--統合軍第三艦隊旗艦空母 CVM-003『オーバー・ザ・レインボー』飛行甲板上
飛行甲板に着艦したティルトジェット機から2人の女性が降り立つと、いきなり大勢に囲まれた。
うろたえる女性の前に士官らしき人物が立つ。
「Nerv本部作戦部長葛城ミサト大尉ですね?」
「は、はいそうですけど……」
「ようこそ!『オーバー・ザ・レインボー』へ!艦橋までご案内します!」
「はあ……」
敬礼する士官。先ほどまで囲んでいた人たちは、いつの間にか艦橋まで左右の列を作って敬礼して並んでいる。全員笑顔だ。
「なんなの一体……」
「気にしない。気にしない。さ、行きましょう」
よく分からず、びびっているミサトとあくまで冷静なリツコ。列の中を艦橋に向けて歩き出す。歩きながらさきほどの士官がミサトに話しかけてきた。ちょっと興奮気味。
「いやぁ、やはり本物もお美しいですね。噂以上です!」
「はあ、どうも……って私のこと知ってるの?
「はい!統合軍の『勝利の女神』のお噂はかねがね」
「そっちの噂ね……それよりも現在の作戦状況は?」
ミサトはNervに入る前は統合軍で士官をしていた。そのときの話のようだ。ちょっとうんざりした感じで話を逸らす。しばらく状況の確認をしながら艦橋の上に登る。
「現在、第三段階に移っております。第二段階までの戦果などは、ヴェルヌ艦隊司令から直接どうぞ」
「げっ、あのエロじいい、ここに来てるの?」
「はい、艦橋にいらっしゃいます。葛城ミサト大尉と赤木リツコ博士をお連れしました!!」
艦橋には、数人の男性が居たが上官と思われるのが2人。一人は艦長だろう。そしてもう一人は、ミサトがよ~く知ってる顔だった。姿勢のしっかりしている白髪頭の老人に挨拶する。
「おひさしぶりです。ヴェルヌ司令」
「おお、ミサト!久しぶりだのう!相変らず別嬪さんだ。乳も変わっとらんか?」
伸びて来た卑らしい手を、手刀ではたき落とす。
「やだもう、司令ったらっ!(ビシッ)」
「アウチ!手厳しいのも相変らずだ。おや?そちらのお嬢さんは?」
「はじめまして、司令。Nerv技術部長赤木リツコと申します」
艦隊司令と握手を交わすリツコ。お嬢さんと言われた為か、いつもより笑顔だ。
「ほう、あのご高名な赤木リツコ博士が、こんな美人とは。Nervの採用条件の中に美女があるんじゃないだろうな?」
「ご冗談が、お上手ですわね。ところでウチの作戦部長の元上官とお聞きしていますけど、どんな部下でしたの?」
「うむ。色んな意味で、苦労させられた部下だった……」
ミサトが、統合軍に所属していた頃のあだ名は幾つかある。
『勝利の女神』、『東洋のジャンヌ・ダルク』、『無敵の微笑み』という美化されたものから、『ジョッキを掲げた自由の女神』、『バッカスの生まれ変わり』、『ビア樽』という揶揄されたものまで多数。
現場のたたき上げで昇進していった彼女の作戦は、これまで戦術の基本から大きく外れた物が多い。
作戦の成功率、兵士の生存率とも高い。その点が下に支持される理由だが、戦費が膨大に掛かるのも特徴で、上位将官には疎まれていた。
根本は徹底した合理主義。使える物は人命以外何でも使う。
最たるものが難攻不落の海底要塞に対し、旧世紀から残る戦艦のキングストン弁を抜いて水中に沈め突撃させ壊滅させた作戦だ。それにより多くの将兵が無駄に命を落とさずに済んだ。
戦艦の艦長は泣いていたが。
「な、なによ『ビア樽』って……」
「あら、ぴったりじゃない。あなた、作戦中でも飲んでたんじゃないの?」
「ま、まさかぁ……ちょっ……ちょっちだけよ……」
ジト目で睨むリツコ。ミサトは目を反らしながら話題も反らす。
「そ、そんなことより、作戦の成果を知りたいんですけど司令」
「おおー、そうだった。ほれこれだ」
司令から作戦経過報告書を紙で受け取る。各段階の状況が表やグラフなど交えて記載されていた。
ペラペラとめくりながら簡単に状況を確認していくミサトとリツコ。
「へ~4体も幼体を落としてるんだ。正直、足止めくらいかなと思ってたんだけど」
「そうね。落としているのは、いずれも第二段階ね。第一段階の上からの攻撃がちゃんと布石になってるのかしら……ん?これは?」
「なに?迎撃方法の分類?MAGIによる誘導と……『カン』??司令これは?」
「ああ、攻撃隊の中にMAGIとの連携をせずに攻撃したやつがおるのだ」
「その『カン』による攻撃の方が撃墜数が多いじゃない。リツコぉMAGIよりカンの方がいいんだって」
にやりとするミサト。彼女もどっちかというと『カン』派だ。資料を見ながら顔をひくつかせるリツコをからかう。
「そ、そうみたいね。きっとパイロットがA.T.フィールドを体で感じたのかしら、それにMAGIとのリンクでも何重にもスクランブルを掛けているからコンマ数秒のタイムラグが……」
なんとか、理屈で納得しようとするリツコ。を、ほっといてミサトは司令と話を進める。
「司令、最新の状況は?」
「それは、CICの方が情報が多いだろう。案内しよう」
--作戦第三段階『戦艦の艦砲射撃による攻撃』
現在、戦艦BB-065『ハムレット』とBB-066『ジュリアス・シーザー』による攻撃が行われていた。
普段は陸上への上陸支援射撃を行っているMk.7 16インチ50口径砲は、仰角を最大にして対空射撃をしている。
『オーバー・ザ・レインボー』内CICで状況を確認しているNerv女性高官2人。その1人ミサトは呆れ顔で呟く。
「う~む。弾の無駄ね」
依然MAGIによる誘導砲撃は続いているが、まだ一発も命中していない。完全にA.T.フィールドに阻まれている。
それを確認するとリツコは近くのオペレータに声を掛けた。
「ちょっと、端末を貸していただけます?」
「あ、はいどうぞ」
「ありがとう」
にっこりと、微笑まれて思わず席を貸してしまったオペレータ。いきなり猛烈なスピードでキーボードを叩きだしたリツコにびっくり。
「軍ネットワークのプロトコルだと制約が多いのよ。だから、Nervネットワークプロトコルに変更して、もっと『深く』リンクさせるわ」
リツコがエンターキーを叩くと全モニターが一瞬ブラックアウトした後、再び表示された。
先ほどまで映っていた物と明らかに違い、遥かに情報が多く、かつ見やすい画面に変わっていた。現在の使徒の位置を表示していた主モニターは立体的な表示になり、A.T.フィールド分布、予想進路、海流から、大気の流れまで視覚的に分かるようになっている。
それを見た他のオペレータ席の下士官が声を上げる。
「そ、そんな、こんなプログラム無かったぞ!?」
「リンクしたMAGIが適切なプログラムをリアルタイムで作成したのよ」
こともなげに言ってのけるリツコ。ここでミサトが思い出したように宣言した。
「あ、ここの施設は、特務権限でNervが使用させていただきますのでよろしく」
その後、MAGIと連動した艦砲射撃は、A.T.フィールドの隙間を抜けるようになり、一発が幼体のコアに命中、撃墜することができた。
しかし第三段階の戦果はそれだけ。砲弾のストックと、砲身の加熱具合、使徒の接近などの理由で終了した。
そして……