2004年
--2004年 箱根 地下第2実験場
「何故ここに子供がいる」
3,4才の子供を視認しながら、初老の男性職員冬月コウゾウは若干のイラつきを含めて疑問を投げた。今回の実験は人工進化研究所の大規模な予算、人員、時間を掛けて行われるものだ。呑気に見学するようなものではない。子供がガラスにへばり付いて見ている物はその中でも最重要機密に該当する。
「碇所長の息子さんです」
「碇、ここは託児所じゃない。今日は大事な日だぞ」
女性職員赤木ナオコがその問に答えるが、冬月は直接子供の親に苦言を呈した。
その矛先になった同研究所所長である碇ゲンドウは反応をみせず机に両肘を立て両手で口元を隠したままだ。
『ごめんなさい、冬月先生。私が連れてきたんです』
父親の代わりに通信で答えたのは、この場にいない母親碇ユイだった。このオペレータ室からガラス窓越しに見えている広大な実験場から返答してきた。子供がそれに気が付いて母親に手を振っている。
「ユイ君、今日は君の実験なんだぞ」
『だからなんです。この子には明るい未来を見せておきたいんです』
その声は優しく正に母親のものだった。これから始まる重要実験の被験者とは思えない言葉だが声色に若干の緊張も含んでいるようだ。このときまで黙っていた父親が突如言い出した。
「シンジ、乗ってみるか?」
小さな歯車がずれた。
子供は父親に満面の笑みで振り返り嬉しそうに答える。
「え?あのロボットに乗ってイイの!?お父さん!」
「碇!何を言っている!」
冬月は焦った声で父親を睨む。あれはロボットではなく、ましてや子供のおもちゃなどではない。超極秘の技術が使われているそれは、文字通り人類の存続をかけて建造しているものだ。他の職員達も突然の出来事に騒然となる。しかし父親は動揺せず答えた。
「なに本番実験開始までまだ余裕はある。ユイは一旦休憩した方がよい」
『あなた……』
確かに実験は準備だけでも長時間に渡って行われており皆に疲労は見えている。被験者の声にも疲労が感じられた。これには冬月も同意せざるを得ない。父親は反論がないことを確認し改めて提案する。
「エントリープラグのシートに座らせるだけだ。ドアも開いたままにしろ。その間他の職員も休憩時間としよう」
『そうね……シンジに見てもらいましょうか』
この場の最高責任者の所長とその次席であり被験者でもある実験実施者の言葉には誰も文句はなかった。本番実験開始の前に休憩時間をとることになった。
しかし子供の両親は、このときの発言を後々まで後悔する。
この日子供は消えた。汎用人型決戦兵器EVANGELIONの中へ。
ほんの少しずれた歯車はさらに大きな歯車へと伝え、ずれが段々大きくなっていく。未来そして過去へと伝わり本来と違う世界の流れに移っていった。
これは歯車のずれた無数の世界の一つ、有り得たかもしれない物語。