--弐号機エントリープラグ内
「くっ!」
使徒に投げ飛ばされた弐号機は、ある山の中腹に叩き付けられる。
アスカにも衝撃が伝わるが、エントリープラグを満たすL.C.Lと呼ばれる液体が衝撃吸収剤として機能したため、さほどのダメージはない。
急いで現状を確認する。使徒とは、まだ距離があった。
使徒は首の部分を曲げ、体を直立にした体型ではスピードがでないらしい。その分自由に触手が使えるようで戦闘形態ということか。
「ここは……ゴミ処理場?」
弐号機が叩き付けられたのは『ゴミの山』だった。
見渡す限りのゴミ。主に電化製品などの粗大ゴミのようだ。処理場というより、ただ集めただけの集積場と言った方がいいかもしれない。
生産、流通、消費されたモノの最終到達地。これだけの量がこの国だけで消費された訳ではない。近隣諸国の分を料金と引き換えに一手に引きうける、裏の産業だ。某東洋の弓状列島の分もある。というより一番多い。
弐号機を立たせようとしたところ、電子音と共にモニタの一部が外部映像を拡大。
「……子供?」
弐号機の左手の中指と人差し指の間に、人が居た。
拡大された映像をみると二人の子供、しかも女の子のようだ。歳は12歳くらいと8歳くらい。もしかしたら姉妹かもしれない。
市街には避難命令が出ているはずだが、近隣のスラム街の住人かもしれない。ゴミを拾い、転売して生きるスカベンジャーの子供。ストリートチルドレンだろう。
二人とも元は白かっであろう薄汚れたワンピースを着ている。怯えていて動けないようだ。
アスカは、迷った。今動けば、あの子達を巻き込んでしまう。しかし使徒は見逃してくれそうもない。
EVA弐号機の首の後ろの装甲が開き、筒状のエントリープラグが飛び出した。
『アンタ達!!英語は分かる!?』
外部スピーカーで子供に呼びかけるアスカ。大きいほうの子が、怯えつつも肯く。
『このロボットに乗って!!今、扉を開けるから!!』
エントリープラグの扉が開く。しばらく躊躇していたが、見たこともない巨大な化け物が近づいてきているのを見て決断したらしい。大きいほうの子が手を引いてEVAに近寄った。登るのは苦労しそうだ。
使徒がもう目の前に来ている。時間がない。子供達は、やっとエントリープラグに着いた。
中がL.C.Lで満たされているのを見て、入るのに躊躇している。
『大丈夫よ!呼吸は出来るから!早く!』
意を決してエントリープラグの中に飛び込んできた子供は、最初、呼吸を止めていたがすぐ我慢できなくなり息を吐く。そのまま肺の空気とL.C.Lが入れ替わり、呼吸が出来るようになったようだ。
エントリープラグ内には、3人の『チルドレン』。
異物が入ったため、アスカはEVAとのシンクロに大きな違和感を感じていた。
「そこでじっとしていてね。すぐ終わるから」
余裕のある笑顔を見せ、姉妹らしき二人に話しかける。妹は分かっていないようだが、姉の方は肯き、妹を抱きしめる。アスカは目の前の使徒に意識を集中した。
(とは、言ったものの、体は重いし、武器はない。使徒は高度を取っていてジャンプもギリギリ届きそうにない。どうする?)
対応策を考えていた、その矢先、使徒が先に攻撃をしかけた。
鞭のように左右から触手を叩き付ける。アスカは反射的に、その触手を掴んでしまった。焼けた火箸を握ったような痛みが走る。
後ろの二人を不安にしないため、悲鳴を押し殺す。これで身動きが取れなくなったが、使徒の攻撃はなんとか封じたと思った。
しかし使徒の体から、もう二本、触手が生えてきた。今度は防ぎようがない。
思わず目を瞑るアスカ。
(……?)
予想された衝撃も痛みも来ない。恐る恐る目を開けると、目の前に紫の巨人が立っていた。
『大丈夫!?アスカ!!』
シンジからの通信が入った。無事初号機の起動に成功したようだ。
弐号機に背を向けて、同じように触手を両手で握っている。使徒との間に割り込んで、攻撃を防いだらしい。
『動かせたよ!!アスカの言う通r「ナイス!シンジ!そのままジッとしていなさい!」
なにか言いかけたシンジを遮ってアスカは命令し、弐号機を大きくジャンプさせる。
命令どおり微動だにしない初号機の肩を使って。
『ああっ!僕を踏み台に!?』
なにやら悲鳴を上げているシンジを無視して、アスカは使徒に飛び蹴りを食らわせた。
「くらえー!!!」
弐号機の足は狙いを外さず、コアに見事命中した。砕ける紅玉。使徒はゆっくりと、EVAは急速に高度を下げる。弐号機を受け止めた。と、いうより、ただ下敷きになった初号機。
踏んだり蹴ったり……したのも弐号機か。
「大丈夫!?」
アスカ後ろを振り返って姉妹を見る。姉が妹を抱きしめながら頷く。なんとか大丈夫のようだ。ミサトから通信が入る。
『アスカ!!そっちの使徒は!?』
「今、コアを砕いたわ。そっちはどう?」
『こっちも今終わったわ。レイが全部撃ち落とした』
EVA零号機から通信ウィンドウが開きガッツポーズを見せるレイ。
『ま~~~かせて!』
『それじゃあ作戦終了ね。お疲れ様!』
ミサトは、ほっとした声で終了を宣言した。
安堵したアスカは、さきほどのシンジを思い出す。
「あ、シンジ、なんか言いかけなかった?」
『(しくしく)……も、いいよ……』
「?」
--『オーバー・ザ・レインボー』CIC内
「作戦終了です。お疲れ様でした」
ミサトが作戦の終了を伝える。残るは後片付けだ。CICのスタッフ達も安堵の様子を見せた。
「司令、使徒の残骸回収を統合軍第三艦隊に要請したいのですがよろしいですか?」
「ああ、当初の予定通りだからな。ところで、赤木博士」
「はい?なんでしょう?」
「このプログラムは、MAGIからリンクが外れると、消えてしまうのかね?」
ヴェルヌ艦隊司令は画面を見ながらリツコに確認する。MAGIが一瞬で作成したというプログラムは、既存のものよりもかなり見やすいので、このまま使いたい。
「いえ、一部情報はMAGIからですが、殆どは、そのままに残せます」
「じゃあ残してくれ。この方が見易い」
「分かりました。マニュアルもMAGIに作成させておきます」
「頼む」
リツコはキーボードに一瞬で入力を終えミサトに振り替える。
「ミサト、終わったわよ」
「よし、じゃあ撤収ね。司令、お世話になりました」
握手を交わすNerv作戦部長と、統合軍第三艦隊司令。
「……一つ正直に聞かせてくれミサト。我々は役に立ったのかね」
「ええ、もちろんです。貴重な時間を稼げました」
「わっはっは!正直でよろしい!まあ特に被害はなかったから良いか。これからも頑張ってくれ給え」
「ありがとうございます。統合軍には他のことで力を貸して頂くかもしれませんが……」
ミサトは握手したまま少し声を落とし真剣な表情で司令を見る。
「分かった憶えておこう。ところで加持君とは会ったのかね?先日までここにいたのだが」
「げッアイツ帰ってきやがったんだ」
--EVA輸送機機内キャビン
既に作戦が終了して数時間経ち、現在は帰路の途中。後数時間で第三新東京市だ。
チルドレンとスタッフは、殆どが疲れて座席で寝ている。アスカは中々寝付けず、隣席のミサトに声を掛ける。
「ねぇミサト……起きてる?」
「……なぁに?アスカ」
「……責めないのね。あの二人を乗せたこと」
「ああ、そのこと?まあ緊急時だったからしょうがないでしょ」
「どうなるの?あの子達」
「身寄りがないからストリートチルドレンの公的な援助施設に入ってもらうわ。一応機密に触れたけど、特に問題ないし」
「……あの子達も、『チルドレン』なのね」
「そうよ。ストリートチルドレンは、前世紀末から居たしセカンドインパクト以降さらに増えたわ」
「……あの子達、笑ってたの。別れるとき。綺麗な笑顔だった。アタシが、もしママとパパが居なくてもあんな笑顔できるかな……」
アスカは思い浮かべていた。姉妹と共に、EVAの中で会ったもう一人のアスカを。
「……もう寝ましょ。後3時間は寝られるわ」
「……うん。おやすみミサト」
続く