--Nerv本部中央発令所
数時間前までは、戦略自衛隊、略して戦自が使徒に対する戦闘を行っていた。
現在の日本国土を自衛する唯一の専任戦力である戦自は、陸空海の全戦力を動員して任務に当たっており、Nervに渡すまでもなく自分達での使徒殲滅を試みている。
しかし不可視の防御で傷一つ付けられず、強羅絶対防衛線まで結果的に誘導し任務を終了。戦自司令官の嫌味と共にNervに作戦権が移譲された。
強羅からはEVA初号機がパレットガンによる攻撃で引き付け第三新東京市中央区画まで誘導に成功。ここからが本番だ。
作戦開始から2時間が経過した今では、すでに日が落ち辺りはすっかり暗くなっている。夜の闇のなか使徒を照明で照らしながら作戦の主目的である実験と観測は続く。
「電流ワイヤ切断されました!!」
「目標は移動を開始。F-14ブロックへ移動します!」
本部発令所内は状況報告が飛び交い騒然としていた。
各種兵装ビルの操作や観測機器の調整など大勢のスタッフが作業している。ミサトは全体の指揮、アスカは中隊長としてEVA初号機の指揮を執っていた。
「電流もだめかぁ……ではフェイズ8に移ります。日向君、準備お願い。アスカ、シンジ君への指示よろしく!」
「わかったわ、シンジ!目標をG-15ブロックに誘導するわよ!パレットガンを一斉射後、後退しつつ点射して!」
『了解!』
スクリーンの状況を確認しながらクリップボードのチェックリストに書き込み頭を掻くミサト。
「うーん、熱も電磁波も超振動も電流もだめかぁ……リツコーなんか分かったぁ?」
ミサトと同い年くらいの白衣の女性、金髪に染めた赤木リツコ博士に尋ねる。
「そうね、高熱を加えれば表面は変質するみたいだけど、それだけね。中にまで影響していないみたい。返って耐久度を上げてるわ」
「ふーん。あ、A.T.フィールドは?」
「やはり使徒も持っていたわね。今はシンジ君が中和してるわ」
A.T.フィールドと呼ばれる、不可視の壁、絶対恐怖領域。
戦自の通常兵器の一切を無効化するこれが使徒を恐怖の存在とし、同じ力を持つEVANGELIONのみが人類唯一の希望となった。
地球統合政府という後ろ盾がなければ各国からは逆にEVAが恐怖の存在となっただろうが。
高速でキーボードを叩きながらリツコが現在の結果を述べる。
「一つだけ分かったことは……」
「分かったことは?」
「使徒に対してはEVAによる打撃や切断などの物理攻撃が一番らしいってことね」
「はあ、原始的戦い……えーっと次の罠は……」
「液体窒素による強制冷却よ」
「ふーむ。冷却の前に過熱できる?」
「温度変化による材質の劣化ね、やってみましょう。マヤ準備できる?」
「はい先輩!」
傍に居た技術部のオペレータ伊吹マヤが即座に反応し操作を始めたその時、初号機を誘導していたアスカが声を上げた。
「危ない!!シンジ!!」
『うわっ!』
使徒の手から飛び出した光の槍が、ビルを貫通して視界外から初号機に攻撃を加える。が、間一髪かわせたようだ。
使徒は一応人型をしているが、手が長く首がなかった。胸に白い仮面のような顔がある。肩などの白いプロテクターのようなもの以外は黒い皮膚で、体の中心にある紅玉だけが鮮やかな色彩を放っていた。
手の平の穴から伸縮自在の光の槍が伸ばすのが、今のところ使徒唯一の攻撃方法のようだ。
『ふう、危なかったぁ~~』
「ぼけぼけっとしてるからよ!バカシンジ!ほらさっさと移動する!」
『分かったよ、も~。一言多いんだよな、アスカって……』
「ぬわんですってぇ~~!!」
2人の微笑ましい?様子を見ながらミサトは腕時計で時間を確認する。
「シンジ君も相当疲れてるみたいね……作戦開始からずっとシンクロし続けだもの」
「そうね二時間連続でこのシンクロ値は驚異的だわ。ハーモニクスも安定してるし」
「ねぇリツコ、実験のフェイズ省略出来ないかしら?なんか無駄のように思えてきたし、なによりシンジ君の方が参っちゃうわ」
「一理あるわね。これとこれと……ここからここまで省略しましょう」
「それでも、後1時間は、掛かりそうね……がんばってねシンちゃん」
Nerv本部の中央発令所は、幾つかの階層に分かれており、まるで旧世紀の戦艦の艦橋のようだ。
上から順番に指揮系統の上になる。ミサト達が居るのは上から二番目の階層。一番上にはもちろん、総司令と副司令2名が鎮座ましましていた。
「くすくす、シンジとアスカちゃんはいいコンビね」
「大分、データが集まったようだな。委員会の方から報告しろと言ってきているが、どうする?碇」
「どうもせん。分析はこちらで行うと伝えろ」
「そうだな、こと情報処理に関しては、ここ以上に有能な組織はないからな。スーパーコンピュータMAGI樣々といったところか」
「そうですわ冬月先生。それにE計画については最高意思決定機関
「ふむ。委員会には、そう報告しておこう。しかし、Seeleが出てきたら拒否は出来んぞ」
「やつらはまだ出てこない。出てくるとしたら、やつらのシナリオが破綻したときだ」
「だといいがな。私は意外と早く出てくると思うが」
「まあ、老人達のことは出てきてから考えましょ。まずは使徒に勝つことですわ」
と言ってユイはスクリーンに視線を戻した。
EVAに乗って使徒と戦っているのは自分の息子だ。心配しないはずがない。副司令として平静を装い続けても手は固く握られている。
スクリーンに映されている使徒は数々の実験により少なくとも見た目はボロボロだった。なんとなく歩き方もフラフラに見える。初号機も例外ではないが。
『はぁはぁ……』
「シンジ、しっかりしなさい!」
『うん。大丈夫』
すでに、21時を回っており、スタッフにも疲労の色が見え始めていた。
しかし同じく疲労しているはずの作戦部オペレータ日向マコトが元気な声で報告する。
「フェイズ13を終了しました!これより最終フェイズに移ります!」
「よ~し!アスカ、シンジ君!もう遠慮することはないわ!思いっきりやっちゃいなさい!」
ミサトの声で発令所の空気が一気に変わった。長時間に及ぶ作戦の最終フェイズ、それは使徒殲滅。
十分にデータを取り用済みになった使徒を倒すことで作戦が完了する。
「シンジ!目標を殲滅するわよ!兵装ビルD258でソケットを交換したら、D257でソニックグレイブを受け取って!弱点である使徒のコアに突き刺しなさい!一気にケリを付けるわよ!!」
『うん!!』
これまでの観測で使徒の紅玉『コア』に物理的攻撃を仕掛けると明らかに嫌がることが分かった。それ以外の場所にいくら攻撃をしかけてもケロリとしていたのに。
あまりにも分かりやすい弱点のため偽装なのでは?と思われていたが意外にもそのまま弱点だった模様。度重なる衝撃のためコアに微かに皹が入っており、後一撃が入れば砕けそうだ。
兵装ビルの支援を受けながらEVAに活動エネルギーを供給するアンビリカルケーブルを背中に接続し、EVAサイズの長刀ソニックグレイブを取ると初号機は使徒に対して反撃を開始した。
『たぁーーーー!!!』
少し、気の抜けた(本人はいたって真面目だが)声とともに突撃する。同時に使徒が例の光の槍で迎撃しようとするが速さは無く、難なくかわす初号機。
ソニックグレイブの刃がコアに突き刺さる。発令所のスタッフは歓喜の声を上げ、ミサトもガッツポーズを取って叫んだ。
「よし!!やった!」
その瞬間、世界が暗転した。