MUV-LUV大戦   作:土井中32

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9話 認識の違い

 

 

稲郷九郎、7歳。今俺の命は風前の灯火だ。

なぜって?

 

目の前で仁王が俺の首切り飛ばそうとしてるからだよ!

 

「……どいていただきたい。いかな童といえど、今の暴言は許しがたい!」

「どんな理由があれ、九郎はわしの孫じゃ。守るのは当然よ」

 

じいちゃんが仕込み杖で割って入らなかったら、俺の首はほんとに飛んでただろう。

互いの刀が微動だにしてないのに、お互いがすごい力で押し合ってるのがわかるほど頭に血管が浮いている。

 

「やめよ、紅蓮」

「殿下、しかし!」

「やめよ、と申した」

 

頭を上げた将軍様が声をかけてようやく止まったが、座り込んでも殺気駄々洩れのままだ。

次なんか言ったら今度こそ命捨てて向かってきそうだな。

 

「理由を、聞かせてもらえるだろうか」

 

流石は将軍様、というべきか。

その顔にはさっきの暴言に対する怒りや憤りみたいなものは微塵も感じられない。

真摯に、言われた理由が知りたい、という顔だ。

……こういう人が頭張ってんのに、なんであんなことになってんのか。

 

「将軍様の言う、日ノ本とは何ですか?」

 

俺の問いに、将軍様は意味を図りかねたのだろう。すぐには答えられなかった。

 

「土地ですか、それとも権威ですか?」

「否。この国に住まうすべての民と、その心だ」

「なればこそ、先ほどのあなたの行いでは国を救えない」

 

仁王がアップを始めているが、無視して続ける。

 

「人が心豊かに生きていくためには、驚くほど多くの物が必要です。そしてこの国は、単体ではそれを賄えない」

 

そこまでいって、将軍様も俺の言いたいことに気づいたようだ。

 

「国内で消費する食糧、燃料、その他さまざまな資材の多くをこの国は輸入で賄っている。そういうことだな?」

「日ノ本”だけ”守っても意味がないのです。BETAによって他の国が侵略されれば、当然その国は対抗するために輸出していた資材を自分たちで使い始める。それは日ノ本の首をゆっくりと絞めてくるはずだ」

 

どんなに強力な兵器があっても、それを運用するためにはヒト、モノ、金と多くの物を必要とする。

もしそれが途絶えれば、一騎当千の兵器もただのガラクタだ。

そしてこの国は、地政学的に資源に乏しい。

ゆえに、単独での防衛などありえない。

 

「将軍様の言う日ノ本を守るためにも、閉じこもっているわけにはいかない。この星丸ごと守れなければ日ノ本防衛など無理です。だから、俺はあれを、ゲシュペンストを作ったんだ」

 

送った設計図は無駄になったけど。

 

「日ノ本の中だけで完結させない。この星を守るためにあんたたちの一切合切全部を寄越せ。それが俺が協力する条件だ」

 

戸惑う仁王と静かに成り行きを見守るおっさんを尻目に。

将軍様の返事は速かった。

 

「委細承知した。日ノ本を守るため、この母なる星からBETAを駆逐して見せよう」

 

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とりあえずでかい後ろ盾ができた、ということにしておこう。

ゲシュペンスト開発についても、将軍様のポケットマネーと権限の範囲内で便宜を図ってくれるそうだし。

 

まあ、ここまでしてもらった以上、見せないわけにはいかない。

ということで3名様地下へご案内。

 

「フハハハハハはっはあ!!こいつは素晴らしい!」

 

仁王改め紅蓮醍三郎中将がシミュレーターで暴れている。

”実際に乗って確かめたい”というので、実機は無理だけどシミュレーターなら、ということでタイプRで無限組手やらせてるんだが。

撃震に乗ったことはあるそうだけど、操縦系からして別物なゲシュペンストに2時間ほどで慣れた挙句、開発衛士やってる開さん達に迫るスコアを出している。

端的に言って化け物だなこの人。タイプSに乗せたら一人でハイヴ攻略しそうだ。

 

「稲郷九郎だったな!先ほどは申し訳なかった!そしてよくぞこれほどの機体を作り上げた!貴殿に最大限の称賛を送ろう!!」

 

一通り暴れて満足したのか、降りてくるなりこれである。

分かったから、掴んだ手をブンブン振るのはやめてくれ。もげる。

 

「紅蓮、それほどか?」

 

試乗を紅蓮中将に任せて機体の概要を聞いていた将軍様が聞きに来た。

 

「撃震など比べ物になりませぬ。これが量産されればBETAなどあっという間に駆逐されましょう!」

 

そんな簡単にはいかんよ。

 

「そんな簡単にはいかないよ。まだまだ問題は山積みなんだし」

「問題?」

「問題その一。現状で一機作るのに撃震4機、つまり一個小隊ぐらいのコストがかかる」

「この性能ならば数の差は補って余るほどではないか?」

「物量こそ最大の武器であるBETA相手に質は重要だが、ある程度の数も必要だ。何よりこいつは刀で言えば”数打ち”に当たる機体だし」

 

戦いは数だよ、とは誰が言ったんだったか。

 

「問題その二。性能が違い過ぎて既存兵器群との連携がしづらい」

「確かに、これほどの機体では他がついていけず、孤立しかねないか」

 

戦術機こそ対BETA戦の主力兵器、と言われがちだが実際に最もBETAを屠っているのは砲兵部隊や戦艦などの面制圧能力のある兵器である。が、この手の兵器の宿命として機動力がない。

 

戦術機よりも攻撃力があり機動力に富むゲシュペンストに追随できるか、と聞かれれば現場の連中はNO、と言うだろう。

 

「問題その三。戦術機の集団連携機動が応用できない」

「これほどの性能を最大限生かすならば、機体に合わせたまったく新しい連携戦術を組む必要があるか」

 

恐らく不知火ですらゲシュペンストには追随できない。撃震など言うまでもないだろう。そんな機体の連携機動でゲシュペンストの性能を生かし切れるわけがない。

最小連携数である2機連携”エレメント”については今いる人間で試している真っ最中だが、小隊、中隊、大隊ともなれば俺たちでは手に負えない。

教導隊なんかに投げて一から構築してもらわなくては。

 

「主たる問題はこんなところかな。問題一と二に関してはすぐ、とまでいかなくてもある程度何とかする方法はあるけど」

「聞かせてくれ」

「問題一に関しては簡単だ。設計図をばらまく」

 

全員の顔が曇る。懸念ぐらいわかってるよ。

 

「もちろん無制限にではなく、ライセンス生産って形でだけど。量産効果を利用しないとこれ以上のコストダウンは無理だね」

「米国にもか?」

 

露骨な顔をするなよ中将。

 

「後ろ玉気にしてられる状況?地球最大の大陸、その半分を奪われつつあるんだぜ。ゼロサムゲームはBETA共を追っ払ってからにしろよ」

 

どうしたってあそこの生産能力はあてにせざるを得ないのだ。

 

「まあ面倒ごとを減らすためにも、鎧衣課長には頑張ってもらうほかないけど」

「はっはっは。いきなりの無茶ぶりですなあ。まあ頑張ってみますかな」

 

鎧衣 左近。

帝国情報省外務二課課長。要するにスパイである。

誰が呼んだか通称”帝都の怪人”。

将軍様の命で俺とゲシュペンストについて調べていたらしい。

今回の突撃!隣の将軍様にもついてきていたが、特にしゃべることもなくこっちを観察していた怪しいおっさんだ。

 

「生産を認めさせられるなら、オリジナルの設計図渡してもかまわない。その代わりできるだけ面倒ごとに対処できる人間と渡りをつけて」

「思い切りますなあ。設計図だけ手に入れて後は知らん顔、という場合もあるのでは?」

「設計図手に入れたからってすぐにものにできるほどやわじゃない。少なく見積もっても十年単位で基礎研究積まなきゃ応用なんて無理だよ。それでもシカトするなら欧州やソ連に基礎研究データばらまくまでだ」

 

一番嫌がることでしょ、と言えば違いありませんなあ、と鎧衣課長も答えた。

 

「問題二に関して。性能が違いすぎるならその差を縮めるしかない。いくつか試作の設計図を渡すから、それを技術廠で作ってもらう」

 

スパロボはロボットが主力だが、それ以外の兵器も登場しないわけではない。

ゲームでは脇役だった彼らも、この世界では立派に活躍できるはずだ。

 

「良いのかね?君は技術廠に隔意があると思っていたが」

「現場の人間まで悪いわけじゃない。利権に目がくらんだ豚共は許す気ないけど」

 

そっちについては将軍様も潰す準備進めているそうなので丸投げする。政治までやってられるか。

 

「問題その三に関しては、量産機ができたら教導隊とかで試行錯誤してもらうしかないね」

 

こればっかりは実際に試して積み重ねるしかない。

 

が、あまり待っていられない人もいる。

 

「それに関して、一ついいだろうか」

 

エルザム少佐だ。

ヨーロッパは今もBETAの圧力に押されつつある。

一刻も早く完成した機体を持って帰りたいはずだ。

 

「私の知る人間に、そういった連携に関して定評のある人物がいる。その男を呼んでもいいだろうか」

 

紅蓮中将は渋り顔だが今更だ。何より将軍様とはゲシュペンストの扱いに関して既に話がついている。

完成して量産に入るまでは俺の持ち物、ということになったのだ。

だから俺が必要、と言えば中将に口出す権利はない。

 

俺はゴーサインを出した。

 

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