神の目を売りたい少年の話 作:胡桃の胸ェ…
早朝。
夜の湿り気を僅かに残した海風が、草木をゆっくりと揺らす。
空は薄く白んでいて、遠くの海面には朝の光が滲み、溶けている。
海岸近くのボロ小屋の前。
そこに一不と、それを見下ろす一人の男が立っていた。
白い外套を身に纏った、立派な髭を携えた男。
クローバーだった。
「時間だ、一不」
「…………」
まだ少年の面影を残す顔。
しかしその目は、昨夜までとはどこか違っていた。
自暴自棄になった目でも、自身の不幸を開き直るような目でもない。
クローバーは一瞬だけその目を、一不の変化を観察して、満足そうに口元を緩めた。
「ちゃんと逃げなかったようだな」
『逃がす気なんてない癖に』――。
喉元まで出かかった言葉を飲み込み、一不は何も言わず、黙って立ったままを貫いた。
「ますます期待が持てそうだ、これなら『主様』もきっと満足していただけるだろう」
クローバーは背後にある海を見る。
遠くには、朝靄の向こうに船の影がぼんやり浮かんでいて、璃月の朝を告げていた。
「さて一不……」
ゆっくりと振り返り、再び一不に視線を戻す。
「お前も気になっているだろう。なぜ私がお前を選んだのか」
「…………」
風が草を揺らす。
どうせロクな理由ではないのだろうが、一不は黙って続きを待った。
クローバーは言う。
「簡単な話だ」
それは静かな声。
「お前の両親はファデュイだった」
一不の瞳が僅かに揺れる。
その反応を見たクローバーは口元を歪め、続けて語った。
「それも、本物のファデュイ……正に
「…………」
一不の背後にあるボロ小屋を指で示し。
「だからこんな場所に隠れていたのだ。港から離れ、すぐ逃げられるような、薄汚い鼠に相応しい場所」
言い方を変えれば、ここは辺りを見渡せる海岸。
確かに、そうやって見れば逃げ道はいくらでもあるだろう。
だが。
「――本当に愚か者だ」
それでも、この場所ははっきり言って『ない』だろう。
クローバーも分かっていて、あくどい笑みを浮かべて言った。
「頭の悪い親二人の子、最初は適当に『素材』として使ってやろうと思っていた」
「……そうかよ」
「だがお前が見せたあの『目』は、私にその考えを改めさせる程だった」
クローバーは少しだけ声を低くした。
「金というのは忘れられないものだ。何より『
「……」
『彼』の名は出ない。
だが、言葉の端に含まれる圧力だけで十分だった。
一不は何も聞かなかったし、今は聞こうとも思わなかった。
「お前の借金は数字だ」
クローバーは一歩近づく。
海風が二人の髪を揺らす。
「だが数字は、人の人生を縛る力がある」
指を立てる。
「覚えろ、従え」
そして、静かに言い切る。
「お前の全ては――私たちが握る」
その『私たち』が何を指すか。改めて説明する必要はなかった。
言い切ってから、クローバーはもう一度、一不を見た。
彼には、拒絶も怒りも、叫びもない。
ただ静かな目。
ファデュイの新たな資質持ち、才能の原石。
それを見て、クローバーは小さく頷いた。
「……いい目だ」
そして背を向ける。
「ついてこい、一不」
白い外套が朝日に揺れる。
海岸を下り、港とは反対の道へ歩く。
一不はしばらくその背中を見て、それからふと背後を見る。
ボロ小屋。
『約束』をした石のある場所。
そして遠くに見える港。
故郷の姿を一度だけ見回し、
それから何も言わず、ただ静かに歩き出した。
クローバーの――ファデュイの後ろを、黙ってついて行った。
北の国、スネージナヤ。
そこでは空は低く、鉛色の雲が重く垂れ込めていて。
太陽は変わらず存在する筈なのに、その陽光は厚い雲と氷の空気に遮られ、昼でさえ薄暗い。
遠くの地平線はぼんやりと霞んでいて、どこまでが空で、どこまでが大地なのか分からなくなる程に、白と灰の色が混ざり合っている。
そんな国の都市から遠く離れた場所に、その施設はあった。
白い雪原の中心で、灰色の塊が存在感を強く叫んでいる。
その石造りの建物は飾り気がなく、実用だけを考えて作られたようだった。
分厚い壁は冷たい風を遮る為だろうか、更には全長も城塞のように高く、窓は小さい。
塔のような見張り台が四隅に立っていて、凍てつく風の中で黒い旗が重たく揺れている。
そこはファデュイの訓練施設。
正確には、将来ファデュイに入る事が確定している子供たちを育成する『学校』に近いものだ。
だが、それでも『訓練施設』である事に変わりはない。
近接戦闘用の場所や、体力訓練用の場所がいくつも用意されていて、今も子供たちの必死な声が聞こえてくる。
雪は踏み固められ、灰色の地面が露出している。
何度も人が走り、転び、踏みつけてきた跡が、そこかしこに残っている。
『学校』と呼ぶにはあまりに無機質で、しかしこれでも本物の『訓練施設』に比べれば、甘く優しいという事実。
タン。と乾いた音が雪の空気を切り裂く。
長く伸びる直線の地面の先に並ぶ的。その一つが中心を穿たれ、崩れ落ちる。
まずは固定された円形の的。次は滑車で左右に動く木板、更に次は振り子のように揺れる鉄板。
雪を踏みしめる乾いた音の中、再び銃声が響く。
タン、タンと、二発続けて放たれた弾丸は一直線に飛び、遠くにある二つの的の中心を穿つ。
左右に動く木板が破裂し、振り子のように揺れる鉄板がひしゃげ、地面に落ちる。
一不は訓練用の銃を下ろし、息を吐く。
重く、冷たい鉄の塊。
それはもう、一不の手の中では既に『道具』として馴染み始めていた。
「次だ」
結果を見た教官は無機質に言う。
そして彼の合図と同時に、また新しく的が用意され、一不はそれに照準を合わせた。
今度は三つ、四方八方へ不規則に揺れる的。
タンッ、タタンッ。
三つの穴が同時に的に刻まれる。
当然、それも的の中心。
一不は最初の射撃から最後まで、一度も的を外していなかった。
そして、訓練は最終段階へ突入する。
横にあった滑車が動き始め、今度は円形的ではなく、人型の標的がゆっくり横へ滑る。
弾道を予測し、照準を合わせる。
寒さで指がかじかむ事なく、視線も身体も一切ブラす事なく、引き金を引いた。
ダァンッ!
銃弾は、動く人型の標的の胸中心、こちらから見て右側へ少しズレた――心臓のある場所を見事に穿っていた。
撃つ。装填し、構え。また撃つ。その繰り返し。
手は冷たい筈であるが、動きはとても滑らかだ。
呼吸も乱れていない。
後ろから見ていた教官がぽつりと呟く。
「……百発百中か」
外れる弾は、一発もない。
教官はゆっくり息を吐き、隣に立つクローバーが満足そうに腕を組み直す。
「クローバー殿。……彼には才能がありますな」
一不の方を顎で示す。
「普通の新人は、動く的に当てるだけでも時間がかかる。しかし彼はたった数回、他の人間の射撃を『見て』学んだ」
「正に才能の『原石』だ、人よりも目がいいのか、もしくは『もっと別』の何かがあるのか……」
「久しぶりですよ、ここまで未来が楽しみな逸材は」
「ククッ…………」
クローバーは小さく笑った。
「だろう?きっと『主様』も気にいる筈だ」
「えぇ、必ず」
その声には確信があった。
一不は銃を構えたまま立っていて、その聞こえてくる褒め言葉を黙って聞いていた。
どう反応していいか分からなかった。
銃を下ろし、静かに立つと同時に少しだけ目を伏せる。
自分は、褒められることに慣れていない。
産まれてからずっと、自分はそういった『普通』から大きくかけ離れた人生だったからだ。
だが、それ自体は不思議と悪くないと思えた。
胸の奥に小さな熱が生まれる。
努力すれば、できれば、認められるし褒められる。
褒められる内容はどうあれ、その賞賛という行為自体はそれだけで収まる、小さく単純な世界だ。
銃声と、的と、評価。――そこにはまだ、血の匂いはない。
一不の胸の中にあるのは、まだ形だけの達観だ。
世界は単純で、努力すれば伸びるもの。
結果を出せば認められる。それ自体は変わらないと。
だが、その張りぼての常識は――近い未来で壊される。
いずれ彼は知ることになる。
弾丸が当たるのは的だけではないということを。
『痛み』とは決して、成長の証だけではないのだと――。
夕暮れの灯りが街を柔らかく染める頃、『万民堂』は今日も変わらず賑わっていた。
鍋の音。客の笑い声。香ばしい匂い。
通りにまで溢れる活気の中、店の奥の席で胡桃は器用に、一不の頬へさらさらと字を書いていた。
僅かにとはいえ、食事の時間に遅れた一不に対する、ちょっとした――。
「
片手で一不の顎を軽く掴み、顔を少し上げさせる。
続いて、ひやりとした、墨の湿った冷たさが肌に伝わる。
筆先が頬の上を滑り、一不の美しい顔に細い線が一本。続いて、もう一本描かれる。
一不は目だけを動かして胡桃を見る。
いつもおふざけに全力を出す彼女だが、今回のそれも例外ではないようだ。
まるで臨書でもしているかのように、筆を慎重に動かしている。
「……お前な」
「静かに!動いたらもっと書いちゃうよ~?」
胡桃は集中している。
舌を少しだけ出しながらゆっくりと、しかし楽しそうに筆を運ぶ。
さらさらと柔らかい音が、もう何回か頬の上で奏でられる。
最後に小さな払いを一つ、ようやく胡桃は筆を離した。
「……よし」
満足そうに頷き、一歩下がって自分の作品を眺めた。
それから満面の笑み。
「完成!」
「……何書いたんだ?」
胡桃は胸を張る。
そして元気よく答えた。
「胡桃の『
楽しそうに指を立て。
「胡桃の『
更にもう一本指を立てながら、もう一方の手で、いつの間にか用意していた手鏡を渡す。
誇らしげな顔。
それはまるで、何か大発見でもした学者のようだ。
素直に渡された手鏡を覗き込み、一不は自分の頬に書かれた文字を見る。
そこにあったのは。『ぐうたらの「た」』である『
一不はしばらく黙っていた。
それから、フッと笑う。
「……なんだよそれ」
「いいでしょ~?それに一不の顔って、キャンバスに丁度いいんだよね」
「人の顔を紙みたいに言うな」
胡桃は嬉しそうに笑う。
それと同じくらい、一不も楽しそうに笑う。
「ったく、意味わかんねぇ」
「これから分かるんだよ~っだ」
胡桃はケラケラと笑う。
その笑顔は、やはりどこまでも無邪気で、美しい。
思わず吹き出す。
「クッ、ハハッ」
肩が揺れる。
喉の奥から笑いが漏れる。
こういう笑い方をするのは、本当に久しぶりだった。
一不はまた笑う。
ほんの一瞬だけ、世界はただの食堂になった。
今はただの夕方で。
ただの食事で、ただ会話をしているだけ。
何も背負っていない普通の時間。
一週間分溜め込んだ胡桃の話のネタは、まるで滝のように圧倒的で。
「それでね、その人が値段聞いた瞬間に逃げちゃってさ!」
一つの話が終わると、また新たに話を切り出す。
湯気の向こうで料理人が鍋を振り、香辛料の匂いが空気に溶ける。
鍋の音と客の笑い声が絶えない喧騒の中で、胡桃はずっと楽しそうに笑っていた。
「そしてこう叫んだの『私はまだ死んでない!』って!」
身振り手振りを交えて話す。
自分で言って、自分で笑う。
本当に楽しそうに、彼女は生きている。
「はっ……」
それが、微笑ましくて。
再び吹き出すと、胡桃は嬉しそうに目を輝かせた。
「でしょ?面白いでしょ?」
「クク……いや、お前……なんでその話そんな楽しそうなんだよ」
「ふふふ、さてなんででしょう?」
少しだけ首を傾げる。
やはり、ずっとその顔は変わらず、楽しそうな笑みだ。
その笑顔につられて、一不も少しだけ笑う。
笑って、光の世界を実感する度に。
「――」
本当の自分を忘れる度に、胸の奥で何かが引っかかった。
「――――全く、お前は」
笑い、楽しむ顔とは裏腹に、心は暗く冷たく濁っていく。
胸の奥に、冷たいものがゆっくりと沈んでくる。
思い出す。
雪の国での銃声、血と金。そして命令。
自分が今何をしているのか。自分が今まで何をしてきたのか。
その現実が、静かに胸の奥へ戻ってくる。
小さく息を吐く。
「…………あぁクソ、やっぱり――」
その先の言葉は、飲み込まれた。
目の前に座る胡桃にも聞こえない、それは本当に小さな叫びだった。
深夜零時。
月が雲に隠れ、夜が静かに沈む頃。
それは人々が眠りにつき、千岩軍による見回りの質も、昼に比べて断然に落ちる絶好の時期だった。
璃月港から離れた場所にある『
黒い洞窟の奥。
そこから、下卑た笑い声が漏れていた。
「見ろよこれ!」
洞窟の中では、十数人の男たちが円を作って座っている。
カラスをモチーフにしたバッジを身に着け、フェイスマスクで身元が割れないように対策している。
彼らは『宝盗団』。
テイワットの多くの場所、特に遺跡で見かける盗賊の集団だ。
焚き火の上で火の粉が弾ける。
その明かりに照らされながら、男たちは次々に集めた袋や箱を開けていた。
集まっているのは、等しく大柄な男のみ。
全員がマスクで顔を隠している為くぐもった大きな声でニタニタと、気味の悪い笑みを浮かべながら談笑を続けていた。
洞窟。ここが彼らの
まず一人、周りと比べて少し小柄な男が、懐からあるモノを取り出した。
「へへ……見て驚けよ?」
袋から取り出した指輪を掲げる。
金の台座に赤い宝石、一目で高級品だと分かる代物だ。
「商人の野郎を襲ってよ、荷台ごとひっくり返してやったんだぜ」
男たちはゲラゲラと笑う。
「それで指輪か!お前運が良かったなぁ!」
「悲鳴がうるせえおっさんだったけどな!あっはっは!」
「なら今度は俺の番だな」
別の男が袋をひっくり返す。
すると、中から転がるのは古い装飾品。
「んだ?これ、骨董品かぁ?」
「バァカ。んなもんでこの俺が満足するかっての、これはな……『遺跡』で盗んできたもんだ」
胸を張り、誇らしそうに。
「そりゃあもうやべぇ罠が大量にあったがよ、俺は全部潜り抜けてきたんだぜ?」
「おいおい、また遺跡荒らしか!」
「スメールの学者連中が泣くぞぉ?」
「バーカ!あんな奴らが持つくらいなら俺らが売ってやった方が『こいつら』も喜ぶだろうよ」
また笑いが起きる。
焚き火の周りで、男たちの汚れた欲望が露わになる。
金や宝石。
古代の歴史的価値のある装飾品や、食料に至るまで。
人を襲って奪った事実。
遺跡に侵入して盗んだ事実。
彼らはそれを自慢し、互いの罪を称え合うように笑っていた。
まるで武勲であるかのように、楽しく。
そして、その光景を洞窟の外から二人の人影が見ていた。
一人は一不。
白髪と青緑のメッシュという、夜の闇で目立つであろう容姿を持ちながらも、匠の技術で存在感を消し、傍観を続けている。
そしてその隣に立つ青年は、まるで雪の国の空気をそのまま形にしたような人間だった。
雪原に差す夕日のような、柔らかな色合いの橙色の髪。
一不よりも背が高く、引き締まった体躯をしていて、服の下には戦いに慣れた者特有のしなやかな筋肉隠れており、立っているだけ緊張感を漂わせていた。
ファデュイ執行官第十一位――『公子』タルタリヤ。
彼は一不の隣でじっと腕を組み、洞窟の奥を観察し続けていた。
焚き火に照らされ、確認できる宝盗団たちの顔を一人ずつ確認していく。
「……ふぅむ」
静かに立ち、視線を向けているだけで空気が張り詰める。
それは殺気や害意という程に露骨ではない。
もっと軽く、もっと自然な形故に、末恐ろしいものだった。
彼にとって、戦う事は呼吸と同じであるかのような、そんな気配。
時に、笑いながら人を殺せる人間。
そしてそれを、場合によっては悪とも善とも思えるような人間。
そんな人としての矛盾を、彼はあまりにも自然に抱えている。
暫くして、小さく息を吐いてから。
「……どうやらここにはいないようだ」
視線を外し、タルタリヤは肩をすくめる。
宝盗団も一枚岩ではないが、目の前のグループはどこからどう見ても『外れ』の部類、タルタリヤにとっては食指が動かない雑魚だ。
「じゃあ……」
隣の一不へ視線を向け、その口元を少しだけ楽しそうに歪める。
「全員殺っちゃっていいよ」
「…………」
まるで掃除でも頼むような、軽い口調だった。
一不はすぐに答える。
「……――あぁ」
迷う暇も、資格もない。
腰に携えた刀を抜き、刃が鞘を滑る音が、夜の闇の中に細く響く。
そのまま、洞窟へ向かって歩き出した。
声が聞こえる。
男たちの笑い声、楽しそうな気配。
罪人の癖に、今の幸せを噛み締めるその姿は、どこまでも自分自身とそっくりだ。
暗い洞窟の入口が近づく。
その時、不意に。
『胡桃の「
夕暮れの食堂、その記憶が蘇る。
笑い声。万民堂の活気ある光景。
そして、無邪気に笑っていた少女の顔。
『胡桃の「
「――――」
楽しそうな声。
それを思い出した瞬間、一不の足が一瞬だけ止まる。
自己への嫌悪と罪悪感で、胸の奥が鈍く痛む。
刀が強く握られる。
だが、もう遅い。
「――――ぁぁ」
そして、小さく吐き捨てる。
「……あぁ、クソ」
洞窟の暗闇の先。
焚き火の光の向こうで、宝盗団の男たちはまだ笑っている。
それを見つめながら。静かに一声。
「やっぱり――」
一不は再び歩き出す。
だがそこに、もう迷いはない。
そしてもう一言。
ほとんど息のような声で、一不は言う。
「……俺は地獄行きだな」
洞窟の奥では、まだ笑い声が響いていた。
だが、それが止まるまで――長くはかからない。
璃月は契約の国。
しかし璃月に生まれた一不は、まるで契約を軽んじるかのような生き方をする人間だ。
「指定した額のモラを用意できなかった」、そうやって一不は依頼主の不手際を突く形でとはいえ、一度結ばれた「契約」も平気で裏切り、破り捨てる。
契約は秩序であり、信頼でもある。裏で「契約破り」として有名になった彼は果たして、いったい誰から信頼され、そして誰を信用するのだろう?
「契約」を軽んじる者は、果たして本当に「契約」を知らないのだろうか?
商人も民も、仙人や神でも重んじる「契約」を踏み躙り続ける。だが少なくとも、彼は最初からこのような在り方だった訳ではない。そのきっかけは間違いなく、彼の両親が残した「呪い」そのもの。
裏の世界で人を傷つけて得た法外のモラを注ぎ続けても尚、人生を縛る借金と悪意は今もある。
一不がそれに囚われたのは、僅か8歳の時からだった。