--本部最上階Nerv総司令執務室
「碇シンジ、碇レイ両名、只今参りました」
2人は顎を引きビシっと軍隊式の敬礼をしている。
無駄に広い執務室には2人の子供と3人の大人。
一人座り机の上で手を組んでいるのが、Nerv総司令、碇ゲンドウ。左に立っているのは、Nerv副司令、冬月コウゾウ。右に立っているのは、同じくNerv副司令、碇ユイ。
3人のうち2人は碇シンジ、レイの父親と母親だった。碇家勢ぞろいといったところ。
「まあ、そう硬くならずに。楽にしたまえ」
唯一の他人。冬月副司令が緊張を解くように勧める。
「そうそう冬月先生のおっしゃる通りよ。シンジもレイも、ここを家だと思って寛いだら?」
家での父親と違い、Nerv総司令であるゲンドウの圧倒的なプレッシャーを感じているシンジは(そりゃ無理だよ母さん……)と心でつぶやいた。
「シンジ」
「は、はい!」
「使徒が来た」
「うん」
「これまでの訓練を生かす時が来た。準備も十分にした。後は、お前とお前の仲間達に託す。やれるな?」
「うん!」
ゲンドウはいつものポーズを崩さず一拍置いて娘にも話掛けた。
「レイ」
「は~~~い!」
「零号機は試作機だが十分戦える。シンジを助けてやってくれ」
「ま~~かせて!」
「……以上だ。下がってよし」
「「はい!」」
再び、敬礼をして執務室を出て行く子供2人。
残された大人3人は子供たちが出て行った扉を見つめる。しばらく静まり返っていた中、まず沈黙を破ったのは冬月だった。
「……始まったな。碇」
「ああ。少し早いが裏死海文書の通りだ」
変わらず口元を隠しているゲンドウの表情は見えない。対してユイは頬に手を当て心配している表情を隠さなかった。
「大丈夫かしら、あの子達……」
「それを今回の戦いで見極める」
「……全てが終わったとき、あの子達は、私達を許してくれるのかしら……」
「……もう始まってしまったのだ。時計の針はもとには戻らん。後悔はしていない」
「ふふ、私とあなたの子供ですもの。大丈夫よね。信じましょう。ね?」
「ふっ、分かっているよ、ユイ」
冬月副司令は、いちゃいちゃしだした夫婦から目線を外すとため息をついた。
(ユイ君は、ほんとにここを家だと思ってるんじゃないだろうね?)
--Nerv本部内ブリーフィングルーム
第三新東京市の地下にはジオフロントと呼ばれる広大な地下空間が存在した。
地上から光ファイバで自然光を取り入れている。ここには森があり湖があり散歩用の小道、そして世界各地に支部を持つNervの本部施設があった。
ブリーフィングルームはその施設の中にある。室内は学校の教室よりは手狭だが、前面にある大型のスクリーンなど設備は充実している。
2年A組の生徒達は後から来たシンジ、レイと共に緊張した面持ちで整列していた。
学校の制服からベージュを基調としたNervの制服に着替えており、頭には同色のベレー帽も被っている。一番前にいるヒカリだけは同じNerv制服でも赤が基調となっていた。
沈黙している中、空気の圧搾音とともに自動ドアが開き2人の女性が入室する。
最初に入って来たのは厳しい表情をした葛城ミサト。ヒカリと同じように赤色の制服だがちょっと改造しているようで細部が違っている。
次に入って来たのは、ロングの赤みがかった金髪ストロベリーブロンドの少女だった。こちらはヒカリと同じ制服だ。
「気を付け!葛城大尉に敬礼!」
ヒカリの号令に整列していた全員が一糸乱れぬ敬礼をする。ミサトも答礼をしながら、子供達の前に出る。一通り顔を見渡すとヒカリに目で合図を送った。
「休め!」
全員が休めの姿勢になったことを確認してミサトは切り出した。
「本日0820時、太平洋を哨戒中の統合軍第三艦隊の駆逐艦DD-145『コリオレイナス』が房総半島沖約100kmを深度500m速度6ノットで潜航する巨大な物体を発見。警告、接触を図るもの無応答。動力不明の謎の物体、生物にしては巨大過ぎること等から、艦隊司令部を通して統合軍参謀本部に連絡。まもなく『使徒』と結論付けられました」
ここで一拍置いて世界状況の説明を続ける。
地球統合政府は統合議会を緊急召集、コードA-503の適用を決議。最高意思決定機関
これに伴いコードA-505『Nervに対する特務権限の付与。及び超法規活動の容認』の発令。地球規模の使徒警戒網の敷設。全統合軍、第二種警戒体制への移行。各国政府に対する軍事行動の自粛要請。などが24時間以内に行われること。
それらを語った後、生徒全員を見渡して強めの声で宣言する。
「使徒はまもなく上陸の見込み。目標はおそらくここ。第三新東京市」
どの生徒も信じられない、という顔はしていない。真剣にこの話を聞いている。それはそうだろう。この為に彼らは今まで厳しい訓練を行ってきたのだから。
「よろしい。では、ブリーフィングを行います。洞木少尉」
「着席!」
「じゃあ惣流少尉、始めて」
整列していた皆はガタガタと小さなテーブルつきの椅子に座る。ストロベリーブロンドの少女惣流アスカは端末を操作してスクリーンに各種情報を映し出す。
「では改めて我々の体制をおさらいします。ここに居る24名全員が対使徒戦闘部隊EVANGELION大隊所属になります。大隊の指揮は作戦部長葛城ミサト大尉。第一中隊隊長は私、惣流アスカ少尉。第二中隊隊長は洞木ヒカリ少尉。3機のEVAで1個小隊を構成。4個小隊で中隊。2個中隊で大隊を編成。整備、補給、輸送、衛生など後方支援部隊を合わせて最終的に旅団規模に編成されます。現在稼動できるEVAは零号機と初号機のみ。弐号機は二週間後。参号機以降は一ヶ月後の予定です」
ミサトに代わり中央に進み出たアスカは、スクリーンに映された組織図をレーザーポインタで示しながら淀みなく説明する。
「完全装備時で24機のEVA。まさに人類史上最強の戦闘集団ね。そしてEVAを操縦するあなた達24人の選抜適格者(チルドレン)。これからは、文字通りあなた達を中心に世界が動きます。この意味をよく噛締めるように。アスカ」
説明を引き継ぎ補足を入れたミサトはアスカに続きを促す。
「では、次に第一次使徒直上会戦の作戦概要の説明を行います。スクリーンに注目」
スクリーンが神奈川県西部の地図に切り替わって表示された。
旧小田原市街は2015年現在では海中にあり、海岸線はかなり内陸まで後退している。セカンドインパクトの影響により海面上昇した結果だ。
使徒の位置はその海岸線のすぐ近くまで来ていた。台風の予想進路表示のように円と直線で想定ルートが表示されている。
「目標の上陸前に想定ルート上の住民の避難を完了させ、戦略自衛隊の支援で使徒を第三新東京市に誘導します。このルートで強羅絶対防衛線を通過させ中央市街地まで誘き寄せます」
絶対防衛線を通過させるだけではなく、中心部まで使徒の侵入を許すという作戦内容に一同はざわめいた。
「質問があります!」
「相田准尉?どうぞ」
「なぜ水際で迎撃せず、簡単に進入させるのでありますか?」
「それは……」
「あ、待ってアスカ私から言うわ。あと相田君、軍隊口調じゃなく普通に喋っていいわよ」
ミサトの言葉に、ちょっとだけ空気が緩む。皆同様に緊張していたようだ。質問したケンスケも照れた様子で頭を掻く。
「じゃあ今の質問だけど、理由は3つあります」
指を3本立ててひとつづつ説明をする。
一つは使徒の徹底的な分析。敵は今回だけでなく何回も襲撃してくることが予想されるため、使徒に関する情報の収集を行う。技術部赤木リツコ博士が、そのための設備を兵装ビルに準備していること。
二つ目は、要塞都市の威力の誇示。この都市の威力を見せ付けて安心してもらおうということ。
三つ目は、日本国政府に対する配慮。対使徒戦時体制への移行がまだ完了してないため市外での戦闘は日本政府の要請がないと無理なこと。そのため現在戦略自衛隊が頑張っていた。
「まあ、そんなとこね。他に質問は?ない?じゃあアスカ続けてちょーだい」
「はい、では作戦概要を……」
アスカによる作戦説明と質疑応答が終わり、ブリーフィングは終了する。
「作戦開始予定時刻は1700時。初号機パイロット碇シンジ准尉、零号機パイロット碇レイ准尉はケイジで待機、惣流少尉は私と一緒に発令所へ。洞木少尉は他の隊員と共に控え室で待機。以上解散!」
ミサトの言葉で締めくくられると全員動き出した。
生徒いやEVANGELION搭乗者達の初の実戦に向け、誰もが真剣な表情で動き出す。
例え今回は待機でも数週間後には自分も戦うことになるのだ。あのスクリーンに映っていた巨大な化け物『使徒』と。