--コンフォート13マンション4階
建物の名前から分かるように、碇家や惣流家のあるコンフォート17マンションと、同系列のマンションだ。敷地は違うが、まあまあ近い。ここにミサトの部屋があった。
「うほ~~~ミサトセンセの部屋に行けるなんて、ワシ幸せや~~~!」
「レンズOK!バッテリーOK!テープOK!撮り捲るぞ~~~!」
「……なんか、やな予感するんだけど……」
三者三様三馬鹿トリオ。これからミサトの家で夕食を奢ってもらうところだ。
てっきりどこかのレストランか何かで食事を奢ってもらえるかと思ったら、葛城家にご招待。そこで何か食べさせてくれるらしい。
珍しくじゃんけんに勝ったシンジだったが喜びも束の間、一気に不安が押し寄せた。
ミサトの料理は不味い。
いや、もう不味いと言うレベルではなく、何とも複雑な味の物体を作り出す。よくぞここまでと感心してしまう程に。なまじ、見た目が普通なだけに性質が悪い。なにより問題なのは本人がそれを自覚していないということだ。
同じくじゃんけんに勝ったアスカも急に不安になったらしくミサトを問い詰めた。
「ま、まさかミサトが作るんじゃないでしょうね!!?」
「残念ながら、あたしじゃないわよん」
一応その一言で不安は解消されたが、では誰が作るんだろうという疑念が生まれた。
カメラをチェックしつつウキウキのケンスケが、同じくウキウキのトウジに、そのときのことを思い出しながら問いかける。
「でも、ミサト先生の手料理も、食べてみたかったよなぁトウジ」
「そやそや。えーなー、シンジは。食うたことあるんやろ?この幸せモンが!」
「食べたことない方が、幸せだったよ……」
シンジに肘でウリウリするが、当のシンジはゲンナリした表情だった。シンジが小さい頃、ミサトの作ったカレーを食べ後しばらくカレーを食べられなかった。今はなんとか大丈夫だが苦手なものには違いない。
給食の・人気メニューが・トラウマに(五七五調)
一緒に歩きながらそのやり取りを見ていたヒカリは、アスカとレイに気になっていることを聞いてみる。
「でも、誰が作るのかしら?アスカ知ってる?」
「全然教えてくれないのよ。加持さんかな?」
「加持さんだったら、海外行ってるってヒデアキクン言ってたよー?」
「ところで、葛城先生って、そんなに料理下手なの?」
「ふっ、ヒカリ……世の中には知らない方が幸せなことってあるのよ。ね、レイ」
「いやーーー!!カレー恐い、スパゲッティ恐い、肉じゃが恐いよ~~!」
じゃんけんに勝利した6人(シンジ、アスカ、レイ、トウジ、ケンスケ、ヒカリ)はぎゃいぎゃいと騒ぎながらも葛城家の前に着いた。シンジ達も久しぶりだ。1年以上は来ていない。ミサトの方は、よく惣流家に飯を食べに来るのだが。
以前ここに来た時、随分散らかっていたのを思い出す。
ぴんぽーん!
「ミサトー!来たわよー!」
『いらっしゃーい。鍵は開いているから勝手に入っていいわよー』
インターフォンからのミサトの声に、散らかっている玄関を想像しながらドアを開けるアスカ。しかし、スライドした自動ドアの向こうの景色は想像と違い、綺麗に片付いていた。
そして意外な人物が出迎える。
「クアッ!!」
失礼。意外な『鳥』物が出迎えた。
「きゃ~~~!!ペンペェ~ン!!」
と、言って飛びつくレイ。
「アスカ、な、何あれ……」
と、ビックリして固まっているヒカリ。
「ああ、ミサトの飼っているペンギンで、ペンペンっていうの」
「ぺ、ペンギン??」
南極大陸が消滅した今、ペンギンはかなりの希少動物だ。
「そ、なんかの実験に使われていたのをミサトが引き取ったんだって。それにしても、綺麗に片付いているわねー。意外よねシンジ?」
「うん、奇跡だ。前に来たときはゴミだらけだったのに」
「へー。そやったんか。でも、靴とかもキチンと片付けられとるで」
「だよな?……ん?そういや他に誰も来てないみたいだな?」
「そうね。みんなミサトの靴みたい。食事を作ってくれる人ってまだなのかしら」
「一体、誰なのかしらねー」
「あーーー!ペンペン、エプロン着けてるーーー!カーワーイーイー!!」
「クワワッ!!」
「「「「「…………」」」」」
思わず、顔を見合わせる5人。
「あっ、あはははは。まっ、まさかねーーー」
「そ、そうだよアスカ。そんな訳ないよー」
「いやあねー。もーアスカったらー」
「いくら、ミサト先生でもそんなことはしないだろー」
「そ、そやそや!惣流なにゆーてんねん」
「いやーねー、アタシ何にも言ってないわよー。あはははは……」
ペンペンを見て、一瞬レイを除く全員にあることが頭に浮かんだが、すぐ否定した。
というか否定したかった。
そして疑惑の張本人ミサト登場。
「みんないらっしゃい!!あ、ペンペン。7人分お願いね」
「クワッ!!」
2秒で覆される。
玄関を駆け上がり、ずんずん廊下を進んで、いきなりミサトの胸倉を掴むアスカ。
「な、なにアスカ!?」
「アンタ、人類よね!?」
「え?ええ……」
「霊長目ヒト科ホモサピエンスよね!?」
「た、多分……」
「じゃあなんでペンギンに餌作って貰ってんのよ!!!!」
胸倉を掴んだままガクガクと前後に揺するアスカ。何故か泣きそうだ。
「や、やーねー。ペンペン料理作るの上手いのよー?」
「そおいう問題じゃなーーーい!!!!」
「まあまあ、アスカ落ち着いて……」
ヒカリは、なんとかアスカを宥めようとミサトから引き剥がす。
「えーーーん!ヒカリー!同じ人類として恥ずかしいよー」
「あー、よしよし。しょうがないのよ。葛城先生なんだから」
「そ、そこまで言う??」
--ダイニング&キッチン
「きゃーーー!ペンペンすっごーーーい!!」
「でしょ?でしょ?」
「「「「「………………」」」」」
レイとミサト以外の5人は呆然と見守っていた。
小さな脚立を踏み台にして、ペンペン台所に立つ。
カカカカカッ
大きな中華包丁で、材料を刻むペンペン。
グツグツ
真剣な(?)顔つきで、業務用の鍋をかき回すペンペン。
ガコガコガコッ!ジャッ!ジャッ!
小さな手……じゃなくて羽を使い、中華鍋でチャーハンを炒めるペンペン。
何故かコンロも業務用の火力が強烈なやつだ。
チャーハンを半球に皿に盛付け、椀にラーメンのスープと麺を入れチャーシュー等の具を載せた所で、完成のようだ。ラーメン・チャーハンセット7人前。
「クワワッ!!!」
『お待ち!』なのか『上がり!』なのか『おいしいよっ!』なのかは判別不能。
「「いっただっきま~~~す!!」」
「「「「「いただきます…………」」」」」
ズルズル。ふーふー。ずずぅ。パクパク。むしゃむしゃ。
間。
「「「「「お、美味しい……」」」」」
「でしょー?」
「ペンペンすごーーーい!!」
「クワ!」
素直にペンペンを褒めるレイはともかく、他の5人は驚愕していた。
「こ、これは凄い!とんこつベースの醤油味で『家系』と呼ばれる横浜のラーメンに似ているな。一見、浮いた脂が気になるけど、意外にさっぱりとした口当たりで非常に食べやすくなってるよ。家系ラーメンは脂の旨味を活かしながら、あぶらっぽさをいかに感じさせないかという微妙なバランスがポイントなんだけど見事にこの難題をクリアしている。だしにトビウオの焼き干しアゴ、広島産の干しエビ、クコといった所か?麺は、ややウェーブがついた極太平打麺か。黄色く切り口は楕円形で角がなく、ねばりがあり、滑らかで、のど越しよく、味がありスープにもよく絡むな。玉子つなぎだろうか。このチャーシューもなかなか。脂身がほとんどなくて、箸で摘むとくずれるほど柔らかい。うん、完璧だ!」
意外なアビリティを発揮するケンスケ。
「この玉子チャーハンも、美味しいわ……米がパラっと香ばしく炒め上がっててシンプルで正当な味を出してる……。香り付けのネギ、卵、塩と少しの醤油だけで、ご飯粒一粒づつを卵とコライユの金色が包み込む、これ以上贅沢なチャーハンは無いわ。まさに『黄金チャーハン』ね……これを……ペンギンが?……いやぁぁぁぁぁ!!!嘘よ!!夢よ!!幻やぅぁぉぉぉぉ!!!!!」
パニクるヒカリ。なまじ料理の知識があった為、ショックが大きかったようだ。
「こりゃうまいでー!やるなペン公!おかわりしてええか?」
美味いものが食えれば幸せのトウジ。誰が作ったかは特に気にしてないらしい。
「どう?アスカ?すごいでしょ?中華だけじゃなくて、和洋もOKよん!」
「確かに美味しいけど……」
自慢気なミサトの言葉に、返答しかねたアスカは、ふとペンペンを見る。
ペンペンは、自分で作ったものに手をつけず、生魚を美味しそうに丸のみしていた。
「なんか納得できないんだけど……第一アンタが情けないのには変わりないじゃない」
不満げなアスカ。料理とペンペンを交互に見ながらシンジはミサトに確認する。
「ミサトさん、ペンペンは何時から、こんなに料理が上手くなったんですか?」
「んー?何時だったかな?確かあたしがカレー作って食べさせた翌日から料理番組とか見て勉強してたけど」
レイ、パニクるヒカリ、食べてるトウジをほっといて、ミサトに背を向けシンジ、アスカ、ケンスケ3人で緊急ミーティング。ケンスケが小声で切り出す。
「どう思う?ミサト先生の料理が原因っぽいけど」
「ミサトのカレーの不味さに突然変異を起こしたのかしら?」
「いや、ミサトさんに料理を2度と作らせない為に必死だったんじゃないかな」
「ありえるわね……ほんっっっっっきで生死に関わる問題だから」
「生存本能のなせる奇跡か……」
「多分、部屋を片付けているのもペンペンじゃないかな。自分の生きる場所を確保する為にさ。ゴミに埋もれて死ぬのはイヤだから」
「「う~~~~~~ん……納得……」」
小声の3人の傍でミサトは顔をひくひくさせていた。
「き、聞こえてるわよ、あんた達……」
そんなミサトをほっといてケンスケはシンジの言葉に関心していた。
「それにしても良く分かるなシンジ」
「なんか他人事じゃない気がするんだ……なんとなく……」