--2年A組教室
この教室は展示室にはなっていない。休憩をしたり昼食を取るために使われる。もっとも、単にヒマな奴の溜まり場になっている。ウノなんかしてたりして。
ケンスケとトウジもここに居た。もちろんヒマ人。
「ケンスケ、もうそろそろシンジ達の番やで。いかへんのか?」
「ん、ちょっと待ってくれ」
ケンスケは、ナニやらカタカタと、ノートPCに打ち込んでいる。
「なにやっとんねん……ああ!!おんどれ!これ」
「しーーー」
ケンスケのノートPCには名簿のようなものが表示されていた。
「ケンスケ、またミサトセンセにゲンコツ食らうでぇ」
「ちょっと確認するだけだって」
画面の名簿には、男女のペアが並んでいる。表のタイトルには、芸術鑑賞会ダンスコンテスト組み合せとあった。
「相田……相田……あ!あった!……いっっやったぁ!」
「あほ!お前が騒いでどーすんねん」
「よっしゃ~~マユミちゃんと一緒だ!」
「ほー、そりゃ良かったのぉ……」
本日開催されている芸術鑑賞会には最後に全員参加のイベントが控えている。芸術を体で表現するダンスのコンテストだ。
それもヒップポップなものではなく社交ダンス。自由演技ではなく1週間前に開示された規定のステップを踊るというもの。男子はタキシード。女子はドレス。全て学校が、というよりNervが用意する。
ポイントは直前まで、そのペアが知らされないこと。
学校側がダンスパートナーを決めることになっていた。一応、アンケートで相手を指定できるが反映されるとは限らない。互いに同じ相手を希望した場合のみ。その他はランダムで決定されてしまう。
片思いにかけてみたり、どうでもいいと言いつつも期待したり。兎に角、出会いのチャンスとあって張りきる者、白ける者、十人十色。一応、全員参加。
「トウジのも見るか?」
「ワシのは、ええて。そや、はようせんと、シンジの演奏始まってまうで」
「ん?そうだな。カメラカメラっと、シンジの『伝説のチェロ』を撮り逃す訳にはいかないしな」
「なんや?『伝説のチェロ』って」
「知らないのか?シンジがモテる切っ掛けになった事件だよ」
--1年前の『芸術鑑賞会』
『次は、37番。1年A組碇シンジ君による『バッハの無伴奏チェロ組曲』です』
「は、はい!」
ステージ前の最前列席を立ち、緊張した面持ちでステージへ向かうシンジ。衣装ではなく制服のYシャツとズボンだ。ガチガチのまま歩く。
「シンジっ!深呼吸、深呼吸!」
「う、うん」
同じく最前列にいたアスカに声を掛けられる。アスカもバイオリンの演奏をする。シンジの後だった。
階段を上がり実行委員がセッティングした席へ座る。緊張するのも当然だ。見渡すと体育館中に生徒が座っている。立ち見もいる様だ。
シンジの順番は、38組中の37番。最後から二番目。この個人発表が終わるとダンスコンテストなので生徒の殆どが集まって来ていた。
思わず唾を飲み込む。視線を落とすとアスカが見えた。小さく手を振っている。
(そうだ、深呼吸)
「すぅーーーはぁーーーすぅーーーはぁーーー」
少し落ち着いた。やっぱり知り合いが見ていると緊張が和らぐ。アスカに感謝するシンジ。
(レイはどこかな?)
余計なことを考えるまで余裕を取り戻す。結局見つからなかったが演奏を始めた。
広い体育館にチェロの音が響き渡る。
「え?誰?これ」
「なんか1年の男の子みたいよ」
「やさしい曲……ねぇあの子、結構カワイクナイ?」
「ほんと、イケテルよねー」
といった声があちこちから聞こえる。男子の方は話題の美少女(アスカのことだ)を見ようと息巻いており女子としては面白くない。
そんな時、決して上手ではないが、やさしくチェロを奏で、目を閉じ、真剣な顔の少年。注目が集まる。
~♪
演奏が終わりシンジが顔を挙げた。
初めシンっとしていたが、アスカの拍手を切っ掛けに嵐のような拍手が響き渡る。ほっと息をつく。ふと視線を下げるとアスカと目が合った。
感謝を込めて笑顔を見せる。
どっき~~~~ん!!
これにやられたのが、演奏に酔っていた他の女の子達。直撃だ。
(((((私に微笑んだのね!!)))))
と、勘違いの嵐。
これが『伝説のチェロ』事件。これを機にシンジファンクラブが出来た。
--体育館
そんなこんなで、男女共に注目のシンジ、アスカ、レイ、カヲルの4人組。その演奏には体育館が溢れるくらい沢山の人が集まった。殆ど生徒全員ではないだろうか。
3人は緊張とは無縁だし、シンジも去年の経験とアスカ、レイが一緒でリラックスできた。
~♪
快心の演奏が終わる。去年のシンジ同様、シンと静まり返った後に、大拍手。スタンディングオベーションだ。感極まって泣く生徒も居た。教師もしかり。
2年B組担任で現国担当の加古教諭(男性35歳既婚)も、その一人。感涙しながら隣の2年A組担任に話しかける。
「(パチパチ)いや~感激しました。良い生徒を持って幸せですね。葛城先生」
「いやいや、それほどでも(えっへん)」
「でも、この後のダンスコンテストでは、B組は負けませんよ?」
「ふっ、そちらも勝たせていただきますわ」
「はっはっはっ」
「ふっふっふっ」
「(こそっ)私は、B組に10口も賭けましたぞ」
「(こそこそっ)甘いですわ。私はA組に30口ほど」
「おおぅ!」
「ふっふっふっ」
「なるほど。そういう訳だったのね」
「「(びっくぅ)」」
突如現れた赤木リツコ博士に狼狽える2人の教師。
「な、なんでリツコがここに???」
「ナニいってるのミサト。私も、教師でしょ」
リツコもミサトと同じく第一中学校で教師をしていた。臨時理科教科担当。と、言ってもNervの業務が忙し過ぎて、中々来れない幻の教師と化している。一応、2年A組の副担任だったりして。
「はっはっはっ!ではこれで葛城先生、赤木先生……(そそくさ)」
「ああっ待ってください加古先生ぃ!」
「待ちなさい(むんず)」
「あぅ」
リツコに首根っこ捕まるミサト。加古教諭は逃げ失せたようだ。
「ミサト……あなた、この為にチルドレンにダンスの訓練をさせたのね」
「わ~~~!!わ~~~!!し~……」
「まったく、それだけでも呆れるのに賭けまでしてるとは……」
「だってぇ、受け持ちクラスの子供達がコンテストで恥かかないようにするのは担任として当然でしょっ。他のクラスだって多少は似たようなことしてるしぃ」
「あんたの場合、賭け金が目当てでしょ」
「ひっ酷いっ!!あたしは、純粋に子供達の為を思ってっ(うるうる)」
「三十女がやっても、可愛くない」
「がーーーーん!!!」
「ほら、衣装の配布とペアの発表するわよ」
「まだ、29だもん……あ!そうそう、衣装衣装っと!」
「……後で、チルドレン全員に奢りね」
「ええ~~!!?」
奢りを確約され、渋々衣装を配る為に教師陣のところへ、とぼとぼと歩くミサト。そのとき校内放送が流れた。
『(ぴんぽんぱんぽ~ん)葛城先生、赤木先生。PTA会長様より御連絡が入っております。至急、職員室までお戻りください。繰り返します。葛城先生……』
この放送は、Nervからの連絡があった場合に使用される符丁だ。しかも、かなり緊急の呼び出し。Nerv作戦部長と、技術部長に対して緊急の呼び出しと言えばアレしかない。
ちなみに本物のPTA会長は碇ユイ。まあ、考え様によっては、そのまんまなんだが。
「そんなぁ~~~こんな時に来なくたってぇ~~~」
「申し訳有りません古鷹先生。私達本部の方へ行きませんと」
「ご苦労様です赤木先生。こちらのことは気にしないでください。お気をつけて」
「ありがとうございます。ほら!ミサト行くわよ!」
「あたしの賭け金~~」
先ほどの放送を受けてヒカリがこちらに確認に来た。落ち込んでいるミサトは無視してリツコに声を掛ける。
「赤木先生!!」
「洞木さん!みんなを集めて本部へ!使徒が出たわ!!」