用意してないし、知っている人間全員で口裏を合わせて黙っていたというのに。

 

これから先、陛下からの催促をいかにして躱すか。

難題がまた一つ増えたことに、二人でため息をつくしかなかった。

 

 

 





当然ですが帝室とか鑑家周りのことはオリジナルです。
…でも原作でやったこと考えるとこのぐらいの背景あってもおかしくない気がする…。

なお、G元素の生成には成功したものの現状ではプラチナよりも高価で、1g作るのに1ヵ月かかる模様。
やらかしたのはこの前日で、資料をまとめてる最中に呼び出されたため、まだ報告ができていませんでした。
後日報告を受けた榊総理の胃に穴が開いたそうです。


◯おじいちゃんは孫に甘い
純夏「タケルちゃんハーレム計画に協力してください!」
陛下「任せよ、皇位継承権はやれんが孫を帝室に迎え入れる準備は万端だ!」
武「」

なお、帝室の方々に相談せず進めた事を後で怒られた模様。"相談してくれれば根回し手伝えたのに!"と。


今週の更新は以上です。



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