MUV-LUV大戦   作:土井中32

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その時は、近い…!(ストック切れの)
走り切れ、最後の瞬間まで…!





80話 始まりを告げる鐘

 

「案外何とかなるもんだな」

 

思わずそう言ってしまう。

原作ほど敵の勢力圏もハイヴの数もないとはいえ、ユーラシアの半分近くを包囲する人類史上最大の作戦だ。

その準備がほんとに10日で終わるとは思ってなかった。

 

「この時のために兵站線にも随分とテコ入れしていたでしょう。その成果ですよ」

「どっちかというと米帝の底力を見せられたって感じだが」

 

水無瀬艦長の言葉にそう答える。

水陸両用コンテナ船にレイディバード、タウゼントフェスラーの量産はほぼアメリカで行われていたからな。

割と早い段階から大量生産の体制を整えてくれたおかげで日産輸送船とか言う頭おかしい状況が現出してたが。

 

「QPの量産はどうなのです?」

「一つのハイヴにつき5発は使えるくらい頑張ってくれたよ。おかげできぼうの連中はダウンしてるらしいけど」

 

正規版の設計図が完成してから、きぼうに詰めてた研究員はほぼ全員がこれの製造に注力してもらったからな。

おかげで万一不発が出てもカバーできそうな数がそろった。

 

「もっとも、効果範囲は地上限定だから使い方には気をつけなくちゃいけないけど」

「できるだけ中に籠っている連中を引き摺り出してから使いたいところですな」

 

どうも大地そのものが遮断装置として機能してしまうらしく、50メートルも地下に潜れば効果がないことが判明。

統合作戦本部は使い方に関して今もあーだこーだと策を練っている最中だ。

 

あと数時間で作戦が始まるっていうのに。

 

「QP積んだペレグリン級は静止衛星軌道で待機。要請と同時に当該作戦区域の成層圏に向けて発射。ここまでは決まってるが、使用のタイミングを現場にゆだねるか本部で決めるかでまだ揉めてるらしい」

「1つのハイヴにつき5発もあるか、5発しかないかは意見の分かれるところですな。無駄撃ちはできるだけ避けたいでしょう」

「最終的には内部に飛び込んで頭脳級ぶっ壊すこと考えればできるだけ引き摺り出して排除したいってのはわかるがな。内部の観測ができないんじゃ予想とカンで決断するしかない」

「その責任をだれが負うか、ということですか」

 

結局のところ見極められなければ兵士の命を消費してどうにかするしかなくなるからな。上手く采配すれば功だし失敗すれば汚点になる。

やりたい奴とやりたくないやつで揉めてるんだろう。

 

「あなたが決めてしまえばよろしいのでは?というかなぜここにいるのですか、最高司令官殿?」

「お飾りの言葉なんざ誰も聞かないって。そもそも戦術戦略はど素人なんだ、俺が口出してもいいことにはならねぇよ」

 

そう、この作戦、なぜか俺が最高司令官ということになってしまったのだ。

と言っても実際に作戦回すのは統合作戦本部にいる参謀どもだし、作戦を立案したのもあいつらだ。

俺が担ぎ出されたのはあくまで士気向上のため。だからこうして好き勝手出来ているわけだ。

 

ハガネに乗って静止衛星軌道上で待機するなんて真似が。

 

「後ろでふんぞり返っているべきなんだろうが、ここまで必死に走ってきた身としてはな。この大博打の結果を特等席で見守りたいのさ」

「あなたを乗せるこちらの気苦労も慮ってほしかったですな」

 

それについてはごめんなさいとしか言えねぇな。

 

「まあ気楽にいこうぜ。作戦通りならハガネの役目は一発撃てば終わりなんだ。そうそうヤバいことにはならないさ」

 

流石の超重光線級も静止衛星軌道までは攻撃が届かないからな。

一方ハガネのトロニウム・バスターキャノンは最大出力ならここからでもハイヴに届く。

クロガネの二の矢は再編された降下兵団とシロガネが担当するから、ハガネが敵の射程圏内に入ることはない。

そうじゃなければ俺がここにいることを誰も容認しないし。

 

「むしろ艦長としては手塩にかけて育てた部下が心配じゃないの?」

「鉄哉なら問題ない。それこそ手塩にかけて育てたのだからな」

 

鉄哉大尉のクロガネ艦長抜擢は結構揉めたからな。

水無瀬艦長の推薦に俺も同意したから決まった話だが、もっと経験豊富なものを艦長にするべきでは、という意見もあった。

水無瀬艦長は堂々と反論したけど。

 

「シロガネ級の運用という面であれば、私と大尉よりも長く経験した者はおりません。そして私がハガネを降りられないのであれば、クロガネにふさわしいのは彼以外にいないかと」

 

そう言われれば参謀本部の連中も納得するしかない。

内々で打診された連中が軒並み断った、てのもあるが。

”これからは若者の時代。老兵は死なず、ただ消え去るのみ”と言葉を揃えて言ったらしい。

むしろ推薦された本人がめっちゃ動揺してたが。

 

「あれは既にいっぱしの艦長としてやっていけるだけの力はある。そして適材適所だと思っただけのことだ」

「師匠、いや親父殿は大変ですな」

 

”まだ学びたいことが”つって下りるのを渋ってたからな。傍から見ると親離れできない子供との押し問答っぽくて笑えた。

 

「そう言う意味であるならば、博士はどうなのです?いい加減身を固められてはどうなのですか?」

 

うえぇ、とんだ藪蛇だ。

 

「お互いに他の人間など考えられないほどに愛し合っているのでしょう。成人もしている今、なぜそこまで躊躇うのです?」

 

…相談相手には、ちょうどいいかもしれねえな。

近すぎず遠すぎない関係で、それなりに人生経験も豊富な人だ。ちょうど子育てを終えたところだし。

 

「端的に言えば、ビビってんのさ」

 

一生を添い遂げるなら、美沙がいい。それは嘘偽りのない気持ちだ。

 

だが彼女を、これから生まれてくるかもしれない子供を自分の業に巻き込むことを恐れているのだ、俺は。

俺はあまりにも力を示し過ぎた。俺を手にすれば世界を獲れると錯覚させかねないほどに。

今後、俺に自由はない。気ままに出歩くことも、その辺で買い食いすることすら許されないだろう。

俺はいい。自分で覚悟して始めたのだから、その結果を受け入れるのは当たり前だ。

だが、それに美沙を巻き込むのはどうなのだろうか。彼女もそれを受け入れてくれるかもしれない。しかし己の業に愛するものを巻き込むことを愛と呼んでいいのだろうか?

ましてやこれから生まれてくるかもしれない子供は?生まれてから死ぬまで俺の子供というレッテルを張られ続け、ずっと不自由な生活を強いられるだろう。己に何の非もない不自由を、それを当然と受け止められるだろうか?受け止められなかったとき、俺は子供に何がしてやれるのだろうか。

そんな思考が、前に踏み出すのをためらわせる。

情けない話だ。前世なんて抱えているくせに、俺は男として最大の決断をできないでいるのだから。

…いや無理か。いわゆる陰キャで人との接触なんて最低限しかなかった奴の経験なんざ欠片も役に立たんわ。

仕事から帰ってスパロボしてたのが最後の記憶だしな。

正直今世の方が人と関わってるぐらいだ。

 

「笑えるだろ?世界をこんだけ好き放題引っ掻き回しておきながら、女一人自分のものにする決断ができないってんだから」

「…優しいのですな、博士は」

 

どこがだよ。徹頭徹尾傷つくのも傷つけるのも怖い臆病者って話だぜ?

 

「ただ側にいるのが愛とは限りません。時には突き放すこともまた愛です。隣で添い遂げたいという気持ちを抑え、ずっと先を見据えて考えられる。それは真剣に向き合ってるからこそでは?」

 

…そう、なのだろうか。

 

「まあどこまでいっても決断するのは博士自身です。しかし一つだけ言わせてもらえれば、それは一人で悩む類のことではないと思いますよ。まだ若いのです、今は勢い任せでその懐に忍ばせているものを渡して、正直な気持ちを言葉で伝えるべきでは?

心を読まれるからと言って、言葉にしなくていいなどということはないのですから」

 

…なんでバレてるんだ。内ポケットに入れてるから見た目からじゃわからないはずなんだが。

 

「亀の甲より年の劫です。超能力に頼らずともこの程度の読心はできますとも」

「…参考にはさせてもらうよ」

 

ち、さすがは百戦錬磨の名艦長か。勝てる気がしない。

そんなことやってたら美沙がブリッジに上がってきた。

緊急時に備えて格納庫に用意された機体のチェックしてたから、強化装備で。

…さっきの話のせいか、変に意識して目のやり場に困る。

この決戦を乗り越えたら、強化装備の一新を提案しよう。旧世代機からそのまま使い続けてるが、この先宇宙進出することも踏まえると素材から全面的に見直しする必要があるだろうし。

現状の強化装備って10回も使えばピッチリスーツ部分交換しないといけない消耗品だからなぁ。このコストが意外にバカにできない。

頭を保護するヘルメットも新規で作る必要あるだろうし、もうちょっと体のラインが出ないのにしてもいいだろ。

 

「緊急時の脱出用の機体、チェック完了です九郎様。…どうかしましたか?」

「何でもない、今はな。ここを乗り越えてからでいいことだ」

 

とりあえず全部いったん棚上げだ。今は目の前のことに集中せねば。

 

「大鉄艦長、作戦開始1時間前です」

「了解した。博士」

「めんどくさい…俺の号令なんかでほんとに士気上がるのか?」

 

作戦開始前の訓示をなぜか俺がやる羽目になってしまった。最高指揮官だからと言われれば嫌とはいえんが。

 

「ここまで人類を引っ張ってきたのは間違いなくあなたです。なれば決戦の合図を出すのもあなたであるべきかと」

「決戦、ね」

 

そう、決戦だ。確かに人類の全力を投じた決戦ではある。

しかし、ここで終わりではないのだ。

 

「まあ好きにやっていいって言われてるし、その通り好きにさせてもらうさ」

 

そうして俺は渡されたマイクを手に取った。

 

 

------------------------------

 

 

「ハア~イキョウスケ大尉、機体の調子はどうかしら?」

「エクセレン少尉か。問題ない、博士や整備班がきっちり仕上げてくれた」

 

クロガネ格納庫内。

文字通り人類の刃、その切っ先としてBETA本陣であるカシュガル攻略に参加する者たちが一堂に顔を合わせていた。

 

「DGGー04ジガンスクード専属衛士、アメリカ合衆国陸軍少佐のアルフレッド・ウォーケンだ。よろしく頼む」

「日本帝国陸軍富士教導隊少佐、北村開です。勇名はかねがね」

「DGGー05、06であるSRX運用チーム隊長で国連軍から出向中のヴィレッタ・バディム大尉です」

「DGG-07、凄乃皇・終式操縦担当の白銀武特務少尉です」

「同じく索敵・T-LINKシステム担当の鑑純夏特務少尉です!」

 

壮行会に参加できなかったメンツも交えての顔合わせを壁際で見つつ、ゼンガーはつぶやく。

 

「ものの見事に寄せ集めだな」

「部隊としてのチームワークよりも個々の戦闘力を重視した結果、ということだろう。チームワークに関しては16大隊がカバーできるだろうしな」

「瞬間的な突破力と攻撃力に焦点が置かれている、ということですね」

 

独り言に近くにいたエルザムと斑鳩崇継が答える。

無理やり押し入って問答無用で目標を叩き潰す。

そこに必要なのはひたすらに火力のみ、というのが統合作戦本部の出した結論だった。

統制された戦力は16大隊が請け負い、後の面々はひたすらに目標を破壊することに専念する。

そういう方向性で集められた面々であった。

 

「細かいカバーは我々が請け負いますので、皆様はどうか目標をスクラップにすることに専念していただきたく」

「良かったのかね崇継殿。当主及び将軍職を継ぐにはまたとない御首級(みしるし)だろうに」

 

そう尋ねるエルザムに、16大隊指揮官斑鳩崇継は何でもないかのように笑った。

 

「取っても取らなくても将軍になることは決まっておりますので、ならばより確実性の高い手を取るのが合理的というものでしょう。超重光線級や頭脳級の情報を加味すれば、重頭脳級の戦闘力は未知数なれど相当なものと予想されます。正直タイプSでも倒せない可能性がある。功名心にはやって無駄に兵を死なせるのでは只の無能です」

「割り切っているのだな」

「決戦部隊に参加しているというだけですでに箔がついているのです。これ以上は欲張りすぎですよ」

 

参加するまでには相当揉めたうえ、必ず生還するという条件を付けられてしまったのだ。

下手に前に出れば自分をかばうために部下が盾になりかねないと知っていれば、これ以上を望むわけにもいかなかった。

そうして話をしている間に時間は過ぎて。

 

『この作戦に参加するすべての人員に告げます。作戦開始1時間前。これより最高司令官稲郷九郎特務中将より訓示が行われます。作戦準備中の者を除き、待機中の者はこれを聞くように』

 

スピーカーからのアナウンスののち、格納庫にいる者たちが一度は聞いたことのある声が聞こえてきた。

 

『稲郷九郎だ。忙しいところ済まんが、まあBGMとでも思って諦めてくれ』

 

いくつか失笑が漏れる。こんな状況だというのに相変わらずの態度だからだ。

 

『正直な話、ここまで来れるとは思ってなかった。どこかでBETAそっちのけでケンカ始めるんじゃないかとずっと思ってた。だからここまで来れたことを一番喜んでるのは他でもない、俺だ』

 

国連総会で彼が叫んだ人類への不信、それに連邦樹立という形で返して見せたマーシャル大統領と各国代表たちのやり取りは記憶に新しい。

九郎の言葉を疑う者はいなかった。

 

『とはいえここでこけちゃ何の意味もない。まずは作戦の成功のため、全力を尽くしてほしい。だがもう一つ、できれば守ってほしいことがある』

 

数瞬の溜めの後、九郎はその言葉を放った。

 

 

 

 

 

 

 

『生きるのを、諦めるな』

 

 

 

 

 

 

 

その言葉は、聞いていた全員の手を止めさせた。

 

『戦争である以上、誰も死なないなんてありえないことぐらい分かっている。だがな、ここで終わりじゃないんだ』

 

そう言った九郎が流したのは、国連総会で流された重頭脳級との会話。

 

『あ号標的、重頭脳級がぶっ壊れている以上どこまで正確かは分からない。だが10の37乗が本当だった場合、受けに回り続けていたらいつか押し潰される。

俺たちは、人類は。BETAに対して攻勢であり続けなくてはならない。ここを乗り越えてもまだ先があるんだ』

 

そう、これは決戦でありながら、通過点。

 

『最低でもBETAの創造主とやらと話をつけるかブッ倒すまで、この戦いは終わらない』

 

ここを乗り越えても、BETAとの戦いは続く。

原作ですら紆余曲折があったとはいえ、2049年になっても戦いは続いていた。

 

『こいつは決戦ではあるが、同時にゴングなんだ。BETAへの、その創造主への闘いの始まりを告げる、試合開始のゴング』

 

地球人類は、まだスタートラインについたばかりなのだ。

広大な宇宙での生き残りを賭けた、弱肉強食の闘いのスタートラインに。

 

『第一ラウンドでブッ倒されてKO退場なんて、カッコ悪いにもほどがあるだろう?』

 

だからこそ、一人でも多く生き残らねばならない。

地球人類の闘いは、これからなのだから。

 

『だから、生き延びるために最善を尽くしてくれ』

 

 

彼の願いを、戦士たちは確かにその身に刻みつけた。

ここまでずっと人類のために、人を生かすために走り続けてきた戦友の願いを。

 

そして、その時が来た。

 

 

『…時間だ。これより対BETA地球戦線最終作戦…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オペレーション”GONG”を発動する!!

 

 

鳴り響く鐘が、闘いの始まりを告げる。

決戦が、始まる。BETAと人類の生き残りを賭けた、最初の決戦が。

 

 





シリアス全開なのでいつもの裏話はなしです。

今更ですが、本来資源採掘用の重機であり生命体への攻撃を禁止されてるはずのBETAに戦闘用が存在するってどういうことなんでしょうか?
人類による攻撃を自然災害の類ととらえ、本来なら珪素系であろうと炭素系であろうと生命体に関係ありそうなものへは攻撃できないよう設定されてるはずなのに。
一体何と戦うことを想定してるんだ…?


今週の更新は以上です。

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