MUV-LUV大戦   作:土井中32

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ということで今週は短編集です。
誰も書いてくれないから自分で書いたぞオラァ!良く味わいやがれ!!




閑話十  短編集三

 

○神事

 

鋼がぶつかり合う硬質な音が会場に響く。

それをかき消すほどの歓声を受けながら、2体の巨人は組み合って離れない。

小細工無用、真正面からのぶつかり合いで勝負を決める。

それでいて互いが力のかけ方、重心の移動で探り合い。

一瞬の差で勝敗が決まり、敗者がバトルフィールドから放り出される。

 

 

 

「うっはー!すげえ迫力!」

「そりゃ人間の倍もある巨人が相撲取ってりゃな」

 

 

観客席で騒ぐ白銀に答えつつ、俺はそれを見る。

廻しを付けたスコープドッグが、土俵に上がるのを。

 

スコープドッグ相撲。

 

諸般の事情で低迷しつつある相撲人気に歯止めをかけるべく、相撲協会が新たに始めた興業である。

民間用のそれを特別な許可を得て改造。相撲専用のスコープドッグによる大迫力の取り組みは見事に当たり。

興行の度に終日満員御礼、特等席のチケットが転売されて騒ぎが起きるほどである(なお、転売屋は後日土左衛門で発見されたらしい。目下警察による捜査中だとか)。

ちなみに、乗っているのは本物の力士の皆さんである。操縦席狭くないんだろうか。というか全員教習所に通ったのか。

 

で、俺がここにいる理由だが。

スコープドッグの生みの親ということで、協会から招待状が届いたのだ。特等席の。

一回ぐらいは見に行ってもいいか、ということで、興味を示した白銀と幼馴染から離れる気のない鑑を連れて見に来たわけだ。

…なお、俺にはわからないが周囲は偽装した護衛でガチガチである。そうでもないと出かけようなんて思わないし。

美沙も今はESP発現体受け入れに関係して実家に帰ってるからな。代わりにかぐやが鼻息荒く周囲に目を光らせている。

 

「でもすごいね。安全上の理由でお相撲さんたちがやるのより遠くからしか見られないのに、こんなに見に来る人がいるんだから」

「そりゃ巨大ロボット同士のぶつかり合いなんてめったに見る機会ないからな。男の子なら見たくなるだろ」

 

実際見に来てる連中の9割は男だからな。

ここ以外で民間人が巨大ロボットの闘いを見られる機会なんて、帝国陸軍の公開演習の時ぐらいだろう。

バーチャルでいいならバーンファイトって手もあるが、やはりリアルのぶつかり合いと比べれば迫力でちょっと劣る。

…最初は戦術機で相撲取ろうとしたらしいが、あっちは完全に軍事用だからな。許可が出なかったそうだ。

 

と、そんなことを考えていたら次の取り組みのようだ。

2体のスコープドッグが土俵に上がる。

 

「に~し~~~みかど~のやま~~」

 

行司の言葉とともに土俵に上がる、右肩を()に染めた巨人。

ちなみに危ないので行司は土俵の中にはいない。専用の席から見守っている。

 

「…ん?」

「ひが~し~しょうの~うみ~~」

 

その言葉とともに上がってきて四股を踏む、左肩を()に染めたサイクロプス。

 

「………」

「見合って見合って~~、はっけよ~い、のこった!」

 

フリーズする俺をよそに準備は進み、巨人同士の勝負の幕は切って落とされた。

双方真正面からぶつかり合い。次いで廻しを掴み組み合って1ミリも動かなくなる。

しかし双方が上げる凄まじい機械音が、互いが全力で相手を倒そうとしていることを物語る。

 

「こ、これどっちが優勢なんだ!?」

「完全に互角だな。恐らく機体のチューニングはほぼ同一。乗ってる方々(●●)の技量もほぼ変わりがない。こうなると勝負を制するのは…」

「せ、制するのは?」

 

ズルリ、と。

しょうのうみの足が、滑る。

 

「勝利の女神を、味方につけた方だ」

 

ほんの一瞬体勢が崩れたのを見逃さなかったみかどのやまが、相手を持ち上げぶん投げる。

しょうのうみが、土俵の外へと飛んでいく。

見事な上手投げだった。

 

「すっげーー!!今のはすごい見ごたえあったなぁ!」

「うん!私でも見入っちゃうぐらいすごかった!」

「………アア、ソウダナ」

 

喜んでる白銀と鑑には悪いが、俺はそこまで手放しでは楽しめねェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

胃を押さえて俯いている、紅蓮のおっさんと榊総理を見つけてしまったから。

 

 

〇スモードッグ

 

民間モデルのワーカードッグを相撲用に改造した機体。

前面装甲の増設、頭部形状の変更(髷がある)、回転式ターレットレンズの単眼化とレンズガードの増設などが外見的に顕著な変更点になる。また腰部に廻しを巻いている。

全体的にパワーと瞬発力を重視したチューニングがされている。

特に股関節が魔改造されており、180度開脚が可能。

これを利用した四股踏みは、乗っている力士の力量を魅せる場として気合の入ったものが見られる(上手くバランスをとれないと足を高く上げられない)。

逆にターンピックとローラーダッシュはオミットされており、長距離移動の際には別途移動手段が必要である。

重装甲超接近戦仕様というべき機体で、掴み合いなら軍用含めた全ドッグ中最強とも言われる。

…余談だが、スコープドッグ相撲の成功を受けて他の格闘技でもスコープドッグ部門が新設され、異種格闘技戦としてバトリングが一大ムーブメントになるのはまだ先の話である。

 

 

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○銀幕でびゅー

 

「…へー、よくできてるじゃん」

「視聴率7割越えというのも納得ですね」

 

居間で夕食後、テレビを見ながらの会話。

普段はテレビ見たりなんてしないんだが、ふとある番組が気になったので点けてみたのだ。

テレビに映し出される番組、そのタイトルは。

 

 

”暴れん坊将軍 現代編”

 

 

37代目征夷大将軍 松平吉宗が貧乏武家の四男坊・新乃介(しんのすけ)に扮して街に下り、臣民を苦しめる悪党を懲らしめる勧善懲悪ものである。

 

…時代が違うのはともかく、微妙に違うところは配慮かなにかなのか。

その割には主人公である吉宗はマ○ケンなのは一緒ではあるが。いや俺が知ってるのより若いけど。

しかしクオリティが異様に高い。脚本も面白いし演出も気合が入っている。製作費いくらかかっているんだろうか。

というかこれ週一で作れるんだろうか。スクリーンに映せばそのまま映画として通りそうな完成度なのだが。

 

今日のお話はひねくれ者の職人のお話らしい。

皮肉屋だがとんでもなく腕の立つ職人と知り合った吉宗。

職人は勤めている会社から巨大なからくり人形の制作を命じられたが、実はその会社の社長は国家転覆を企んでおり、その切り札が職人の作っているからくり人形であったのだ。

企みに気づいた職人はお上に助けを求めようとするが、社長にバレて妻を人質に取られてしまう。

妻を取り戻すにはからくり人形を渡すしかない、しかし自分が作ったものが無辜の民を傷つけるところは見たくない。

自分の命を投げ出す覚悟を決めた職人とその妻を救うため、吉宗が悪徳社長とその手勢に挑む、というお話のようだ。

 

……。

 

「東○にロケット撃ち込んじゃダメか?」

「恥ずかしいからって物騒な手段に出ないでください」

 

どう考えてもこの職人俺のことじゃねぇか!

職人の妻も銀髪赤目で美沙そっくりだし!!

畜生、美沙に手ェ掴まれてなきゃ格納庫に転がってるスーパーグリーズでも持ち出して更地にしてやるのに。

でも顔が赤く染まった美沙が可愛いのでそこだけはよくやったと言ってやる。心の中で。絶対口には出さないが(心の声がもろバレであることを忘れている)。

 

とりあえず茶を飲んで気分を落ち着ける。

場面は帝都城。空に浮かぶ満月を見ながら悩む吉宗、という構図だ。

果たして自分は民たちを救えているのだろうか、と悩んでいるらしい。

 

『悩みがあるようだな、吉宗』

『っ父上!』

 

「…父上?」

 

なんか聞き覚えのある声だな、と思いながら見ていたら。

廊下の暗がりからゆっくりと進み出てきたのは――

 

「ブフッッッッ!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――モノホンの将軍様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

いや何やってんだあの人!?

いかんお茶が変なところに入った、咽て止まんねぇ。

美沙が背中を擦ってくれてるがそれどころじゃない。

吉宗の父親役らしい将軍様が吉宗諭してるみたいだが衝撃がひどすぎて全く頭に入ってこない。

とにもかくにも電話を手に取る。

将軍様…いや、紅蓮のおっさんを呼び出す。

 

『九郎か、なにご』

「将軍様が俳優デビューしてんだけど!?」

『……ああ、その件か』

 

めっちゃ沈んだ声で返されて察した。押し通されたなこれ。

 

『吉宗役に負けない実力のある俳優が当時誰もスケジュールが合わなかったそうでな。父親役をどうするか、と難儀している話を鎧衣の馬鹿者がいつもの前置きで話してしまったのだ』

「…で、じゃあ余がやるって言いだして止められなかったのか」

『殿下を止めてたら”では朕が”とまで言い出されてはな。二人とも止める気力はわしには残らなかった』

「…急に電話かけてごめん」

 

後で何か差し入れ送ろう。胃に優しいものを。

 

とかなんとかやってたらテレビは既にクライマックス。

悪徳社長が奪った巨大からくり人形で町を破壊している。

 

『く、何か手はないのか!?』

『…おい新の字、お前誓えるか?』

『誓う?何をだ』

『自分のためでなく、誰かのために戦い続けると誓えるか!?』

『愚問だな。将軍とは民のためにあるもの。民を蔑ろにして将軍はあり得ぬ!』

『よぉし、ならお前に預けるぜ。俺のとっておきをな!』

 

そう言って職人は懐からボタンを取り出しスイッチオン。どこからか巨大な何かが飛んできた。

地響きとともに現れたのは――

 

 

 

 

『目ェかっぽじってよく見やがれ!これが俺の最高傑作だァ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――巨大な侍であった。というかゲシュペンストタイプS・VGだった。

 

 

 

 

 

 

『こんなこともあろうかとぉ!こっそりクソ社長の金くすねて作っていたもっと強いからくり人形だぁ!!こいつをお前に託すぜ!』

『ああ、感謝する!!』

 

オイ。それでいいのかマ○ケン。

まあ、そこからはどこぞの戦隊ものよろしく、巨大ロボット同士の巨大合戦。

当然ながら将軍にただの社長ごときが敵うはずもなく。

哀れ社長はからくり人形ごとぶった切られ、成敗。

職人も無事妻を取り戻し、帝都の街には平和が戻ったのであった。

めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

…もう二度とテレビ見ない。絶対。

 

 

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○集結

 

「じゃあおふくろ、行ってくるぜ」

「気を付けてね、隆聖」

 

おふくろに見送られながら東京の実家を出る。行く先は東京駅だ。

帝都での仕事になるから、おふくろとしばらくは会えなくなる。

だがこれも病弱なおふくろをいい病院に入れてやるため、そして地球を守るためだ。

 

日本帝国で徴兵制度が復活したのはずいぶん前だが、それは世界大戦のころと比べてもかなり緩いらしい。

男女とも18歳になれば兵役の義務が課されるが、正当な理由があれば免除が可能だ。

例えば進学とか、あるいは就職先が決まってるとか。

帝国軍や政府としては帝国侵攻で失った戦力を取り戻したくはあるけど、銃後のことを考えれば総動員令を発動するわけにもいかない。

あまり軍事偏重になりすぎるとそれを支える国の土台が傾くから、と学校の先生は言っていたが。

 

正直俺はどうしようか迷っていたクチだ。

事前検査で戦術機への適性が認められていたから、軍人になれば憧れだった巨大ロボットのパイロットになれるかもしれない。

でも病弱なおふくろのことを考えれば、どこかのまっとうな仕事について安定した仕事をするべきだとも思う。

悩む俺のもとにあの人がやってきたのは、そんな時だった。

 

「伊達隆聖で間違いないか?俺は稲郷九郎。今の肩書はスカウトマンだ」

 

稲郷九郎。

帝国のいや、今や世界の主力であるゲシュペンストの開発者にして、世界最高の頭脳とうたわれる天才科学者。

そんな人が直々にスカウトに来るなんてその時は思いもしてなかった。

聞けばバーンファイトの成績優秀者の中でも”特別な資質”を持つ人間を探しているんだそうで。

 

「お前さんが持つ特殊な先天的特性を戦闘に応用するシステムを開発しているんだが、何分被験者が足りてなくてな。言い方は悪いがテストパイロット兼モルモット、ということになる。もちろんあからさまに危険なことはさせないし、給料とは別におふくろさんにいい病院も紹介してやれる。このまま衛士になって前線配備よりは比較的安全だと思うぞ。まあ最終的にBETAと戦ってもらうことにはなるだろうが」

 

どうする?という言葉に俺は即答した。

なんとなくだが、この人は信用できると思ったからだ。

それに稲郷博士の研究所には、日の目を見ていないロボットがたくさんある。

それらを見たり、あわよくば操縦すらできるかもしれない。

そして今日が、記念すべき初出勤日。

 

「よーし、やぁぁぁぁってやるぜ!!」

 

…電車の中で騒ぐなと車掌さんに怒られた。ごめんなさい。

 

 

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「直に顔合わせんのはずいぶんと久しぶり、かな?」

「帝国侵攻の直前が最後でしたので、4年ぶりといったところかと」

 

たまに兄と通信越しに会話しているのを見たことがあるので、あまり懐かしくは感じないのだが。

 

「それで?聞きたいことってのは何だ、ライディース・V・ブランシュタイン?」

「なぜ自分なのです、稲郷博士」

 

博士が進めているDGGなる超兵器の開発プロジェクト。

そのパイロットの一人として、俺は博士に招聘された。

…すでに兄を、エルザム兄さんを招聘しているにもかかわらず。

 

「世界的なエースパイロットであれば自分以外にも候補は大勢いたはず。信用のおける相手であれば猶更。なぜ自分を?」

「個人的な理由としてゲン担ぎってのが一つ。まあこれはライディース少尉には全く関係のない話だが。それとは別の理由がまあ二つ」

 

ゲン担ぎ、というのも気になったがとりあえず流す。まずは自分に関係のある話からだ。

 

「まず前提として、少尉が乗る機体は3人乗りだ。それとは別にもう1機がセットで運用される。だがこの搭乗機がちょっと曲者でな、性能発揮に特殊な先天性の資質が必要なんだ」

「自分がその先天性の資質持ちだと?」

「いや、少尉にはそっちの資質はない」

 

余計にわからなくなる。ではなぜ自分を乗せる?

 

「残りの二人は資質持ちだが、いかんせん素人でな。片方は士官学校を出たばかりで、もう一人は高校を卒業したばかりなんだ」

 

なるほど。そういうことか。

 

「すでに実戦を経験している自分がチームリーダー、あるいは中からチームを支えろ、と」

「チームの隊長は何とか佐官を引っ張ってこれそうだが、もう一人年が近くて実戦経験のあるやつを、となるとな。候補が一気に絞られて、その中で求める能力があるのが少尉しかいなかった」

「理由の片方については把握しました。ではもう一つとは?」

 

こっちを見た博士の顔がにやつく。何か嫌な予感がする。

 

「”義弟が家にいるのが息苦しそうなので何かいい案はありませんか?”だってよ。横恋慕した相手が幸せなのを見せつけられていたたまれなかったか?」

「!!?そ、そんなことは」

「まあそういうわけだ。(失恋の傷を癒すにも)ちょっと距離を置いた方がいいだろうと進言したらこうなった。親父さんも了解済みだよ」

 

…こういう時は何を言っても無駄だ。ひたすらに耐えるしかない。

 

「ま、理由としてはそんなところだ。納得できないってんなら蹴ってもいいぞ。それで出世に響くこともない」

「…いえ、やらせていただきます」

 

正直、家に居づらかったのも事実だ。ならば一度距離を取るのもいいだろう。

もちろん仕事の手を抜く気はないが。

 

「じゃあよろしく頼む。殺し合いにならない程度ならいくら喧嘩しても構わないから仲良くやってくれ」

 

…流石にそこまで険悪な中にはならないと思っていた、この時は。

まさかあそこまで水と油な奴とチームを組むことになるとは、この時は思いもしなかったのだ。

 

「リュウセイ何度言ったらわかる!?やたらめったら突撃するな!!」

「結果的に正解だったからいいじゃねえか!細かいこと気にしすぎるとハゲるぞ?」

「誰のせいだと思ってるんだ貴様ァ!!」

 

この後取っ組み合いになって警備員に取り押さえられた。

隊長から頭冷やせと独房に放り込まれる羽目になった。

やはりこいつとは馬が合わん!

 

 

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拝啓お父様。いかがお過ごしでしょうか。

私は今、心が折れかけています。

 

「いい加減にしろリュウセイ!そこは一度距離を取ってだな!」

「それじゃ制限時間に間に合わねぇだろ!?やっぱりここは一点突破して…!」

「前回それで失敗しただろうが!?貴様の頭の中にはスポンジでも詰まってるのか!!」

「何だとこの石頭!!」

 

「いい加減になさい二人とも!!」

 

どうしてこうなったんだっけ。

 

私の名前は古林 彩。

今年士官学校を出たばかりの新任少尉ですが、訳あってこの二人とチームを組んでいます。

でもこの二人がとんでもなく相性が悪くて、顔を合わせればいつもこの調子。

毎回仲裁をするこっちの身にもなってほしい。

 

稲郷博士が進めているグルンガスト零式に続く超大型戦術機開発プロジェクト、その一機。

その操縦には先天的な資質を必要とするらしく、リュウ…隆聖と私はその資質を持つ人の中でも戦術機への適性も高かったことから選ばれたんだとか。

ライ…ライディース少尉は実戦経験のない私たちをフォローするために稲郷博士が伝手を頼って連れてきた人で、この三人で建造中の超大型機を操縦します。

でもリュウとライはいつもこんな調子でうまく合わせられず、シミュレータの成績はいつも散々。

稲郷博士はいつも笑って流してくれますが、ほかの研究者たちからは不安そうな目で見られています。

 

「相変わらず元気だけは有り余っているようだな」

「いっ!?き、北村教官!!」

 

全員であわてて敬礼する。

富士教導隊に所属する北村開少佐、そして隆聖の教官でもある。

 

「なかなか座学に来ないのでサボってるのかと思ったのだが、そうではなくて安心したぞ。ではこいつは借りていく」

「いでででで!?ちょ、耳を引っ張らないでください!!」

「軍人にとって時間は絶対だ!!それを忘れて喧嘩とは言語道断、今日はさらに厳しめに鍛えてやる!!」

「イヤーーーーーー!!?」

 

悲鳴を上げながらリュウが連れていかれた。

リュウは高校を出てすぐに招聘されたから、基礎的な軍事教練がまだ終わっていないの。そのため稲郷博士が教官として連れてきたのが北村少佐だった。

正直少佐とマンツーマンなんて現役衛士からは羨ましがれる状況のはずなんだけど、知らぬは本人ばかり。リュウにとってはただの鬼教官だものね。

 

「騒がしいと思ったら伊達か。あいつも懲りねぇな」

「稲郷博士」

 

いつの間にかいた博士に急いで敬礼。軍人じゃないから必要ないといつも言われるが、普段から練習しなければ咄嗟に返せなくなり後で困るのは私たちだ、と言って通している。

 

「機体の進捗はどうなっていますか?」

「全機同時進行で進めてるせいでよくねえな。とりわけこいつは他とは造りが違い過ぎるし」

 

そう言って博士が見上げる先。

未だフレームがむき出しの巨人、私たちが乗る予定の機体。

正式な名もなく、ただ5号機と呼ばれている機体だ。

 

「コンセプトがコンセプトだから複雑怪奇な構造になるのは覚悟してたんだが、よもやここまでとはなぁ。やっぱりこいつは他より遅れそうだ」

「最初に仕上がるのは順番通りに1号機ですか?」

「いや、3号機になりそう。あれは操縦系もフレームも特段おかしなものは積んでないからな」

 

1号機は操縦系、2号機はフレーム周りで難儀しているらしい。

 

「4号機は俺の管轄外、6号機はサイズ的に今までの戦術機で培った技術が流用できそうだからそこまで遅延は出ないだろう」

「…7号機は?」

「フレーム含めて完成までのロードマップは既に引いてあるがな。肝心の心臓部を動かせなきゃ絵に描いた餅だ。完成できるかはあの二人次第だな」

 

7号機…仕様を聞いたときは耳を疑った。そこまでの性能が必要なのかと。

5号機も相当に強力だが、最大火力を発揮するためには6号機とセットで運用する必要がある。

だが7号機は単独で5号機と6号機の最大火力を上回ることが可能なのだ、予定性能を発揮すれば。

 

「博士はずいぶんとその、あの子たちを信頼しているのですね」

「未来ある若者に力を託すのは特段おかしいことじゃないと思うが」

「それでもまだ10を越えたばかりの子供です。何があなたをそこまで信頼させたのですか?」

「才能があるから、というのもまあ間違いではない。現にTPレベルは今の古林どころか伊達すら上回ってる」

 

5号機以降の根幹と言ってもいいT-linkシステムを動かすために必要な念動力、その強さを表すTPレベル。

今の私はLv4、リュウはLv5だけど、あの二人はLv7と8、現状彼らを上回る人間はいない。

…一人だけいるそうだが、その存在はトップシークレットらしく一度も会ったことがない。

 

「けど才能以上に、どんなに絶望的な状況でも諦めない、そして必ずやり遂げて見せる。そう思わせてくれるだけの”熱”があるんだ、あいつらは」

「熱、ですか」

「万が一俺に何かあってもあいつらなら絶望をぶち破ってくれる、そう思ったからこその投資だな。そう言う意味ではお前らにも期待してんだぜ?でなきゃ新米にこんなバケモノ預けたりするもんか」

 

ぐっと気を引き締める。

そうだ、私たちは人類の切り札になることを期待されているのだ、それに応えなければ。

 

「ああそうだ、6号機のパイロットが決まったから連れてきたんだった。つっても古林は知ってる人間だが」

「ヴィレッタ隊長ではないのですか?」

「例の最大火力が安定しなくてな、それまでの暫定処置みたいなもんだ。ほれ、挨拶しろ」

 

そう言った博士の後ろから現れたのは。

 

「舞!?どうしてここに!」

「6号機のパイロットとして招聘されました、古林舞です。よ、よろしくお願いします」

「どういうことですか博士!?」

「俺も反対したが、古林の親父さんと本人のたっての願いでな。実際最大火力を使うためには実験中のツインコンタクトが必須なんだが、一番可能性がありそうなのが古林姉妹なのは検証済みでな」

「だからって、舞はまだ学生です!高校を卒業したリュウならまだわかりますが、徴兵年齢にも達してない舞を戦場に出すなんて!!」

「いいんだ、彩姉。私が言い出したことだから」

「舞!?」

「彩姉が私を心配してくれるように、私も彩姉を守りたい。捨て子だった私を家族として受け入れてくれた父様や彩姉を」

 

舞と私は血が繋がっていない。

町医者をしているお父様が、診療所の前に捨てられていた赤ん坊を引き取って養子としたのだ。

でもそんなこと関係なく、舞は私の妹だ。だからこそこの子が戦場に出ることに賛成できない。

 

「まあ徴兵年齢に達してないことは百も承知だ。しばらくは伊達と一緒に北村のおっさんに鍛えてもらいながら、ツインコンタクトの実験に付き合ってもらう。T-Linkシステムが安定すれば彼女が乗らなくても最大火力は使えるはずだし、そこまで開発が進めば6号機専属はヴィレッタになるだろ。妹を戦場に出したくないなら気張れ」

「…承知しました」

 

既に決まっていることなのだろう。

難しい顔をする博士を見れば、彼も納得しているわけではないことはわかる。

…大丈夫。私が頑張ってT-Linkシステムを安定させればいいのだ。

可愛い妹を、戦場になんて出してやるものか。

今一度、気を引き締めた。

 

 

なお、後日。

 

「あ、彩姉。相談があるんだけど」

「どうしたの?私にできることなら何でも言ってちょうだい」

「お、男の子を振り向かせるのってどうしたらいいんだ!?」

「…ヱ?」

 

別の意味で頭を悩ませることになるなんて思ってもみなかった。

 

 

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○観察

 

今日も私たちはあの人をじーっと見つめている。

本当は能力を使って中身を観察したいのだが、それは青空姉様から止められた。

姉様は実際にそれをやって危うく死ぬところだったと言うのだから、迂闊にそれをやるわけにもいかない。

それに私たちに組み込まれていた脱走防止処置を解除してくれた恩人、そして美沙姉様のいい人でもある。

美沙姉様が悲しむから、能力は使わないとみんなで決めた。代わりにみんなで代わるがわるあの人を観察している。

 

私たちはESP発現体、故郷たるソ連のために生み出された人工生命体。

その身をささげ、ソ連に栄光をもたらすことこそが生まれた意味、己が使命。ずっとそう教えられてきた。

でもそれを果たす前に私たちは用済みとなり、ここに送られてきた。用済みとなった子がどう使われるのかは研究員たちが話していたのを聞いていたから、私たちはこの人にそう使われるのだろうと思っていた。

 

でも私たちに会って直ぐ、あの人はこう言った。

 

「脱走防止処置を解除して足りてない知識と技術を教える。その上でどうしたいか自分で考えろ。出来るだけその後押しをしてやる」

 

その言葉通りあの人は脱走防止処置を解除した後、私たちに様々な知識を与えてくれた。

生きていくために必要な常識から割と専門的なことまで、望めば何でも教えてくれたし教えられる人を手配してくれた。

形式上の親であり保護してくれている一条家の人たち、その当主様や奥方様(二人からは父と母と呼んでほしいと圧をかけられたが、まだ慣れない)は裏表なく私たちを人として扱い可愛がってくれるし、美沙姉様や青空姉様は今までとの違いに戸惑う私たちに自分たちの体験を交えてどうしたらいいのか教えてくれた。

 

「焦らなくていい。やってみたいことを一つずつ見つけていけばいいの」

 

そう言って頭を撫でてくれた手が、とても暖かかったことをよく覚えている。

そんな風に美沙姉様達を変えたあの人が気になって、今日もみんなで観察している。

…一部、全く違う人間に興味を見せている姉妹もいるが、特に咎める理由もない。他者と比較することで分かることもあるはずだ。

 

でも大抵あの人は研究所の部屋で机に向かっているか、格納庫で指示を出しているか、煤で真っ黒になった人たちを怒っているかのどれかだ。

日によってそれぞれの比率はバラバラだが、ずっとその調子で変わらない。観察のし甲斐がない。

でもその行動の中に美沙姉様達を変えた要素があるはず。だから今日もみんなで観察する。

 

 

 

あんな風にとっても優しそうな、綺麗な表情でほほ笑む姉様たちみたくなりたいから。

 

 

 

 

…みんなで観察してたら邪魔になると青空姉様に怒られた。

通りかかったアラドに見られてまたやったのかとからかわれた。

そのあとすぐゼオラに自分が怒られていたけど。

 

「あんなシミュレーション結果でお給料もらうなんて恥ずかしいと思わないの!?今日は特訓よ特訓!桜花姉様と一緒に厳しくやるんだから!!」

「ちょ、タンマ、俺これからメシに」

「私たちが納得できる成績出すまで飯抜き!!」

「イヤァーーーーーーーーーーー!!?」

 

夫婦漫才、というのだったか。

ひとしきりそれをやった後、シミュレーター室へと消えていった。

アラドがゼオラに首根っこ引っ張られる形で。

 

ブーステッド・チルドレンと第三計画の研究者たちが呼んでいた二人は、私たちと違ってどこからか連れてこられた孤児だ。

一から生み出すのではなく孤児をどこまでいじくれば兵士として使えるようになるのか、それを確かめるために様々な強化措置を行う実験台。それがブーステッドチルドレン。

研究者たちが好き勝手にいじくり倒したものだからその損耗速度は私たちよりも早く、生き延びたのはたった3人だけ。

最近もう一人生存が確認されたらしいが、2桁いる私たちに比べて圧倒的に少ない。

既に投薬措置などは打ち切られ、手厚い医療体制の元データ取りの仕事の代わりに給料と身分の保証がされている。

書類上はクエルボ・セロ博士の子供で、養育費その他は観察対象であるあの人が出しているそうだ。

ついでに社会復帰プログラムのテスターとして中卒、高卒認定のための勉強もしてるとか。頭を使うのが苦手なアラドがよく変な鳴き声を上げているのを見る。

それでもあそこにいたころより何百倍もマシだ、と笑っているが。

アメリカで保護されていた妹分ともテレビ電話越しに会えるようになり、目に見えて笑顔が増えている。

 

でも、彼らの笑顔は美沙姉様たちのそれとは何か違う。

その違いを知るべく、今後も観察を続けるつもりだ。

でも今まで通りではまた怒られる。何か別の方法を考えないと。

 

 

 

 

 

 

 

「盗聴と盗撮のやり方を教えてください」

「違法なことは教えられません!!」

 

また怒られた。解せぬ。

 

 





○大器

一条家奥方「ああやっぱり女の子はいいわあ息子たちと違って服の用意し甲斐があるもの今度はこっちなんてどうかしらああこれもいいわねああ何着せても可愛いから迷っちゃうわねあなたたちは何か気に入ったのはあるかしら!?」
義娘1「そ、そこまでしなくてもみな同じものでじゅうぶ」
一条家奥方「何言ってるのこんなに可愛いんだからおしゃれしないなんてもはや神への冒涜よ冒涜!!今まで一杯苦労したんだからこれからは一杯幸せにならなきゃつり合い取れないわよだから遠慮せず好きな服着てみなさいお金の心配はしなくていいのよ義息子からたんまり送られてきてるからさあさあもたもたしてると私が着せ替え人形にしちゃうわよ!!」
義娘2「は、はい!総員散開!!」
義娘3(言動に全く裏表がない。私たちをちっとも怖がってない。こんな人たち初めてだ…)
一条家当主「…やはり少々強引にでも振り回してやるべきか、美沙や青空のように」
一条家奥方「ええ。今までわがままなんて言えなかった子たちだもの。こっちで振り回すぐらいがちょうどいいわ。そうして言いたいことが言えるように、少しずつ自分を出せるようになっていけばいいの」
一条家当主「願わくば、あの子たちに幸多からんことを。いや、そうなるよう我らが踏ん張らねばならんな」
一条家奥方「義息子も頑張っているんだもの。義娘達のためにも頑張ってね、あなた?」
一条家当主「うむ。それが武門の、いや大黒柱の仕事よ。だから妻よ、その手にある煽情的な衣装は棚に戻せ」
一条家奥方「あら、なかなか孫の顔を見せてくれない義娘夫婦への援護のつもりなのだけど」
一条家当主「まだ籍を入れておらぬ。そして露骨すぎて逆効果になりかねんからそっと見守ってやれ」

なお毎回送られてくる衣装が凄すぎて義娘は見るたびにオーバーヒートしてる模様。役には立ってるようだが。


○重し

クエルボ「稲郷博士、なぜ僕に桜花たちの親権を預けたのです?発現体の子たちのように一条家に預けるという選択肢もあったのでは」
九郎「裁判も量刑も済んでるお前さんは何か重しがないと簡単にあの世に飛んでいきかねないからな。こうすりゃあいつらが立派な社会人になるまで死ぬわけにいかないだろ?」
クエルボ「それは…」
九郎「自分に対する量刑は自分で決めるしかない。だが死ぬことが贖罪になるとは限らない。己のやったことに良心の呵責を感じるなら死なせた以上に救え。俺はそうしてる」
クエルボ「…分かりました。残りの人生全てを使って頑張らせていただきます」

九郎「…どの口で言ってんだろうな、俺は」


今週の更新は以上です。

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