--技術部長執務室
自動ドアが開き、疲れた表情のミサトが執務室に入ってくる。ミサトは今まで渚カヲルの尋問をしていた。
「ご苦労様」
リツコは苦笑いで迎える。
「もう、くたくたよぉ。あたし、あの子苦手だわ」
「あら、別に口が硬い訳じゃないんでしょ?」
「その逆よ。もう喋る喋る。聞いてないことまで教えてくれたわ。どこまで本当か分からないけどね。嘘発見器も役に立ちそうにないし」
カヲルは、第三新東京市に来たときから毎日尋問を受けている。今日で3日目。尋問といっても別に拷問で無理やり吐かせたりする訳でもなく本人はいたって協力的だ。
ただ、カヲルが尋問を受けるとき、
「ああ、これから僕は、鉄格子のある部屋に連れて行かれて、机についたライトを向けられながら『さあ、吐け!』とか脅されるんだね!そして、カツ丼を奢ってもらい、それを食べているとき、『おふくろの歌』を聞かされて、『故郷は、もう雪が積もっているなあ』とか、『君のお母さんは元気かな』とか、泣かせる話をすると、『刑事さん!私がやりました!』と、白状してしまうんだね!ああ!」
と、いまどきドラマ、いやコントでもやらないようなコトを言い出して、なぜか嬉しそうにしていた。どこから、その知識を持ってきたんだろう?
とりあえず、カツ丼だけ奢ってやった。
「ところで、あの『翼を持ったEVANGELION』。
リツコ特製のコーヒーを飲みながら、尋問のことを思い出してゲンナリしていたミサトは、話題を変えた。
「ええ、大体ね。まだまだ調べるところはあるけど」
「私達のEVAに、あの翼は着けられる?飛べると飛べないじゃ雲泥の差だわ」
「……着けること自体は可能よ。でも飛べないわ」
「え?なんで?」
「まず、翼面積が小さすぎるわ。揚力と自重のバランスが取れていない。滑空もできないでしょうね。あと、羽ばたく筋力も足りない。あのErzengel参番機は、その為の筋力を持っているけど、それでもホバリングするには足りないの。言わば単なる飾りね、あれは」
リツコの意外な回答に目をぱちくりさせる。
「でも飛んでたわよ?」
「あれは、多分A.T.フィールドの応用ね。重力を遮断しているのよ」
「え?じゃあ、ウチのEVAでも出来るんじゃ……?」
「どうかしらね?訓練しだいとは思うけど重力を拒絶するなんてイメージできないと思うわ。……いや、出来た機体もあるわね」
「……あ!?」
それは、暴走した初号機だ。光輝く12枚の翅。六対の細い光の翼。
「止めましょ。無い物ねだりは良くないわ」
「ミサトから言い出したんじゃない」
--Nerv本部B-14ブロック通路
今日は自主訓練日だ。チルドレンは自分に足りない技術を補う為、自分でメニューを組み自らの意思で訓練を行う。
もちろん、やるのもやらないのも自由だ。休憩も任務のうち。
シンジは、カヲルにNerv本部内を案内していた。シンジにとってここは幼い頃から出入りしている庭のような場所だ。来て間もないカヲルはチルドレン関連施設以外知らない。
2人っきり……というわけではなく、何故かアスカもついて来た。
本人いわく、
「こいつを監視するためよ!」
とのこと。
「いやー結構広いんだね。ここ」
「うん。案内板を見ながら進んでも迷っちゃうくらいだからね」
「……そんなのアンタだけよ……」
ともあれ3人組の珍道中は続く。
--D-4ブロック
案内はシンジがしているが、
「えーと、ここは……なんだっけ?」
どうもよく覚えていないらしく、アスカが変わりに説明する。
「ここは、技術部のフロアよ!リツコを筆頭に日々怪しげな実験をしている所!」
酷い言いぐさだ。
「う、うん。そうなんだ」
シンジも酷い。カヲルは、そんな2人を何も言わずに笑顔で見守っていた。
--L-7ブロック
「ここはね、えーーーっと……」
「アンタ、また分からないの!?」
「そ、そんなことないよ!えーここは『雑用部』です」
「違う!総務部よ!組織全体に関する事務を扱う所!」
「え?だって母さんそう言ってたよ?」
「お、おばさまも結構アバウトなのね……」
--S-9ブロック
「あれ?」
ゲートの横にIDカードを通しても、反応しない。どうやらシンジのセキュリティレベルでは通れない部署らしい。
「この先は、情報部のようね。入れないわよ。他行きましょ」
--U-13ブロック
「あれ?ここも駄目だ」
「ここは、保安部ね」
--L.C.L PLANT:CL3 SEG.Heaven's Door
「ここも駄目みたい」
「ねぇ!こんな深い所に見るところなんてないわよ!もっと上にいきましょ!」
「そうだね。カヲル君、上の方へ行こうか?」
「……」
「カヲル君?」
「いや、なんでもない。行こうか」
--ジオフロント天井部
「ぬぅわんで、こんな上まで来るのよ!!」
「ここから下が見えるね。シンジ君」
通路の床の一部がガラス張りになっていてジオフロントが眼下に見える。
「レイは、連れて来れないな。高所恐怖症だし」
「シンジ君、ここは下からも見えるのかな?」
「うん、そのはずだよ」
「じゃあ……」
と、言ってアスカを見るカヲル。
「な、なによ……」
「アスカちゃん、スカートだね?なら下からパンツが……」
「パンツっていうな!!『アスカちゃん』っていうな!!」
--(本部ビルに戻って)第2食堂
「ああ、ここは僕でも分かるよ。シンジ君」
「あれ?」
「もう!後はアタシが案内するわよ!」
--第二発令所
「ここは、中央発令所が使用できなくなったときに使用する所よ。椅子はキツいし、センサーは硬い。が特徴ね」
「へー」
「へー」
「シンジまで感心して、どうするのよ」
「いや知らなかったし。でさ、中央発令所が使用できなくなるってどういう時?」
「へ?」
「だって、あそこにMAGIあるでしょ?」
「……知らないわよ。次行くわよ。次」
--総司令執務室
「……ここなら僕も知ってるよ」
不満げにもらすシンジの父親のいる所だ。他のドアと違って威圧的である。
「ここが、本部ビルの最上階ね。中までは案内できないけど」
アスカが解説すると、突然ドアが開く。
「シンジ。ここで何をしている」
びっくり。総司令本人の登場だ。
「あ、父さん。あのね、カヲル君にNerv内を案内していたんだ」
「そうなのかね?アスカ君」
「は、はい。失礼しました。こんな所まで来てしまって」
さすがに家とは違い、Nervでのゲンドウの立場を知っているアスカは恐縮している。
「いや、気にしなくてもいい。ここもNerv内だからな。さすがに部屋の中は無理だが」
ここで、渚カヲルと目を合わせるゲンドウ。
「初めまして。お父さん」
「……貴様に『お義父さん』と呼ばれる筋合いはない」
カヲルを睨む。実は連日夕食時の団欒に、レイが、
「カヲルクンがねっ、カヲルクンがねっ、カヲルクンがねっ……」
と、五月蝿かったりする。娘が知らない男の名前を連呼するのが気に入らないらしい。親バカぶりは健在だ。
不穏な空気が流れたので、アスカは慌てて2人を連れ退散する。