--使徒の上空15,000m
三体の翼を持った物体が飛行していた。銀と白と青。
鳥ではない。このような巨大な鳥類は存在しない。
飛行機ではない。人類が今まで製造してきた航空機には、腕と足が付いているものは存在しない。
それは、鎧を着けた巨大な天使と呼ぶに相応しい姿をしていた。
『翼を持ったEVANGELION』と表現したほうが早いかもしれないが。
銀色の『翼を持ったEVANGELION』エントリープラグ内に、通信を通してハミングが聞こえている。ベートーベンの交響曲第九番だ。
「ご機嫌だな。カヲル」
通信用のウィンドウが開く。ウィンドウの下には、『Erzengel03 Kaworu.Nagisa』とある。現れた顔は、銀髪で赤い目の少年だった。美しい顔には笑顔が浮かんでいる。
『フフ、そう見えるかい?』
「ああ、初めてみるよ。そんな君は。久しぶりに外に出たからか?」
『そうだね。そうかもしれない』
「君は自由だ。我々にそれを止める権利はない」
『考えておくよ』
「綾波」
もう一つウィンドウが開く。『Erzengel02 Rei.Ayanami』とあった。
『何?』
現れた顔は、同じく銀髪で赤い目の少女。表情は無い。
「君は、どうだ?久しぶりの外は」
『別に』
「そうか。君の歌も聞いてみたかったんだが」
『命令があれば、そうするわ』
「では、命令だ。君の美しい声で歌が聞きたい」
綾波と呼ばれた少女は数秒考えた後、口を開こうとしたが、それを電子音が遮った。
『……使徒が移動を止めたわ』
「ああ。この下が『碧き月』だな。行くぞ」
--通信室テント
「なにこれ?」
開封された命令書を表示するモニターの前でミサトは固まっていた。それもつかの間、別の報告がなされる。
「大尉!使徒に変化がありました!」
「どうしたの!?」
「移動を停止。それから下部から棒状のものを伸ばして地面を掘っています!」
「はああ??」
訳の分からない命令書に、訳の分からない使徒の行動。ミサトは考えることは止めて、まず行動することにした。
「直接見に行って来るわ。さっきの命令書の件は、本部に問い合わせてみて!」
「はっ!」
使徒が見える高台まで走る。すでに日向マコトやスタッフが数人来ていた。双眼鏡などで目視確認を行っているらしい。マコトから双眼鏡を受け取り、使徒の様子をうかがう。
「状況は?」
「使徒の下部から伸びたドリルのようなもので地面を掘り進んでいます」
浮遊している正八面体の下の頂点から、円柱が伸びていた。その表面は、らせん状に突起物が付いており、それが回転していることが分かる。
「……地下に何かあるのかしら」
「資源探査目的の衛星などからは、この地下に何かあるような報告はありませんが……」
「じゃあ一体なんの目的で……」
ミサトが双眼鏡から目を離し、疑問を投げかけようとした時、上空から何か落下してくる物が見えた。
それの形がはっきり見えたとき、ミサトは驚愕する。
「EVA!?」
三機の『翼を持ったEVANGELION』は、使徒を囲む様に同じ高度で停止した。
即座に使徒が反応して、加粒子砲を銀色の機体に向けて放つ。が、難なくかわして、からかう様に使徒の周りを飛び回る。他の二機も同様だ。
使徒は正八面体の横、四つの頂点から連続して加粒子砲を放ち始める。連続して撃つ分、威力は少ないようだ。だが、それでも三機には掠りもしない。
そのうち使徒の放つ加粒子砲に間隔が出来始めた。
『翼を持ったEVANGELION』は、それを確認するや、使徒を無視して地面へと突入する。轟音と共に土煙が上がり、それが晴れるころには使徒と3つの穴しか残っていなかった。
--簡易指揮所
『翼を持ったEVANGELION』が地下に潜ってから30分経つが、まだ出てこない。
これは地下になにかある。と思わざるを得ない。それが何かは分からないが、Nerv司令部から例の命令書に関しての指示があった。
「無視しろ。以上」
タイミングからいっても『翼を持ったEVANGELION』と命令書を送ってきたSeeleなるものは関係がありそうだが、今のところは情報がない。ただSeeleの指揮権コードは、地球統合政府の頂点であるはずの最高意思決定機関
ミサトは、これらのことを『置いといて』まず、自らに課せられた使命を全うすることにした。
「この使徒の特徴は大体掴めたわね」
作戦部スタッフを見渡して意見を求める。まだ戸惑いはあるようだが、作戦立案に集中している。
分析で分かったことは、加粒子砲に関しては、高出力と低出力があること。高出力のものは連続して撃てない。低出力は連射できるが威力は弱い。低出力のものは遠距離ならばA.T.フィールドで防げそうだ。また、使徒の火器管制の能力は低く移動目標には殆ど命中していない。
作戦部スタッフ達はデータを元に作戦立案のための議論を続ける。
「それと、加粒子砲には射角が限られているようです。大体、上下20度ほど。その範囲以外には発砲していません」
「だったら死角に入りこめば、接近戦ができるのでは?」
「上空からは無理だろう。アレみたいに翼をつけない限り。残るは下だが……」
「下に潜り込む前に撃たれてしまってはいけない。撹乱しながら、接近するか」
「いや、高出力のものを撃たれれば危険だ。せめて低出力ならば……」
「だったら……」
白熱する議論の中で、ミサトは、そっとその場を離れた。マコトが真っ先に気が付く。
「葛城大尉?」
「さっき、リツコのところに連絡できなかったから、もう一回行ってくるわ。今、挙がっている方向で作戦立案をしてみて。んじゃ」
ミサトが席を外している間に大体の作戦が決まった。
--『サンxサン・フィレッチェ作戦』開始
作戦名発案者は、広島のサッカーファンだ。別のテントから戻ってきたミサトの承認を受け、すぐに実行される。
まずユキノの第三小隊が三方から遠距離射撃を行なう。
狙いはあまりつけず直ぐにその場を離れることで、使徒からの反撃を難なく逃れた。
ちくちくと、その攻撃を続けていると低出力の加粒子砲に切り替わり、連続して砲撃をしてくる。
その瞬間、同じく三方向に散っていた第一小隊のEVA3機が、クラウチングスタートの姿勢から使徒に向かって猛烈なダッシュをした。
砲撃を散らすために左右への動きを加え稲妻のごときジグザグな軌跡を描く。
3つの雷が砲撃の死角に入る寸前、使徒が地面を撃つと砲撃による土煙のため途端に視界が塞がれた。
シンジは、煙に構わず使徒があった場所へと突っ込む。煙の向こうに使徒が見えた。と、思った瞬間、地面を踏みしめるはずの足が空を切った。
『あれ?』
間抜けな声を残し地上から消えた。
『翼を持ったEVANGELION』が残した穴に落ちたらしい。間抜け。
「シンジ!!」
『お兄ちゃん!』
同時に叫んだアスカとレイの2人は、一瞬飛び込むのを躊躇した。使徒は動きを止めた零号機と弐号機に向けてすかさず砲撃。
弐号機は何とか回避したが、零号機には直撃。そのショックでレイは気絶してしまう。
「ちっ!このーー!!」
舌打したアスカは使徒の気を逸らすため、持っていたソニックグレイブを投げつける。
しかし、これだけ近づいても中和できない。思っていたよりも強力なA.T.フィールドのようだ。
ソニックグレイブも弾かれ、アスカは零号機を抱えたまま、何とかその場を離脱。マユミ達からの援護もあって安全圏に逃れる。
かなり無理をしたため弐号機は脚部を損傷した。
『サンxサン・フィレッチェ作戦』は失敗した。中破1。小破1。行方不明1。