--EVA四号機エントリープラグ
『と、言う訳でそっちには行けないの。全体指揮は本部中央発令所から行うわ。洞木さんは、現場の指揮をお願い。使徒は即時殲滅。上陸前に叩いて』
「分かりました!」
『よろしく。状況は逐次伝えるわ。以上』
現在、日本海上空12,000m。降下ポイントへコースを修正していた。
EVAは輸送機に固定されているが、ポイントに着き次第投下される。降下は、HALO(高高度降下低開傘)。地上に近い場所でパラシュートを開く。
普段は輸送機が低空で直接EVAを投下するが、今回は使徒による迎撃を警戒して高高度から投下、EVAはパラシュートを使う。また早く着くため開傘は地上ギリギリで行う必要がある。
『洞木少尉。降下ポイントに到着しました』
「了解しました。ロック解除をお願いします」
『了解、ロック解除カウントを取ります。5、4、3、2、1、解除』
チルドレンは、全員パラシュート訓練を受けている。EVAでも生身でも。高所恐怖症には辛い訓練だ。幸いヒカリは違った。結構好きな方かもしれない。
姿勢を保ち自由落下を続けた。降下地点から離れないように針路を安定させる。EVAを通して風を感じる。生身と違い、酸素、気圧、気温の心配はないので楽だ。
高度1,000mで、自動的にパラシュートが開く。開傘した瞬間体が激しく引っ張られた。まるで空中に止まったかのような感じだ。
眼下には日本海が見える。降下地点は海岸。使徒はまだ見えない。どうやら上陸前に到着できたようだ。搭乗前の整備員の助言通り着地に備え足を動かして暖機をした。
着地の瞬間、ロケットモーターが作動して衝撃を軽減する。接地と同時にパラシュートを切り離した。背中に固定していた武器を手に持つ。EVA四号機の標準装備はパレットガンだ。
「本部。こちら四号機。着地しました」
『本部了解』
上空を見上げると、落下傘が5、6個見える。第二中隊が揃うのは、すぐだろう。
--小田原市早川河口付近
セカンドインパクトにより、全世界で平均20m海面上昇が起きた。ここ小田原市もその悲劇を免れなかった。海岸線は後退して早川河口が広がっている。
リニアラインによってEVAが運ばれてきた。アスカ達の第一中隊。使徒を水際で叩く。
『アスカ!使徒が上陸する前に殲滅。いいわね!?』
「ふっふっふ。誰に言ってるのかしら?ミサト」
『おおー、自信たっぷり!』
「全てアタシに『ま~~かせて!』せて……ってレイ!人のセリフとるなぁ!!」
沖から9本の水飛沫。浅瀬には旧小田原市内の建物が海上に突き出している。水飛沫が、その間を縫うように進み止まった。激しく水を立てながら立ちあがる。9体の使徒。
形状は、三日月に足が生えた。としか説明できない。上半身は下向きの三日月、先端に爪、中央に三つ穴の仮面が見える。その下に紅玉。胴体は小さめで、単純な形の二本足が付いている。強いて言えば最初に第三東京市を襲撃した使徒に近いか。
『うぅぅ。またヌルヌルしてそう……』
レイの嘆きにも関わらず、戦闘は開始される。指揮するのは中隊長のアスカ。
「右翼3体を第二小隊!」
『オッケー!!』
答えるのは第二小隊隊長 霧島マナ。
「中央3体を第四小隊!」
『了解した』
答えるのは第四小隊隊長 長良ソウスケ。
「第三小隊は全体のバックアップ。漏らした敵の掃討!」
『分かったわ』
答えるのは第三小隊隊長 加賀ユキノ。
「アタシ達第一小隊は左翼。いいわね!?」
『『うん!!』』
答えるのは第一小隊隊員碇兄妹。
「さあ行くわよ!アタシの『しもべ』達!」
『誰があんたの『しもべ』よ』
とりあえずマナからツッコミが入る。他のみんなは呆れているだけだ。
9体の使徒が横一列で上陸を果たそうとする。迎え撃つ12機のEVANGELION。
「Gehen Wir!!!」
--日本海側
「オラァ!!!」
トウジのEVA参号機から正拳を食らって吹っ飛ばされる使徒。あまりの勢いに一度水面を跳ねてから派手に水柱を立てた。
「……?ごっつう弱いで?」
歯ごたえのなさに呆然とする。しかし手応えはあった。コアは砕けたはず。
しかし、沖に飛ばされた使徒は再び立ちあがり、海岸を目指して歩き出した。
「なんやと!?」
第二小隊隊長の千歳カナメが、小隊メンバーである2人の剣術少女に指示を出す。
「リョウコ!ホノカ!フォーメーションBで行くわよ!」
『OK!』『はい!』
カナメの指示で、使徒に突撃する2機のEVA。一度に3体の使徒を攻撃した。交差するように一瞬で通り抜けると、コアごと切り刻まれた使徒の体が飛び散る。
武器は『アクティブブレイド』というEVAサイズの刀。プログナイフと同じ超振動の刃だ。
「『『やった?』』」
しかし、海面に散らばった使徒の肉片から煙が立ち始めた。細切れになり、使徒の、どの部分か判別できなくなっていた破片。それが集まり出して使徒を再構成しようとする。
「『『なんでぇ!?』』」
--太平洋側
「え゛え゛~~~~!!なんでぇ~~~!?」
こちらでも日本海側と同様のことが起きていた。
アスカの弐号機がソニックグレイブで縦に使徒を切り倒したが、むくっと起きてまた向かってくる。まるでゾンビだ。
「コアごと真っ二つにしたはずなのに……」
『アスカ!どうなってんのこいつら!?』
「こっちが聞きたいわよシンジ!」
もう一度、コアに攻撃してみる。が、砕いたはずのコアがすぐ再生した。
「だめ~~~っ!ぜんぜんきかない~~~っ!」
『こっちもだ!』
他の小隊も同じ状況だ。簡単に倒れるが一瞬で再生してくる。コアも含めて細切れにしても無駄だった。
先ほどから、倒す→再生→侵攻→倒すのループを形成している。なんとか上陸は阻止しているが切りがない。先にこっちがへばってしまうだろう。
アスカは状況が芳しくないことをミサトに訴える。
「ミサト!!どうなってんの!?」
--中央発令所
「アスカ、洞木さん、もうちょっと、その状態を維持してて!まだ分析中なの!」
『早くね!長時間は持たないわ!』
『こっちも同じです!』
「了解。状況が変わったらすぐ知らせて。以上」
一旦通信を切る。別のモニターではMAGIが分析を行っている様子を示していた。
「ふぅ、リツコどお?」
「まだ、掛かりそうね。あらゆる角度から分析してるけど要素が多すぎて……」
「早くお願い。……渚君は、どう思う?」
側にいたカヲルに意見を求める。
一応チルドレンとしての訓練を受けさせてはいるが、ミサトは彼を実戦で使うつもりはない。まだ、カヲルを信用していないというものある。しかし、それ以上に1年前から作り上げた今のEVANGELION大隊のシステムにカヲルの入る余地はなかった。
「ん~~~分かりません」
「そう……」
「でも、これだけは言えます。使徒の力の源はコアです。間違い有りません」
「しかし、そのコアも再生してるのよ?」
「ええ、もしかしたらコアをコアで、補っているのかも……」
「え?それはどういうこと?」
「それ、正解かもしれないわね」
「リツコ!なんか分かったの!?」
「ええ、これを見て」
リツコが、MAGIが表示した結果をモニターで見せる。
そこには使徒のデータが並んでいた。日本海側の使徒を『甲』、太平洋側を『乙』として、順番に『甲1』~『甲9』、『乙1』~『乙9』と区別されている。
「使徒の固有波長『BLOOD PATTERN BLUE』を測定してみたんだけど、『甲』と『乙』の使徒に同じ波長のものがいるわ」
「同じ?」
「そう、固有波長といっても通常若干のバラつきがあるの。今まで出現した使徒には同じ物はなかったわ。只の一つも。ところが今回の使徒は、同じ波長のペアが9対あるわ。甲1と乙1みたいにね」
「!じゃあ、その2体で、コアを補いあっている!?」
「その可能性は大きいわね。もしかしたら『超トーラス体』なのかも」
「ちょーとーらす?」
「……ミサト、超立体は知ってる?」
「それくらいなら。四次元の立体のことでしょ?」
「そう。で、トーラス体っていうのは円環構造のこと。簡単にいえばドーナツもそうね。ドーナツの断面ってどうなってる?」
「そりゃあ、円が2つ……あ、そうか」
「ドーナツの超立体『超トーラス体』は、『断面』が立体2つになる。つまり、2つに見えても実は四次元的に1つの物なの」
「今回の使徒が、それって訳か。しっかし四次元とは。使徒って益々理解不能ね」
「何言ってるのミサト。人間もそうかもしれないのよ?」
「ほへ?」
「あなた『碇レポート』読んでないわね?」
現Nerv副司令でシンジとレイの母親碇ユイが大学生時代に執筆した形而生物学論文、通称『碇レポート』は、生物と非生物を分ける明確な指標『魂』を定義した物だ。
この論文は当時、大学教授だった冬月によって評価されたが、いかんせん発想が突飛過ぎて学会での発表までは行かず、参考としての公開に留まった。
しかし、南極での遺跡の発掘、葛城タカオ博士によるS2理論等で、一躍脚光を浴びることになる。もちろん正式な場ではなくSeeleを中心とした非公開の世界で。
「『碇レポート』によると、『魂』とは波動であるらしいの。それも四次元の波。簡単に言うと人間、いや生物は三次元の『肉体』と四次元の『魂』を持つのね。もちろん私達には知覚できないわ。でも立体の影、投影面が平面のように、その四次元の波を投影した物は、三次元でも観測が可能になるわ」
「観測?」
「そう、使徒警戒網で観測しているBLOOD PATTERN BLUE。このBLOOD PATTERNってなんだと思う?」
「血液型でないとすると血の色……じゃないわね、第3使徒は赤い体液だったし」
「実は、人間の『魂の波長』を観測したら、約700nm(ナノメートル)だったの。この波長って可視光線と同じ、それも赤、血の色の波長と一致するわ。だから、『魂の波長』をBLOOD PATTERNと呼ぶようになった訳」
「ふへー魂って赤く光ってるんだ」
「ふふ、そうね。高次元の視点が持てれば、文字通り魂の輝きが見えるのかも。このBLOOD PATTERNは生物にしかないわ。赤以外にも色々あるけどね。で、使徒のBLOOD PATTERNは約450nm。つまり『青』の波長と一致するの」
「それで、BLOOD PATTERN BLUEなのね……」
「さっきの話に戻るけど、このBLOOD PATTERNは、同一の物はないのが通常よ」
「2体の様で実は1つの使徒……コアが2つあるような物か……」
考え込むミサト。作戦部長としての真価が発揮される。
「……だったら、2つのコアに対して2点同時荷重攻撃をすれば……」
「なるほど……補いようがないわね。でも、別々の場所で2点同時荷重攻撃は難しいんじゃないかしら?」
「それは、ここ第三新東京市まで誘導するとして、同時に攻撃する方法か……」
「かなりシビアなタイミングよ。少しでも、ずれたら意味ないわ」
「EVA2体によるタイミングを合わせた攻撃。完璧なユニゾンが必要ね。タイミング合わせ、ユニゾン……!そうよあの手があったじゃない!」
「……また、なんか変なこと思いついたわね……」
このとき、完全に蚊帳の外だったカヲルは、
(ふふふ、何が始まるんだろう?まったくリリンというのは面白いね。鑑賞に値するよ。……野次馬ってことさ)
完全に他人事だった。