MUV-LUV大戦   作:土井中32

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何もしたくない…でも仕事探さなくちゃ…でも寒くて動きたくない…お外吹雪いてるから出たくない…。




69話 妄執の最後

 

「聞いてた状況から絶対死んだものだと思ってたんだがな」

 

真っ赤な紅葉を咲かせた頬をさすりながら、俺はそれをやった本人に声をかける。

俺に手を上げたせいで床に押さえつけられているが、応えた様子はない。

 

「私も死ぬつもりだったのだけれど。半死半生で彷徨っていたところをこっそり様子を見ていたソ連の連中に拾われてね」

「そのまま東側に行ったわけか。シュミットぶっ殺したのによく受け入れられたな」

「連中も一枚岩ではない、ということよ。シュミットを送り込んだ主流派とそりの合わない冷や飯食らいの連中でね。国家保安省で培った手管が通じてよかったわ」

 

やっぱこいつとんでもない毒蛇だわ。どうやったら手を切った相手の懐に潜り込めるのか。

 

「で、ソ連の諜報員の一人として今回のおびき寄せに参加した、と」

「正確には恭順派を処理する非合法組織に出向していて、そこから派遣されているのだけど。でもおかげでとてもいい情報を手に入れたわ。世界的テロリスト集団のリーダーが主流派の不手際で生まれたなんて、これ以上の手土産はないもの」

 

やっぱり全部聞いてたか。

 

「仮に主流派追い落とせたとして、その後は?まだ昔の理想を追い求めてんのか?」

「今でもあの時はあれが正しかったと信じているわ。…でも、変わりゆく情勢に対して、意固地にそれを守り続けるほど愚かではないつもりよ」

 

ジッと、ブレーメの目を見る。

モニター越しに見た狂気を、今は感じない。その感覚を信じることにした。

 

「放していい。こいつにはこれから過労死するまで働いてもらう」

「しかし…」

「挑発したのは俺だからな。歳を気にする程度にはこいつも女だったってだけの話だ」

 

怒りのオーラを感じるが無視。さすがに二発目食らわすほどこいつも馬鹿じゃないし暇でもない。

 

「主流派追い落としてソ連国内を落ち着かせてくれ。最低でもBETAを追い出して、火星を取るまで。そこからは好きにしろ。また西側と張り合うなり戦争始めるなり自由だ」

「あら、言質ととるわよ?」

「俺の責任範囲はそこまでだ。それ以上を欲するなら自分たちで何とかしてくれ。元々それだけのポテンシャルはあるはずなんだからな」

 

俺はあくまで下駄だ。そんなものなくても何とかなるはずなのに上手くいかないからしょうがなく履かれてるだけ。

最低限の生存圏確立したら後は野となれ山となれ。また人間同士でいがみ合って絶滅戦争始めても俺は関与しない。そこまで面倒見る気はないからな。

 

「私が生きてるうちにそこまでいってもらいたいものね」

「これ以上横やり入らなけりゃ10年で火星は取れるだろうよ」

 

俺以外の全員が固まった。

 

「…正気?私たちはもう20年も連中と戦争をしてるのだけど?」

「地球だからそうなってるだけだ。無人惑星取るならメテオストライク連発すれば事足りる」

 

月はともかく、火星なら近くにアステロイドベルトがある。そこから大量に小惑星持ってきてハイヴ目掛けて落とせばいい。

光線級が地球にしかいないのは観測で確認済みだし、原種による迎撃があってもそれを上回る物量をぶつければいい。

ラザフォード場とかで防がれたら?それこそクロガネやハガネの出番だ。徹底した隕石落としで消耗したところに無理やり押し入って直接首を取ればいい。

指令系統は星が変わっても一緒だから、オリジナルを潰せばあとは全部同じ方法でハイヴを潰せる。

後は地表を這いまわる下級種が干上がるのを待って、ゾイドシリーズを送り込むだけ。何だったら盛大に核をばらまいたっていい。

どうせテラフォーミングするんだ、その前なら何やっても問題ない。

 

「アステロイドベルトの物資集積基地にはすでにその方向で準備させてる。今取ってもその後の防衛ができないからまだやってないだけだ。まずは月をどうにかして、火星への入植準備を整えなきゃな」

「…この場で公開していい情報じゃないわよ、それ」

「先行き見えないまま我慢するよりは抑えが効くだろ?」

 

だからそれまで何が何でも連中押さえろ、という脅しでもある。

 

「博士、それはまだ秘中の秘だったはずですが?」

 

固まっていた護衛を押しのけて鎧衣課長がやって来た。

さすがにこんな状況ではいつもの薄笑いではなく厳しい表情だが。

 

「これ以上足の引っ張り合いにかかずらっていられないんだ。この程度の情報でソ連がおとなしくなるなら安いもんだろ?」

「あなたを狙う人間がさらに増えますよ?せっかく厄介なのを一つ潰してかなりの相手を引かせられそうだというのに」

 

色々骨折ってくれてるのは承知しているが、こればっかりはな。

 

「西と東がいがみ合ってるのがここまで地球戦線が長引いた理由の一つだ。それを解消できるなら俺の首一つぐらい大した問題じゃねぇよ」

 

ものすご~~く深いため息をついた後、鎧衣課長は顔を上げた。

 

「ブレーメ嬢。スパイの間で約束などチリ紙にも等しいのは百も承知ですが、なんとしてもソ連を抑えてもらいたい。でなくば私は、いえ、帝国は死力を尽くしてソ連を潰さねばなりません。我が国の宝を守るためにも」

「…上にはきちんと伝えておくわ」

 

一応はそれで満足したのだろう、鎧衣課長は俺に向き直り。

 

頬をつまんで引っ張りだした。

 

「あれほどおとなしくしていてくださいと言ったでしょうが!?餌として引っ張り出したのは確かに私ですが、だからこそあなたの安全を最大限に担保する義務が私にはあるのです!!なのにその最優先護衛対象がふらふらと外を歩き回っては守れるものも守れません!!」

 

珍しくめっちゃお怒りだ。

言い返したいが頬を引っ張られていては意味のある言葉が出せない。

翻訳できる美沙も今は助ける気がないらしい。

 

「あなたが犠牲を許容できないのは百も承知です、他者を信じきれないことも。

それでも言わせていただく。

もっと我々を信じてください。それともいまだに人を信じられませんか?」

 

…確かに、ここは彼らを信じるべきだったのだろう。

犠牲が出たとしても、彼らはそれを覚悟してここにいるのだ。

俺がやったのはその覚悟を踏みにじる行為に近い。

 

「…分かったよ。後は任せる」

 

ようやく手を離した鎧衣課長にそう言って、懐に忍ばせていたものを渡す。

それが何だか知っている鎧衣課長の顔がさらにげんなりしていく。

 

「なんてものを持ち歩いているのですか」

「いざとなったらそれで囮になるつもりだったんだよ。そいつはあの人造BETAにも有効だ。豆電球につなぐ程度なら影響範囲もせいぜいメガフロートの中だけに納まる」

「だとしてもこんな劇物を持ち歩かないでいただきたい。別の意味で危険ではないですか」

「だから渡したんだろ。後はそれ使ってうまく収めてくれ。そして必ず返しに来い」

 

そう言って課長から離れる。

今度こそ俺は傍観者に戻る。あそこまで言ったのだ。後は何とかするだろう。

 

 

-----------------------------

 

 

護衛と共に金庫へと戻る博士をしり目に、私は全てにケリをつけるべく準備を整える。

博士から預かったこれがあれば人造BETAどもは一網打尽にできる。後は逃げ回っている恭順派の指導者を確実に消さねばならないが。

 

「追跡している斯衛はどうなっていますか?」

「人造BETAを盾にされてなかなか詰め切れないようです。奴は狙われないのにこちらには襲い掛かってくるようで」

 

預かり物と一緒に博士が教えてくれた推測情報が確かならば、奴は量子波を受信できる。それが故に仲間だと誤認されているのかもしれない。

 

「斯衛に通達。合図と同時に人造BETAを一ヶ所に呼び集めます。盾がいなくなった瞬間を狙って確実に始末してください。上はどうなっていますか?」

「零式がデカブツをタコ殴りにして抑えてますが、再生能力が高過ぎて殺しきれません。生産中の薬が一定量に達した段階でデカブツにぶち込む予定です」

 

一時的に行動を止められても、そのうち再生してまた動き出すらしい。あの巨体を殺し切るとなれば相当量の薬が必要だ。できるだけ早く用意してもらいたいが。

最悪後回しにしてでも指導者を始末しなくてはならない。それだけ危険なのだ、あれは。

 

「想定される薬の必要量まで、最短で20分だそうです」

「早いですな。あのデカブツにメガフロート全体への散布となれば相当な量になるはずですが」

「元々合成食料を製造するための化合物精製設備だらけですから。全部を並列稼働させればそれぐらいは」

 

メガフロートが耕作用だったのは敵に味方したが、同時にこちらにも味方してくれたわけだ。

 

「各員へ。20分後に全てのケリをつけます。そのつもりで動いてください」

 

今日、この場でケリをつけるのだ。

いつまでも人類同士で争っている場合ではない。

敵は、それほどまでに強大なのだから。

 

 

-----------------------------

 

 

立ち塞がるBETAを、唐竹に叩き割る。

流石に真っ二つになれば奴らも活動を停止するが、すぐに周りの連中がそれを食らって自身の傷を治し、巨大化する。

 

「キリがないな」

「このような雑魚にかかずらっている暇などないというのに」

「奴は?見失ってはおるまいな」

「奥で高みの見物してるよ」

 

わざと強化外骨格でも入り込めないような狭い通路に居座られているせいで、火力支援は望めない。

この命を投げ出す覚悟はすでに決めてあるが、それは確実に奴の首を取れるときに使うものだ。破れかぶれに突撃しても首を取れなければ賭ける意味がない。

 

「どう思う?」

「サイブリットだな。身体能力が生身のそれではない。首を取るとなれば相当に考えなければならんぞ」

 

ある程度は隠していたが追い回されればそういうわけにもいかないらしく、時々人体の限界以上の動きを披露していた。

博士から完全に着るタイプの身体強化服を提供されておりほぼ互角の動きができるが、頑強さに関しては向こうに軍配が上がる。

確実に始末するためには正しく必殺の一撃を叩き込む必要があった。

 

「何故理解しようとしないのです?天使たちはこれほどまでに我らを憂慮しているというのに。休むことなく語りかけてきていることこそその証拠!」

 

何かキーキー言っているが聞く必要もない。

生まれたからには最後の瞬間まで生き足掻くことこそあらゆる生き物の絶対の真理。ただ苦しいからと自殺する生き物など人間くらいのものだ。

それは人間が他の生き物に負けている部分でもある。

それを強要してくる阿呆など相手にするまでもない。

 

いつでも死ぬ覚悟はできているが、自殺や無駄死にしたいわけではない。

博士は確実に殺せといった。今まで使おうとしなかった五摂家の身分を使ってまで。詳細は分からなかったがこいつが人類にとってとてつもない脅威であることは間違いないのだ。

ならばこいつの首には己の命と引き換えるだけの価値はある。

だから命を懸けて首を取りに行くだけのこと。

 

『用意はいいか?壁を誘導する』

 

インカムから聞こえてきたそれに、汗をぬぐうふりをしながら軽く叩くことで答える。

 

『3,2,1』

 

カウントが消えた途端、BETAが顔を我らから背けた。

狙うべき首も。

 

「ああああああああァッ!?許されざる悪魔めェ!!またも天使に語り掛けるなどまるで反省していないではないかァッ!?許さん、許さんぞォ!!」

 

頭を掻きむしりながら凄まじい形相で叫んでいるが、もはや周りが見えていないらしい。

BETA共が、壁が移動を開始したことへの反応がない。

 

首を取るなら、今しかない。

 

無音ですり寄る。必殺の間合いまで。

その首を、確実に獲れる距離まで。

 

「やはりどんな手段を使ってでも殺すべきだったッ!!悪魔であっても天国へ導こうなどとせず、永劫の地獄へ落とすべきだったッ!!いや今からでも遅くない、確実に始末して地獄にッ!?」

「地獄に行くのは貴様だ阿呆め」

 

今更になって近づく我らに気づいたようだが、もう遅い。

既に、死神の鎌が届く距離だ。

 

後ろに飛んで逃げようとする首を、それを上回る踏み込みで追い詰める。

ずっと溜め続けた力を、鞘に収めた愛刀を引き抜く。

とっさに奴が掴んで引き寄せたBETAに割り込まれ。

 

 

にやつく首を、BETAごと切り飛ばした。

 

 

「な、ぜ?天使を、天使の御業により強化された体を…」

「護国のため命を懸けて磨き上げたこの業。例え相手が悪鬼羅刹であろうと、届くならば必ず殺してみせるわ」

 

直後、同僚たちの剣が首を更に叩き割る。

確実に殺せ、という勅であったのだ。首を飛ばしただけでは不安に過ぎる。

体の方も念入りに切り刻み、動きがないことを確認してようやく残身を解く。

どうにか人類の危機とやらを排除することができたようだ。

 

「こちらブレイド1。目標の抹殺を確認。確実に殺した」

『HQ了解。遺体を確実に処分するため回収班が向かいます。ひとまとめにして番をしてください』

 

了解を返し、ぶち撒けられたそれを見る。

自分たちでやったこととはいえ、もう少しきれいにやるべきだったか、と反省した。

 

 

 





叩きつけろ 小惑星を
打ち砕け マーズゼロを
荒れ果てた火星に 絶望を


○幸福とは

ブレーメ「ところでアイリスディーナが今どうしてるか知らないかしら?公的な情報もあまり回ってこなくて、イマイチ近況がわからないのよ」
九郎「この間二人目産んだってよ。女の子だそうだ」
ブレーメ「……は?」
九郎「お前の名前付けて、あいつが得られなかった分まで幸せをこの子に一杯注いであげるんだ、て幸せ一杯な顔で言ってたらしいぞ」
ブレーメ「………」
九郎「羨ましくなったか?今からでも遅くないからいい人見つけ」
ブレーメ「ふんっ!!」

もう一発赤い紅葉が咲いた。


○デスゲーム(イージー)

九郎「新素材開発、特にカーボンナノチューブ研究のスピンオフで完成したこのマッスルスーツ。見た目はただの全身タイツだが装着者の動きに合わせて身体能力を最大10倍程度まで強化できる」
マッド1「とはいえ制御の失敗で上半身が180度回転なんて悲劇も起こりかねないので」
マッド2「死んでも惜しくない実験体としてあなた方死刑囚が選ばれました」
マッド3「真面目に取り組めば減刑も考慮してくださるそうなので、ぜひ命がけで有用なデータを出してくださいね!」
マッド1「では手始めにスコープドッグ(レッドショルダー)との鬼ごっこです。撃たれないように逃げ回ってください。なお装備した火器はゴム弾ですが直径36ミリのゴム喰らったら痛いでは済まないので気を付けてくださいね」
死刑囚たち「「「ふざけんなぁ!!?」」」

この後も相当に過酷な目にあわされた模様。一応死なないよう配慮はされていたが。
完成したマッスルスーツはゾルオリハルコニウム製の日本刀(斯衛が自腹で進めてた)と共に斯衛の護衛専門組に先行配備され、メガフロート事件においても恭順派の弾幕を正面突破し兵士級と真っ向から切り合いを行うという頭おかしい絵面をそこかしこで発生させて他国の人間をドン引きさせた。

「ジャパニーズ、イッツァクレイジー」
「あれと一緒にしないで(切実)」


次話は明日投稿予定です。

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