--双子山付近
鈴原トウジは焦れていた。
背の高いEVAでは、中々隠れることができない。森の中で完全に伏せ、カモフラージュシートをかぶった状態で、やっと隠れることができる。
彼の特技は格闘戦だ。生身ではチルドレンの中で一二を争う。EVAに乗った状態でも1対1の格闘なら勝てる自信がある。
しかし、今は小隊ごとに別れた訓練戦中だ。相手は銃器(ペイント弾)で武装しているし、複数。例え弾を掻い潜って1体を倒しても、他の1体に攻撃されてしまう。ゆえに、こうやって待伏せをしている訳だが、やっぱり性に合わない。
これが鬼の中隊長兼小隊長兼クラスいいんちょの命令でなければ、とうの昔に飛出していただろう。
その焦れも限界に来ていた頃、EVAの足音が聞えた。
今回の訓練では、特殊センサーのたぐいは使用せずEVAを通した味覚嗅覚以外の五感でのみ判断する。木々の隙間から見えた足首は、紫色。シンジの初号機だ。
いいんちょこと洞木ヒカリが誘導に成功、予定通りのポイントを通過中。まだトウジの参号機には気が付いていない。背後から襲う為、息を潜めて通りすぎるのを待つ。
(あと、3歩……2歩……1歩……今や!!)
「もろたぁぁーーーーー!!」
カモフラージュシートを跳ね上げ立ちあがる黒いEVA。パレットガンを構えるが、直後に警告音が鳴り響く。
「なんや!?」
軽い衝撃の後、訓練プログラムのインフォメーションメッセージに『警告!右腕、パレットガンに被弾。大破。使用不可能』と表示された。
どうやら初号機のさらに後ろに、伏兵が居たらしい。
狙撃された右腕が黄色に染まっている。
「ちぃぃ!!」
残る左腕で訓練用ナイフを取り出そうとするが、既に初号機の銃口がこちらを向いていた。
連続して鳴る警告音と滝のように流れるインフォメーションメッセージ。
「ブラボー2よりブラボー1へ」
『ブラボー1よりブラボー2。どうしたの?』
「すまん、いいんちょ。やられてもーた。やっぱ、慣れへんことはしたらあかん……がくっ」
『スズハラ!?』
後には、真っ赤……ではなく、ペイント弾の色、真っ黄色に染まったEVA参号機が残された。
EVA参号機を撃ったのはシンジの初号機と後ろからそっと付いてきていたレイの零号機だ。
『アルファ3よりアルファ1へ!やったよアスカ!トウジを倒したよ』
『アスカー!私が最初に当てたんだよー』
アルファ1こと弐号機のアスカに何ともノンキな通信が入った。アルファ3はシンジ。アルファ2はレイだ。
「アルファ1よりアルファ2と3へ!!名前を言っちゃったらコールサインで呼んでる意味ないでしょうが!!ったく……でもまあ、これで後はヒカリと、相田だけね……アルファ3は、ブラボーチームのフラッグのところへ。まだ踏み込むんじゃないわよ?相田が隠れて狙ってるわ。アルファ2は、そのバックアップ。OK?」
『『了解!』』
--12式大型野戦用統合指揮車
車両の中には、本部の発令所とほぼ同等の戦闘指揮システムがあり、離れた戦場の作戦指揮が可能。
今回は、双子山付近で、EVA対EVAの模擬チーム戦の管理である。
EVAが配備された4個小隊が模擬戦に参加している。勝利条件は、それぞれの陣にあるフラッグを奪取するか、相手のEVAを全滅させること。
この訓練が使徒に対して有効とは言えないが、配備されたばかりのEVAに慣れることと、チームワークの確認が出来る。
現在、霧島マナ率いるチームと、加賀ユキノ率いるチームが敗北。残るは、アスカのチームとヒカリのチームだが、既にトウジが倒されアスカ側に有利な状態になっている。
「やっぱり、アスカのチームが、抜きん出てるわねー」
多数の大型モニターの前で腕を組みながら戦闘状況を確認するミサトは、副官的立場の作戦部所属中尉日向マコトに話しかけた。
「ええ、EVAに慣れているのはもちろんですけど、アスカちゃんの作戦が、ここまで完全に成功していますね」
「そうね……あら、洞木さんも追い詰められたわね。戦闘終了は時間の問題か。そろそろ撤収の準備を始めましょう」
ミサトは、他のスタッフにも伝えるため、その場を離れる。
その時本部から連絡が入った。
『こちら、本部発令所。作戦部指揮車、応答してくれ!』
「こちら作戦部指揮車。なんだ、シゲルか。久しぶりだな。2週間ぶりだっけ?」
通信モニタにでたのは、司令部直属のオペレータ青葉シゲル。マコトと同期だ。
『ああ、冬月副司令のお供で、市議会とか第二の方とかにな……って世間話している場合じゃなかった!葛城大尉いるか!?』
「居るけど、模擬戦闘中だぞ。余程のことがない限り……」
『その余程のことだよ』
「え、じゃあ……」
『そう、パターンブルーだ』
使徒発見の報を受けてミサトが直ぐ戻ってきた。
「状況は!?」
『1530時に、使徒警戒網への反応がありました。個体数は、一。場所は……』
「?」
『東西アメリカの国境付近です!』
20世紀最後の年に起きた地球規模の大災害セカンドインパクトは、世界中に混乱を起こした。その最たるものが、アメリカ合衆国の分裂だ。
切っ掛けはセカンドインパクト時に発生した通信手段の途絶と、ワシントンD.C.の消滅。
こういう事態で、真っ先に動くはずの本来の大統領は、ホワイトハウスと共に消滅。原因は南極大陸消滅時の岩盤が大気圏に再突入しワシントンを直撃したと言われている。それが事実かは不明だが、当時、巨大なキノコ雲が目撃された。
東西のアメリカ政府がどちらも自分こそが合衆国正統政府だとして、現在2国間で戦闘が起きている。
--サンフランシスコ上空10,000m EVA輸送機内キャビン
「はぁ!?入国を許可できないぃ~~!?」
使徒発見の報を受け、急遽アメリカ大陸まで出撃した葛城ミサトと愉快な仲間達だったが、いきなり出鼻を挫かれる。
東西アメリカは地球統合政府に加盟していないので特令が効かず、それぞれの国に許可を求めるしかない。西アメリカは比較的友好なので許可が出たが東側は拒絶してきた。
「何でよ!!使徒は人類共通の敵よ!別に東アメリカに対しては何もしないわ!」
『……繰り返す。あなた達ネルフだったか?の入国は許可できない』
「使徒はどうするのよ!アレに対抗できるのは我々しかいないわ!地球統合政府の要請を無視するつもり!?」
『フン!火事場泥棒の要請などくそくらえだ。我が国のことは我が国で解決する。以上だ』
「ちょっと!!」
一方的に通信を切られた。
20世紀末まで世界の警察をしてきたのはアメリカだ。セカンドインパクト後に台頭した地球統合政府を、東アメリカの軍人は火事場泥棒と罵る。
「あっっったまくるわねーーー!!火事場泥棒ですってぇ~~!?」
「まあ、東アメリカの地球統合政府嫌いは、有名ですからね。で、どうします?」
「どうもこうもないわよ日向君。このまま行くわ」
「でも、葛城大尉……」
「もう一度、地球統合政府に、できれば
「駄目なら?」
「力ずくでも……」
ミサトは笑顔で答えたが、マコトは獰猛な肉食獣の顔に見えて恐怖した