--南米コロンビア共和国ブエナベントゥラ近郊の海岸
午前0時、波は穏やかだが天候は良くない。ぶ厚い雲に覆われて、すぐにでも雨が降り出しそうだ。雲で月明りもなく付近は完全な闇に包まれていた。
少し沖の海面から静かにピラミッドのようなものが200m間隔で2つ浮かび上がる。その漆黒のピラミッドのようなものは潜水艦のステルス艦橋だった。
外見からは分からないが、浮上して海岸や付近の海域を索敵しているようだ。
その海岸に加持が居た。
加持はNerv特製のステルスシートに身を包んでいる為、パッシプ走査ならば大丈夫だろう。
アクティブ走査になった場合保証はできないが、相手も隠密を第一にしている筈なので、その心配はない。
事実、安全と判断されたのかピラミッドの間から何かが浮上してきた。長さ300mほど幅30mほどの板。潜水空母の飛行甲板だ。艦橋は右舷に小さいものが付いている。
甲板後方に黒く平べったい形の航空機がエレベーターでせり上がって来た。全身黒い服で頭もヘルメットで覆った整備員らしき人影が無言で甲板に散らばる。
闇の色をした航空機と飛行甲板を終始無言でチェックを進めていた。その間も次々と機体が上がってくる。
チェックの終わった航空機からタキシングし始め機首を艦首に向ける。カタパルトは使用せずに加速して軽々と離艦した。
エンジン音はない。
加持の真上を通過したときも、風を切る音しかしなかった。それも耳を澄まさないと感じられないレベルだ。ほぼ無音といっていいだろう。
ステルスに特化した機体は開戦時の敵レーダー施設の破壊が主な任務。敵は気が付くこともないまま耳目を奪われ、混乱の内に戦争が終わり、後に敗北を知る。
そして、ここ南米コロンビア共和国でも同様のことが起こるのであろう。
加持は全機離陸し急速潜航した潜水空母と護衛潜水艦2隻を見送ると速やかにその場を後にした。すぐに正規の上陸部隊が海岸に向けて押し寄せてくるはずだ。
(やはり『A-017』は発令されたか。半日も経たずに、この国は制圧されるだろう。世界から完全に隔離された国で、何をやる気なんだSeeleは。……あの写真、やはり使徒の幼生なのか?だとしたら捕獲が目的か……何れにしろ、ネバド・デル・ルイス火山に行くしかないか。ヤレヤレだな……)
--Nerv本部副司令執務室
『副司令、葛城少佐がおみえになりました』
「うむ。通してくれ」
冬月副司令は、ミサトの来訪を告げる秘書官に答えた。
この副司令執務室は総司令の執務室よりは狭いが、それでも十分な広さがある。執務机と応接セットの他に、大きな本棚があるところは冬月らしい。どこか校長室のような趣もある。
部屋の片隅にある2畳分の畳空間(中央に将棋盤)は、ちょっと浮いているが。
ノックの後、ミサトが敬礼をして入ってきた。
「失礼します。なにかご用ですか?副司令」
澄ました顔だが、内心はビクビクしているミサト。
(な、なにかやったっけ?今日は遅刻してないしぃ?……アスカと一晩中話して結局徹夜しちゃって眠いけど……。この間のやつかしら?日向君め、チクったな?いや、それともあの書類が未提出だから?もしかして副司令が居ないときにシンちゃん達と副司令の将棋駒で将棋崩しやってて歩の駒をなくしちゃったこと?いっぱいあるんだから一つくらいバレないと思ったんだけど……)
いろいろ心当たりがあるらしい。
「ああ、仕事中すまないね。そこに座ってくれたまえ」
しかし、冬月の口調は普段通りで、なにか注意をするような雰囲気ではない。勧められた応接セットのソファーに座る。すると冬月は一枚の写真を取り出した。
「これが何か分かるかね?」
その写真は、加持が赤木ナオコから入手したものと同じものだった。
「いえ…………何か生物の胎児の様にも見えますが……」
「南米コロンビアにある火山の溶岩の中で発見されたそうだ」
「溶岩の中!?そんな……生物が存在できる訳が……まさか!?」
「……今から3時間前、地球統合政府が、特令『A-017』を出した」
「は?」
冬月は、ミサトの疑問には答えず別の事を話し始めた。
「名目上は、コロンビア政府が麻薬売買に関与していたことが発覚したため地球統合政府が制裁措置に乗り出した、ということだが実際には、ある目的の為に世界の目からコロンビアという国自体を隠す為だ」
「隠す……ですか?」
「現在、軍によって『A-017』が進行中だ。半日もあれば制圧されるだろう」
「南米というと、東太平洋担当の第四艦隊ですか?それとも大西洋担当の第二艦隊でしょうか」
「いや、第十三遊撃特務艦隊だ」
「第十三?聞いたことない部隊ですね?」
「統合軍とは別の指令系統を持つ特務軍『
「左手の軍!Seele!」
勿体ぶっているような言い方をしていた冬月にミサトは困惑していたがようやく納得がいった。溶岩の中の使徒。そして『A-017』。おそらくSeeleの目的というのは……
「『A-017』を出したのもSeeleだろう。使徒の幼生を発見した後に、その国を閉鎖。やはり目的は使徒の捕獲だろうな」
「その為だけに『A-017』ですか」
「使徒は幼生の状態だ。この状態に手を出すのは危険だよ。前例があるからね」
「セカンドインパクト……」
「そう。アダムの二の舞はご免だな。我々は手を出すこともできないが」
「どうやって捕獲するつもりなんでしょうね?」
「ふむ。通常の機械では無理だろうな。しかしEVAなら可能だろう」
「
Erzengelを操るSeeleチルドレン。今だ、その詳細は分からない。
「葛城君。彼らは、いつか我々の障害となるかもしれん」
「第17使徒を倒した後ですね」
「ああ。その時、勝てるかね。我らのチルドレンは」
「勝てます」
即答するミサト。自信が伺える顔で答える。
「現在、作戦部内で彼らに関する研究チームを編成しています。彼らのErzengelはN2弾頭を始め強力な武装を持つだけでなく飛行できます。機体の能力では太刀打ち出来ないでしょう。そして真に警戒すべきはA.T.フィールドの中和範囲です。Nervチルドレンの平均中和距離の5倍もありました。しかも複数目標に対して同時にです。これはかなりの脅威ですね。射程外から一方的に攻撃を受けることが考えられます。正面から攻撃するのは無謀でしょう」
「ほお、そこまでの力の差があって勝てるというのかね」
「はい。Nervは数で勝っています。古今東西、戦いというものは数を揃えた者の勝ちです。もっとも基本的な戦術を間違えなければ。という前提はありますが」
「なるほど分かった。その研究は続けてくれたまえ。今回の件は、以上だ。仕事に戻ってかまわんよ。なにか『動き』があったら連絡する」
「『動き』ですか……」
「Seeleが使徒を捕獲できればそれでよし。孵化を始めて使徒の反応がでれば我々の出撃となるだろう。そして、孵化をせず『卵』に還元した場合は……」
「場合は?」
「サードインパクトだな」