――帝都城、将軍執務室。
日本帝国皇帝より全権を賜る政威大将軍、その居城。
夜も更け、人気の少ない時間帯。更に人が寄り付かないその場所にて、今代の将軍は信頼できる数少ない家臣の報告を受けていた。
「では、分かったのだな。あの設計図を書いたものが」
「はい。随分と時間がかかり申し訳ございません」
設計図。
4年前、国産戦術機開発計画”曙計画”宛に突如送り付けられてきた謎の戦術機の設計図のことだ。
当時まだ戦術機のせ、の字すら分からなかった帝国技術廠の者たちですら、完成すれば世界のパワーバランスが一瞬で崩れる、と理解してしまうほどの超兵器の設計図。
しかしそれは愚かにも利権に目がくらんだ俗物たちによって蔵の奥深くへと封じ込められてしまった。
戦場で命を懸ける軍人たちの命よりも己の欲望を優先するその所業に将軍も失望を禁じえなかったが、業腹でも今いなくなられては困る者たちであるのも事実。ゆえに彼らの首をいつでも切れるよう水面下で準備をしつつ、それと同時に設計図を送ってきた謎の存在を探ることも部下に命じていた。
「いやはや、ずいぶんと苦労いたしました。よほど権力者が嫌いなのか、徹底して痕跡を消していましたので。今回分かったのも別口で調べていた案件がたまたま繋がった、という次第でして」
「別口、とは?」
将軍と共に報告を聞いていた壮年の大男が報告者に問う。
紅蓮 醍三郎。
帝国斯衛軍中将にして、斯衛最強の呼び声も高い男である。
将軍の信頼も厚く、今回の報告を共に聞くことを許されてここにいる。
「マオ・インダストリーについてご存じで?」
「光菱の下受けで新興だが優秀な重機メーカー、だと記憶しているが」
「そのマオ・インダストリーが、申告されているよりも多くの資材を購入していることがわかりまして。その流れを追っていたらその先が例の設計者だったのですよ」
「多く、というのはどれほどなのだ?」
「ざっと戦術機が十機は作れる、という量でして」
「それは……一体何のために?」
「そのあたりのガードが固く、ずいぶんと時間がかかりましたが……これを」
そういって男から渡されたのは、一枚の写真。
そこに映っていたのは――
「これは……!?」
――あの設計図に書かれていた戦術機が、実際に動いているところを撮ったもの。
「どんな手管を使ったのかまではまだ調査中ですが、自力で作ってしまったようですな」
「設計図通りの性能か?」
「全力で動いていたのかまではわかりかねますが、少なくとも斯衛で採用予定の機体よりはよい動きをしていましたよ」
「むう……」
紅蓮は唸る。
現在、斯衛軍では77式”撃震”を斯衛軍向けに改良した機体を開発中だが、正式採用にはまだまだ超えるべき課題が多い、という状況だった。
そこに来て、すでに完成していると見られるはるかに高性能な戦術機の出現。
心穏やかにはいられないだろう。
「開発したとして、その目的は?まさか、帝国への反逆では……」
「そこについてはわかりかねますな。ただ、あの仕打ちについては向こうも把握していると考えたほうが良いかと」
まっとうに考えれば、あんな仕打ちを受けて帝国のために尽くそう、などとは考えないだろう。
考えれば考えるほど悪い想像ばかりが頭に浮かぶ紅蓮を現実に引き戻したのは、彼の主君の言葉だった。
「して、その設計者の名は?」
-----------------------------
良く晴れたある日。
設計など今日できることが終わってしまったので縁側でお茶をすすっていたら、じいちゃんが俺に予定を聞いてきた。
「俺に会いたい?」
「前にも言った古い知り合いでの。どうも九郎の頭の良さを知ってぜひとも助言を乞いたい、ということでの」
ばれたか?
資材関係とかかなり慎重に調達してもらったりしてたんだが。
まだ7歳のガキに助言を乞う大人など普通はいない。
これはどっかの偉い人にばれたとみるべきだ。
そのうえで、どうするか。
「……分かった。いつでもいい、て伝えといて」
偉い人なんてろくなものじゃない。特にこの世界では。
だが、そろそろそういった人間の力が必要な段階だ。
どうしようもない俗物でなければある程度の交換条件で協力してもらおう。
……と、思っていたら。
「ああ、わしじゃ。いつでもいいそうじゃぞ。……今すぐ?」
流石にそれは速過ぎるだろう。
しかも、来たのが――
「日本帝国政威大将軍を務める、斎御司経盛である」
――じいちゃん、どこが”そこそこ偉い人”なの?
-----------------------------
居間の上座に座る壮年の男性。
その右に控える大男。
左に座る微妙どころかすさまじく怪しいおっさん。
電話してからものの10分もしないうちにやってきたこの3人。
流石にこんな大物が来るとは思わなかったわ。
「お久しぶりでございます、利秋先生」
流石に唖然としていた俺をしり目に、将軍様がじいちゃんに挨拶している。
「息災なようで安心したぞ。しかし随分と性急に動いたのう」
「……先生?」
「なに、若いころに何度か指導する機会があった、というだけの話よ」
それ将軍指南役とか言わない?
「性急であることは百も承知ですが、その必要があると判断してのことです」
そういって将軍様は俺に向き直った。
「稲郷九郎君、だね?」
「はい。ご尊顔を奉る機会をいただき、恐悦至極にございます」
頭を下げる俺を、将軍様は止める。
「ここに人の目はない。無用な形式は不要だ。何より余は君に助言を乞いに来たのだ。余が頭を下げるのが筋、というものだろう」
将軍様の頭とかそんな軽くないでしょう。
怪しいおっさんはともかく、後ろの仁王がなんかすごい目してるんですけど。
「では多少言葉を崩させていただきますが、このような十にも満たない子供にどんな助言を求めておられるので?」
そういった俺に、将軍様は――
「日ノ本を守るため、そなたが作り上げた力と、その英知を貸していただきたい」
――土下座して、そういってきた。
仁王は驚愕して動けなくなっているし、怪しいおっさんも顔には出してないが動きが止まってる。
じいちゃんだけはいつものにこにこ顔で、俺を見てきた。
ふむ・・・・・・。
「一昨日きやがれ、バーカ」