あれもこれもと詰め込むたびにどんどん長くなっていく…。
分割するべきだったか…?
その光は、遠く離れた中国軍からも見ることができた。
それを目撃したライノセラスの艦長が思わず叫ぶ。
「何が起こっている!?」
「インド軍に向けてハイヴよりレーザーが放射された模様!ヒ、ヒマラヤ山脈の上部が消滅しました!?」
「バカを言うな、どうやってレーザーをそっちに向けたというんだ!!」
衛星軌道上を狙うためにハイヴを丸ごと固定砲台にしたというなら、射角は真上以外にないはずである。
そこから真横、いや下向きに狙う方法などあるはずが――
「ヴァルシオンより全体通信、目標はラザフォード場を使ってレーザーを屈折させた模様!!」
「――ッ!!その手があったか!?」
ラザフォード場は重力に干渉する一種の力場だ。それをレンズのように使えば光であるレーザーを屈折させることも可能。
ハイヴ直上にラザフォード場で形成した重力レンズを置くことで、レーザーをインド軍へ向かって放ったのだ。
そしてその考えに至ったとき、ライノセラス級の艦長リー・リンジュンは自分たちが死地にいることにも気づいた。
(屈折できる回数も、重力レンズを設置できる高さも不明だ。もしもそれなりの高度に設置・調整可能なら、ユーラシア全域が射程に入る…!?)
ヒマラヤを消滅させるほどのレーザーなど喰らえば、艦隊どころか後方の防衛線ごと消し飛ばされかねない。
いやそれ以前にユーラシア全域が射程内だった場合、民間人のいる生存圏すら焼き払われかねない。
(後方を狙わせない方法は簡単だ、こちらがより脅威だと思わせればいい。しかし…!)
それは、今現場で戦っている将兵達を犠牲にする行為だ。
民間人を守ることこそが、軍人のあるべき姿。しかし自分たちが全滅ないし多大に損耗すれば、そのあるべき姿すら通せなくなる。
しかも現状、そのハイヴレーザーを根本から何とかする方法はないのだ。将兵たちに無駄死にしろと言うに等しい。
(民間人の被害を許容するなど軍人の、私の目指す理想ではない。だが明確な対処法もなくいたずらに犠牲を重ねては、反撃の一手を見出してもそれを通すことすらできなくなりかねん…!)
いつ消し飛ばされるか分からない恐怖を押さえつけながら必死で頭を回す。
しかし解決策を導き出すより前に、状況は動いた。
「艦長、ゾイドシリーズが!?」
------------------------------
『どうなってる!?ゾイドシリーズが一斉に移動し始めたぞ!』
『あっちにあるのは…カシュガルに向かってるのか!?』
ヴェリスクハイヴ制圧部隊側でも、それは起きていた。
戦闘行動が可能なゾイドシリーズが一機残らず、カシュガルに向けて全速力で移動し始めたのだ。
その報告を受けた瞬間、テオドールは彼らの目的を悟った。
「俺たちを守るために、囮になるつもりなのか…!」
地上に展開する敵戦力のおよそ2割が一斉に向かってくるとなれば、BETAもそちらの迎撃に集中せざるを得ない。
突然の事態に対抗するための貴重な時間を、彼らはその身をもって稼ごうとしているのだ。
彼らが命をもって稼ごうとする時間を無駄にしないため、テオドールはオープンチャンネルで叫んだ。
「全部隊をハイヴ内に突っ込ませろ!!」
『少佐!?』
「フレンドリーファイアできないのなら、ハイヴ内まで攻撃は届かねェ!そこしか生き残る道はない、急げぇ!!」
叫ぶ間にも光の柱がゾイドたちに降り注ぎ、全てを薙ぎ払っていく。
それでも彼らは突撃をやめない。
開発者によって与えられた最上位命令、本能というべきもの。
”命を守るものであれ”
その祈りに応えるために。彼らは最後の1機になっても戦うことを、命を守ることを諦めない。
テオドールの叫びはすぐに統合作戦本部から他の部隊にも届けられ、ハイヴ攻略を行っていた全ての部隊がハイヴ内へと突入した。
最後のコンテナ船がハイヴに突っ込んだ直後、そのすぐ後ろを光の柱が横切る。追撃は、ない。
「予想通りか…だが、このままでは」
部隊の戦力保全には成功したものの、これでは迂闊に外に出れない。
生き残ったゾイドシリーズが囮を務め続けてくれているが、そう長くは持つまい。
そして彼らが全滅すれば、今度は後方の人類生存圏が危ない。
頼みの綱は衛星軌道に待機する部隊のみだが。
「ハイヴレーザー、インターバルは1分とのことです」
「短すぎる…ましてや衛星軌道から狙えるような武装は…」
唯一それができたハガネは損傷し戦えるかも不明。
作戦は一気に暗礁に乗り上げてしまった。
------------------------------
非常用の赤色灯と警報の大音量で満たされていたにもかかわらず、そのうめき声は俺の耳にも聞こえた。
「グ、ぬぅ…」
「おう、お目覚めか艦長」
意外と目覚めるの早かったな、水無瀬艦長。結構な重傷だからこのまま医務室行きになると思ってたんだが。
「…艦の状況は?」
「自分の体よりまずそっちかよ。…
ダメコンの指揮を執りながら答えてやる。
あの一瞬でよくもまあ回避運動を間に合わせたものである。
実際躱せなかったペレグリン級はチリも残さず消し飛んじまったし。
帝国侵攻が起こる前。再突入型駆逐艦の艦長から操舵士に実質格下げになるのに、シロガネの人員選出中だった水無瀬艦長に直談判しにきて
「どんな攻撃も避けて見せます!」
と豪語しシロガネの操舵士になっただけのことはある。
「とはいえ轟沈してないのが奇跡な状態だな。左舷側がごっそり消し飛んだし、余波で主砲も使用不可。かろうじて右舷側の副砲が使えるか否かってところか」
左側ブレードウイングは根元から消し飛んだし、カタパルトも左舷側二つは消滅。推進用のロケットエンジンまで被害が及んでいる。目下整備班総出でダメコンと復旧を行っているが、このありさまでは戦闘どころか移動すらままならない。
実際重力ブレーキが利いておらず、徐々に流されつつある。
「何が起きたのです?」
「何のことはない。
移動砲台たる超重光線級でもだめなら、完全固定砲台クラスの火力で何とかしてしまおう、ということらしい。
考えてみれば連中ハイヴからの資源打ち上げにレーザー推進使ってるらしいフシがあったから、やろうと思えばできなくもない。
「まさかそっからラザフォード場を利用して地上攻撃にも応用するとは思わなかったが」
一足飛びに進化し過ぎである。もともとそういうデータがあったのか、はたまたバグった果てに英国面みたいなトンチキにでも至ったのか。
だがそこらへんはどうでもいい。重要なのは、このままではフェイズ4に移行できないことだ。
「インターバルはおよそ1分。インド軍も何とかしようとしてるみたいだが、山ごと消し飛ばされてるみたいだな」
野郎、重力レンズをうまく調整して広範囲にバラ撒いてやがる。インド軍をヒマラヤごと焼き払いながら他の地上軍も攻撃し、なおかつ周回軌道に急行する宇宙軍にまで手ェ出してやがる。
こうしている間にもヒマラヤが平らに均されていく。次の世界一高い山はどこだったっけか。
あんなトンデモ攻撃喰らったのではインド軍もまともな連携はできまい。加えて通常種が向かってきているとなればモニュメントをへし折るどころではないだろう。
ヴァルシオンもクロスマッシャーでへし折ろうとしてるが、ラザフォード場で散らされているようだ。
「…このままでは突入もままなりませんか」
「降下中に狙われて終わりだな。あれをどうにかしない限り俺たちの負けだ」
そう、負けだ。
静止衛星軌道まで届く長射程と大火力で地上戦力は完全に頭を押さえられてしまった。
そして宇宙に待機するこちらもほぼ手出しができない状況にある。
再び制空権を、しかも今度はユーラシア全域を抑えられてしまった。
これでは補給もままならず、どころか後方の都市すら狙われかねない。
あんな大火力を向けられれば、早晩ユーラシアから人類は駆逐されてしまうだろう。
クロガネによる地中侵攻?母艦級複数による体当たりでも受ければそこで終わるだろう。地中ではドリル以外の武装は使えないからな、足を止められた瞬間棺桶に早変わりだ。
つまり、今ここであれを何とかしなくてはならない。できるものなら、だが。
「ここで撤退すればもう今以上にカシュガルに肉薄できるチャンスはない。だがこれ以上近づく方法もない。詰み、だな」
宇宙軍は何隻か沈められたがまだ健在ではある。
だがあのバ火力とふざけた照準能力で完全に捕捉されており、躱すので精一杯。ほとんど距離を詰められていない。
実際囮艦隊は既に消滅させられている。
QPによるジャミングも期待できない。載せていた船が消し飛んでしまったからだ。
…打つ手が、ない。”全員を生きて帰らせる手”が。
「…博士、トロニウム・バスターキャノンは?」
やっぱりそこに気づいてしまうか。
「…チャージしてたエネルギーはオーバーロードを避けるために排出しちまったが、砲身は無事だ。トロニウムもな」
これが設計変更前のオリジナルと同じ形状だったら、ビーム誘導装置である球が片方消し飛んで使用不可だったろうが。
幸いにも撃つことは可能だ。問題ありだが。
「問題は2つ。1つ目、チャージ時間が向こうよりも長い」
さっき見たくチンタラやっていたら察知されて今度こそ沈められる。
「緊急用の急速チャージが可能なはずです」
「意図的にトロニウムを暴走させる、万全の状態ですら危険な裏技だぞ。今の状態でやったらそれこそオーバーロードしかねねェ」
「既に沈みかけているのです、一発持てば構いません」
だめだ、もう腹決めてるわこの人。
「もう1つの問題。砲術長が負傷、医務室行きになった。加えて外部観測装置の類や通信関係が軒並み使用不可」
「狙いを定める方法がない、ということですか」
データリンクすらできない状態だからな。この状態で狙うとしたら、文字通り目ン玉でやるしかない。
だがそれを任せられる砲術長は今この場にはおらず。そもそも静止衛星軌道からの目視射撃なんてやったことある奴はいない。
当てるためにはどれだけの運が必要だろうか。
…情報の収集と解析に集中させるためにかぐやとつばきをきぼうに置いてきたのは失敗だったな。あの二人の人型端末には衛星通信機能が内蔵されている。それを使えばデータリンクも可能だったのに。
「かまいません、一発でも撃てれば奴らの目は本艦に釘付けになります。その間にクロガネが降下できれば、まだ可能性はある」
最悪囮にでもなればいい、か。
「総員退艦。博士、あなたも早く」
「水無瀬艦長、もう少し賭け金乗せるべきじゃないか?」
「博士?」
「バスターキャノンの命中率、誤差かもしれんが上げる方法がある」
------------------------------
「カシュガルに再び高エネルギー反応!」
「乱数回避急げェ!」
巨大な光の柱が左舷を掠める。
沈んだ船はいなかったが、余波でダメージを受けた艦が艦隊運動から脱落する。
「艦長、やはり我々だけでフェイズ4を行うのは…!」
「それでもやるしかないのだ、でなくば人類に未来はない!!」
頭を押さえられてしまった地上軍を生かすためにも、この作戦を成功させるためにも、何としてもハイヴ突入を成し遂げなければならない。
しかし、そのためにはあの巨大レーザーを躱しながら大気圏に突入し、ハイヴ近郊に降下しなくてはならない。
そのために必要な時間は、約3分。
1発目を撃った直後に降下したとしても、最低2発をどうにかする必要があった。回避運動が取れない降下中にだ。
そしてそれ以前に、スタート位置である地球周回軌道まで行かなくてはならない。
最初の一発が撃たれた後、囮艦隊に紛れて降下する案が出されすぐに実行されたが、周回軌道を丸ごとカバーする掃射攻撃によって囮艦隊は全滅。
それでも何とかクロガネを送り届けようと、今は有人艦隊による決死の陽動が行われていた。
「あきかぜより打電、”ワレ損傷大ナリ、希望者退艦後降下軌道ニ入ル”です!」
「囮になるつもりか!?しかし一隻だけでは」
「あきかぜにシロガネ以外の残存艦隊が同調、突入コースに入ります!」
「無茶だ、囮艦隊の二の舞になるぞ!」
ペレグリン級のレーザー対策は相当に入念なものだが、それでもあの極太レーザーに耐えられるほどではない。
バラバラに突っ込んだところで、先ほどのように纏めて薙ぎ払われるのがオチだった。
しかしこれに代わる代案も鉄哉にはない。
(こんなとき、大鉄艦長ならどうする…!?)
低すぎる可能性に賭けて、彼らを行かせるのかと躊躇していたその時。
『小野寺艦長、俺たちに発進許可を!!』
格納庫から通信が飛んできた。
「白銀特務少尉!?」
『凄乃皇ならクロガネを守りながら降下できる!俺たちを盾に』
「だめだ、君たちはこの作戦の切り札だ。今ここで消耗させるわけにはいかない」
10分。
それが凄乃皇・終式が全力戦闘できる限界時間。
これ以上は現状乗っている二人の念動力が持たず、TTDを起動させていられない。
XNディメンションを禁止されている今、一秒でも他のことで彼らを消耗させるわけにはいかなかった。
『でもこのままじゃフェイズ4に入れない、本末転倒だ!』
『鑑です、私たちなら多少の無理は何とかできます。どうか発進許可を!』
『待った二人とも。小野寺艦長、ここは俺たちに任せてもらえませんか?』
「伊達少尉?」
通信に割り込んできたのは、二人と同じくDGGを預かる新米少尉だった。
『SRXとR-GUNの合体攻撃、”天上天下一撃必殺砲”ならハガネの代わりになれるはずだ!!』
「てんじょうてん…なに?」
『代われリュウセイ!…失礼しました艦長。我々のハイパー・トロニウム・バスターキャノンでハガネの代わりに長距離砲撃を行う、という意見具申です』
ライディース少尉が代わって通信画面に現れる。
…一瞬殴られて画面から消えた伊達少尉の安否が気になったが、鉄哉は話を先に進めることにした。
『カタログスペック上では今の位置からでも十分ハイヴを射程圏に収められます。味方艦が気を引いている間にSRXチームによる大気圏外からの狙撃を敢行、モニュメントを直接破壊できなくても損傷を与えられれば降下できる可能性は大幅に高まります』
「しかしハイパー・トロニウム・バスターキャノンは一発限りのはずだ。ここでそれを使ってしまうというのか?」
『艦長、バディムです。メタルジェノサイダーモードへの変形はできなくなりますが、R-GUNはクロガネ内での整備で人型形態に戻すことは可能です。ここで凄乃皇を消耗させるよりは、全体の戦力低下は抑えられます』
博打の要素は高い。
しかし他の艦を犠牲にする囮作戦よりはまだ可能性は高い。
「分かった。SRXチームの出撃を許可。HTBキャノンによるカシュガル狙撃を行う!」
『全員聞いたわね、発進準備!』
その言葉からややあって大型機発進口が開口、大型機と一般サイズに近い戦術機が飛び出す。
『外したら後はないわ、覚悟はいいわね!』
『いつでもいいぜヴィレッタ隊長!』
『トロニウムエンジン出力安定、彩大尉』
『舞、いくわよ!』
『分かった、彩姉!』
『『T-LINK、ツインコンタクト!』』
その言葉とともに、一般サイズの戦術機――R-GUNが変形する。
地球最強の大砲へと。
『メタルジェノサイダーモード、変形を確認!』
『SRXとの接続を開始!』
大型機――SRXがそれをつかみ取り、構える。
『エネルギーライン接続を確認!』
そこまで進めたところで、地上からまた光の柱が立ち昇る。
それは真っ直ぐに、クロガネを捉えていた。
「再びレーザー攻撃!初期照射、直撃コースです!?」
「回避運動、全力だ!」
「間に合いません、効力射始まります!」
光の柱が一気に太くなり――
――躱しきれなかったペレグリン級が右舷をごっそり削られ、爆発する。
「…攻撃が、ズレた…?」
------------------------------
それは、稼働する最後の機体だった。
1機はレーザーに耐えきれず完全に消し飛び。
もう1機はゾイドコアを破壊され機能を停止していた。
そしてかろうじて稼働はしていたものの、彼自身も左側の足を失い移動不能となり、ただ朽ちるのを待つばかりとなっていた。
そんな彼に、1機の仲間が近づく。
格闘戦専用機であるため機動性が最も高く、他の仲間が喰らったレーザーをかろうじて躱すことに成功していたのだ。
しかし代償としてブレードが故障。手負いがたった1機でカシュガルに向けて走り続けたとしても、もはや戦局に何の影響も与えられない。
しかしそれを何とかする方法を考えついたため、彼はまだ動ける仲間のもとに来たのだ。
彼から、ブレードライガーから受け取ったその作戦プランを最後のマッドサンダーが精査する。
極めて無茶苦茶だが、死に体2機でできる博打としてはこれ以上のものはない。
自分は既に死んだも同然。ならば最後の一発、盛大な花火を上げるのも悪くない。
マッドサンダーの腹は決まった。
彼は自らのゾイドコアをオーバーロードさせ、そうして生み出した全てのエネルギーをマグネーザーに叩き込む。
しかし回転はさせない。必要なのは大電力と”レール”だからだ。
そのマグネーザーの間にブレードライガーが潜り込み、エネルギーシールドで自身の防御力を強化する。
マグネーザーのエネルギーをキープしつつ、残りのエネルギーで頭を持ち上げ、狙いを定める。
無事だった衛星通信を通して健在なゾイドシリーズが、機体限界を超えて走り続けることでいまだ囮の任を務め続けるライガーゼロ・イエーガーがもたらす観測情報を頼りに。
死に体でありながらも、最後の力を振り絞ったそれは正確にカシュガルを照準し。
ブレードライガーという大質量を、レールガンで弾き飛ばした。
マッドサンダーが死に際に放った一撃は、実に音速の30倍を越えた速度で撃ち出され。
タイミングよくヴァルシオンの放ったクロスマッシャーを防ぐため別方向に集中展開されていたラザフォード場をすり抜け。
カシュガルハイヴ、そのモニュメントへと直撃した。
ブレードライガーが大破するほどの衝撃でも破壊することこそ敵わなかったものの。その直撃による振動は確かにその照準を狂わせ、クロガネを救ったのだ。
------------------------------
『今だ!トロニウムエンジン、フルドライブ!各種データリンク同調、射撃補正開始!』
『リュウ、トリガーを預けるわ!!』
敵のインターバルは1分。その間に狙いを定め、撃つ。
マッドサンダーは全滅した。もう次はない、必ずこの一撃で決めなくてはならない。
外せば作戦失敗、人類はいまだかつてない苦境に立つことになる。
肩に降りかかるプレッシャーを、しかし隆聖は払いのけた。
『ここで決めなきゃ男じゃねぇ!未来を繋げ、SRX!!』
そうして彼は逸ることなく、遅れることもなく。
正確にカシュガルハイヴを照準し、引き金を引いた。
『唸れッ!!天下無敵の一撃必殺砲ォッ!!』
大気圏外からでなければ、地球を貫通しかねない一撃。直撃すれば、間違いなくカシュガルハイヴを消滅させていたはずだ。
惜しむらくは、BETAがまだ手札を隠していたことだろう。
『カシュガルハイヴに高エネルギー反応!?』
「バカな、まだ1分経っていないぞ!」
最適化したのか、チャージ時間を誤魔化していたのか定かではない。
しかし事実としてレーザーとトロニウム・バスターキャノンは正面からぶつかり合い。
レーザーを引き裂きながら必殺の一撃は地上に着弾した。
カシュガルからはるかに逸れて。
『レーザーとぶつかり合ったせいで射角がズレたか!?』
『クソ、もう一撃…!』
『だ、だめだリュウ!R-GUNが耐えられない!!』
乾坤一擲の一撃、それを防がれたことで絶望が広がり始める。
だから、それに気づくのが一瞬遅れた。
『は、ハガネより高エネルギー反応!?』
-----------------------------
「…よし、接続完了」
「九郎様、整備班より連絡。艦首特装砲のチェック完了、いつでもOKとのことです」
俺が砲術長席に増設したシステムの調子を確かめた時、ちょうどよく特装砲のチェックが完了する。
「準備完了だ艦長。これでいつでも撃てる」
「了解しました。…しかし、まさかこんな方法で撃とうとは」
そう言って水無瀬艦長はそれを見る。
砲術長席に増設された、T-LINKシステムを。
「これそのものがセンサーの役割も果たすからな。目も耳も失った今のハガネでは、唯一地上を観測できるかもしれない手段だ」
ハガネのダメージが酷かったうえ、搭載されていた艦載機も軒並み被害受けてて、有線でのデータリンク中継すら怪しい状態だ。
なので脱出手段として用意されていた機体からこれを引っこ抜いて、ハガネの照準システムに無理やりぶち込んだ。
脱出用の機体に搭載されてたのは偶然だが、まさかこんな形で役に立つとは思わなかった。
「しかし根本的な問題は解決されていません。T-LINKシステムは念動力者にしか使えないはず。ハガネに乗っているという話は聞いておりませんぞ」
そりゃそうだ。帝国軍人で高レベルの念動力者は秘密裏にリストアップされていて、水無瀬艦長はそれを見ることができる立場にある。
だから正規のクルーにいないことは艦長も知っている。
…確かにいない、正規のクルーには。
「ここにいる」
そう言って、俺は指を差す。
俺に向かって。
「……博士が?」
「一般の平均値よりはちょっと高い程度でしかないがな。レベル換算で0.5ってところか」
そうでもなければT-LINKシステムに手を出したりなんかしなかった。
結局この程度のレベルではシステムが反応すらしないので研究自体半ば放り出していたし。
白銀があの時起動させなければ、その後も研究はしなかっただろう。
「だから正直システムが反応するとは欠片も思えないんだが。それでもないよりはマシだろう」
「結局のところ神頼み、ということですか」
…いや、それじゃだめだ。
「水無瀬艦長、今更神に頼っちゃだめだ」
「博士?」
周回軌道へ移動中だったクロガネから、巨大な光が撃ち出される。
SRXか。HTBキャノンをハガネの代わりにしたのだろう。
しかし地上から立ち昇った光とぶつかり、射線がズレた。
狙撃失敗だが、おかげでこっちは邪魔されずに攻撃できる。
「艦首特装砲、充填開始!」
「了解。トロニウム、オーバーロード始まります!」
本来手順を追って少しずつ出力を上げるべきところを、一気に全開に持っていく。
急激なエネルギー伝達に耐えられずラインがいくつか吹っ飛んだが、流石はシロガネ級。何とか一発撃てそうだ。
「艦首特装砲、エネルギー充填120%!!」
「トリガーオープン、砲術長席に操舵譲ります!」
「アイハブ、T-LINKシステムと射撃システムの同期問題なし、照準修正…」
集中する。
トリガーに手をかけたまま目を瞑り、それを感じ取ることに。
「ここで奇跡が起きたら、また人は神に頼る。苦しい時に必ず神様が助けてくれるって、また現実から目を逸らしてしまう。楽観論のままに動いて、因縁を重ねて、殺し合って。俺たちはこの小さな星の中から出られないままだ」
苦しい時、都合が悪くなった時。また奇跡が起きる、神様が助けてくれると驕り高ぶって道を踏み外し。
因縁を、欲望を我慢できず。また人間同士で武器を向け合うことになるかもしれない。
だからこれは神に祈って、奇跡を信じて撃つ一撃ではない。
必死で感じ取ることに集中する俺の手に、誰かが触れた。
美沙が、俺の手の上からトリガーを重ねて掴んでいる。
一瞬、顔を見合わせ。一つ頷き合い、二人で力を合わせる。
「奇跡や偶然ではなく必然で、重ね合わせた人の手で勝利をつかみ取ることに意味があるんだ。だから――」
もうひとつ、
悪意も善意も持たず、決められた
なあ、神様。俺を転生させたかもしれない神様よ。
もしも本当にいるのなら、一つだけ願うぞ。
この決着は、人の手で着けなきゃならないんだ。
だから。
「――手ェ貸したら、ぶっ殺す!!」
シリアスが頑張ってるのでしばらく裏話はなしです。
…惜しむ人いるのかな?
テオドールはクロガネ隊に推挙されましたが、666大隊の指揮を取れる人が他にいなかったので辞退しました。
同様の理由でテンペスト・ホーカーも前線指揮官として欧州側の前線に出ています。
今週の更新は以上です。