--中央発令所
「状況は!?」
この発言は、リツコ。本来この台詞を吐かなければならないミサトは、
「あたしの賭け金~」
まだ、引きずっていた。
「はい!パターンブルー!!場所は日本海側、糸魚川市姫川河口沖15kmです!」
しかし日向の報告を聞いた瞬間、2年A組担任葛城教諭からNerv作戦部長葛城少佐への切り替えスイッチが入った。ミサトは真剣な顔で、詳細が表示されるモニタへ向かう。
「数は!?」
「反応は、9つ。速度5ノット以下で、海岸に向かっています」
「日向君、チルドレンに連絡。第二中隊、緊急出動(スクランブル)!パターンD。CP2装備。第一中隊は待機。でも、C装備で、すぐ出られるように」
「了解!!」
「青葉君、日本政府、戦自参謀本部へ連絡。特令C-14。民間人の避難誘導を依頼」
「ラジャっす!!」
「マヤちゃん、第二中隊の緊急エントリーをお願い」
「分かりました!!」
先ほどまでと同一人物とは思えない凛々しさを見せる。ミサトが矢継ぎ早に指示を出した後、緊急出動を告げる警報が鳴った。
Nervという巨大な機械が動き出す。
「リツコ、ここ、お願い。チョッチ着替えてくるわ」
--ブリーフィングルーム
「はい……はい……了解しました!みんな!第二中隊にスクランブルよ!」
「「「「「了解!!」」」」」
インターフォンで指示を受けたヒカリの宣言を機にチルドレンが走る。
「アスカ、第一中隊は待機だって」
「了解!ヒカリ頑張ってね!」
「うん!あ、一応プラグスーツにはなっといてね!」
という言葉を残し、ブリーフィングルームを出て行く。女子更衣室は廊下を出てすぐ。
--女子更衣室
EVAに搭乗するにはプラグスーツというダイバースーツにも似た体にフィットする専用の服を着なければならない。
これはEVAとのシンクロを助け、健康状態のモニターができ、様々な防護機能を備えている非常に高度なものだ。
ただ、着るには全裸になるということが、14歳の少女にはちょっち抵抗があるだろう。訓練でその辺の感覚が既に麻痺しているが。
一応、パーティションが切ってあるロッカーの前で着替える。ヒカリは中学校の制服だったので脱ぐ物が多い。それでも慣れた手つきで次々に脱ぎ、キチンと畳み、ビニール包装から出したプラグスーツに足を通す。
プラグスーツは個人データが反映されており、着こんだ後、手首のボタンで空気を抜くと完全に体にフィットする。体の線が丸見えなのはやっぱり恥ずかしい。
髪をかきあげ、カチューシャのようなヘッドセットインターフェースを着ける。プラグスーツと同色のたんぽぽに近い黄色。ちょっと派手。EVA自体も同じ色。
女の子らしく鏡の前で髪型をチェックする。
「……よし!」
アスカなら『アスカ、行くわよ!!』と言うところだが、ヒカリは控えめ。それでも内に秘める気合は同じ。彼女にとっても今回が初陣だった。
ロッカーを閉め走り出す。女子では一番のようだ。
走り出す方向は入ってきた廊下とは逆。更衣室の奥にEVAケイジ直通のエレベータがある。ヒカリは『04』と書かれた扉に飛び込む。
--ケイジ直通エレベータ
エレベータ内は狭く一人分しかスペースがない。各チルドレン専用。
ランプが赤く灯るとヒカリは目を瞑った。衛生状態を保つ為のシャワーの合図だ。グリーンになると、四方から消毒用シャワーが浴びせ掛けられる。この洗浄が5回繰り返されたらケイジに到着した。
--EVA四号機ケイジ
エレベーターから降りると、もうエントリープラグの目の前だ。十歩も歩かないで搭乗できる。
搭乗口の隣に、この機体の整備担当官が敬礼して立っていた。
「お疲れ様です!洞木少尉!」
「ありがとうございます。機体はどうですか?」
「はい!完調です!すぐ出せます!あ、でもCP2装備なんで、着地前に足を動かして暖機をしてください」
「分かりました。では、行って来ます」
「お気をつけて!!」
自分より、10歳以上年上の整備員の激励を受けて搭乗する。
整備員を初め、EVAに関わる人達は全員チルドレンに敬意を払っていた。彼らが日夜真剣に訓練を重ねているのを知っているからだ。
そうは見えない、お気楽そうな連中もいるが。
--EVA四号機エントリープラグ
「こちら、EVA四号機。搭乗完了しました」
『こちら中央発令所。了解しました洞木少尉。これより第一次接続を開始します』
「お願いします」
軽い振動の後、ロックされた気配がする。エントリープラグが差し込まれたようだ。
『第一次接続開始。L.C.L注水』
女性オペレータの宣言後に、足元から黄色い液体L.C.Lが注水され始める。肺の空気と交換する為、思いっきり吸い込む。水のような抵抗は感じない。
『L.C.L満水確認。第二次接続開始。主電源接続。全回路動力伝達確認。L.C.L電化』
電化されたL.C.Lは透明度が上がり、液体と意識することがなくなる。呼吸も楽だ。
『A10神経接続開始』
何かが頭に入ってくる感じ。ここのプロセスは、いつも不快感がある。
『A10神経接続異常なし。初期コンタクト全て問題無し。絶対境界線まで、あと1.5……1.0……0.5、0.4、0.3、0.2、0.1……』
ここを過ぎれば、もう不快感はない。体が広がる感覚が始まる。
『……ボーダーラインクリア!シンクロ率60.7%で安定』
ヒカリはチルドレンの中でもシンクロが高い方だ。アスカやシンジには敵わないが。
『EVANGELION四号機起動完了しました。おつかれさま』
「あの、みんなの状況をお願いします」
『現在、搭乗率50%。参号機、ニ十一号機は、既に起動を完了しています』
さすがに男子は着替えるのが早い。もっとも参号機搭乗者の脱ぎ散らかした黒ジャージをヒカリが見たら、『やり直しなさい!!!』と雷を落とすかもしれない。
『第一ロックボルト解除確認。第一第二拘束具除去確認。では、5番ゲートへ台座を移動します。輸送機接続まで、1分』
「了解、ありがとうございました」
EVA四号機がアンビリカルブリッジごと移動を開始する。そのまま、リニアレールに接続された。ここからは超特急。
『進路クリア、オールグリーン。発進!』
--芦ノ湖
湖畔全体に、サイレンが鳴り響く。
海賊船を模した遊覧船、釣船などが操業を止め、全速で係留ポイントへ向かう。湖岸の店はシャッターを閉め、地元の誘導員が観光客をシェルターへ導く。
芦ノ湖の北湖岸から南東方向へ、湖の中心を貫く線状に泡が吹き上がり始めた。
湖底から徐々に巨大な構造物が浮上してくるのが分かる。幅が200mほどのブロック。ブロックが全て接続されると総延長3,000mのNerv本部専用緊急離陸滑走路になる。メガフロート技術を応用したそれは浮遊物にも関らずその大きさから一切揺れない。
滑走路が接続し終り、波が納まりかけた頃、芦ノ湖北湖岸の一部が開口した。内部から赤色回転灯を付けた斜めエレベーターがEVA輸送機を運んでくる。
全てが巨大構造物の為、感覚が狂ってしまうが、このエレベータもEVA輸送機が余裕で乗る程の大きさだ。東京ドームが丸ごと乗ってしまうといえば大体想像がつくだろうか。
芦ノ湖に釣りに来ていた客は何事かと慌てて地元のおじさんに迫る。
「お、おやっさん!!一体何が起こったんだい??」
「お客さん、知らないのかい?ありゃあ『地球防衛軍』の出動だよ!!」
少々の誤解を残し、EVA輸送機が緊急離陸用ブースターで加速、急上昇していく。
--中央発令所
ミサトが教師姿から、いつもの姿になって戻ってきた。
「お待たせ!日向君、あたしも現地に飛ぶわ。準備して!」
「了解しました!あ、ちょっと待ってください……そんな!」
「どうしたの?」
「別の場所にパターンブルーです!反応は九つ!場所は相模湾早川河口沖10km!!」
「なんですって!?」